No.226818

魏√END AFTER 七夕の夜に

茶々さん

お久しぶりです&初めまして。

長編完結以来、細切れの様なネタを考えては消し考えては消しを繰り返している内に七夕を迎えてしまいました。

という訳で季節ネタ、七夕を題材に短編を一つ。

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2011-07-07 20:55:37 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:3934   閲覧ユーザー数:3312

 

一人きりで夜の空を眺める様になって、もうどれだけの時間が過ぎただろうか。

あの遥か遠く、高い満天の星空のずっと向こうに『彼』が消えてから幾日、幾月……幾年もの時間が流れて。

 

人々は『彼』の名を『天の御遣い』として崇め奉り、その威徳の程をまるで武勇譚の様に広めて深く根付かせ―――けれど、その真実の最期を知るのは、たった一人。

誰かに伝える事はないのだろう。自分の事くらい、『彼』を除けば自分が一番良く知っている。

 

 

だからきっと、この胸に秘められた真実と共に、私は―――やがてただ一人の人として消えていく。

 

 

それがとても悲しくて。

とても―――とても、寂しかった。

 

 

叶わない、などという事はとうの昔に悟っていた。

それでも、尚……

 

 

「……………………一刀」

 

 

願う事だけは、諦めたくなかった。

 

 

『かずピー!織姫に会いに行くでー!!』

 

 

大学からの帰り道、高校時代の悪友から告げられた唐突過ぎる計画に、しかし明日の講義が午後からである事と久しぶりに会うのも悪くないと思える似非関西人の顔を思い出し了承の返事を返すと、時間と集合場所を告げられて電話が切れる。

 

 

「七夕だから、か…………」

 

 

ふと、そんな事を呟きながら茜色の空を眺める。

日を追う毎に日照時間は延び、雲ひとつない空を真っ赤に染め上げるその光に目を細めながら、ふと―――本当にふと、茜色の中に光る金色にも似た光が、一人の少女の姿を思い起こさせた。

 

 

……もう、きっと会う事はない。

会える筈がないんだ。

 

そんな事、ずっと前に分かり切った筈の事だった。

 

それでも、

 

 

「……………………華琳」

 

 

あの気高く、強く―――そして寂しがり屋な、全てをかけて誓える程に好いた最愛の人に、もう一度会いたいと。

無駄だと知りながら、それでも幾度となく希っていた。

 

              

 

「やー、メンゴメンゴ。ちょいと支度に手間取ってしもうたわ」

「言いだしっぺが遅刻してるんじゃねぇよ」

「ええやん、まだ二分くらいしか経っとらんし」

「そういう問題じゃなくてだなぁ……というか、何だその大荷物。山篭りにでも行くつもりなのかお前は」

「雰囲気や雰囲気、かずピーの方こそそないな軽装でええんか?虫さされとか結構くるで?」

「○ヒを塗ってきたから問題ない」

 

 

さよか、と及川。

 

 

「ほな、いざ織姫さん目指して出陣やー!!」

「近所迷惑を考えろ、馬鹿」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近所で一番小高い観測スポットは、明日もまだ平日だというのに俺達と似た様な目的を持っているのか、多少の人々が望遠鏡やシートをセットして空を眺めていた。

 

 

「何や、思ったより人が多いな」

 

 

及川の言葉に、口にこそ出さなかった心中で同意の意を示す。

 

 

「ところでかずピー、知っとるか?」

「何をだ?」

「織姫と彦星……ベガとアルタイルゆうたか」

 

 

教授が暇つぶしがてら語ってたんやけどな、と前置きして、

 

 

「地球から発せられた情報がその二つの星に届くまで二十五年と十六年、復路を計算に入れたら今年願った事が叶うんは五十年ないし三十二年後の話なんやて」

「夢もへったくれもない話だな」

「俺も始めはそう思たわ」

 

 

けどな、と一旦区切って、

 

 

「世界が一つやないとしたら、その考えは変わってくるんやて」

「……は?」

 

 

何だ?何か変な電波でも受信してしまったのだろうか。

と、俺の憐れむ様な、可哀そうなモノを見る様な視線に気づいたのか及川は「心外だ」と言わんばかりに目を見開いて、

 

 

「……言っとくけど、俺ん考えやないで。その教授が言うとった事やからな」

 

 

望遠鏡を覗きこみながら及川が続ける。

 

 

「例えば、今こうしてかずピーと一緒に天体観測しとる『現在』がや。実はかずピーを天体観測に誘わずに俺が一人でどっかのねーちゃんひっかけとった『現在』があったかもしれへん、そういう『IF』の世界は、俺らが知らんだけで実は存在するのかもしれんちゅう話や」

「我、観測す。故に我あり…………だったか?確かそれ、宇宙論の話じゃなかったか?」

「世界なんて宇宙の一つでしかないし、宇宙もまた世界の一部なんじゃー!…………ちゅうんが教授の自論やで」

「……すげぇな、その人」

 

 

言って、俺は空を見上げた。

 

 

こうして眺める夜空に広がる満天の天の川は、きっとその姿を殆ど変える事無く悠久の時を流れてきたのだろう。

 

 

違う世界、違う宇宙…………もしそんな場所があったとしても、きっと空に浮かぶ月の美しさも、撫でる様な風の優しさも、何一つ変わる事はない筈だ。

 

 

あの夜見た星と、こうして今見つめる星に何の違いがあるというのだ。

 

 

「……で、その宇宙論がどうやったら七夕の話に繋がるんだ」

「宇宙の時間の流れと世界の時間の流れが一定ではなく、それぞれに誤差が生じていたとしたら?例えばここでの一時間が、違う世界では一年に相当していたら?俺らが感じとる一秒を一分と捉える世界や、一日が向こうではたった一時間にしか相当せぇへん。そういう世界は『知らん』というだけで、無限に存在するんや」

「…………悪い、そろそろ話についていけなくなりそうなんだが」

「俺はな、かずピー」

 

 

急に及川の口ぶりが変わった。

何時の間にか俺を射抜く様な眼差しを向けて、久しぶりに見る真剣な目つきで俺をジッと見据えていた。

 

 

「どんなけったいでチープな三文芝居かて、最後はハッピーエンドで終わるべきやと思うとる。何でか分かるか?」

「……シリアスな話が嫌いなだけじゃないのか」

「ちゃう。全ッ然違う」

 

 

「だってな?」と一呼吸置いて、

 

          

 

「報われるべき奴が報われへんかったら、そないに悲しい事はあらへんやろ」

 

          

 

不意に、季節に似合わない冷たい風が吹き抜けた。

だけど俺はそんな事を気にする余裕もなく、ただ射抜く様な及川の視線から目を離せずに、立ち尽くす様にその顔を見ていた。

 

 

「高二の……あの神隠し騒ぎから、かずピーは人が変わったようやった。低空飛行やった成績もピンキリ付かずの剣道も、何から何まで自分を痛めつける為の様に死に物狂いで取り組んで、あっちゅう間に上に行きよった。周りは凄い凄い持て囃しとったけど……俺は、見ていて居た堪れんかったわ。あないに悲しそうな、辛そうなかずピー見てて、俺は親友やってく自信が失せかけたわ」

「………………」

「俺は他人に自慢できる様なダチが欲しかった訳やあらへん。かずピーと一緒やったら、こいつとなら馬鹿をやっていけると思たから、俺はかずピーの親友に名乗りを上げたんや」

「……自分勝手だな」

「ああ、俺は自分勝手や。人なんて大概そんなもんや。俺も、かずピーも、みんな自分勝手で傲慢や。せやからこれも、ただの自己満足なんや」

 

 

ぐっ、と及川の手が俺の襟首を鷲掴んだ。

 

 

「なぁ、かずピー……いや、北郷一刀。お前は……」

 

 

 

 

 

 

―――お前はどうして、自分の幸せを願おうとしないんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「何がお前をそこまで追い詰めたかなんて知らん。何がお前をそこまで駆り立てたかなんて知らん。けどな、もうええんや。他の誰が何と言おうとしったこっちゃあらへん、そないな事は全部無視したらええ。俺が全部許したる、認めたる。せやからもう、許せや」

「…………」

「自分を―――『北郷一刀』を、許したれや」

 

 

握り締めた携帯電話が軋むのではないかという程に力を込めた手を振り、坂道を下って舗装された道路をひたすらに駆ける。

 

 

―――俺は、許されていいんだろうか。

――――――許す。

 

 

敷居の高い壁を横目に、フェンスを乗り越えて走り抜ける。

 

 

―――俺は、願っていいんだろうか。

――――――ええんや。

 

 

知っていた訳ではない。

ただ何かに導かれる様に、『そこ』へと辿りついた。

 

 

―――選び取ったその世界に、後悔しないのならば。

 

 

後悔なんて、ある筈がない。

爺ちゃんに喝を入れられて、母さんに励まされて……最高の親友に背中を押されて。

 

 

これで選べないなら、男じゃねぇ……!!

 

 

 

「そうだよな……ああ、そうだよな!」

 

 

 

世界を呑みこむ程に眩く輝くその中に。

俺は、手を伸ばした―――

 

        

 

踏み切りが降りて、甲高い音が警告を告げる。

その様を眺めながら、壁に背中を預けて空を眺めた。

 

 

「…………何や、すっかりぬるぬるになってしもたわ」

 

 

缶コーヒーを半分飲んで、うげぇと顔をしかめながら呟いた。

直ぐ隣の地面には、まるでそこに捧げる様に同じコーヒーが一つ、ポツンと置かれている。

 

 

「……ふぅ」

 

 

高校二年になって間もなく、北郷一刀が一月近く姿を消すという事件が発生した。

最後に目撃されたのが男子寮で、最後に接触したのが自分だと知った時、及川は絶望の崖っぷちにつま先立ちした様な気分を味わった。

 

彼の親友を自負していながら、その親友に何が起こったのかすら分からないという自分が、酷く情けない様に思えてしまったのだ。

 

 

「長い様で、短い様で……」

 

 

北郷一刀が再び姿を見せたのは、それから一月後。

だが彼はその間の一切を、何一つ語ろうとはしなかった。

 

何処にいっていたのか、何をしていたのか、そもそもどうやって一カ月も過ごしてきたのか。学園の制服にも、汚れの一つも見当たらなかったのが気になった。

 

 

だが、一刀は黙して何一つ語ろうとはしなかった。

否、語りたくなかったのかもしれない。

 

 

『…………華琳』

 

 

人が変わった様に勉学に、剣道に打ち込む仮面の下にあった素顔を及川は知った。

 

 

 

知って―――それで、自分に何が出来る?

 

 

「何や、思い返せばあっちゅう間やった気もするけど…………」

 

 

一刀が急に造詣を深め始めた古代中国―――取り分け三国時代に関する資料を共に探した事もあった。

好奇の目で近寄る不埒な輩から親友を守る為、得意の人脈とコネをフル活用した事もあった。

 

だが、そんなもので根本的な解決にはつながらない。つながる筈もない。

 

 

「それでも…………まぁ」

 

 

そんな折に見つけた、とある資料。

いや、資料というには余りにも推察論的な、まるで悪戯の様な情報。

 

三国時代の英傑、曹孟徳が治めていた地、陳留という街のあった場所の郊外から出土した石碑。

その石碑の片隅に、まるでメモ書きの様に残されていた文字が、当時の中国では使われている筈のない言語―――ひらがなを多用した、誰かへと当てられたと思しき一文を見た時、確信した。

 

 

『華琳……ッ、か、りん…………!』

 

 

あの日、親友の流した涙を、及川は今でも憶えている。

 

それは、科学的根拠の欠片もないただの憶測。

しかし、及川は科学よりも直感を信じた。

 

 

「楽しかったで、かずピー」

 

 

呑みほした缶コーヒーを、並べる様に地面に置く。

踏切の上がった道へ、及川は一歩を踏み出した。

 

友との決別を告げる様に、朝焼けの中を一匹の蝶が虚空へと踊った。

 

 

【後書きという名を借りた雰囲気ぶち壊しの蛇足的な何か】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長編の頃からの方はお久しぶりです。

未読の方はどうも初めましてです。

 

完結以来、次の作品について推敲(というか自分で自分にダメ出しの連打)を繰り返している内にいつの間にか四カ月近く……気が付いたら七夕だったという事で「じゃあ何か書こうか」と思い立ったが墓場への入り口…………!

 

 

ブ ラ ン ク が ひ ど い ! !

 

 

長編書いていた頃からは想像も出来ない程に話作りが出来なくなり、何とこれだけの短編書くのに三日もかかったという……! それなのにこのクオリティとか何これ怖い……!!

 

宇宙論とかなんだよ、オチはどうなったんだよ、というかこれ及川じゃなくてOIKAWAじゃねぇかよ!?そして鏡は一期のネタだろ!!

 

 

……そんな感じのツッコミ所を多々残しながら、しかし結局は「まぁ短編だし」とか考えて出す作者の愚か加減をどうぞ笑ってやって下さい。

 

 

 

で、長編の話になるのですが。

 

浮気性な作者はどうやら漸く【真・恋姫】でプロットの製作に取り掛かった様です。……とはいえ、中身のお粗末さ加減に頭を悩ませているとの事(いい気味だと自分でも思う)。

 

しかも魏√に関しては、先に完結した長編のリメイクともアフターとも取れる様な珍妙な代物を考えております(どう考えても地雷な予感しかしない)。

で、相も変わらずどの√でもオリキャラを多数出す予定とか……ね。ホントにもう何なのって感じですよ全く。

 

 

主題(というよりネタ)は最近の流行りが仮面ならいだーさんとの事ですので、それに反逆して彩豊かな戦隊的ひーろーさんで行こうかなと。

まぁ実際書くかどうかは正直微妙なのですが。

 

ネタをこつこつ温めつつ、いつか日の目を見て皆様方の御目に触れる機会がもしかしたら訪れるかもしれません。

その時はどうぞ、鼻で笑いながら生温かい目で見てやって下さい。

 

それでは、長々と失礼致しました。

 

                                     茶々


 
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