No.424060

【南の島の雪女】琉菓五勇士チンスゴー(4)

川木光孝さん

【前回までのあらすじ】
道に落ちてた虹色チンスコウを食べてしまい、体がおかしくなった白雪。
そんなとき、風乃宅にチンスゴーたちが訪れ、「新メンバーである虹色のチンスコウを落とした」と告げるのだった。

2012-05-17 06:08:07 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:402   閲覧ユーザー数:402

【虹色ちんすこうの謎】

 

風乃

「…は?」

 

モズクが何を言っているのか、風乃には理解できないようだ。

虹色のちんすこうが新メンバー?

何の冗談だろう。彼は今、白雪の腹の中だというのに。

 

モズク

「虹色のちんすこうは、私たちチンスゴーの新たなメンバーでして」

 

モズクの横から、プレーンが割り込んで、風乃に言う。

 

プレーン

「虹色のちんすこうを、知っているのか?」

 

風乃

「えっと…」

 

風乃は、気まずさを感じて、目をそらす。

「その虹色のちんすこうは、雪女のお腹の中です」

だなんて、とても言いづらい。

 

風乃

「ど、どうしてまた、虹色のちんすこうが、

 新メンバーなの?」

 

話題をそらした。

 

プレーン

「あの虹色はな、これからお菓子工房に運んで、

 加工して、俺たちチンスゴーみたいにでかくなって、

 沖縄を守るヒーローとして活躍する予定なんだ」

 

ゴーヤー

「虹色だなんて、変な色してるだろう?

 それはな、加工する前だと、普通のちんすこうと

 同じサイズだから、誤って食べられないよう

 あえて虹色にして、食べにくいようにしている」

 

パイン

「虹色のちんすこうなんて、毒々しくて

 誰も食べようとは思わないよね、普通」

 

すでに食べられてしまいましたが何か。

 

風乃

「へ、へへへっ。

 そーなんすかー、さっすがですねー」

 

嫌な汗が頬をつたう。

どう弁解すればいいのだろう。

 

母親

「あら、風乃。虹色のちんすこうって、

 白雪が昨日食べたアレじゃない?」

 

風乃のうしろで、母親がにっこり笑っている。

相変わらず空気の読めない母親であった。

 

 

【食べられた虹色の仲間】

 

プレーン

「食べた…?」

 

ハイビスカス

「食べられちゃったの…?」

 

仲間が食べられたという、衝撃の事実。

チンスゴーたちの間に動揺が走る。

 

風乃

「お母さんのバカ!

 ネタばれしちゃったでしょ!」

 

母親

「どうして怒っているの、風乃?」

 

母親は状況を理解できていないようだ。きょとんとしている。

 

モズク

「ど、どうしましょう、リーダー…」

 

プレーン

「うぬぬ」

 

風乃

「食べたものは出せばいいんだよ!」

 

パイン

「出すって、いったい…」

 

風乃

「う○こ」

 

ゴーヤー

「汚いから却下」

 

風乃

「きれいな雪女のう○こだよ!

 汚くないよ!」

 

モズク

「どうしましょう、リーダー」

 

プレーン

「う○こにまみれた仲間は、いやだ」

 

こうして、虹色のちんすこうは、新メンバになることができなくなった。

 

 

【虹色の替わりとして】

 

風乃

「いいことを思いついた!

 白雪がチンスゴーの新メンバになればいいんだよ!

 虹ちん(虹色ちんすこうの略称のつもり)のかわりに!」

 

ゴーヤー

「虹ちんって何だよ…」

 

ハイビスカス

「いいね、おもしろそう!」

 

ゴーヤー

「お前はおもしろいかどうかだけで

 判断するのか」

 

モズク

「どうします、リーダー?」

 

プレーン

「雪女は、ちんすこうっぽさが足りないからダメだ」

 

風乃

「ちんすこうっぽさって何…?」

 

 

【白雪、チンスゴーの新メンバへ】

 

白雪

「で? 俺に、チンスゴーの新メンバになれと?

 お断りだ!」

 

露骨に嫌そうな顔をする白雪。

風乃からお願いされ、相当困っているようだ。

 

風乃

「虹ちんを食べた白雪が

 悪いんだよ!

 さあ、あきらめて、新メンバになりなさい!」

 

白雪

「虹ちんって何だよ! 変な略すんな!

 って言うか、ふざけるな!

 今、俺の股にち…ちんすこうが生えていて、

 ただでさえ嫌な気分なのに。

 さらに、正義の味方ごっこにつきあえと言うのか!」

 

白雪は頬を赤くしながら、風乃を叱る。

 

風乃

「正義の味方でがんばって、善い行いをすれば、

 きっと白雪のチンスコウも立派になるよ」

 

白雪

「うるさい! 意味分からんわい!」

 

 

【チンスゴーとお茶とお茶菓子】

 

プレーン

「お邪魔します」

 

風乃の部屋のドアが開く。

ドアが開いた隙間から、チンスゴー・プレーンと

他4人がぞくぞくとあらわれる。

 

風乃

「いらっしゃーい」

 

白雪

「げっ! チンスゴー!?」

 

先ほどテレビで見たチンスゴーが、今、目の前にあらわれ、

驚愕してしまう白雪。

 

母親

「ようこそ。

 お茶とお茶菓子を召し上がれ」

 

母親はお盆を床に置く。

その上にはせんべいや焼き菓子、お茶が5つあった。

「ゆっくりしていってね」と言い告げると、

母親は下の階におりていった。

 

プレーン

「いただきます!」

 

プレーンはせんべいをつまむと、口(?)にもっていく。

 

チンスゴーのどこに口があるのかわからない。

 

のっぺらぼうのような、目も口も鼻もない、

その顔に、せんべいをくっつけるだけで、

バリバリと音を立てながら、せんべいが消えていく。

 

白雪

「チンスコウがせんべい食ってる…」

 

焼き菓子同士の共食い。

白雪は、そのシュールな光景に、

コメントしづらい妙な気持ちをおぼえた、

 

ゴーヤー

「このお茶もなかなかいけるな」

 

白雪

「チンスコウがお茶飲んでる…」

 

チンスコウが、お茶なんか飲んで、ふやけないのだろうか。

それ以前に、ノドがかわくのだろうか。

消化器官は。排泄はどうする。

白雪の、チンスゴーへの興味(?)はつきない。

 

 

【チンスゴーの面接試験】

 

白雪

「で? チンスゴーが、風乃の部屋にあがりこんで、

 何しにきた?」

 

プレーン

「白雪殿が、新メンバにふさわしいか、面接を行う」

 

白雪

「面接!?

 新メンバになる前提かよ! やめてくれ!」

 

プレーン

「ではさっそく面接を開始する。

 そこへ座ってくれ」

 

プレーンは、白雪に座るよう命じる。

いつの間にか面接用の椅子が用意されており、

椅子の前には、プレーンを始めとするチンスゴーの面々がいる。

 

白雪

「話はえーよ! ちょっとは断らせろ!」

 

プレーン

「必殺技は使えますか?」

 

白雪

「知らんわ! なんだその質問は!」

 

モズク

「われわれチンスゴーは、沖縄を脅かす悪と戦っています。

 敵を倒すための必殺技は! 必要なのですっ!」

 

選挙演説のように力説するモズク。

 

白雪

「吹雪を出せる。つららで相手を突き刺す。

 吐息で相手を凍死させる。

 大量の雪や、雪崩で相手をおしつぶす」

 

棒読み気味の声で、やる気のない調子で答える。

新メンバとして戦う気はない。そう言いたげな白雪だった。

 

プレーン

「ぜんぶ雪の必殺技か…」

 

モズク

「沖縄に雪はないですよ」

 

ゴーヤー

「よって、必殺技は何も使えない、と」

 

白雪

「ほらよ、どうせ、俺は雪女だ。

 沖縄では必殺技なんて使えないさ。無能だろ。

 早く落とせよ。

 俺は、チンスゴーの仲間になる気はない」

 

白雪は、投げやりな感じで言い放つ。

 

ハイビスカス

「何を言っているの!

 あなたにはまだ武器があるでしょう!」

 

白雪

「武器って、何の武器だ」

 

ハイビスカス

「女の武器よ!」

 

白雪

「…は?」

 

ハイビスカス

「その胸! その脚! そのくびれ!

 美しい肌! 唇! 声!

 どれをとっても、女の武器になるわ!

 私が保証するっ!」

 

ハイビスカスは、だんだんと興奮しながら

元から赤い顔を、さらに赤くさせる。

 

パイン

「はいはい、寝言は寝て言おうね」

 

ゴーヤー

「っつーか、正義の味方が、女の武器使っちゃまずいだろ」

 

白雪

「そっ、そうか…女の武器か…」

 

まんざらでもない白雪。

口元に少しだけ笑みが浮かべられていることに、

誰も気づかない。

ほめられたような気がしたのか、うれしさを感じているようだ。

 

 

【チンスゴーの面接試験、その2】

 

プレーン

「…面接の、最後の質問だ」

 

白雪

「もう最後の質問かよ…まだ2問目だぜ。

 まあどうせ落ちるからいいけど。

 で、何の質問だ?」

 

プレーン

「白雪さんの、得意なことはありますか?」

 

どうせ面接には落ちるのだ。

もう好き勝手に言ってやろう。

白雪は、事実と脚色をおりまぜて、問いに答える。

 

白雪

「料理と裁縫と洗濯と掃除。

 あと、逃走と脱走と鍵開けと盗み」

 

プレーン

「採用だ!」

 

白雪

「なぜだ!?」

 

プレーン

「家庭的なところが気に入った。

 とくに裁縫ができるのは、すごいぞ!

 これは貴重な人材だ!」

 

白雪

「…チンスコウのどこに裁縫が必要だ?」

 

白雪はチンスゴーをまじまじと見る。

 

見た目は、頭からつま先まで、チンスコウ。

衣類どころか、糸すらも身にまとっていない。

裁縫を褒めちぎる理由とは。何なんだろう。

白雪の頭では理解できそうになかった。

 

それに、家庭的ってなんだよ。

こいつは、新メンバーの採用と、お見合いを間違えていないだろうな。

 

白雪の理解は、ますます混迷を深めていく。

 

 

【白雪、チンスゴー新メンバに採用される】

 

白雪、見事にチンスゴーの新メンバーに採用された。

さっそく、どこからか拍手が飛んでくる。

 

風乃

「白雪、採用おめでとう!」

 

風乃は白雪に、ぱちぱちと拍手を送る。

 

母親

「あら、白雪。就職面接に受かったんですって?

 おめでとう」

 

いつの間にか、母親まであらわれて、風乃と同じように拍手を送る。

 

白雪

「いやいや就職じゃないから!」

 

ハイビスカス

「白雪、あなたは今日から

 『チンスゴー・ホワイト』として働くんだよ♪」

 

ハイビスカスは、女性の仲間が増えてうれしいのか、

ハイテンションで、半ば白雪に抱きつくように歓迎する。

 

白雪

「憂鬱だ…」

 

新メンバーになんてなりたくなかったのに。

だいたい、チンスコウ(の精霊)と雪女がグループを組む、

とはいったいどういう事態なのだろう。

どこの三流小説だ、と白雪は思い、ひどく疲れ果てるのだった。

 

プレーン

「ん? 電話だ」

 

プレーンは、どこからか、携帯電話を取り出し、耳を傾ける。

 

白雪

「こいつ、どこに携帯電話を持っているのだ…?」

 

見たところ、チンスゴー・プレーンにポケットらしきものはついてない。

頭から、つま先まで、チンスコウだ。

 

異次元から携帯電話を取り出したのだろうか。

理解に苦しむ。

面倒なので、白雪は、もう細かいことを気にするのはやめようと思った。

 

 

【公園で事件発生か】

 

プレーン

「何!? 金城公園で!?

 わかった、今すぐ行く!」

 

プレーンは、のっぺらぼうのような顔で、

キリっとした表情をし、真剣な様子だ。

 

プレーン

「みんな、公園でトラブルが起こっているらしい。

 止めにいくぞ!」

 

モズク、パイン、ゴーヤー、ハイビスカス

「了解!」

 

プレーン

「白雪…いや、ホワイト!

 俺たちと一緒に来るんだ! 公園へ!」

 

白雪

「行きたくない」

 

風乃

「だめだよホワイティ!

 ちゃんと仕事しないと!」

 

※ホワイティ = ホワイトのこと。

 

母親

「そうよ、せっかく就職できたのに、

 仕事に行かないと、あとあと大変よ」

 

白雪

「働きたくない。家にいたい」

 

白雪は、床にごろんと転がる。雑魚寝の体勢だ。

 

プレーン

「ホワイト。

 もし、この戦いが終わったら、

 お菓子をいっぱい食べさせてやろう」

 

白雪

「お菓子を…いっぱい」

 

白雪の瞳が、ほんの少し輝きを取り戻す。

 

バリエーションいっぱいのケーキたち

クリームのたっぷり入ったドーナツ、

ホクホクのくりまんじゅう、

すきとおった水ようかん、

こってり甘いどらやき、

さくらんぼとクリームのかかった、たっぷりのプリン。

山盛りのフルーツパフェ、

どしりと重い、扉のような板チョコレート

などが、妄想の世界に、ぽん、ぽんと現れ、

白雪の欲望を刺激していく。

 

プレーン

「俺たちの拠点は、お菓子工房だ。

 お菓子が毎日いっぱい作られている。

 今は、苦い現実を受け入れがたいだろうが、

 甘いお菓子でも食べて、元気を出せ」

 

白雪

「…詳しく話を聞かせてもらおうか」

 

真剣な声。

白雪は、雑魚寝の体勢から、すくっと立ち上がる。

どうやら、白雪は、少しやる気になったようだ。

お菓子の魔力に魅せられて。

 

 

 

次回に続く!


 
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