No.330381

外史異聞譚~反董卓連合篇・幕ノ二十九/洛陽編~

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2011-11-06 05:49:46 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3104   閲覧ユーザー数:1838

≪洛陽/世界視点≫

 

それは、尊く貴き玉座を上座におく漢室の中枢ともいえる広間にて行われた

 

文武百官諸侯豪族が揃う中、事実上現在の漢室の支配者と目される董相国の腹心である賈文和が三公の一である大尉を拝命し文官の最高位に位置する事が公布される

 

それに付随して、呂奉先は車騎将軍を、張文遠は驃騎将軍を正式に拝命し、西園八校尉の一として任じられる事で事実上禁軍として看做される事を衆目に印象づけることとなる

 

陳公台は中軍師として、車騎将軍の補佐を命じられる事で諸侯豪族の上に立つ立場となった

 

天譴軍は上は天の御使いが唯一“司天”という新たに新設された皇帝の相談役として事実上相国と並ぶ位置に就く事が公布されたのみで、他の将帥が漢室の臣として任じられる事はなかった

 

こうして玉座の右に天譴軍、左に董相国を筆頭とした文武百官が立ち並ぶ中、逆賊袁紹に付き随った諸侯豪族に対する沙汰が下達される運びとなる

 

慣例に従い、最初に沙汰を降されたのは現在諸侯の代表である袁術

 

袁家は汝南の地の利権を全て没収され、一族は河北に転封、南皮の太守として封ぜられた

これに付随し、5年の間租税を5分増して上納することを義務づけられ、私財の四割を上納させられる事となる

 

次に曹操だが、これは諸侯連合での統率力と判断力を面前で大いに賞賛され、その徳をもって南部交州の牧として赴任し現地の統制と発展を期待されると下達される

 

涼州全域は“司天”となった天譴軍が牧となり、涼州諸侯はその下で漢室の臣として務めるべし、との沙汰が降った

 

平原の相であった劉備と北平の太守であった公孫瓚は立場を据え置かれ、漢室への忠義を賞揚される

 

他の諸侯豪族は平均4分の租税を5年間増される事が通達され、私財の3割を納める事でそれまでの身分を安堵すると沙汰がなされた

 

大半の諸侯にとっては身分の剥奪も視野にあった事柄であっただけに、温情に過ぎる措置に空気が弛緩した事は言うまでもない事であろう

 

「これにて今回の勅を待たずして興った兵馬参集についての詮議の全てを終了する!

 一同、粛々として控え、陛下の温情と厚情に感謝なされますよう心得よ!!」

 

この宣言により、大陸の覇権は事実上董相国のものとなり、涼州諸侯が担ってきた五胡への対応が天譴軍のものとなった事が宣言された、というべきであろう

 

董相国は長安と洛陽を含めた司隸・冀州・兗州を手にし、名実共に諸侯の最高位として君臨する事となり、漢室を含めれば徐州・揚州・荊州の一部をも含めた大陸中原をほぼ手中としたことになる

 

天譴軍は涼州全域と荊州の一部である上庸を手にしたことで漢室と並び得る実力を誇示するに至った

 

 

こうして今上帝と董相国、天の御使いが場から退席したことにより、個人的ともいえる処遇の数々が諸侯豪族に伝えられる事となる

 

「袁術、貴君の申し出は陛下に快く受理されました

 これより5年のうちは洛陽にて勉学に励む事を望みます

 私的な随員の選抜は身の回りの世話をする者を含めて27名を認め、希望通り代官を派遣して施政と徴税を行う、との事です

 陛下のご厚情に感謝されますように」

 

賈大尉の下達に、諸侯の間から驚愕の声があがる

それも当然であろう

これは事実上、当主を質として漢室に差し出したという、完全な敗北宣言である

この沙汰を袁術と張勲はむしろ喜色を浮かべて礼を執る事で受け入れる

 

「洛陽滞在中の家屋に関しては特別に陛下が宮中に離宮を下賜くだされるとの事

 今後、漢室の臣として相応しくあれるよう、勉学に励んでいただきたく思います」

 

諸侯の心情の大半はただひとつだ

(保身の為にここまでやるか…)

侮蔑を通り越して驚愕するしかない

これでは、一族全てを切り捨ててただただ袁家と袁術のみを助ける手段ではないか

遠からず一族の反発が目に見える形で表れるだろうことは疑いのないところだ

 

次に声を発したのは、その立ち位置から天譴軍の次席と目される位置にいる司馬仲達である

 

「公孫北平太守と劉平原相から申し出のあった漢中視察に関しても、陛下より快諾を得る事が適いました

 両名は後日、改めて漢室に視察の仔細を陛下に上奏なされますように」

 

再び驚愕の声があがる

さもあろう

諸侯豪族の大半が門前払いを食らった天譴軍に対し、まさか視察などと銘打っての交渉が可能となったなどと、容易に信じられるものではない

黙して礼をとる二名を気にかける事もないかのように、再び賈大尉が言葉を発する

 

「曹陳留太守には、これより非常な重責が課せられます

 陛下は太守に期待をなされていると共に、これに際して漢室より処遇に関して便宜を計りたいと申されております

 着任は60日以内に行なっていただきますので、それまでに上奏したい旨があれば遠慮なく申し出るようにと言付かっております」

 

これに黙して礼をとる曹操に対する諸侯の感情はひとつである

(どうして宦官風情の孫如きがここまで優遇されるのか…)

 

これは先に優遇された公孫瓚や劉備に対しても同じ感情がある

 

計算され尽くした敵愾心をその身に浴びながら曹操も無言で礼をとる

 

 

こうして、既に茶番劇といえる状態であった諸侯連合の武力蜂起は幕を閉じた

≪洛陽後宮/劉弁視点≫

 

「茶番といえるものであったが、これで一先ず、というところであるな」

 

現在、後宮に堂々と入る事ができるのは、漢室関係者を除けば相国の腹心達と天譴軍首脳部のみである

後宮は事実上解体されており、董太后と何皇后は蟄居を命じられ事実上の幽閉となっている

幽閉とはいっても、後宮内部での行動は認められているが、端女ひとりに至るまで自分で選ぶ事も拒否する事も認められず、外界との接触を徹底的に拒否されているだけなのだが

特に宦官は完全に後宮から締め出されており、後宮鎮護には訓練された女官があたっている

 

劉弁も董卓も一刀も“後宮の影響力”というものを軽視してはおらず、政事に関わらない範疇で最大限の自由を保証しよう、という方向で動いた結果なのだ

 

劉協は現在、そういった観点から教師をつけて文武に汗を流す毎日である

これは一刀の発案で、一定の判断力が身につく年齢までは、人品を選定した上で教師を充てがうべきとの意向に全員が賛同した事による

 

故に、今この場にいるのは早々に席を外した3人と劉協のみ、という事になる

 

「姉上、評定はどうでありましたか?」

 

利発で活発な弟にいずれ帝位を譲りたいと考えている身としては、まだ興味本位ではあってもこういった事を尋ねてくるのが嬉しくて仕方がない

 

「なに、大事なく終わったとも

 朕はただ座っておっただけであるしな」

 

少年の顔に失望が浮かぶ

少年の感覚としては皇帝は最高権力者であり、天下に号令を発するのはやはり姉であるべきだ、と思っているのだろう

その気概を頼もしく思いながら、劉弁は首を横に振る

 

「協よ、帝の一番大事な仕事は、操られる事なく鷹揚に構え、出来うるなら一言も発せずに物事を終える事なのだよ

 だから今は勉学に励み、多くの人物と話し学び、自分の意思を過たず体言できる臣を得られるよう己を磨くのが肝要なのだ」

 

「子供のうちは年相応に遊ぶことも覚えさせないといけないけどね」

 

一刀の言葉に頷く

 

「とはいえ、友などできようもないのが朕等の身分であるからな

 なかなかに難しいものよ」

 

渋々という感じで頷く協を見ながら、相国が気の抜けた顔で呟く

 

「へぅぅ……

 私はやっぱりああいうのは慣れません

 陛下も北郷さんも、よく真面目な顔でまだ話していられますね」

 

「慣れだな」

「慣れだね」

 

即答する朕等に「へぅ…」と縮こまる相国を見て笑いながら、朕は先の上奏に関して気になっていた部分を問う事にする

 

「ところで、袁術がお主等に上奏してきた件だが、どうして宮中に留め置くよう考えたのだ?」

 

これには相国が即答する

 

「人質としての意味を強調するのが主な理由ですが、袁術が漢中に赴いても3日ともたない、という天譴軍側の判断にもよります」

 

「贅沢に慣れてる名門貴族がうちに来てもいいことはひとつもないね

 うちの教師陣は貴族だからって遠慮することはないし、食事も豪華からは程遠い

 悲鳴をあげさせるのが目的ならそれでもいいけどさ」

 

一刀の言葉の抑揚から察するに、袁術程度では構う価値もないと判断したというところであるな

なら洛陽で適度に扱い、折を見て袁家は処分しようと考えたという事か

 

洛陽でならそのあたりの匙加減も容易であるしな

 

「賈大尉が言うには、租税があがったことで諸侯豪族の大半は民衆に更なる重税を課す事で自身の利益を得ようとするはずで、そうなれば我々の介入も容易になります

 なのでしばらくは科挙を充実させて後に派遣する代官を育成する事が重要かと」

 

相国の言に朕は首肯する

 

「見たところ、まっとうな統治をしそうな者はほとんどおらぬ故な

 さぞ面倒が増える事であろうよ」

 

「はい

 ここからは忙しくなるってみんな張り切ってました」

 

むん、と力む相国はなにやら小動物的で非常に愛らしいな

朕にもこのくらいの可愛げがあれば、もう少しましであったろうか…

いや、どこぞに早々に降嫁させられていただけであるな

 

そう考えれば外戚や宦官の掣肘を受けずに協が育つのを見守れる現状は決して悪いものではない

 

さて、御使いはこれからどうするのであろうな?

 

「北郷よ、お主はこれからどうするのだ?」

 

「さっさと漢中に帰りますよ

 色々やる事もありますし、驃騎将軍が来る気満々なんで準備もしないといけないですしね」

 

なので洛陽はお任せします、と笑う北郷を見ながら、困ったような顔をして目を逸らす相国に朕は内心北叟笑む

 

「うむ、朕と相国の大事な驃騎将軍が向かうのだ

 くれぐれも宜しく頼む」

 

「へぅぅ………」

 

 

うむ、よい訪問になるとよいな

≪洛陽/曹孟徳視点≫

 

(手を緩めてくれるというなら、それを利用しない手はないわよね)

 

その目的が諸侯豪族の反感を煽る目的だというのは理解できたけれど、くれるものを貰わないというのはこれからを考えればありえない

 

元々既存権益にしがみつく諸侯豪族など私の眼中にはなかった訳だし、くだらない目先の利益で反発してくるならそれでいい

今回の事は私にとってもいい判断材料になったとも言える、という事だ

 

誰が目先の敵なのか

誰が信用できて誰が信用できないのか

 

これらの篩い落しを自分でやらずに、しかも大陸全土に対して行えたという事実は、私が田舎に飛ばされるという不愉快な事実を差し引いても十分に価値がある

 

陳留にいる桂花は、現在南部の風土病や当地の政情、生産力を割り出しているところで、諸侯の反感を煽るために私達が優遇されるだろうという旨の上奏を既にしてきている

その際に何か得られるのであれば次の三点について上奏をして欲しいとも

 

一、長江流域より南方の貧民や流民に対する優遇措置公布と受け入れに関する優先権の確保

一、長江以南での疫病や風土病に対する薬石や知識の優先確保

一、向こう3年間の免税もしくは減税と確保糧食の優遇措置

 

また、早期に武陵か長沙の相か太守を取り込み、物流の確保を行うための方策も上奏してきている

 

本当に感謝してもし足りないところよね

 

別途送られてきた書簡には、鉱夫や技術者といった真桜に任せていた人員がほぼ全員同行してくれる事が決まり、今は研究施設の解体輸送の手筈が整えられていることと、新兵を含めた兵馬の大半が家族と共に同行してくれると決まったという、望外の朗報が書いてあった

 

 

私は秋蘭と共にこれらの情報を元に修正を加え、上奏する内容を作り上げる

 

「華琳樣

 ここはひとつ、要求するだけしてみて、得られれば儲けものという感じでいくのが宜しいのでは?」

 

「そうね

 折角くれるというのだもの、断られて当然という感じでいけば無駄もないし後で後悔することもないでしょうしね」

 

大義名分というのはこういう場合には非常に役に立つ

 

詳しい方策は陳留に戻ってからいくらでもやれるのだし、今は得られるものを徹底的に得る事だけを考えればいいのだから

 

こうして微に入り細に穿って作られた上奏書を即日送り付け、その結果を待って急ぎ陳留に戻り交州に向かう旨を伝える

 

その結果即日送られてきた内容は、当初の予想を考慮に入れれば、ほぼ満足できるものといえた

 

免税は3年の据え置きが認められはしたが、こちらが3年分と考えていた糧食を1年分は“貸付”という形で与えられたのが少々痛いところだ

これは3年目から租税に組み込まれる形で返済をとの事

 

難民や流民に対する措置は“牧の裁量で”となっている事から、こちらの政治力でどうにかしろという意味であり、これに関しては非常に有難い

 

同行を希望する兵馬民衆に関しては構いなし

要は食わせられなかったら私の責任だ、という事だ

 

唯一残念なのは薬石に関しては便宜が図られなかった事だ

これは漢室に十分量がない、という理由で撥ねつけられていて、自身で買い求める分には構わないとのこと

また、風土病に関しても当地の諸侯豪族に協力を仰ぐべし、と言い渡されたことから、この部分では一切手伝う気がない事が伺える

自分で探して医者なり薬石なりは確保しろという事で、これは非常に難しい

 

他にも細々とした事を上奏していたのだが、微妙に厳しいところで可否が成されている点から、私に楽をさせる気は全くないらしい

 

生殺しという表現がぴったりくる匙加減には苦笑するしかない

 

「これは、なんというか絶妙ですな…」

 

秋蘭がそう苦笑したくらいだから、その意地の悪さは相当なものだ

 

 

なんにしても、これ以上洛陽にいてやるべきことなどひとつもない

 

私は皆を連れて無駄に足掻く諸侯を尻目にさっさと陳留に戻る事にする

 

やるべき事は山積みで、無駄にしていい時間など刹那すらありはしないのだ

 

 

「南部辺境で旗揚げというのも新鮮で面白いかも知れないわね」

 

帰路での私の呟きに同意を示す皆の言葉を受け止めながら、私は馬に鞭を当てた


 
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