「か~ずとさんっ。今日お部屋に行ってもいいですか?」
感極まりない申し出なのだが、まず一刀は疑うことから始めた。
「う~ん。いいんだけど、仕事も溜まっててね。どんな用?」
それを聞いた七乃は顔を膨らませ、拗ねた表情になる。
「乙女にそんな野暮なこと聞くんですか~。
女の人が男の人の部屋に行く意味なんて、もうアレしかないじゃないですか~。」
七乃が言うアレを一刀は瞬時に把握したが確信が持てない。
何の前触れもなく、しかもあまり交流がない七乃が言っていることだからだ。
「あ~あ。せっかく一刀さんが買ってくれた『なーす』服を着てこうと」
「じゃあこの後の会議が終わったら俺が七乃の部屋3回叩くからそれが合図だと思って俺の部屋に来てくれ。もちろんナース服持参で。着替えて来てもいいし、こっちで着替えてもいいから。」
現金な男、北郷一刀。
運命には抗えるが、己の欲望には抗えない一国の領主であった。
会議後。
華琳や蓮華からかなり痛い目線を食らったが、この男は今はどんな事でも耐えられた。
この男をそこまで突き動かすもの。顔をにやけさせるほどのこと。
その存在がもうすぐ拝める。それだけが一刀の動力源。
予定通り、七乃の部屋を3回叩き、自分はすぐに部屋に戻った。
「あぁ~。七乃のナース姿かぁ。きっと現役の娘よりも似合うんじゃないか?」
「まだかな。おれどうやって待ってよう?
横になって、あ、アレの調子がおかしいんですけど?とか言う準備してようかなぁ。」
「遅いな。ん~。恥ずかしがっててドアの向こう側にいるのか…。」
待ちくたびれた一刀はドアノブを回し廊下の様子をみた。
誰もいない。
だが、何かが置いてあった。
「薬?…はは~ん。さてはより雰囲気を出すために、この薬を飲めと。
しかし肝心のナースさんがいないんだが…。」
一刀は薬の裏に何かが書かれているのを発見した。
「“これをのめばげんきがでます”…。
七乃。本気だな。これは期待していいんだな?よし俺はこれを飲むぞ!」
一気に蓋を開け、勢いよくそれを飲んだ。
途中何か体に痛な感覚が流れたが、一刀はお構いなしに飲みほした。
「ふぅ。最近、夜連続だったからかなり疲れていたんだけど、これは有難いな。」
さすが天下の種馬である。
効果にはしばらく時間がかかるのだろうと思い、寝室へと戻っていく。
「後は七乃が来てくれれば…。」
と思った矢先、ドアが開く音がした。
そして一刀はベットに横になり七乃が来るのを待った。
「一刀さ~ん。いますかぁ~。」
そして一刀はベットから上半身を上げ七乃を見た。
「ここだよ。なな…!?」
一刀に電流が走る。体が火照り、心拍数が上昇する。
鳴りやまない鼓動。上がり続ける体温。
今の一刀はまるで、初恋をしたかのようなそんな状態。
一刀はこの状況を実感していなかったが、本能的には理解していた。
一刀は七乃しか見えていないのだ。
「…一刀さん?どうされました?」
「七乃。滅茶苦茶綺麗だ。一瞬、女神が舞い降りたのかと思ったよ。」
いつものような口説き文句とは少し違ってキザっぽい。
「あ…え~っと…(美羽様、逃げましたね…)、そ、それでは私はこれで~。」
帰ろうとした七乃の腕を掴み、強引に引き寄せた。
そして両腕で七乃の体を抱きしめる。
「可愛いよ七乃。体も細くて、凄く抱き心地がいい。
…ん?この香り。前に二人だけで町に行った時に買った香水の匂い。つけてくれたんだ。」
「あっ……。」
少し七乃が照れる。
そして一刀のマシンガン口説きは続く。
「それにこの髪飾りも。あ。首飾りもそうじゃないか。
そんなに俺のこと想っててくれたんだね。それに気がつかなかったなんて、俺は…最低だ。」
「…ぁの。違うんです。本当は私ではなく美羽様が。」
美羽という言葉を聞いた瞬間、一刀は少し抱擁に力を入れた。
「美羽がどうかしたの?
…そうか。やっぱり七乃は俺よりも美羽の方が好きなんだね。
でも、そうだとしても、俺は諦めない。君の一番を俺にしてみせるよ。必ずね。」
一刀がこのようになった事情を知る七乃は、一刀が言う事は本当ではないと分かっている。
だが、こうもアプローチされると悪い気が起きるはずもなく、火照る顔を伏せた。
「前から思ってたんだ。実は、俺にかまって欲しかったのかなって。
だから、いつも俺を困らせて、注意を向けていたんじゃないのか。
そうとは知らずに…。ごめん。だけど、もう大丈夫だ。
これからはずっと、七乃を見てるよ。好きだって何度でも言う。
だから七乃も、できるだけ俺を見てほしい。誰よりも。」
本心からではない。
実を言うと、七乃が用意した薬は一種の惚れ薬のようなもの。
神経をマヒさせて幻覚作用を作り、飲んだ後に見た最初の人に恋愛感情を使用者に持たせる。
それを美羽に手渡し、一刀に飲ませて惚れさせるという七乃の計画は、失敗に終わった。
抱きしめられている七乃は、そうとわかっていながらも、一刀に身をゆだねる。
「…一刀さん。あの、ですね。
た、確かに私も…その…一刀さんのことは…好意的に思っています。
いつも優しくしてくれてますし、一緒にいると、楽しいですし。
私のこと気遣ってくれてるのも、すごく嬉しい…です。
それに、私は、美羽様のことは好きです。けど、私の性別は女ですから…。
困らせているのは…、…そうですね。一刀さんの言う通りです。かまって欲しかったのかも。
でも、私なんかが、貴方を一時でも独占しようなどと…少し気が引けたんです。」
次々と自分の想いを吐露していく。
七乃は薬を飲んでいない。故に、本心からである。
「…………あ、アハハ。何ででしょう。
私、こういう私的なことは心にしまって置くことにしてるのに。
……馬鹿…ですねぇ。無能と言われるのも…仕方がないことです……。
…………一瞬。…この時だけでいいから、貴方を…独占していたい。
…許してくれますよね?…一刀さんは…優しいですから………。」
副作用でとっくに寝ている一刀の胸に顔を擦り寄せ、自らも目を閉じた。
温かな温もりを感じながら、少女は夢に入っていく。
自分が思い描く、幸せな夢の世界に…。
ーーーーー……。
…しばらくして、七乃は目をゆっくりと開けた。
随分と眠っていたので、もう外は真っ暗である。
だが、まだ夢の世界とまったく同じ状況だったので、七乃はもう一度目を閉じた。
「………七乃。滅茶苦茶綺麗だ。女神が舞い降りたのかと思ったよ。」
薬の効果は3~4時間ほどで切れる。
「……好きだよ。
だから、ずっと、俺を困らせてくれ。
俺はそんな七乃が…大好きだから。」
「……………ふふ。当然ですよ。一刀さん♪」
七乃の夢の世界は続く。
いつまでも、いつまでも…。
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k,nです。
七乃メインの話です。