No.392130

世界初の男

rahotuさん

第十一話

2012-03-15 22:16:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3016   閲覧ユーザー数:2942

織斑一夏はいま非常に困惑していた。

 

何故か?

 

それは、いま彼の現状を見れば分かることだ。

 

グルリと教室全体を見回した中で、彼一人を除いて、女、女、女、Girl、少女、少女、幼女、少女、幼馴染、お姉様、少女、women、女性、女の子、女子、女王様、漢、.........etc.

 

はっきり言って、とても目のやりばに困る。

 

女三人寄れば姦しい、とは言うが、今の自分はまるでパンダか何かの見世物だ。

 

ふと、一夏の頭の中に女男女、という漢字が浮かび上がった。

 

そうして、もう一度懐かしの、いや決して忘れる事のない女(ヒト)の横顔を見る。

 

真っ直ぐとした目鼻立ち、背中まである長い髪を黄色のリボンで結び、制服の上からでもわかる成長具合。

 

そこには確かに、彼の幼馴染である篠ノ之箒がいる。

 

最初、一夏は教室で篠ノ之箒を見つけたとき、嬉しくて声をかけようとしたが、目線を合わせた途端顔を逸らされてしまう。

 

なんだかそれが無性に悲しくて、大勢の生徒がいる中、教室に一夏と箒が誰もいない教室の中遠く離れ小島のように感じる。

 

一夏は、ただただため息をつき、頬杖を付いていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界初の男のIS適正者発見。

 

それは、衝撃と驚きをもって、世界に報ぜられる。

 

しかもそれがかのブリュンヒルデ織斑千冬の弟にして、最悪のISテロリスト篠ノ之束の縁者となればなおさらだ。

 

各国は彼の取り扱いで国連で揉めに揉めたが、結局「IS委員会」の、

 

「IS学院に入学させ、その猶予期間中に帰属を決める。」

 

と表明。

 

ことISに関しては絶対的な権限を有し、一年前には実行戦力をも持つにいたった「IS委員会」は最早唯の監視調停機関ではない。

 

確実に独自の意思を持って動き出す、超国家組織になろうとしていた。

 

自国に取り込もうと躍起になっていた常任理事国や、一部の国家を除き、日和見的態度を取っていた国家は挙ってこの案に賛成をし、次いで決定打となったのは連邦のハースト次官が賛成票の取り纏めを行った結果、織斑一夏は日本のIS学園の入学が決まる。

 

そうして、先にも述べたように、織斑一夏の学園ライフが始まったのだ.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.....暫くして、副担任の山田真耶が教室に入り生徒達への挨拶と、出席の確認を取った。

 

........................................................................................................................................原作展開中..............................。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く休み時間になり、一夏は最初の一時間にしてもうヘトヘトであった。

 

学園に入学するさい、電話帳と間違って捨ててしまったそれが、まさか参考書だとは.......。

 

思いっきり出席簿の角で叩かれたから今でも頭が痛い。

 

しかも、休み時間だというのに、教室やはてや廊下に生徒たちが群がり、俺を見ていて、顔を向けると慌てて目を逸らして、

 

「あんた行きなさいよ。」「ええ~、何はなしていいか分からないし....。」

「ダメよ抜け駆け禁止!!」

 

などと囁く声が彼方此方で上がっていた。

 

まるでこれじゃあ見世物だな、はあ、入学早々これかよ........。

 

ん?

 

箒が席を立った。

 

真っ直ぐこちらに歩いてきて、俺はなんだか期待に胸を高鳴らせ.........そうして箒が俺の傍を通り過ぎて教室から出て行ってしまった。

 

はあ、俺なんかやったかな....ん?

 

箒が通り過ぎた後に、一枚の紙切れが落ちていて、気になって拾って綺麗に折りたたまれたそれを開いて読んでみた。

 

!?俺は直に箒を追いかける為、椅子から立ち上がり急いで教室から出て廊下を走っていった。

 

その時、周りで見ていた女の子が黄色い歓声やなにやらヒソヒソ話をしていたが、俺の耳には入らなかった。

 

手に握り締めた紙には、綺麗な字で、

 

           『屋上で待つ』

 

とだけ、書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「箒!!」

 

屋上の扉を乱暴に開け、そこには漸く見付かった箒の姿があった。

 

俺は息を整え、深呼吸して、箒へと近づいて行く。

 

久しぶりの幼馴染との再会に、此処まで走ってきた以上に、胸が高鳴っていた。

 

「箒。」

 

俺がもう一度呼びかけると、フェンスに手をかけ遠くを見ていた箒はこちらの方を向き、その顔と瞳を見た瞬間、俺は悟った。

 

ああ、あの時と同じ目をしている。

 

どす黒く濁った瞳には、今にも泣きそうなのに、何かに憤り、怒鳴りたいのに如何していいか分からず、虚ろに迷い、悲しみと困惑、様々な不の感情がない交ぜになった表情をしている。

 

「箒」

 

俺はもう一度呼びかけた、ひょっとするとまた昔のような顔に戻るかもしれないと期待を込めて。

 

でも、箒は表情を変えず、互いに無言の状態が続いた。

 

.........................................................。

 

沈黙に耐えられなかた俺は、他愛のない話をはじめた。

 

「久しぶりだな箒、引っ越して以来かな。最初この学校に来て驚いたよ、まさか箒がいるなんて、でもやっぱり幼馴染がいて安心したよ。また一緒のクラスになるなんて。」

 

.........箒は相変わらず無言だった。

 

それにもめげず、俺は話を続ける。

 

「そう言えば箒の家の道場まだやってるか。確か剣道の大会が最近あったけど箒の所からはやっぱり出たのか?」

 

そこで始めて箒が何かを呟いた。

 

「.....。」

 

「え?なんだって。」

 

屋上の風の音に紛れて、掻き消えてしまったその声を、俺はもう一度尋ねる。

 

「......負けた。反則で......。」

 

漸く聞き取れたその声に俺は驚いて声を荒げた、

 

「如何して!!何かあったんだ箒、俺でよければ力になる。」

 

肩を両手で掴もうとしてのを、箒は体を引いて避ける。

 

「箒?.....。」

 

空を掴んだ手を、ただ呆然と眺める俺に箒は、

 

「一夏、もう私と関わるな。」

 

真っ直ぐ俺を見つめる箒の顔は、今にも泣き出しそうだった。

 

「....なん....だよ....なんなんだよ.....それ...なんなんだよ!!」

 

もう一度箒の肩を掴もうとした俺に、箒は今度は逃げなかった。

 

「如何してなんだよ!!やっと、やっと会えたのに、どうしてそんなこと言うんだ箒!!」

 

俺の心からの叫びに、箒はただ、

 

「お前に何が分かる。」

 

「お前に一体何が分かるんだ!!」

 

両肩を掴む手を振り払った箒は、顔を伏せ荒々しい声で叫ぶ。

 

「この六年間、お前と別れてどれだけ私たちが苦労したか、お前に分かるか!!」

 

それは箒の魂の叫びであった。

 

箒の家族は「白騎士事件」いらい、政府の執拗な尋問や監視を受け、外に出ることさえままならない生活。

 

それに、一度外に出れば、誰しもが「テロリストの家族」という目で見られ、学校では虐めも受けていた。

 

箒は元々の性格が災いして、周囲から孤立し、学校の先生さえ箒には見て見ぬフリをするばかりか、あからさまに白い目で見る教師もいた。

 

引っ越して別々の中学校になったときは、更に酷かった。

 

周囲に一夏という味方がいなくなった彼女には、本当に一人ぼっちになってしまった。

 

そうして、少しずつ、少しずつ、染み入るように箒の心を犯していくどす黒い水は、やがては復讐の炎となり彼女を変えてしまった。

 

「......なんだよ、それ。まるで自分だけが被害者のように言って、俺だってな、俺だって、あの日からどんな扱いを受けてきたか分かってるのかよ。」

 

箒の言葉に激昂した一夏は、屋上だというのに周囲を憚らず怒鳴った。

 

「学校で友達に避けられ、父兄参観で親達に後ろ指を差されながら、どんなに惨めだったか。うわぐつを隠されるのなんかまだいい、朝学校に行くと、チョークで俺の机に「テロリストの仲間」なんて書いてるんだぜ。それも毎日毎日、朝早く来て消しても消しても次の日には必ず書かれている。」

 

「中学だってそうさ、周りはブリュンヒルデの弟だとか言うけど、皆内心オレ達姉弟をテロリストの仲間だと思っているんだ。バイト先も何度も変えた、夜道を歩くのが怖くて家の鍵を閉めてベッドのシーツに包まって震えていたこともある。偶々帰りが遅いと、家の中が荒らされていて、何度も何度もあってそのたびに警察に言っても簡単な調査だけて無視される。俺はずっと一人だったんだ、千冬姉ぇもいない。誰も助けてはくれない。俺は、俺は、ずっと一人で耐えてきたんだ........箒、お前だけじゃないんだ。だからそんな顔をするなよ....。」

 

引きつった笑みを浮かべる俺に、泣いている箒。

 

俺達は同じだ、互いに映し鏡のように、そうして壊れてしまった俺達はもう元には戻れない。

 

「.....終わりだな。」

 

誰とも無しにそんなことを言う。

 

「.......私たちは終わりだ。もうこれで......何もかも全部.....。」

 

互いに同じ気持ちだった。

 

もう、昔には戻れない、いや、随分と前からそうだったんだ、ただ認めたくなかっただけなんだ。

 

「箒......最後に一言だけ......ありがとう。最後にお前と会えて嬉しかったよ。」

 

箒は、無言で立ち去っていった。

 

でも、俺の傍を通り過ぎた時小さく、

 

「さよなら。」

 

といい、走って屋上を出て行った。

 

俺の耳には何時までも箒の別れの言葉が鳴り響いた。

 

もっとも近かった俺達は、こうして互いに傷つけあい、理解し、そして分かれた。

 

最早永遠にこの時は戻らない.....。

 

 

 

 

 

 

 


 
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