「あんた、ここは初めてだって言ったけど、遠征かい。その体の具合じゃ、かなり場数踏んでるんだろうね。」わたしの体の傷跡を見て取ったのだろう。そう言う建機型神姫の体にも、たくさんの小さな傷や、修復跡があった。彼女の方こそ、ここで場数を踏んできたのだ。
「わたしは、一度CSCをリセットされているので、バトルロンドに参加したことは無いのです。体の傷は、リセットされる前、以前のオーナーのときのものでしょう。神姫センターに来るのも、オーナー共々今日が初めてで。」建機型神姫は眉をしかめた。「あちゃー、つまんねェこと言っちまったな、勘弁してくれ。」
リセットされた神姫はそれまでに蓄積したデータを全て失い、初期化される。それは自我を失うことであり、擬似的な死を意味する。リセットを極度に恐れる神姫もいるが、そういうものだと思っていた。神姫は人の所有物であるのだから。
「リセットされたことなら、お気遣い無く。神姫である以上、起こりうることです。」建機型神姫のしかめられた眉が上がった。「あんた、捌けてんなァ。気に入ったぜ。神姫センター、初めてだっていうんなら、うちの親方に案内させようか、もうちっとで戻ってくるからよ。」
ありがたい申し出だった。場馴れた神姫とオーナーに案内してもらえば、オーナー共々楽にこの場に馴れることができるだろう。が、オーナーがどう思うかは判断できなかった。「お言葉はありがたいのですが、オーナーはここを離れているので戻ってからでないとお受けできないのです。」
「じゃァ、あんたのオーナーが戻るのを待とうや。と、そういや、まだ名乗ってなかったな。アタイは建機型グラップラップ、ステゴロの政(マサ)。よろしく頼むぜ。」と、右手を差し出してきた。その手を取り、こちらも名乗った。「兎型ヴァッフェバニー、ラビィです。宜しく願います。」
奇妙な名だった。ステゴロということは、この建機型神姫は今まで徒手空拳でバトルロンドを戦ってきたのだろうか。何の装備もなしで戦場に出ることはできるのだろうが、相手は皆十分な武装をして臨んでいるはずだ。接近戦を好む相手ならばまだしも、射撃戦を好む相手ならばただの標的となってしまう。それを覆すような体術を彼女は持っているのだろうか。あるのならば、一度見てみたいと思った。「お尋ねしたいのですが」
「アタイの名前だろ。」建機型神姫は薄く笑った。「で、どっちだい。ステゴロと、政と。」
「ステゴロの方です。無手でバトルロンドに出ているのですか」政は顔の前で大仰に手を振った。
「流石にそりゃア無い。どう頑張ったって、無理だ。うちの親方が登録のとき、建機型は殴り合いが得意だからって、ノリで付けちまってね、起動してすぐだしリセットしても良かったんだろうけど、一回起動しちまったからリセットするのも気が引けるってことで、そのまんまさ。アタイは結構気に入ってるけどね。ま、ステゴロって訳にゃいかないが、殴るのは得意なんで、パイルバンカーとかナックルで出てる。刀や鉄砲は性に合わないのか苦手でね。」納得のいく答えだったが、少し残念でもあった。
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久し振りの投稿です。この10日ほど熱が引かずエライ目にあいました。まだ続いてますが・・・