背後から聞こえた声にガルルと睨み合っていた二人がピシリと固まった
今し方に届いた非難の声は紛うことなく彼女等に向けられたものだと誰よりもその二人は理解していた
この宴の席がこの時代、この世界の文化人の其れであったなら酒を肴に優雅に花を愛でるものであっただろう、しかしこの場所この席は一般庶人が花を肴に宴を楽しむもの
つまりは其処に敷居などなく飲めや酔えやの席なのである
故に当然のように彼らの周りで杯を交わす者達はやはり彼女の声など聞こえるわけもなく且つ構いもせずにやんややんやと笑い合う
彼女~七乃自身もそれを勿論のこと大前提として理解している…理解してるが故にその声は二人の胸にざっくりと突き刺さる
-貴女達は普通に酒の席も楽しめないのですか~?-
宴の席とは楽しむものである
それこそ正しくに身分を問わずに宴の席の暗黙の了解であり、其れを逸脱するは非難の的になるのである
七乃のそれはぐうの音の出ない程の正論
その正論をイヤミたっぷり毒舌全開に飛ばすあたりは流石と言うべきか
当の二人は耳まで真っ赤に染めプシュウと煙を上げながらその場に腰を下ろし
袁家の面々はというと彼女の非難に正直なところムッとしつつものっっけから空気が重苦しいその場が収まる様相に内心ホッとしていた
そんなぎこちなくも始まった宴の中
(…ほう)
席の誰もが視線を敢えて向けない中
比呂は一人杯の中身を口に含みながら件の一団…その中心の人物に目が行く
いずれも宴に花を添えるかのような女人の中にあって一人異質な空気を纏う男
存在のそれが無機質、異常、異端
そもそもに「アレ」を人と呼んでいいものか
色に例えれば「黒」そこに「存在」しながらにそこには「何も」「無い」
故に確かな存在感
それを繋ぎ留めるかのように一点「白」い襟巻
そして「彼」を潤んだ眼で見つめるはこれまた白い少女…否、幼女
(月に…どこか似ている)
自身の真隣で未だその恥ずかしさに顔を真っ赤に料理を取り分ける月と見比べるように見つめる
つくづくに不思議な一団
のっそりと立ち上がった彼にようやくに花の席を満喫していた誰もが視線を送った
「…比呂」
声に見やれば悠が肩をすくめて首を左右に降っていた
(面倒事は勘弁ですよ)
(判っている)
ともあれ先の謝罪は必要だろうと
今の一件を互いに流そうとして寧ろ空気が重く停滞している事に
彼の足は件の一団へと向かった
比呂がすぐ近くに歩んでも一団はいずれも無視を決め込んだように静かに杯を交わしていた
否、一人の少女が油断のない目つきを此方に向けている
格好を見やるに「彼」の従者だろうか
一際に悪いその目つきに更に鼻の根に皺を寄せ睨みつけている
「先ほどは我が席の者が失礼を…詫びにというのも何だが一献注がさせて頂きたい」
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こっちのタイトル微妙に間違ってるんだよね…