No.302603

異聞~真・恋姫†無双:二八

ですてにさん

前回のあらすじ:恋姫たちの間に授かるであろう子供たちを現代に連れ帰るかの選択を迫られた一刀は、冷徹とも思える決断を下す。
重たい空気が漂う中、冥琳は現世についていく為のとんでもない条件を提示し、
華琳を介して、一刀の決断を爺ちゃんがぶち壊してしまった。

…一刀は自分の決意は何だったのかと血涙したという…。

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2011-09-18 15:09:17 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8700   閲覧ユーザー数:6078

この作品はキャラ設定等が一刀くんを中心に、わりと崩壊しております。原作重視の方はご注意下さい。

時代背景等も大きな狂いがあったりしますので、『外史だから』で許容できない方は、魏武の大剣様から逃走する感覚で全力で逃げて下さい。

 

オリキャラも出ますので、そういうのが苦手という方も、紫苑の矢から逃げる感覚でまわれ右。

 

一刀君とその家系が(ある意味で)チートじみてます。

物語の展開が冗長になる傾向も強いです。(人、それをプロット崩壊という)

 

それでもよろしい方は楽しんで頂けると幸いです。

 

 

爺ちゃんの企みにがっくりきたその日の晩、

慾の虜になりかけていた人達をこちらの世界に呼び戻すように穏やかな情交を繰り返した後、俺は華琳と愛紗を求めていた。

 

無自覚のうちに不完全燃焼となっていたのだろう。

スッキリした俺の前には身体を痙攣させて失神している愛紗と、

肩で息をしながら、自力で座ることもままならない華琳の姿がありましたとさ・・・。

 

「かぁずぅとぉ・・・私をそんなに壊したいわけ・・・? というか愛紗は半分壊れちゃってるじゃない・・・。

口から涎を垂らしたまま、四肢をだらしなく弛緩させて緩みきった顔で意識を失って・・・他の誰かに見られたら立ち直れないわよ?」

 

気だるそうに、恨みがましい声の華琳。声が少し掠れているように感じたので、口移しで水を含ませる。

少しだけ舌を絡ませた後、華琳は口内に受け取った水をゆっくり飲み込み、喉を鳴らした。

 

「部屋に戻ってから、三人で始めたのは正解だったね・・・うん、本当にいつもありがとう」

 

寝台に腰掛けた俺の膝の上に四肢に力の入らない華琳を抱き上げ、膝の上に座らせる。

謝罪を言うのは簡単だけど、俺を受け入れきってみせると宣言する華琳が、その行為を謝られるのをすごく嫌うはずで。

だから、俺はお礼、という言葉を取るのだ。

 

「・・・ちょっと愚痴りたくなっただけよ。貴方の成長が私の予測以上だっただけで。

まぁ、私も鍛えられているのだから、睡眠を取れば、少々身体が重いぐらいで動けるわよ。

愛紗は…うん、元の体力が違うし、なんとかするでしょう」

 

「じゃあ寝る前に少し話をしてもいいかな」

 

「ん、この心地よさに負けてしまうかもしれないけど・・・その時はまた明日ね」

 

俺に身体を預けるこの格好を、穏やかな表情で心地良いと言う華琳をまた愛しく思う。

が。その愛する華琳に心労をかけないためとはいえ、爺ちゃんの手回しは俺の決意やらを色々破壊するもので。

落ち拉がれる俺を上から高笑いしている爺ちゃんの姿がありありと想像できて。

 

…まぁ、つまり、このままやられっ放しで終われないよね、っていう俺の意地。

 

「爺ちゃんのこと。なんつーか、確かにあの人の財とか隠し持ってる裏の人脈とか、確かに敵わないし、

母さんや父さんのように、経営者として、財産を膨らませることだって、まだまだ経験不足で出来はしない。

皆を連れていくことを見据えるなら、進学する俺は今は甘えるしか無いのも判ってる。

…だけど、甘えっ放し、やられっ放しになるのは、俺が嫌なんだ」

 

「確かにね…。このままお爺様の掌の上、なんて私達は納得できないわ。

生前贈与にしてもらうか、一刀名義にしてもらったとしても、お爺様が買い占める土地、建屋の料金を少なく見積もっても一億は軽く超えるでしょう。

それに対して、統計にある一般人の生涯賃金が二億少々。

私たちが実力をつけて・・・十年で返せるか、どうかかしら。利子とかもかかるでしょうし。

大家族になるのだから、仕事とか経営だけに没頭するわけにもいかないから、限らない時間で成果を出すとなると、どうしても、ね」

 

「爺ちゃん、今は隠棲の身だとか言ってるけど…どうやってあの財産築いたのか、帰ったら色々聞いてみよう・・・」

 

「…手段を選ばないような気がプンプンするけど。お婆様が私と似て、正道を基本に置く人だから、

余計にお爺様が悪だくみをしている想像しか浮かばないのよね…」

 

「そりゃいきなり戸籍捏造するような人だからねぇ…。ただ、ほんとに力、つけたいよな…」

 

「私も。一刀の世界でいえば、私だって、小生意気な只のひよっ子だもの。…ただ、いずれ大きくなってみせる。無論、一刀と共に」

 

「おう。身近のいい見本の、母さん父さんの仕事、学ばせてもらえればいいけど、海外飛び回ってるからなぁ・・・」

 

「まずはビジネスレベルで通用する高度な英会話の取得が前提になるわね。

貂蝉に頼んで、向こうからそういう書籍とか持ってきて貰うのって可能なのかしら・・・制約とかの兼ね合いで難しい…か」

 

「実際、どうなんだろ・・・あ、呼びかけちゃ駄目だぞ。俺たち何も羽織ってないし、呼んだらほんとにいるのがアイツだから」

 

呼んだらたいてい本当にいるんだよ。

隠さないといけない時以外は、頼むから最低限の気配は出して下さい、お願いしますよほんと。心臓に悪いんだ。

 

「ええ、あの愛紗の姿は見せるに忍びないわ。そろそろ身体の熱も引いたでしょうし、何か羽織らせてあげないと」

 

その言葉に俺は一旦、華琳を膝から下ろし、薄手の掛け毛布を愛紗に静かにかけていく。

よだれもそっと拭って、御開帳状態の両足も閉じ、形式上乱れなど無く、ただの情交だった風は装っておく。

…愛紗に記憶があれば全て無駄になるんだけど、なんというか、マナーだ。

 

ふと、部屋の閉めた窓の隙間から、冷たい夜風が吹きこむのを感じ、

俺は二人で羽織れる大きさの毛布を掴み、再び、華琳を膝の上に座らせる。

毛布をお互いの身体に軽く巻きつけ、頭だけがぽっこり出てくるような姿となった。

風を遮断するだけで、二人でこうして身体を合わせていると、十分に暖かく感じられる。

 

「ところで一刀、今日は皆の部屋を回ってきたようだけど、皆の慾はちゃんと落ち着いたの?」

 

ドキッとするような言葉だけど、その口調に怒りは乗っておらず、むしろ心配、という意味合いが強いものだった。

かつての魏の仲間たちを気遣うような感覚。大家族の長となるのは、覇王だったあの頃のかつての自分と重なる所があるのだろう。

 

「ん。星に言われたけど、皆の所に行って正解だったよ。

雛里、鈴々辺りは特に情欲への耐性が無いから、このまま幽州に行かせていたら、色々まずいところだった」

 

人より幼いと見られる体型なのに、精神が情欲に蕩かされている状態で、

知らず知らず濃厚なフェロモンを発する…まぁ、常時が書物を読んだ時の『穏』状態に近いという悪夢。

 

本人にとってもたまったもんじゃないし、周りの男性陣にとってもそれは不幸としか呼べず。

 

「収めるべきところに収められたはずだから、これで自分を取り戻すはずだよ」

 

「ふふっ、今の一刀は、生娘には麻薬だものね。溺れてしまえば、自分で脱する術がない。

愛紗にしても、毎晩相手になるからいいものの、今の状態で一日離れれば禁断症状が出るでしょう。

雪蓮が袁術を誑せと言うのも判るわ。傾国の美男…とでも、呼びましょうか?」

 

「勘弁してくれ…。第一、俺は華琳じゃないと、もう落ち着かないんだよ。身体も心も同時に満足させてくれるのは…」

 

「わ、わかったから…! 理解したわよ、ふざけた私が悪かったから、それ以上はもう…! 一刀の顔、まともに見れなくなるじゃない…」

 

可愛い言葉を言ってくれる華琳を思い切り抱きしめ、艶やかな髪に顔をうずめ、その香りを堪能する。

輝く金色から、青みを帯びた黒色の髪に変わっても、好ましい彼女の匂いは変わることは無く。

 

「いい匂い」

 

「…馬鹿。それに、また固くなってるわよ」

 

「華琳が相手だから、抑えが効かない。どうしてもこうなる」

 

「…もうホントに底なしね。明日は私達も出発よ、起きられるの?」

 

「あと一回だけ、ゆったりと…それで、今日はお仕舞いにする…」

 

「仕方が無いわね、もぅ…んんっ…」

 

俺から与えられていく刺激に、寝ている愛紗に気遣いながら、静かに華琳は嬌声を上げ始め、

夜の闇に重なるように、俺達は再び一つになっていく───。

 

 

翌日。

桃香たちの出立に合わせて、俺達も[業](特殊文字の兼ね合いでこの文字で表記させて頂きます)に商品の買い出しに向かう。

うん、俺達は旅の行商人なのだ。…いろいろ忘れがちなんだけど。

桃香たちは旅支度の買い足しが目的だ。

 

ちなみに、俺と華琳は寝坊せずにしっかり起きれている。

 

俺は体内の氣の、程よい活性化のやり方を華佗から学んだお陰のようで、睡眠による体力の回復も効率的に出来ているようだ。

修練を積めば、それこそナポレオン状態で動けるかもしれない。これはもう張り切って修練するしかないよな!

 

そして、どうにもその影響を受けているのが、華琳。

華佗曰く『蘭樹には北郷の氣が流れ込んでいる』んだそうだ。

推測するに、毎晩馬鍬っている兼ね合いで、毎日お互いの氣を自然に受け入れ、しかも循環させているような状態。

自己治癒力に秀で始めた俺の氣をうまく取り込んでいる華琳にも、好影響が出始めた…という感じ。

 

「んー。短時間で深い睡眠が得られるのは、一刀さまさまというところね」

 

馬上で気持ちよく伸びをする華琳。手綱を一時的に離していても、バランスが崩れることはもちろんない。

一方、並走しながらしっかり手綱を握りしめている俺。

そりゃ、現代でも習慣的に乗馬する機会は設けていたものの、華琳みたいにはいかない。

 

「いや、それもそうだけど、手綱離していても馬を走らせられる、その身体能力がすごいよ…」

 

「こんなの慣れれば出来るわよ?」

 

「あわっ、しょ、しょんな簡単にはいかないでしゅ。ご主人様みたいに乗りこなすのも私は出来ましぇん」

 

噛み噛みになりながら、俺の代わりに返事をする雛里。

実は、桃香・雛里は乗馬の技術があまりなく、行軍速度で進むのにはとてもついてこれない。

そこで、雛里は俺の前、桃香は左慈の前に座り、快調に街道を駆けているというわけだ。

 

さらに、華佗がそこまで乗馬に慣れておらず、貂蝉の前に乗っているというシュールな姿もあるが、あえて見ないように努めている。

 

「まぁ、仮に自分で乗れるにしても、席争奪戦に皆殆ど参加してましたけどね~。まさしく血を鼻血で洗う厳しい戦いでした~」

 

ちゃっかり俺の後ろにしがみつく様に座り、にゅふふ、と得意そうに微笑む、風。

しかし、席争奪って一体なんなんだ? …鼻血は妄想に絡んだ流言を受けた稟だと、すぐに判るんだけど。

 

「はうぅ…雛里ちゃんに風さん、羨ましいです…」

 

俺の反対側からは、愛紗に前に乗せられた状態の朱里。そんな場景を見ながら、愛紗も苦笑している。

 

「私も護衛役として傍に置いてもらえてなければ、歯ぎしりして悔しがっているだろうしな。朱里、気持ちは判るぞ」

 

「そうなんです! なんで愛紗さんが毎晩御主人様の傍についているのですか!」

 

「…えっと、朱里? 朱里だと、逆にご主人様に守られる側になってしまうだろう…」

 

「で、でしたら今から武を身につけふぇ!…あう、舌噛んじゃいました…」

 

おお、冷静に愛紗が余裕で答えてる。なんか、うん、感慨深いぞ、これ。娘が成長して喜ぶ父親の感覚だ。

朱里が暴走しかけたけど、自分で舌噛んで止まるのも、なんだか『らしい』感じで、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「華琳さまが言ったように、愛紗さんは安心感を与えれば、一気に情緒が安定した優秀な護衛になりましたね~」

 

「…華琳にはお見通しってか」

 

「それに、私は[業]でご主人様としばらくお別れですから、これくらいの役得は欲しいです」

 

寂しそうに呟く雛里の頭をすっと撫でながら、その後も順調に駆け、俺達は二刻辺りで袁紹さんのお膝元、[業]の街に辿り着いたのだった。

 

 

「さて、貂蝉に姿見の幻術をかけましたが、私も今後左慈に同行しますので、これをお持ちになっていて下さい」

 

街の入口で于吉から渡される、リボンと…これは、小さな式神を模した紙人形かな?

 

「于吉、これは?」

 

「リボンは貂蝉への幻術の効果を秘めています。つけておけば効果を示すというものですね。普段から身につけさせておけばいいでしょう。

それはこの紙人形は…」

 

『氣やら術に反応して、離れた場所でも会話出来る装置ですね。念話、というのが判り易い概念でしょうか。

一対になっていまして、片割れを私が持っていますから、幽州との連絡に使用して頂ければ』

 

人形から于吉の声がした。といっても、目の前の于吉は口を開いていないから、術を使って思念を送った、って所なのか?

よし、早速俺もやってみよう。氣を込めて、っと。

 

『あーあーあー、マイクテストマイクテスト』

 

『あちらの世界でのお約束ですね』

 

『うん、これは助かるよ。ありがとう、于吉。しかし、これは反則じみてない? 外史的にさ…』

 

『はい、ゆえに一組しか、私もこの世界に存在されられませんし、念話が可能なのも、管理者か外史の核といえる人物ぐらいのようです』

 

『于吉や左慈、俺と華琳、貂蝉専用ってところか』

 

『都合よく制約されますし、また、他の人たちにも声が聞こえないのがミソですね』

 

などと、使い方を確かめながら、俺と于吉が傍目には無言で話していると、于吉の身体に触れた左慈が念話に交じってくる。

 

『ちなみに別の適合者を交えて話をする時は、こんな感じで、術者に触れるか、媒体に触れればいい。

ま、于吉の奴は置いていきたいんだがな』

 

ニヤッと口元を歪ませる左慈。それに対して、慣れているとばかりに、さらっと切り返す于吉。

 

『とはいえ、私が同行しないと、左慈はあのおっぱい魔人に毒気を抜かれてばかりで、ストレス発散出来ないでしょう。

私の深い愛情に感謝して頂きたいものです』

 

いいコンビだ。于吉の感情が愛情で無ければ、殆ど問題が無いぐらいに。

 

『…ふん。まぁ、いいさ。この外史がうまくまとまれば、俺にとっても好都合だからな。

まして、心おきなくお前とやり合えるとなれば、楽しいことこの上ない。その力、磨いておけよ、北郷』

 

…好都合? 気にかかる言葉を残しながらも、左慈はそのまま街の中へと歩いて行ってしまった。

桃香たちもこちらに手を振りながら、すぐにその後をついていく。

 

「…今は力をつけられることです。外史の管理者として考えること、動くべきことというのは当然あります。もちろん、話せないことも。

ただ、今の貴方では、まだ左慈には及ばず。それに、まずはこの外史が無事にまとまる方向へ向かわねば、全てが無となりかねない。

…私も本来、傍観者に近い立場であるのですが、この外史の北郷どのには、正直期待しているのですよ」

 

疑問が生まれた俺に、于吉が自身の声色で、助言めいた言葉をくれる。

 

「今はただ目の前の問題を一つ一つ全力でこなしていけ、ってこと、だよな。

第一、歴史の流れを作ろうとしていること自体が、おこがましいことこの上ないんだし」

 

「管理者でも、外史の核であっても、望むように物語を紡ぐのは、本来困難なことですからね」

 

「…ん。俺は俺の全力を尽くす。于吉、桃香たちを頼むね」

 

「運命を曲げるわけにはいきませんから、人の力の範囲で力になりましょう」

 

「もちろんだ。術を多用したりしたら、桃香の場合、それに甘えてしまいかねない危うさがある」

 

「短い付き合いなのに、よく見ておられる…」

 

左慈たちにやや遅れ、街の中へと歩を進めていく。

 

さすがに袁家のお膝元ということもなり、賑わいはなかなかのもの。

が、それはあくまで表通りだけのものということも、少し目をやれば見て取れるものだった。

 

「…表面だけね~」

 

「うん。今までが、冥琳や華琳、朱里やらの元で築かれた町並みを見ていたから、落差にちょっと、ね」

 

雪蓮の呟きに、俺は同意する。太守の直轄地ですら、この状況。

 

「…頑張らないとな」

 

「ええ。一刀に協力してもらうだけでなく、私達も出来る限りの力を一刀に預けるから。

だから、少しでも早く本当の活気を取り戻しましょう」

 

「ああ。華琳と冥琳の買い出しが終わり次第、早急に出発しよう。少しでも早く魯子敬さんの元で学ばないとな」

 

華琳と朱里、風、冥琳辺りが中心になり、商品の買い出しと質の良い蜂蜜を捜しに出ており、貂蝉、愛紗辺りも荷車引きの為に同行中。

桃香たちの幽州組もそれぞれ保存食などの買い出しに行っている。

護衛代わりとばかりに、雪蓮と華佗がいる状況だ。

 

「なぁ、北郷。いいのか、俺の治療に使う薬草の類まで、手に入れてもらうなど…」

 

「医の普及に努める為に、しばらく一箇所に滞在し、弟子の育成に勤めてもらうんだから、これぐらいはね。

いずれ、俺の見る未来に何倍にもなって返ってくるんだから、気にしない気にしない。

それに作った解毒薬とか軟膏は、俺達にも分けてくれるんだし」

 

華佗の医術の腕を見て、俺が築きたいと考えている商人街の自警団の中に、医療班を盛り込もうと構想を立てて、

急ぎ、華琳や風に形にしてもらっている今、これぐらいの先行投資はむしろ当然と思っている。

彼のような突出した医術を持てなくても、病に対する対処や薬師の知識があるだけで、無用な死がそれだけで防げるのだから。

 

「…一刀、華佗。話は一旦あとよ。揉め事が前からやってくるわ」

 

鋭い口調の雪蓮に、俺と華佗が顔を上げると、

前方から必死にこちらへ向かって走ってくる、親の手を引いている子の二人組と、その少し後ろから必死に追い立てている袁家の兵士たち。

 

「こ、公与っ! お主だけなら逃げられる! 儂など放ってさっさと行かんかっ!」

 

「元皓さまを放っていけるわけないでしょう! ぶつくさ言わないで走って下さいっ!」

 

二人組が発した叫び声の内容に反応した俺は、とっさに声をかけていた。

 

「二人ともこっちの物影に早く! 雪蓮は少しでいい、のらりくらりと時間を稼いで! 華佗はその路地の入口で壁になってくれ!」


 
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