真・恋姫無双 二次創作小説 明命√ 第百十六話
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-
~ 闇夜に舞う月は、地を這う雛をも照らし、全てを飲み込んで微笑む ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、太鼓、
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
月(董卓)視点:
荷車の中から目的の物を箱や麻袋から取出し、脇に置いておいた籠の中へいれ。 最後に取り忘れが無いかを確認してから、止まっている荷車から降りる。
そこに兵達が運び出す物資や食料の監督をしていた馬謖ちゃんが、手に竹簡と筆を持ちながら声を掛けてくる。
「あれ、それだけで良いのですか?」
「ええ、それほど量は作るつもりはありませんし、大切な食材を無駄にするわけにはいきませんから」
「月さんが作るのならそんな心配いらないと思うんだけどなぁ」
「ふふ。もし美味くできたら、少しだけ持ってきますね」
「やたっ」
私の言葉に満足したのか、馬謖ちゃんは自分のお仕事に戻り。
「其処のチビにデブにオッサンっ! 一袋多いのです。 まとめて持っていきたい気持ちは分かるのですが、数が合わなくなるので駄目なのです」
明るく元気な馬謖ちゃんの叱責の声を背景に、私はゆっくりと歩みながらその場を後にします。
私の手に持つ籠の中に在るのは幾つかの食材。 その目的は当然の事ながら夕食を作るための物です。 量としては、ほんの数人分程度の物ですけど、幾ら孫呉からの援助を受けられるようになったと言っても、今の私達からしたらとても贅沢な内容。
桃香さまも、愛紗さんも一般兵と同じものを食べている時に、私と詠ちゃんそして朱里ちゃんと雛里ちゃんの四人だけが皆より少しだけ贅沢な物を食べている。
本当は心苦しいですが、これも桃香さまや星さんが幾つかの理由を見つけて頼まれた事。
一つは孫呉から受けた物資の中には、変わった食材や調味料が多々あり。調理に携わる人達でも初めて見る物が多いのです。むろん送られた物資は基本的に保存が効く物ばかりなのですが、問題なのはそれらの殆どが天の知識で齎されたもので、孫呉の兵士達の間でも、その調理方法はまだ少ないそうです。
孫呉が私達に送ってくださった物資。それは量こそあるものの実験的な側面が含まれていました。
長期の運搬に耐えられるか。食べた者達の健康状態や反応。そして味や充実感など様々な意味で記録を取っているのを知っています。
でもそれは仕方ない事です。こうして食べられるだけ感謝をしなければいけません。
それに悪く思わずに前向きにとれば、新しい保存食を逸早く取り込む事が出来ると言う事です。
ただ、やはり贅沢な事を言っている場合ではないとはいえ、毎回違った味を食べたいと思うのが人間の心理です。 ですから人より少しでも早く慣れて、その調理方法を皆に広げる事。それが私が桃香さま達に頼まれた建て前の理由です。
本当の理由は毎日完全に日が暮れてから、ボロボロになって帰ってくる朱里ちゃんと雛里ちゃんのためにです。
お二人が、北郷さんの所の兵士さん達を使った訓練に参加するようになって七日が経ちます。
最初の日、遠くで聞こえていた訓練の音が夕暮れ前には聞こえなくなっていたと言うのに、完全に陽が落ちてかなりの時間が経った頃になって、やっと帰って来たお二人姿に私達は何も言えなかった。
『はははっ。……さすがに少し疲れたので、すみませんが今日はもう休ませてもらいます』
『……すみません。急用な案件が無い限り、報告は明日の朝にしてもらえると助かります』
お二人とも笑顔だった。
充実した時間だったと証明するかのように笑顔でした。
……でもその目は真っ赤だった。
……目下が赤く腫れていた。
固まった作り物の笑顔のまま、自分の天幕に戻るお二人を『おやすみなさい』と渇いた声で見送る事しかできなかった私達の沈黙を破ったのは。
「待って愛紗ちゃん!」
「止めないでください桃香様っ!」
己が武器を片手に持ち、天幕を飛び出そうとする愛紗さんを止める桃香さまの声でした。
「二人は何も言わなかった。 それが答えだよ」
「ですが、二人があれだけ泣き腫らした顔を私は見た事がありませんっ! きっとあの男がっ!」
「まだ、そうと決まったわけじゃないよ」
「そうに決まっています。 大体訓練はとっくに終わっているはずなのに、こんなに遅くなったのが何よりの証ではありませんかっ。 くっ、やはりあの時断固として断っておけばっ」
敵わないと分かっていながらも、北郷さんを力づくででも問い詰めるために飛び出そうとする愛紗さんを、必死に止める桃香さま。
信じきれない者と信じようとする者。これが二人の決定的な違いであり強さの質の違い。 そして、これが愛紗さんの弱さ。
あの人は詠ちゃんの言うとおり、こう言う所でも私達を鍛えているのだと頭の片隅で思ってしまいます。
その事が、二人の様子を黙ってつまらない出来事のように眺めている詠ちゃんを見ていても窺えます。
「まったく何を騒いでいるかと思いきや。 おぬしら外にまで丸聞こえだぞ」
其処へ星さんが態とらしく溜息を吐きながら天幕に入ってきます。
そして天幕での雰囲気などまるでお構いなしに、自由気ままに地面に腰を下ろすなり、腰にぶら下げていた小さな瓢箪から酒を杯に注ぎます。
そんな星さんの周りの空気を無視する態度に、苛立った愛紗さんが。
「星っ、今まで何処に行っていたのだっ!」
「なに、ちょっと野暮用でな。 調練をサボった事については…………ほれ、この通り一応謝っておこう」
ちょこんと杯を上げながら小さく頭を下げるものの。少しも謝罪の意を感じない謝意に、愛紗さんはますます語彙を荒げ。
「貴様が何の用をしていたかは知らんが、その間に朱里達が・」
「女にしてもらったとか言うつもりならば、それは些かあの御仁を過小評価しておるぞ」
「巫山戯他事を言っている場合かっ! お前はあの二人の泣き腫らした顔を見ていないからそのような事を言えるっ!」
「………訂正しよう。 愛紗よ。おぬしは朱里と雛里をも過小評価している」
「なっ!」
「聞くが、あの二人はおぬし達にその涙を見せたのか? 泣き言を一つでも洩らしたのか?」
「そ、それは・」
「二人があのような顔になるまで泣き腫らしたのは、己が無力を徹底的に思い知らされたからであって、あの御仁には何の責は無い。
そして、それを少しも我等に見せようとしないのは、あの二人の決意と心の強さの表れと言う物。
ならば、それを温かく見守って見せるのが、良い姉貴分と言えるのではないか?」
「星、お前の言う野暮用と言うのは……」
「私とてあの二人を心配はしている。 例えその人となりをそれなりに知り、噂は噂でしかないと分かってはいようともな」
そう言って星さんが語ったのは、気配を消して窺っていたと言う二人の訓練内容。
あの人の隊を古参兵と加えたばかりと言う新兵に分けての簡単な演習。だけどそれは武術鍛錬を兼ねた実践的な物で、その中でお二人は古参兵の部隊を指揮をしたそうです。
でも此処までならばごく普通の演習と言ってもいいです。
違うのは、伝令兵をごく少数の決まった人数しか使う事が許されない事と。
「無視だと?」
「ああ、声の小さなものや聞き取りにくいもの。そして分かりにくいと思われた指示は徹底的に無視される」
「それでは演習にはならぬではないか」
「その通りだ。幾ら兵の質が大きく異なっているとはいえ、それでは陣形を取る事はおろか、攻める事も防衛する事も出来ずに苦戦。……いや結果的に言えば古参兵が新兵に打ちのめされていた」
「そんな調練など百害あって一利なしではないかっ」
「それでも武術や戦闘手段としての鍛錬にはなっているし、策や指示の重要性と言う物を兵達に身をもって知らしめる事にもなる。………だが」
「一歩間違えれば軍師の言う事など聞かなくなる兵士を作りかねない」
「その通りだ。 この訓練はあの部隊にとって、余程の信頼関係が築いていない限り害悪とさえ言えよう。 そして一番の問題は」
演習の後に聞かされる演習内容の詳細な報告結果。
どの場面でどれだけの被害が双方に出てしまい。どれだけの兵を死に追いやったかを冷たく、そして実質的で重みのある言葉で知らされるといったものでした。
むろん訓練ですので実際に死人が出る訳では無く。攻撃を受けたと判断したら武器を捨てて地面に伏すと言う死者も出ず。怪我人も殆ど出ていない演習。
ですが、あのお二人にとって、それは関係ない現実の戦と何ら変わりない事実なのです。
自分達の声が届かないばかりに、味方を死なせ。
指示が分かり難くかったばかりに、どれだけの味方を無駄死に追いやり。
自分達の弱点を補っていた手段が無くなっただけで、圧倒的有利であるはずの精鋭部隊を率いていても、新兵を脱したばかりの部隊に蹂躙されてしまう事実を。
自分達を惨めな敗残兵とした軍師を見る目と共に、冷たい現実でもって打ちのめされたそうです。
「正直、たったあれだけの条件が加わっただけで、ああも差が出るとは私も思わなかった。
………これは我等が二人の才を信じるあまりに、二人を大切にし過ぎてきた結果で我等の責と言える」
「まてっ。二人は一生懸命やっていた。 政務に諜報部のまとめ。 更に短いとはいえ調練にも顔を出していた。それこそ寝る間を惜しんで二人は・」
「そんな事は私とて承知している。 だが二人の能力と出してきた結果に目が行き、大切な問題から目を逸らしてきたのは紛れもない事実だ」
「うっ。………星の言いたい事は分かる。
だが二人はまだ子供と言ってもいい程の年だ。あれ以上の負担を駆ける訳にはいかなかったのも事実だ」
「愛紗よ。お主がそれを言うか? 二人より幼い鈴々を戦場に駆り出したお主が」
「ぐっ……」
「実際の年齢はどうあれ。将としている以上、必要以上に甘やかす訳にはいかないと言うのは、確かお主の言ではなかったか?」
「…………」
「まぁ、それは私も同じ事。 人の事を言えた義理ではないがな」
「……星」
星さんの言葉に、言葉を飲み込むしかできなくなった愛紗さんを、星さんは自分にも非があり、背負うべき責は自分にもあると述べた顔には……自嘲じみた笑みなのに何処か爽やかな笑みを浮かべ、愛紗さんが必要以上に落ち込むのを押しとどめます。
そして僅かな静かな時間が天幕の中を支配した後、星さんは本当に優しい笑みを浮かべ。
「今は喜ぼうではないか、其処までされて心が折れないまでに育った二人の成長を」
「……そうだな。 喜ぶべき事かもしれん」
そう言って手にした杯を軽く上に上げた後、杯をゆっくりと静かに傾けます。
本当に美味しそうに…。
二人の成長を心から喜んで…。
二人がこの試練を乗り越えると信じて…。
欠片もその事に疑いもせずに…。
自分達も変わらなければいけないと、言葉にする事無く決意を決めます。
口の端から僅かに毀れた酒の一滴が、炎の明かりを受けて、まるで星の輝きの様に煌めくのが私の目に映りました。
「それにしても、あの御仁は変わっている」
「星にもそう映ったか」
「誰がどう見てもそう映るであろう」
星さんの一献を受けて、それぞれが湯呑に一杯だけの小さな小さな酒宴と化した場で、星さんは楽しげにあの人の事を語ります。愛紗さんもその意見に賛同し話が進みます。
それにしても随分と変わったお酒です。お酒としては弱いのですが、とても清んでいて、まるで水のように飲みやすいのに、芳醇な香りと共に広がるほのかな甘みのある味わいが、ゆっくりと身体に染み込んでくる。
よく物語で仙郷にあると言うお酒の滝の話が出てきますが。もしかしたら、こういうお酒なのかもしれません。
まるで清流に流れる水をお酒にした。 そう言えるほどこのお酒は清んでいて味わい深い。
それにしても、星さんはこんなお酒をいったいどこから?
「あれだけの舞いと武を見せておいて、平凡な市位の民のように振る舞い。
底抜けのような優しさの持ち主かと思いきや、朱里達に平気であのような試練を課す。
だと言うのに、その事実に少しでも触れれば納得できてしまうどころか、信じさせられてしまう」
「星の言い方ではまるでペテン師のように聞こえるぞ」
「はははっ。愛紗よそれは良い得て妙だな。 ただ違うのは、相手に損をさせないと言う所かもしれんな
何せ、今日も私が気配を消して潜り込んていたのを、しっかりと気取られていたようでな。帰りに周泰殿がこっそりと近寄ってきてこのように土産をくれた」
「ぶっ。こんな良い酒をどこに隠し持ってきたと思ったら。星、貴様まさか買収されたわけではあるまいな」
「馬鹿を言え。 これは二人を心配する我等にと言って送られたのだ。 そうでなければこれ程の酒だ。私が秘蔵して、こっそり月夜を肴に飲むに決まっておろう」
星さんが、心外な事を言うなとばかりな口調で、愛紗さんを軽く挑発します。
それにしても、堂々と独り占めをすると発言をし、それが真実だと分かるのに、これが少しも嫌味になったりしないのが、星さんの不思議な所です。
愛紗さんと仲睦まじく喧嘩をしている傍らで、詠ちゃんと白蓮さんは、
「まったく、詠の言うとおりになったな」
「別に全くその通りと言う訳じゃないわよ。 ボクだってあんな方法をアイツがやるだなんて想像してなかったもの」
「だが、調練の方針は変えなくて済むのは確かだろ。ならば許容範囲と言う事じゃないか。………だが、本当にあんな方法で良いのか?」
「今はいいのよ。 残された時間で最も効率が良く。あの二人でも自在に動く部隊を作る事が優先。
なら、後はあの二人とボクが、幾らでも策を考えてあげるわ」
「自信満々だな。……と言いたいけど、言うだけの事はあるから、私としては何も言えないか」
「ああ、それとアンタにもう一つ頼みたい事があるんだけど」
耳元に口を近づけた詠ちゃんに白蓮さんは、
「それは出来るが本気か? 大体う・」
「しっ! まだ内緒にしてて。 それとその心配はボクが何とかする」
「……ああ、分かった」
そんな事があり。皆さんあれからあの人を疑う事無く受け入れるようになってきました。
天の御遣いの名に相応しい程の智勇に長け、勇猛果敢な武勇を持ち、聖徳に溢れた人物と勘違いしたままに……。
そう、勘違い。
あの人はそんな耳辺りの良い人間ではありません。
知っている。
ほんの少しだけど。
あの人が、本当はどんな人か。
洛陽で連合軍に負け。
皆、散り散りになり。
落ち込む間もなく敗軍の将としての覚悟を決めなくなったあの晩。
私は知ってしまった。
詠ちゃんの安心してと言う言葉を信じて、あの人と同じ部屋に寝るのを黙って受け入れたけど、私の心はお父様以外の男性と同じ部屋に寝ると言う初めての出来事に高ぶっていました。
それにお父様との事にしたって、本当に私が幼い時の事。もしかして詠ちゃんは、この人に私を………へぅ~………そりゃ確かにいつかは誰かとそう言う事を受け入れないとは思うけど、今夜いきなりだなんて…でも昼間見せた温かな笑顔とその影にある優しさは……ちょっとだけ素敵だったかな。
でも、やっぱりきちんとお付き合いしてからの方が、と頭の中が同じところをグルグル回り、恥ずかしさのあまりに激しく打つ胸の音が、詠ちゃんに聞こえないように静かに寝息を立てるふりをしていました。
正直、今思えば赤面するほどの恥ずかしい事を、色々考えてしまっていました。そして私の心配していたような事は一向に起きる様子はなく、精神的な疲労もあって、いつの間にか本当に寝てしまいました。
それでもそれはほんの少しだけの間で浅い眠りだったのでしょう。 私は詠ちゃんが体を起こす気配に目が覚めてしまいます。
そして聞いてしまったんです。
あの人が魘されている声を。
小さく。本当に僅かだけど、確かに苦しむ声を。
『……手を握ったくらいで落ち着き始めるだなんてアンタは子供か。 ……まったく世話が焼けるわ』
そして見てしまった。
苦しげに歯をかみしめながら……。
顔を苦悶の表情で歪ませながら……。
悪夢に……、ううん、何かに怯え。恐怖しながら涙を流して眠るあの人の姿を。
『あんた男でしょ。 無理を通すって決めたのなら、しっかりと歩んでみなさいよ』
だから理解してしまった。
詠ちゃんがそんなあの人の手を、優しく握って安心させる姿に。
小さな声で厳しい口調なのに、それでも優しげにあの人の背中を押すような言葉に。
今、あの人がこの部屋で休んでいるのは、私が心配しているような事ではなく。
私と詠ちゃんを助けてくれると言うあの人が、私達の存在と言う助けを本当に必要としていたから……。
『守りたい人がいるんでしょ。 夢を叶えさせたい人がいるんでしょ。
そんな様じゃ、周りがどれだけ心配してもし足りなくなっちゃうでしょが』
私の真名と同じ名の月の光が、闇の中を淡く照らしだす詠ちゃんの顔に、私は胸が締め付けられました。
あそこにいるのは私を守り、自分の全てを犠牲にしてでも、私を導いてくれてきた賈文和ではなく。私と両親以外の人間に初めて見せる詠ちゃんと言う名の私の大好きな親友の姿。
でも其処にあるのは私の知らない姿。
呆れたような顔をしながらも、温かさと優しさを感じる表情。
寂しげなのに、自愛が満ちた眼差し。
そもそも男の人の手をあんなに優しく握っている姿なんて、普段の詠ちゃんからしたら考えられない光景。
『もう大丈夫そうね。 い~い。今夜は特別。次に魘されても今度は放っておくから、ボクは知らないわよ。
それとアンタも軍師の端くれなら、自分の弱点は絶対に隠し通しなさいっての。
………寝ている相手にボクったら何言ってるんだろ』
私の知らなかった詠ちゃんを引き出したあの人は、ただの凄い人の訳がない。
智勇溢れる霞さんが、敵でありながらもあっさりと信用できる人なんだって。
人を能力なんかだけでは決して見ないあの詠ちゃんが、あそこまで出来る人なんだって。
ただの優しいだけの人ではなく。悲しみや苦しみから、目を逸らすさずに見つめられる人なんだって事が。
それが、あの人の本当の強さであり魅力の一つなんだって事が………。
同時に致命的なまでの弱点となりえる物なんだって事が……。
言葉に表しきれない多くの事が、詠ちゃんを通して分かる。
そして詠ちゃんがあの人に無自覚なまま惹かれている事も。
だから私は、あの晩の事は何も知らないし、見ていない事にした。
詠ちゃんにも決して、私が知っている事を知られちゃいけないと思った。
余人が入り込んではいけない事なんだって分かるから。
決定的な何かを知らずに、想像程度でしか知る事の出来ない人間が触れてはいけない事。
少なくても詠ちゃんが私にも秘密にしている事を、迂闊に言葉や態度にして良い事ではありません。
そんな事があったからだと思う。 たった三日だったけど、あの人が朱里ちゃんの思っている唯の凄い人じゃないって頭より先に心が理解できた。 ううん、多分心の方は最初から理解していたと思う。 初めて会った時、あの人が警戒する私達を少しでも安心してもらおうと、話を聞いてもらおうと、必死にあの温かな笑顔を浮かべたあの時から……。
あれから桃香さまの所にお世話になるようになってから聞いたあの人の噂の数々。
その中でも会議に上がるほど問題になったのが、孫呉の独立の時の噂。
天意に逆らう悪官に組する者達は、人としての死さえも与えない非情所業な噂。
捕えた怨敵の二人を自分の屋敷に住まわしてその純潔を奪い。己が欲望のままにするだけでは飽き足らず。 嘗てその地で最高位であり統治者であった二人を侍女として所有する事で、その存在を地の底へと貶める。
それが敢えて広めた噂だと言う事は、私にはすぐに分かった。
だって、あれだけ苦しみながらも涙を忘れないあの人が、そんな非情な事をする訳ないって。したとしても何かしらの思惑や理由があるからだって信じられた。 捕えた敵領主とその側近の事も、私と詠ちゃんの時と同じなんだって無条件で信じられる。
だから、あの時の愛紗さんの言葉を信じたくなかった。頭では仕方ない事だって理解していても、あの人に対する暴言を取り消してほしいと叫びたくなった。
なにより詠ちゃんが泣いていました。
無機質な表情を浮かべ。
興味が無いと言わんばかりの気怠さ見せていたけど。
詠ちゃんは心の中で確かに泣いていた。
自分が泣いている事にも気が付かずに泣いていた。
その事に気がついたら我慢できなかった。
気がつけば、愛紗さんの頬をおもいっきり叩いていた。
驚く愛紗さんの瞳を、私の視線で射抜く程に強く睨みつけていた。
その後は、心が急速に冷えるのを感じながらも、吹き上がってくる黒い感情と悲しみを必死に理性で抑え。
私は愛紗さんに、…そしてその場に居た皆に訴えた。
故国で、私について来てくれる将兵に民のために死を命ずる時の程の想いと覚悟が湧き上がり、自然と私を侍女の月から太守であり将であった董卓へと変えて。
『私達の命の恩人を、信じる人を、それ以上侮辱するのは例え恩義ある貴女方と言えども許しませんっ』
浮かび上がる感情の殆どを隠して、愛紗さん達にとって耳辺りが良く。かつ心の奥まで染み渡る言葉でもってあの人の事を隠し通した。
此処で必要なのはあの人の事を訴える事ではなく。 あの人を信じる詠ちゃんの心を深く傷つけた事。よく知りもしない人間の事を事象だけを捉えて、話も途中で悪し様に言う行為を苦言する事。
愛紗さんの放った言葉は、愛紗さんの持つ正義感から出た言葉である事は分かっています。誤解される事も多いですが、桃香さまを始めとする多くの仲間を護りたいと言う責任感からきている事は十分に分かっています。……その中に私や詠ちゃんが含まれている事も。
それでも譲れないものがあります。譲れない想いがあります。
理ではなく、貫くと決めた信念のように。
理屈や利潤を無視した想いは確かにあるんです。
それは地位も国も失った私が、彼女達に上に立つ者として見せれる事の出来る数少ない教え。
聡明な愛紗さんなら、これで分かってくれるはず。
此れから何度も同じような過ちを犯すでしょうけど、その度にきっと愛紗さんは成長していくはず。
そんな事が幾度かありました。
それくらい天の御遣いとしているあの人の周りには、多くの噂や推測がまとわりついてしまう。
でも幾ら噂があろうとも、あの人の本当の姿をほんの少しだけでも知っている私と詠ちゃんは揺れなかった。 ううん、詠ちゃんはほんの少しだけ揺れてしまう。
その原因が分かっていないから。
不安になってしまう原因を自覚できていないから、ほんの少しだけ揺れてしまう事もあった。
だからその都度、私は少しだけ詠ちゃんの背中を押す。
今迄、詠ちゃんや皆に守られてきたばかりだった。
太守としての重責も。
押し寄せてくる騎馬民族の侵略も。
それもこれも私一人だったら何もできなかった事。
だから今度は私が守る。
詠ちゃんの心と想いを。
まだ気が付いていない。
……ううん。きっと少しずつ育っている詠ちゃんの大切な想いを。
それが今の私の願い。
董卓としてではなく、ただの月としての一番の願い。
こんなに可愛いのに、それを自覚していない詠ちゃんを優しく見守る事。
詠ちゃんが、どう決断するかは詠ちゃんが決めなければいけない事。
だから私が出来る事は、詠ちゃんの想いを守る事。…そして優しく背中を押す事だけ。
味わった事の無い感情に振り回され、まるで闇夜を歩く詠ちゃんを、そっと月明りで導くように……。
その足を進めるのは、詠ちゃん自身の意思でないといけないと思うから。
でも、ちょっとだけ悔しいです。
洛陽で詠ちゃんが慣れない針仕事で指に深く針を刺した時に、あの人がその傷口を消毒するために指を取って、傷口を舐められて恥ずかしさのあまりに固まってしまう詠ちゃん。
そのあと治療が終わった頃に我に戻った詠ちゃんが、恥ずかしさを誤魔化す様に今迄聞いた事も無い程乱暴な言葉で文句を言いながら、その辺りの物を投げつける詠ちゃん。
結局手先の不器用な詠ちゃんの代わりに、あの人が仕上げた服を着て、頬を赤く染める詠ちゃん。
着てみた服を可愛いと誉められて、今度は耳まで真っ赤にして、照れ隠しにした事もない蹴りを一生懸命する詠ちゃん。
その後であの人がいないところで、何であんな乱暴なことをしちゃったんだろうと自己嫌悪に陥る詠ちゃん
あの人の前でいつも以上に強がって見たり。
逆に、いつもはしないような行動や失敗をしてしまったり。
ふとあの人の事を思い浮かべて、慌てて手を振って考えを振り払ったり。
たくさん沢山想い悩んでいるのに、それでも真っ直ぐに歩もうと頑張る詠ちゃん。
私の知らない詠ちゃんを、あんなに引き出す事が出来るあの人に、ちょっとだけ嫉妬しちゃいます。
「あっいけない」
考え事をしていたせいで、湯が吹き上がらせてしまう所でした。
薪を簡易の竈から少しだけ出して火の調節をします。
鍋の中に在るのは、油で揚げて乾燥させた麺を湯で戻して、湯通しで余分な脂抜きをしてから別の鍋に入れて煮込んだもの。
孫呉から伝わってきた調理法では、麺を戻した湯で味噌と呼ばれる大豆を発酵させた物に、いろいろ混ぜ込んだ醤を溶かし込んでそのまま煮込むのですが、それではどうしても油臭くなってしまいます。
むろん、伝わえられた調理方法は行軍時や旅の時用の物ですので、其処まで求める方が間違っていますし、この味噌と言うのが十二分にその油臭さを消す役割を果たしています。 ですが、贅沢に水を使う事が出来ればもっと美味しくなるのは事実です。
そして味噌は何時もの半分以下にして、漬けた野菜とその漬け汁を一緒に煮込む事で酸味を出し、後味の良い味にしてみました。
これと干し肉を幾らかの香草と共に葉っぱに包んで、更に粘土で包み込んだものが簡易の竈の下に埋めてあるので、ちょうど良い蒸し焼き加減になっていると思います。
「何か私にご用でしょうか?」
微かに聞こえた足音に私は静かにゆっくりと振り向き、声を紡ぎだします。
足音が聞こえたのはその時だけ。それまでは一切聞こえなかったし、気配すら感じませんでした。
聞こえないはずの音が聞こえ、感じる事の出来なかった気配を感じる。……その理由は考えるまでもなく相手に知らせる為。
其処には燃えさかる炎のような鮮やかな赤い色の髪。 だけど女性特有の色艶のある髪は、竈の炎に薄っすらと照らされ輝いて見える。
長い髪を左右で二つに縛った所を飾り布で装飾した私と同じくらい年齢の女性。 ですが私と違って女性らしい体格の身体を、孫呉の軽鎧の下に隠し。 無表情な顔で私を見つめていた女性は、やがて小さく息を吐きだしながら緊張をほぐし、薄っすらと優しく目元に笑みを浮かべ。
「驚くどころかその落着き様。……隊長が用事を申し付けるくらいですから、ただの侍女じゃないとは思ったけど、私の相手は貴女で良いのよね?」
尋ねるような口調でありながらも、その態度は明らかに確信しているもの。
その無害を装った歳相応に見せた表情の中でその瞳に浮かべるのは、相手を見定めようとする光。
敵なのか、味方なのか、それとも………、
「試すのも、試されるのは好きではありません。
貴方の主である北郷さんからの事付けをお云いなさい」
そんなものに付き合う気はないとばかりに、私は数か月ぶりの言葉遣いと態度を取ります。
北方からの異民族の侵攻から天水の領土と民を守っていた頃の私に。
華やかだけど腐敗と悪意に満ちた宮殿に居た頃のあの時の私に。
「失礼いたしました。隊長より此れを預かってきました」
私の態度に驚愕する事無く、むしろ満足げな微笑みを浮かべ、片膝を地面について敵意のない事を示しながら、後ろに持っていた物を私に差し出す。
その時の両手はあくまで真っ直ぐと伸ばしきった状態。
攻撃する事も、防ぐ事も一動作余分に必要とする姿勢。
短い遣り取りの中で、相手を目上の人間と認めた彼女の目と潔い態度に感心するも、今の自分の立場を考えれば苦笑しか浮かびません。
おそらくこれだけ聡明な彼女ですから、私の浮かべた苦笑の意味も理解しているはず。 それでも彼女は態度を一切崩すことなく私の答えを静かに待っている。
そんな彼女に私は視線でもって中身を促します。
「御菓子の類だそうです。 量は少ないけど、甘いものは疲れた心と身体を癒す手助けになるとの事です。
それとこれは、これの調理方法との事です」
そうして包みを解くと共に漂ってくるのは、小麦を焼いた独特の甘い香りに混じって漂う微かな甘い香り。
一緒に出された竹簡には、麦や芋から作り出したと言う飴を元にしたお菓子の調理法が掛かれていました。
ただ予想外だったのが、この事は内緒にしてほしいと言うあの人からの伝言でした。
このお菓子も調理方法も、私が用意した事にしておいてほしいとの事でした。
その理由については、目の前の女性は語ってくれませんでした。
でも、何となく分かります。
二人への気遣いであり、私と詠ちゃんを利用していると言うあの人が今できる精一杯の誠意。
分かっていて、そう言う事にしてくれているあの人の優しさ。
今はせめて感謝の言葉だけでも返そうと思い。
「宜しければお名前を教えてもらえないでしょうか」
「北郷隊。副隊長、朱然」
帰って来た言葉に、小さく息をのむ。
あの人にとって信頼ある人なのだと思っていましたが、右腕となるべき人間とは思っていませんでした。
それだけの人間を使いに寄越すと言う事は、それだけあの人が私達に気を使っている証とさえ言えます。
ならば、そんな事に驚いている時ではなく態度を示すとき。
「あの方にお伝えください。 百の礼と千の謝意をもってでしか、貴方様にお返する事しかできない今の私をお許しくださいと」
「確かに承りました」
「それと朱然さん。故あって名を名乗る事はできない事をお許しください」
「いえ、隊長が信じておられる方。 それだけで私には十分です」
彼女はそう言い残すと、再び夜の闇にその姿も気配も溶け込ますかのように消え去ります。
後に残されたのは、まだ温もりの残っているあの人からのお菓子の入った包みと其処から香る微かな甘い香りと……、あの人がやっぱり私達の知っているあの人だと、心の中で温かい何かが安堵感と共に広がって行きます。
包みの中をよく見れば、四人分のお菓子が飾り布に包まれて小さく収まっています。
その中の一つを少しだけとって口の中に入れると、小麦の焼いたほのかな甘みと香りと共に、糖蜜や蜂蜜とは違った優しい自然の甘さが広がり、体の中に沁み渡って行きます。それがもの凄く嬉しかった。
御菓子の甘さにではありません。
あの人ならもっと甘いものも用意できたと思います。
だけど用意されたお菓子は、甘みを感じる程度の物。
あの人の課した訓練を受けている二人のために。
あの人の進まんとする道の手助けをしようと、身体を張って劉備軍を鍛えなおしている詠ちゃんのために。
気を張り続け、心も身体も疲れ切っている三人の身体に、一番自然と浸み込む御菓子を選んだあの人の心遣いが嬉しかったです。
私の分は三人のついでです。なら私の分の幾らかは、後で馬良ちゃんと馬謖ちゃんの姉妹に持って行ってあげましょう。
他の皆さんには、明日私がさっそく挑戦してみようと思います。
此処まで美味しくできる自信はないですけど、挑戦しようと思う。
そう言えば、もし孫策さんが袁術さんの配下に居なかったら、きっと袁術さんと張勲さんの位置に私と詠ちゃんがいたんだと思う。
きっとそうなら詠ちゃんは……うん、きっとあの人に素直になれないままに文句言いながらも、一生懸命侍女のお仕事をしていたと思う。 だって詠ちゃんですもの。そうに決まっています。
自分の気持ちと可愛さに気が付かないまま、顔を真っ赤にして自分の中で膨らんでゆく気気持ちに戸惑いながら、どんどんあの人に惹かれて行くんだと思う。
私はそんな詠ちゃんを、見守りながら今のように料理のお勉強をしていたかもしれない。
皆にせめて少しでも美味しいものを食べてもらいたくて。それで少しでも笑顔になってくれたならと。
でもきっとあの人の作るものには敵わないんでしょうね。 あっ、それならあの人に料理を教わると言う事もあったのかもしれない。
其処まで想像を膨らました時、ふと気が付いてしまう。
もしそうだったとしたら、あの人が私と詠ちゃんの主と言う事になっていたかもしれない事に。
と言う事はあの人を別の呼び方で呼んでいたかもしれない。
「ご、御主人さ…ま?」
つい小さく毀れ出てしまった自分の言葉に、頭が真っ白になる。
体の奥底から吹き上がってくる気恥ずかしさに、顔どころか頭の中がどうしようもなく熱くなります。
お、男の人を例え頭の中だけとはいえ、そんなふうに呼んでしまい。
それが少しも嫌ではなく。むしろ温かなモノに包むきまれるような感じがした事に気が付き、余計に私の頭を混乱させ、ますます想像が暴走してしまいます。
詠ちゃんがあの人の事で赤くなる場面を自分に置き換えてしまったりと、もう頭の中に浮かんだ事が恥ずかしくて、…どうしようもなくて、…頭の中が沸騰してしまいそうです。
「………へぅ……私ったら、はしたない想像を…。
そ、それに、あの人は詠ちゃんの・」
「どうしたのよ月。そんな手を振り回して? もしかして、舞いの稽古とか言わないわよね?」
「へぅっ!」
不意に後ろからかけられる言葉に、私は今度こそ心の臓が飛び上るほど驚いてしまう。
よりにもよって、あんな場面を詠ちゃんに見られた?
背中を伝う冷たい汗をしっかりと感じ取る私に詠ちゃんは、
「もう、その口癖止めなさいよね。子供っぽいから」
「…へぅ、ぁっ」
「はぁ………、まぁ治らないから口癖と言うんでしょうけど。 それと月、ただいま」
「おかえりなさい詠ちゃん。今日も遅くまでお疲れ様です」
「ん。まぁボクに掛かれば調練の一つや二つって言いたいけど、さすがに時間が無いから全神経を使い続けって言うのは疲れるわ」
言葉通りに疲れ切った心と身体を休ませるように地面に腰を落として座る詠ちゃんの姿に、私は安堵の息を小さく吐きます。
良かった。どうやら詠ちゃんには恥ずかしい姿しか知られていないようです。 それに考えてみれば、零れ出たあの言葉は本当に小さなものだし。流石の詠ちゃんも心まで読めるわけでは無いので、私の取り越し苦労だと思います。
「ねぇ、詠ちゃん」
「駄目よ」
「私、まだ何も言ってないんだけど」
「言わなくたって、そんな顔されたら分かるわよ」
「でも…、今は一人でも兵士さんを指揮できる人がいた方が良いのは確かだよ」
「そうね。でも月だけは駄目なの。
確かに将が一人でも多いに越した事はないけど、率いる兵士が少ないから、どうしても必要と言う訳じゃないわ。それに月の名前を、今、劉備軍の中から出す訳にはいかないの。出すのならもう少し後よ。月の気持ちは嬉しいけど分かってちょうだい」
「………うん」
望んでもいないのに、有名になりすぎてしまった私の名前。
それ故に今私の名を世間に出してしまえば、旧臣や慕ってくれる将兵を呼び寄せる以上に敵を作ってしまう。 出すためにはそれなりの準備が必要で、今はその時ではないと詠ちゃんは言います。
悔しい……。今度は私が詠ちゃんを守ると決めたのに、結局私は董卓としては何もできず。此処に居るのは唯の侍女である月でしかないだなんて。
そんな私を気遣ってか詠ちゃんは。
「大丈夫よ。みんな優秀な将だもの。 それに白蓮も頑張ってくれているわ」
「詠ちゃん。…無理してない?」
「くすっ。 月~、ボクをなんだって思っているのよ。 大丈夫よこれくらい無理でも何でもないわ。
それに白蓮が頑張ってくれているのは本当よ。 流石、白馬長子の名は伊達じゃないわ。 優秀な人材を作るのは他の皆には及ばないけど、そこそこ優秀な人材を作る事と、優秀な兵士を作るのは皆より上ね」
「詠ちゃんよりも?」
「そうね。その一点だけに関しては上かもしれないわ。
凡人にしか分からない悩み、と言うのを彼女は良く理解しているもの。
アレはそういう意味では、もの凄い武器になるわ。
問題なのは彼女自身が、その事を分かっていないと言う事ね」
本当に面白そうに話す詠ちゃん。
焚火の火に照らされた表情は、疲労の中にも確かに充実したものを感じられます。
心地よい疲労。そう私の目に映ります。
嬉しいのだと思います。
再び軍師として自分の才能を役に立てれる事が。
才ある人間を育てる事が出来る事が。
なにより、それがあの人に恩を返す事になる……ううん、違う。
きっとあの人の役に立てる事が嬉しいんだと思います。
それくらい今の詠ちゃんは、輝いています。
「……ねぇ、詠ちゃん。もし詠ちゃんさえよければ孫・」
「ただいま帰りました」
「……ただいまです。 あの…何時もありがとうございます」
詠ちゃんの目を真っ直ぐ見て話している最中に、待っていた二人の声が聞こえます。
なら、今はその時ではないと言う事でしょう。
私は天の采配に諦めにも似た溜息をこっそり吐いて、二人を迎えるために身体を向けます。
それまでの短い間でも、朱里ちゃんの疲労の声の中にも感じ取れる力強い響きに、どうやら今日は何かを掴めたのだと窺う事が出来ました。
なら、いつも以上に笑顔で迎えよう。
二人の訓練の成果に。
少しでも疲れを癒せるように。
今日と言う日が、少しでも良き日であると思えるように。
「おかえりなさい。 朱里ちゃん。雛里ちゃん
美味しい御飯と、少しですけど食後に甘い御菓子を用意いてありますよ」
甘い食べ物と聞いて、二人ばかりか詠ちゃんのまで顔を輝かす姿に、逆に私の方が元気づけられた気がします。
うん明日は、この笑顔を皆さんにしてもらえるように頑張ろう。
今出来る事を一生懸命やろう。
それが廻り回って皆の力になるのなら、喜ばしい事だと思えるから。
董卓でなくても、侍女である私が皆の力になれる事があるのだと信じられる事を見つけられたから。
あっ、また一つあの人に、教えてもらった事が増えました。
雛里(鳳統)視点:
服どころか体中が砂埃にまみれ。
口の中に砂利を感じるばかりか、鉄錆の味が口の中に広がります。
どうやら突撃を受けて転ばされた際に、口の中を切ったようです。
そんな私達に北郷さんは事細やかに訓練の分析報告をします。
私達がやろうとした策に対する兵の損耗。そしてどれだけの兵士が想定以上に損害を受けたか。事細やかに『 死 』と言う言葉を使って私達に重責を掛けます。
ただの数字の上ではなく。訓練で死んだ事になった兵士の名を一つ一つあげる事によって、私達の逃げ道を塞ぎます。
「以上が、此処までの展開ごとの兵の損害だ。 此処までで何か言いたい事はあるか?」
「いえ、私からは何も」
「………私もです」
「なにが原因かは、今更言うまでもなく分かりきっているから、何も言えないわよねぇ」
北郷さんの問いかけに何も言えない私達を、敵部隊の指揮をとっていた朱然さんが追い打ちを掛けます。
朱然さんが率いるのは、旧袁術軍を新兵として鍛え直したと言う部隊で。 逆に私と朱里ちゃんが率いるのは、北郷さんの部隊において中核を成す孫呉の精鋭で構成した百戦錬磨の経験を持つ部隊。
兵数こそは訓練用のために同じにしてあるとは言え。圧倒的と言える程の戦力差を持ちえながら惨敗し続ける毎日。
しかも此方は軍師が二人もいてと言う結果。
……違う。軍師と言えない。
幾ら敵部隊の策が読めようと。
勝利を導き出す策が幾つも浮かび上がろうと。
戦場に声を響き渡らす事が出来なくて何が軍師か。
兵士に指示を届けれなくて、何のための策か。
そんな役立たずの軍師に何の意味があるのか。
今までは、それでも何とかなってきた。
多くの伝令兵を鍛え。
相手より三手も四手も先を読む事で、それを補ってきた。
大陸中に名を届かせるほどの将が、それを支えてくれていた。
でも、そんなものは甘えでしかなかった。
それを思い知らされた。
今まで私と朱里ちゃんがしていた覚悟や決意の軽さを。
多くの民や兵士さんの命を預かり。時には犠牲にしてきた。
でも人が怖いから……。
男の人が特に怖いから……。
争い事が目の前で起こる事に身が竦むから……。
そんな情けない理由で、自分の弱点を放置してきた。
だから伝令兵を制限されただけで、私と朱里ちゃんは無力になってしまった。
他の条件など率いる兵士が増えたり、乱戦になったりすれば考えられる問題で、訓練と言う舞台でより現実的な負荷を掛ける為のモノでしかない。
それでもこの人が現実を突きつけるのは、私達を軍師として見ているから。
無力な子供でも無く……。 かよわい女性でも無く……。 軍師としての私達を信じているからこそ。
そうでなければ朱里ちゃんの頬を叩くだけで、あれだけ辛そうな顔をしたこの人が、こんな事を出来る訳がない。
この人は、私達ならこれを乗り越えると信じているからこそ、此処までしてくれているのだと分かる。
だから、変わらなければいけない。
だって、今の私達は軍師以前の問題。
今迄がどうあれ。知ってしまった以上、これを乗り越えなければもう二度と戦場に立つ事は出来ない。
いいえ。もうみんなについて行く事さえ出来なくなる。
争い、殺し合う事が怖くても…。
知っている人が逝ってしまう事が悲しくても…。
断末魔と怨嗟の声が耳にこびり付いてしまっても…。
足が震えて、自分の意思で動かなくても…。
進まなければいけない。
体を引きずってでも…。
たとえ這ってでも…。
失いたくないものを守りたいのなら、進まなければいけない。
でも、幾ら強く意志を持っても怖い事に何ら変わりはない。
訓練だから少しは大丈夫だけど。その分慣れない人達に囲まれて、不安や恐怖が増してしまう。
それでも、震える声御振り絞って声を出した。
勇気を奮い立たせて、考えを言葉にして指示を出した。
だけど、いつも以上に出た声は、戦場に響き渡らせるには、あまりにもか細く…。
紡ぎ出した指示は理解されていても指示が複雑すぎると、小隊長達に敢えて無視される…。
当然だ。十数年変えられなかった事が、たかが数日で変わる訳がない。
其処まで激変を望むのなら、それこそ人生観が変わるような目に遭うしかないでしょう。
それでも、成果が出てい無いわけではなかった。
「でも、孔明ちゃんの羽扇子っていう案は、お姉さん誉めちゃうかな」
「はい、まだ慣れなくて、どう指示を表せば分からなくて戸惑っていますが、何とかなると思います」
「なら、後で小隊長達と幾つか特殊な合図を決めておくと良い」
「あのその事ですが、その件で北郷さんお願いがあるんですが」
「扇子の事なら構わないよ。幾つかコツを教えよう」
朱里ちゃんは、あの人の真似をする事に真っ先に気が付いた。
北郷さんの鉄扇に負けない程大きな羽扇子でもって、その指示を扇子に乗せて。
本当に短い言葉を、勇気を振り絞って大きな声と同調させる。
北郷さんの能力に尊敬し。
北郷さんの優しさに惹かれ。
その存在に憧れた朱里ちゃんからしたら、それは当然の答え。
実際その手は巧いと思う。
前進とか、突撃とか、あれだけ短い言葉なら私でも大きな声を出せると思う。
言葉での指示はとても簡潔で単純な物はどんな乱戦でも分かりやすい。
それに短い言葉故に、力強く聞こえる為、兵隊さん達を鼓舞する効果も含まれる。
細かな指示は全て扇子と身振りで行う事が出来る。
その上、伝令兵を使うのに比べ、比べ物にならないくらい部隊全体に素早く指示が行き渡ります。
伝えきれない指示の時期も、それを踏まえた上で細かく出して行けば何ら問題ない。
何より、たとえあれだけ短い言葉でも、大きな声を出していえる事に意味があります。
それは文字通り鍛練と同じ。
少しづつでも慣れる事が出来る。
自信を持つ事が出来る。
いつかは詠さんの様に、戦場中を響かせるほどの声を出せるようになれるかもしれない。
「それよりも、よく自分なりの答えを見つける事が出来たね」
「えへへへ♪ 褒められちゃいました」
朱里ちゃんは、憧れる北郷さんに褒められて。
頭の上に優しく手を置かれて撫でられて、頬をほんのりと染めて嬉しそうに微笑んでいます。
そんな光景に朱然さんは、また隊長の病気が、……まったく、いつか刺されますよ。なんて言葉が聞こえてきそうなくらい呆れたような眼差しで、諦めにも似た溜息を吐いています。
あれから数日。訓練が始まってから十日以上が経ちます。
結局私は、私なりの答えを見つけれずに朱里ちゃんの足を引っ張っています。
朱里ちゃんは、自分で色々工夫したり、あの人の所に足しげに聞きに行ったりと、主とする動機はともかくみるみる力を付けています。
今や朱里ちゃん達の隊だけで、朱然さんの率いる新兵の隊を押すぐらいに。
幾ら朱然さんが率いる新兵の隊が、異様なまでに整然と動くと言っても、もともとの地力が違うのは明らか。 朱里ちゃんの隊だけで、勝負がつける事も可能なはずです。
それをしないのは私のせい。
私が答えを見つけられないばかりに、昨日も一緒になって敗軍の惨めさを味わっています。
……本当は答えは出ている。
この訓練を乗り越えるだけならば、凄く簡単な事。
朱里ちゃんの真似をすれば良い。それだけの事です。
だけど、それをする訳にはいかない。
私までも同じ羽扇子を使えば、部隊が混乱する。
どっちがどっちの指示か区別がつき難くなってしまう。
実際は区別くらいつけれるとしても、混乱を引き起こす要因は少ないに越した事はない。
だから使うとしたら別の物でなければいけません。
煌びやかな宝剣の類は、すでに桃香様が使っている以上同じ理由で使えない。 何より私の体格と力では片手で振り回せない。 包丁のような物では、それこそ短すぎて意味をなさないし、別の意味で士気に係わりかねないです。
私が持てるような槍では細すぎるし、両手で扱うには熟練が必要。 何より剣同様に誤ってよろけて味方を傷つけないとは言い切れない。
牙門旗とまではいかなくても、大きな旗と言う手もありますが、強風が吹いた時に身体ごと飛ばされないかと言えば、その様子を安易に想像できてしまうばかりか、その想像を否定する材料がどこにも見つからない事に一層悲しくなりました。
銅鑼や太鼓では複雑で細かな指示を表す事が出来ないし、臨機応変さに欠けます。
何より、今の現状で用意できるものでなければ何の意味もありません。
となれば別の手段を考えるかです。
「士元様」
行軍の休憩の間に、私達について来てくれている民の様子を、考え事をしながら星さんと見回っていると。若い男の人が恐る恐る声を掛けてきます。
多分、隣に星さんが居るから私が鳳士元と分かったのだと思う。 それくらい一人でいる時の私はビクビクと不安な眼で周りを見ているからです。
それでもこんな無力な私でも、民からしたら恐れの対象になるのかも知れないと思いつつ、同時にこの男の人が恐れるだけの力を持っていない自分が悲しくなってしまいます。
でも今は、そんな身勝手な理由で自己嫌悪に陥っている場合ではありません。
「…ぁ、ぁの…わ、私に何か?」
「これをウチの爺さんから預かってきました」
そう言って、布に巻かれた長い棒状のものを私に差し出してきます。
突然の事に戸惑いながらも、私は星さんの様子から目の前の男の人に害意が無い事を確認すると、それを星さんの陰から手を伸ばして受け取ってみます。
棒の先端の方が異様に大きく迫り出しているから、戦斧のような物を想像していましたが、手に伝わる手応えは想像していた物に比べてはるかに軽かった。
それでもしっかりと伝わる重量感と布越しにも分かる硬い手触りに、私は男の人に説明を求めようとしますが、男の人をすぐ目の前にした私には、なんて問いかけたら良いのか戸惑ってしまい。 星さんが私を庇うように、……やれやれ。見知らぬ相手にはまだまだのようだな。と小さく溜息を吐きながら。
「して、この包みには何の意味があるのか応えて貰えぬのか?
もし貢物や贈答品と言う類であるなら、このような時期故に、いつも以上に固く禁じている事は知っていよう」
「そ、そんな滅相もありません。 そ、それは爺さんが頼まれた物だと聞いています」
「ふむ。その方の祖父殿がか。…では何故その祖父殿が来られぬ? 頼まれた物だと言うのならば、それを説明するのが筋であり礼儀と言う物ではないのか」
「も、申し訳ございませぬ。 それには事情が…」
星さんの言葉に男の人は、慌てて贈答品の類である事を否定しながら事情を説明します。
そして要領の得ない男の人の説明に、詳しい話を聞くために預かった包みはそのままに、男の人の御爺さんの所へ案内してもらいます。
こういう時だからこそ、受け取るべき理由が無い以上は、心遣いだけ頂いてお返ししなければいけないからです。
だけど其処で待っていたのは…、
「これはこれは士元様。このような所へ御足を運ばれるとは」
知った顔でした。
率いる兵士の数はそれほど今と変わらない事になりましたが、今以上に力が無かった時代。
横行する黄巾党の略奪に対して義勇軍を起こしたばかりの頃。
子供や孫を守りたいと言って、老い始めた身体に鞭を打って共に戦ってくれた人。
伝令兵として、数えきれないくらいに顔を合わし、言葉を交わした男の人。
嘗てそれなりに鍛えられていた身体は痩せ衰え……。
顔つきも変わり果てていたけど、それでも私を少しでも怖がらせまいと、不器用に一生懸命に笑いかけてくれた面影は消える事などなく。私を実の孫のように気にかけてくれた御爺さんを見間違えるはず在りません。
「……そ、その………」
「ああ、これですかい」
私の視線と言葉にならない声に、御爺さんは困ったような目で、だけどその口元に笑みを浮かべながら、黄巾党との最後の戦で敵の矢に両足を射られ。その傷がもとで傷口が腐り、足を切断せざる得なかった事を話してくれます。
命があっただけ自分は運が良かった方なのだと。
お子さんやお孫さんが、そんな自分を捨てずにこうして荷車に乗せてきてくれるだけ幸せな方だと。
失った足を痩せたゴツゴツした手で優しく撫でるようにしながら、自慢の子供達だと話して聞かせてくれます。
なんて言って良いのか分からなかった。
どんな目をして見れば良いのか分からなかった。
帽子のツバで隠した今の顔を上げてしまって良いのか分からなかった。
でも御爺さんの怪我の一端が、私に責があるのは事実である以上、其処から目を逸らす訳には行けない。
辛くても悲しくても、現実を見なければいけない。
毅然として見せなければいけない。
だって私は軍師だから。
私が招いた罪は背負わなければいけない。
私の言葉に従い戦場を駆けた人の姿から、どんな理由があろうと逃げ出す事など許されない。
手が小さく震えているのが分かる。
足の力が抜けそうになるのが分かる。
それでも、私は少しづつだけど顔を、帽子のツバから引きずり出す。
「………あっ」
其処には、予想だにしなかった光景があった。
伸びた髭から覗く柔らかい笑顔が……。
慈愛に満ちた温かな瞳が……。
「変わりませんな。 ……いえ、前より強くおなられた」
「……ぇっ?」
「孫より遥かに小さいと言うのに、士元様は戦場の恐怖に耐えながら、必死に私共のために頭を働かされていました」
「…そ、それは私がそのための知識を持っていたからで」
「そんなモノ等、あの狂気の中では役に立たぬ事など、士元様が一番御存じのはずです。
大人でさえ逃げ出す中で、貴方様は貴方様なりに必死に戦われた。
戦場では涙を流しても泣き喚く事無く。
恐怖に震えながらも、意識を手放す事は決してせず。
考える事を止めてしまう事などせずに、必死に私共が生き残れるよう考え続けてくださった」
「……」
言葉が出なかった。
予想だにしなかった御爺さんの言葉と想いに…。
自分は愛紗さん達や朱里ちゃんがいるから、皆と戦えているとばかり思っていた。
無力だと思っていた自分が、こんなにも確たる信頼を得ていただなんて。
「そして、以前は私と目も合わす事すら出来なかったと言うのに、今はこうして真っ直ぐと前を向けられえています。 貴方様が本当に目を向けなければならない出来事に、目を向けられるようになられたように私は感じられます」
視界が滲んでしまう。
しっかりと見なければいけないのに、弱い私の心は涙で視界をぼやかしてしまう。
御爺さんの言葉が嬉しくて…。
御爺さんの想いが嬉しくて…。
私は軍師で居て良いんだって、教えてくれているようで…。
「ふむ。御老人の御気持ち。雛…鳳士元が確かに受け取った事、この趙子龍が見届けた」
「あわわ、せ・星さん…そ、その」
「雛里よ。おぬしを本当の孫のように見守りながらも、此処まで想ってくださる者の気持ちを無碍にしては、鳳士元の名が泣くぞ」
「で、でも、それでは周りに示しがしゅきません」
「ああそれ故に、これは民の全ての気持ちを代表してと言う事にしてはどうだ。 これ以降はこれを皆の気持ちとして受け取った故に受け取らぬと言う事で」
「だ、駄目です。そんな屁理屈を言っては…あわわ、いったいどう言ったら」
「ほっほっほっほっ、さすが天下に名高い趙子龍殿。 確かにそれは皆の気持ちが籠っておりまする」
私と星さんのやり取りに、御爺さんはいきなり楽しげに笑いだしながら話してくれます。
この包みの中身の材料は、皆が私のためにと寄せ合ったものだと。
慌てて逃げ出してきた故に、材料と呼べるような物など何処にもないと言うのに、それでも皆が持ち出してきた家財を壊したり、先祖伝来の物や、形見を笑って差し出してくれたりしてくれたものだと。
それでも足りない分は、江陵の街で受け取った所縁のある品々を御金に換えて用意したものだと。
それを御爺さんが、若い頃から嗜んでいた技術で作りあげたものだと。
自分一人では動けぬ身体になってしまった故に、移動している間でも荷車の上で幾らでも時間があったと。
何でもない事のように言う言葉とは裏腹に、揺れ動く荷車の上での作業がどれだけ困難な物かは、手にある幾つもの新しい傷から容易に想像する事が出来ます。
此れには御爺さんの気持ちと民の皆の想いが籠っている。
だから私は此れを星さんの言う通り受け取る覚悟を決めます。
受け取るのは物でありながら、想いの結晶。
しゅる
私の決意をせめて御爺さんに見せようと、私は目の前で包みを解く。
そして布を解いた先に姿を現したのは……。
「……杖」
呟くように毀れ出た言葉を追うように、星さんの感嘆の言葉が御爺さんに掛けられる
「ほう。……これは見事な。
これ程の作品を作るとは、御老人は職人としてさぞ名を通っておられるのであろう」
「それ程でもありませぬ。 ですが嗜みで始めた事が、こうして今のような姿になっても僅かながらでも稼ぐ事が出来ていたのは、此れのおかげと言えます」
「いやいや謙遜されるな。 それにしても見事な。何より見た事もない意匠ですな」
「お褒めの御言葉嬉しく思いますが、生憎意匠は先方より頂いた図案を元にしたもの。 恥ずかしながら私が一から作り出したものではありませぬ」
「そう言えば、頼まれたものだと言っておったな」
「はい。必ず役に立つモノだからと」
そうして星さんに導かれるように、御爺さんの口から語られた人物の特徴に、私は居ても立ってもいられずに駆け出します。
私の身長より遥かに長い杖を両手しっかりと持って駆け出します。
杖の片方にとても大きな意匠が施された杖。
堅い木材。恐らく樹齢の高い樫の木を主材に、幾つもの種類の木がその木目と色合いを生かして組まれているため、見た目以上に重量があるものの私にはそれ以上に重く感じる。
これは民の想いの結晶。故に重くて当然のこと。
でも、しっかりと手に馴染みます。
杖の持ち手全体に施された細工が、力の弱い私の手でも滑らないように緩やかな凹凸がつけてあります。
これなら余程振り回しても、滑って抜けてしまう事はありません。
「どうしてあの人が」
息を切らして走る私の口から自然と毀れ出る言葉。
答えなど分かっている。
でも、聞きたい。
予想でも想像でもなく。
あの人の口から直接聞きたい。
何一つ誤解せずに、この想いの結晶を受け取るために…。
微かなズレ一つなく、この杖を本当に意味で使いこなすために…。
何度も息が乱れ走れなくなり立ち止りかける。
でも決して立ち止まらない。そのつどに息を整えながら歩いては、回復しきる前に再び駆け出す。
私の中から湧き出す衝動が、そんなもの等にかまけてられないと、私の背中を強く押し出します。
私の横を星さんが、息一つ乱さずにいつの間にか走っている。
その手に私が置いて来てしまった杖を包んだ布を手に持って、黙って私の横を一緒に駆けてくれている。
星さんの無言の優しさに、今は心の中で感謝しながら、私はあの人が居るであろう場所に向かって走る。
『よい。今はそんな事より気になる事があるのであろう』
ふと、そんな声が星さんから聞こえてきた気がする。
私の勝手な想像の産物かもしれないけど、また一つ私の背中が押された気がした。
自然と口が綻ぶのを、息が乱れた口でも自覚できる。
今の私は笑っているのかもしれない。
星さんのように、優しく見る者を安心させてくれるような笑みではないだろうけど。
きっと、笑みを浮かべているのだと思う。
だけど視界の端に見つけたあの人の顔を見たとたんに、その笑みが私の顔から消える。
そんな余裕を一切捨ててあの人に向かうために。
軍師として、そして人として立ち続けるために。
毅然とした眼差しで、あの人の前に立ち言葉を紡ぐ。
「はぁー、はぁー、はぁー、……ひょ、ひょんごうさん」
なのに出た言葉は、いつも以上に噛んでしまう。
我ながら情けない事この上ないです。
それでもあの人は杖を持った私の姿に事情を察し、民と話している最中に横から問いかけると言う無礼に、何も言わずに優しい瞳で向けながら私が落ち着くのを、……私が紡ぐ次の言葉を黙って待ってくれる。
息が乱れている私が少しでも落ち着くように、護衛のためについて来ている朱然さんがお水を用意するのを、顔を向けることなく小さな手振りだけで止めてくれます。
お水と共に私が言葉を飲み込んでしまわないように。
想いを口にしたお水で冷やしてしまわないように。
そんな何気ない優しさが嬉しく感じる。
自分の自己満足になりがちな行為ではなく、相手の事を想っての優しさが。
……不思議な感じです。
どこか落ち着かないのに、とても安心できる。
他人が怖いのに、この人の傍では怖さを感じない。
目の前の人はとても怖い人のはずなのに、安らぎすら感じる。
多分、分かってしまったから。
確証など何一つないけど。
私の勝手な想像だけど。
そうでなければ説明はつかない。
「----------お、教えてください。 北郷さんがこれを用意させた意味を」
江陵の街に着くより大分前に頼まれたと、あの御爺さんは言っていた。
「……答えは見つけれたから俺の所に来たのだとしたら、それが答えじゃないかな」
そんな事は分かっています。
私と朱里ちゃんの本当の弱点、北郷さんにはそれが分かっていたから用意させた物と言う事は。
私達が同盟国である孫呉に細作を送り多くの情報を得ていたように、孫呉も同じ事をしたはず。
だから、そのこと自体は驚きはしませんし、その弱点を今克服させなければ孫呉にとっても不味い事になると判断したからと言う事などは聞くまでもない事です。
答えの分かっている疑問を口にすべきではない。そんなもので得た答えに何の意味はないのだから。そう言われるのも分かります。
でも、だからこそ聞きたいんです。
そんな分かりきった答えではなく。
貴方の見る視界を知りたいんです。
そこにある想いが知りたいんです。
貴方の答えを通して…。
貴方の言葉を通して…。
「……分かった」
肩を竦め。小さく息を吐きながら、彼は場所を移す。
余人の関わる事のない場所に彼は私を導きます。
星さんは、黙って私と北郷さんの会話の邪魔にならぬよう、離れた場所で見守ってくれます。
北郷さんの連れの朱然さんも、同様に離れた場所で私達の邪魔が入らぬように周囲を警戒してくれます。
「最初に謝らせてくれ。 悪かったね。あんな酷い訓練をさせて」
北郷さんの謝罪の言葉に、私はそんな必要ないと首を横に振る。
最初は何かを教えてくれると期待していた。
だけど北郷さんは何一つ教えてはくれなかった。
ただ訓練が現実だったら、どうなっていたかを非情に語ってくれただけ。
私と朱里ちゃんを死者の谷底へと突き落とし続けただけ。
其処から這い上がれと言わんばかりに。
当たり前だ。私と朱里ちゃんは教える教えない以前の問題だったのだから。
軍師として致命的な弱点を、あんな手で誤魔化していた私達にそんな資格などない。
言葉で伝えて何とかなる様な物なら、とっくに星さん達が何とかしていたはず。
私と朱里ちゃんは、劉備軍の軍師でありながらも戦場に立っていなかった。
戦場に身を置きながらも、部屋で像棋をしていたのと何ら変わら無かった事があの訓練で思い知らされた。
像棋の駒を人の命だと重く感じながらも、棋上で駒を動かしていただけ。
打ち手の相手となる敵と、血で血を洗うような像棋をしていただけ。
そんな事では幾ら像棋の駒を巧く動かそうが、相手の先を読んで万全の態勢で駒を敷こうが関係ない。
相手にとって、そして味方にとって戦場は像棋ではない。
いくら私達がそのつもりでも、今の私達ならその事を否定できない。
知ってしまったから。
「私と朱里ちゃんに足りなかったのは、覚悟でも決意でもありません」
「ああ。そんな小さなモノ等では、あの狂気の中では立てない」
黄巾党の時はそれでもよかった。
規模が小さい上に、アレは人と獣に堕ちた人との戦いだから。
むろん、それだけではないけど、素人同士の戦い故に誤魔化せた。
何よりあれは斬り抜けなければ、生きられない性質の物だった。
だけどその後の事は全くの別物。
知識があろうと、頭が幾ら廻ろうと、それ無しでは何の意味をなさない。
「自分の想いも、使命感も必要な事。 だけど本当に必要だったのは」
「多くの人間の想いを背負う事」
そう、多くの将兵や命をその手に握るのではなく。 この背に乗せて守る事。そして共に歩む事。
一人でいくら頑張ろうが、ただ一人の力では潰れてしまって当然。その命の重さに手が下がってしまうのは当たり前の事なんです。
頭では分かっていました。
口では何とでも言えました。
でも、本当の意味では理解していなかった。
将兵の命を預かっていると自分に言い聞かせて誤魔化していただけです
むろん、そうでない人もいる。 むしろ多くの軍師がそうだと思います。
だけど私や朱里ちゃんのような人間には、それでは駄目なんです。
詠さんは、その事に気が付いていたと思う。
でもこれは自分で気が付かなければ意味のない事。
自分で答えを出せなければ何も変えようがない事。
この人は、教えてくれていた。
私達を死者の谷底へ叩き落とすのではなく。
その深い渓谷を使って、飛び方を教えてくれていた。
まるで、鷹が己が雛鳥達に飛び方を教えるように。
そしてそこで見出した飛び方はそれぞれ違った。
朱里ちゃんは、より大きな翼を見つけた。
そして……、
「私は風を受け止める事を覚えました。……まだそれで飛べるか分かりませんが、必ず飛んで見せます」
「……そっか」
私の皆の想いと言う名の風を受け止めてみせると言う宣言に、帰って来たのはそっけない言葉。 だけどとても温かく感じる言葉です。
本当に優しい温かな瞳を目の前の人は浮かべ、私の帽子の上にそっと手を置き、軽く頭を撫でてくれる。
突然の北郷さんの行動に一瞬体が竦む。 …だけど帽子越しに感じたこの人の手の温もりに、優しく撫でられる感触に、私は直ぐに自然とその暖かな感触に身を任せてしまう。
多分朱里ちゃんの時とは違う。
私の見出した答えを誉めてくれるのは同じ。
だけど、そこには必ず見つけてくれると信じていたと言う信頼が…。
それに至るまでの私の苦悩を労う想いを感じた。
…………やっぱり、この人はそうなんだ。
「教えてください。何故この形なんですか?」
「ん~~、まぁ一応意味はあるんだけど、大した意味はないよ」
私の言葉に、北郷さんは恥ずかしげに苦笑を浮かべながら指で頬を掻きます。
この杖を私達の民に依頼したのは、この杖に民の想いを乗せる為。
その想いを必ず受け止めると信じて、民の様子を見まわりながらあの御爺さんの事を見つけたのでしょう。
だから尋ねるのは、この意匠の意味。
変わった意匠を指示したのは、注目を浴びせる為と言うのもあるでしょうが、それ以外にも意味があるはずです。
杖はその動きが目立つように大きな意匠が施されていた。
月と太陽と星によって形作られた複雑な模様。
そしてその左右には大きさの違う翼が生えています。
「意匠そのものはさっきも言ったけど大した意味はないよ。
多分この杖は雛里が持つ事になると思ったから、それを選んだだけ」
「どうしてそう思われたんですか?」
「……優しい子だからさ。 そして、本当に強い子だから」
ぽふっ
さっきより少し乱暴に私の帽子にもう一度手に置き、そう言いながら優しく頭を撫でて行く。
不思議です。この人だとちっとも嫌じゃない。
この人は本当に私を理解してくれていると分かるから。 ……でも、少しだけ勘違いしている。私は強いわけじゃない。弱いからそうできなかっただけ。
朱里ちゃんの見つけた答え。その事にはすぐに気が付いていた。
だけどそれを私は直ぐに否定した。だって、それは朱里ちゃんの方が似合うと思ったから。
この人に憧れ、この人の背中を一生懸命見る朱里ちゃんの方が上手く使えると思ったから。
何より、その答えでは私は空を飛べないと理解できてしまった。
………私は朱里ちゃんのように強くないから。
他にもっと自信の持てる答えが必要だと思ったから。
なにより……。
「あわわ。そんな事ありません。
……それに何時も朱里ちゃんの背中に隠れて、自分一人では何もできない狡い子だから」
「そんな事ないよ。 雛里は強い。 それに決して一人で立てない子じゃない」
「……ぁ」
不思議です。この人にこんな温かな笑顔でそう言われると、本当にそう思えてしまう。
きっと今だけだけど、心の底からそう思えてしまう。
心の奥にまで、この人の今の言葉が染み渡るのが伝わってくる。
「俺の世界の物語の中にはね。そういう杖を持った小さな女の子がいるんだ」
「物…語ですか」
「ああ、この世界で言う所の仙人とか道師とか言うのに近いのかな」
そうして話してくれたのは、私の知るような仙人や道士ではなく。本当に何の力もない小さな少女がある日力を得るものの、それは決して大きな力ではなく。 その力を得た事によって巻き起こる困難や敵の前には、とても小さな灯でしかない事。
でも、その小さな少女は、その事に嘆く事はなく。精いっぱいの勇気と僅かな知恵を振り絞り困難や敵に立ち向かって行く物語。
決して敵うはずのない困難を越える少女の物語。
「でもね違うんだ。 その少女の本当の力は、勇気や知恵なんかじゃないんだ」
「分かります。まるで桃香様のような力なんですね」
民の想いを形にする事の出来る力。
皆の想いを一つに出来る力。
何より、その想いを背負う事の出来る力。
そして、この人が持っている力でもあります。
「雛里にもその力はあるよ。 ただ表し方が違うだけでね」
「これは、それを教えてくれる杖なんですね」
「ああ」
想いと願いの結晶たるこの杖。
この人が今話してくれた物語と違って、何の力もないただの杖でしかなくても、私にとってはそれ以上の杖。 あの御爺さんやこの杖を作るのに協力してくれた人だけの想いじゃない。
星さんの言うとおり、この杖には民全員の想いが詰まっている。
最初に重く感じたのは当然。
そして私が扱うには重すぎる杖。
だけど、これを投げ捨てる訳にはいかない。
誰かに託すわけにはいかない。
それをしてしまっては私は軍師でも何でもなくなってしまう。
何より、背負いたいと思っている私がいるから。
だから私は、この杖を持つと決めた。
私より遥かに背の高い其れを、しっかりと片手で持って北郷さんにお礼の言葉を述べその場を後にする。
答えは最初から私の中にありました。
知りたい想いも知る事が出来ました。
ならば後は結果を出すだけ。
私は星さんの所に駆け寄る前に、彼女の元に向かいます。
「き、今日の訓練。私達が勝ちます」
「ふ~ん。今迄があんな様なのに、懲りずにこの朱然お姉さんに勝利宣言とは良い度胸ね」
「あ、あわ、あわわっ、そ、そんな大それたものではなくて。…そ、その・」
私の言葉に、目を細めた朱然さんは私を見下ろすように睨みつけてきます。
その発せられる圧力に震える私にその手を真っ直ぐ伸ばし。
ぽふっ
「少しだけ、良い顔が出来るようになったじゃない」
張りのある声。だけど温かみのある言葉と共に、あの人と同じように私の帽子の上から撫でるように手を置きます。
だけど、あの人程安心できませんでした。
でもその答えは直ぐに出ました。
「これで昨日と同じ様を見せたら、隊長が反対してもウチの新兵訓練と同じ訓練してあげるから、その時は覚悟しなさいよ」
私の頭をまるで振り回すかのように、ぐゎしぐゎしと乱暴に振り回しながら迫力のある声で私を脅します。
いえ本当は、私の背中を押してくれているのだと分かりますが、目が回るほど乱暴に何度も振り回された私は、それ所ではなくなります。 それでも何とかお礼を述べてフラフラな足取りで星さんの所に逃げ込むと、今度は星さんまで、
「ふむ。我等の軍師殿はあのように、頭を撫でられるのが好みと見える」
「あわわ、ち、違います。 ひがいますから……頭を振り回さないで……くだしゃい」
恍けた人の悪い笑みを浮かべながら、同じように乱暴に私の頭を撫で回します。
うぅぅ……、どうせならあの人のように優しく撫でてください。とは流石に言えずにいると、すぐに私をからかうのを止めて、私の背中を片手でそっと優しく支えながら、皆の所に戻るのを促してくれます。
二人に、振り回されたおかげでフラフラとする中、私は杖の感触と共に歩み続ける。
皆に託されている想いと共に。
あの人と同じ想いと共に。
あの人は私と同じなんだ。
弱いから…。
一人では戦場に立てないから…。
私と同じ恐怖を知っているから…。
同じ道を歩んだ人だから…。
私達の弱さを理解できるんだと…。
だからあの人の傍はあんなに安心できるんだと思う。
あんなに暖かさを感じれたんだと思う。
だってあの人自身は、本当に普通の人だから。
その能力なんて関係ないくらい、本当の優しさを知っている普通の人。
それがあの人の弱さであり、本当の強さ何だと思う。
あの春の日差しのような温かな笑顔はその証。
多くの悲しみと苦しみを知りながらも、未来を信じて笑える強さを持っているあの人の出した答え。
とても素敵で、眩しい想い。
だから頑張ろうと思う。
いつか、あんな素敵に笑えれるように。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
~ 闇夜に舞う月は、地を這う雛をも照らし、全てを飲み込んで微笑む ~ を此処にお送りしました。
更新速度が連載当初に比べて、めっきり遅くなってしまい申し訳ありませんが、今回も無事書き上げる事が出来ました~。
さて今回の主役は、あまり原作では日の当たらない月ちゃんと雛里ちゃんです。
原作にはない月の董卓としての強さを本の少し垣間見せながら、詠ちゃんを応援する乙女心満載にお話を進めてみましたがいかがでしたでしょうか? 月ちゃんは詠ちゃんを通して一刀の姿と想いを感じていましたが、書いている私の方は、どちらかと言うと月ちゃんを通して詠ちゃんの想いを感じてしまいました。 月ちゃんではないですけど、本当に詠ちゃんって可愛いなぁと思ってしまいました♪
そして、もう一人の今回の主役である雛里ちゃん。原作ではあの気の弱さで、どうやって戦場に広がる味方に指示を届けていたのかと思いましたが、その辺りは考えちゃダメですよね。 と言う訳で、この外史でもその辺りは深く考えないでくださいね(ぉw
なんにしろ、これでそれぞれ違う翼を得る事の出来た二人は、その真の力を発揮できるようになると良いかなぁと思っております。
そして雛里の姿ときたら、やはりあのアイテムが必要でしょう。と思ったのはきっと私だけでないはずです。『此処にいるぞーーーっ!』と言う声が聞こえてきそうですが、とうとう持たせてしまいました(w
それにしても一刀君。 そう言う事ばかりやっているから、明命と翡翠の気苦労が消えないって事、そろそろ自覚しようね(汗 また二人が黒くなってしまいますよ。
とりあえず、二人に問答無用で腕を思いっきり噛まれるくらいは覚悟しておこうね。
最近忙しいですが頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程をお願いいたします。
PS:今回もおまけを書いてないので、そろそろ書かねば………。
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
詠ちゃんのためにも董卓に戻ると決めた月。 だけど現実はそんなに甘くなく、其処にあるのは侍女の月。
そんな彼女は今の劉備軍で何が出来るのか模索して行く。 詠に隠し事をしたままに……。
そんな時、朱里と雛里は一刀から課せられた訓練に、自信も想いもズタズタに引き裂かれ谷底へと突き落とされていた。 だけどその意図に気が付いている二人は必死に羽ばたく。 まだ小さな翼で必死に風を掴むために……。
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