この作品の一刀は、性格、武力ともに原作とは異なっています。
また、一部キャラを否定する場面もございます。
ご理解をお願いいたします。
まだまだ誤字、脱字や分かりにくい表現などもあると思いますが、
こんな自分の作品でも楽しんでいただけたら幸いです。
前に広がる荒野に、突然前触れもなく聳え立つ山。
中岳嵩山、それを利用した天然の要塞、中岳嵩山城。
武人が一人、、それを見ていた。
そこで、睨みつけていた。城壁の上を揺れる。
白い、鳳旗を
馬に乗り、兵を率いて、戦をする。
それは彼女にとってはごく有り触れたこと、当り前のように行えること。
当然だ、、その為に幼少の頃より努力は怠らなかった。
誰よりも強くあろうと血反吐を吐くほど薙刀を振るった。
軍師のそれには及ばないだろうが、軍略も人並み以上に学んだつもりだ。
だからこそ、戦場での緊張も不安も間違えも、縁遠いものだ。そうである、、筈だった。
どんなに鍛錬を重ねようと、どんなに軍本を読みふけろうと、やはり、彼女もただの人だと気づく。
当然だ、環境がこれほど変わったのだ。今まで通りに出来る方がおかしいのだ。
乗っている馬は、彼女の愛馬では無い。
彼女の馬は先の大戦で射抜かれて死んだ。
従えているのも、彼女の兵隊では無い。
常に最前戦を共に駈けて来た戦友達は、先の大戦で同じように常に最前線を駈けていた二人の男の部隊に壊滅させられた。
生きている者もいるが、もう、戦えぬ体だ。
背に掲げられた旗は、新緑の蜀旗では無く、彼女の嫌いな、大嫌いな黒天を思わせる。
漆黒の魏旗。
共に戦う友すらも、、
「ちょっと!聞いてるの!」
「ああ、聞こえている。今、行く」
彼女の友では無い。
”あの頃”と、違う馬。
”あの頃”と、違う兵。
”あの頃”と、違う友。
されど、”あの頃”と、同じ敵。
「ふ、ふふ」
皮肉なことに、誰よりも彼女の敵である男のおかげで安堵している自分に気づく。
風にはためく憎むべき白い旗。
その旗が、今はただ一つの心の拠り所になっていた。
「そうだ。お前さえ居るのなら、私はまだ戦える。貴方さえ、居てくれるのなら」
義妹に言われた言葉が頭の中で繰り返される。
『理由もなく嫌いとか、そんな考えをする奴は大嫌いなのだ!!』
「ああ、私もそうだよ。そんな考えをする奴は死ねばいい」
けれど、お前に彼女の全てが否定できるのか?
「答えられない筈だ。私は奪われたのだ。なら、私には奪われたことを恨む権利がある」
逆に言えば、それしかない、と思う。
愛馬を奪われた恨み。
兵を奪われた恨み。
友を奪われた恨み。
は、お門違いか、自分から奪わせたのだから。
義姉を奪われた恨み。
も、違う気がするが、甘えさせて欲しい。
「しかし、恨み、と、言っておいてなんだが、そこまで恨んでもいないのかも知れぬ」
愛馬が死んだのは天命だったのだろう。
何ものにも寿命はある。
戦友達が死んだのは戦のせい。
私も将だ、戦をして兵が死ぬことを全て敵のせいだなどと言う積りは無い。
友を失ったのは彼女自身のせいだろう。
彼女が自分で手放したのだ。
義姉を失ったのも、彼女自身のせいだ。
彼女が勝手に裏切ったということだろう。
「だがそれでも、私が恨んでいなくても。恨んでいた者が居た」
それでもなお、戦う理由を見出すとしたのなら、
「私は、一の為に戦おう」
大義、それ自体は素晴らしい考えだと思う。
一よりも十を救う。
より多くの者を、より大きなモノを救い、助ける。
それは正しいことだと十人中十人が言うだろう。
しかし、救われなかった一はどうなるのだろう?
十人中十人が見なかった壱は、無いのだろうか?
否だ
一はあった、壱はいた。
大義の為に死んだ者達はいた。
大陸の盗賊達を導き兵とした。
導かれることを拒否した盗賊は? 殺された
民と盗賊、相容れぬ両者を結びつけた。
盗賊を許すことを良しとしなかった民は? 殺された
無抵抗、戦わずに漢の都、洛陽を落とした。
戦おうとした者達は? 殺された
涙を誘う、将二人を救う美談の為に二百以上の民達が? 殺された
「その者達の無念を晴らす為に戦う。復讐を、貴方達の無念を盾に私は正義を語る。語らせていただこう」
それは認めよう。
認めた上で、利用しよう。
あなた達の無念を、、、
「代わりに、必ず、その無念を晴らして御覧に入れましょう。空で、或は地で見ていると良い」
再び、手に持つ偃月刀に力が込められる。
はためく白い旗、それを見る目にもう迷いもなければ、恐怖もない。
彼女は私の為に戦っていない。
もう、彼女は嫉妬によって狂ってはいない。
彼女はあの男を憎んではいない。
そう、考えると心が軽くなり、とまでは行かないが迷いは消える。
「ねえ、関羽。貴方、なんであの変態男と戦うの?」
「私は一の為に、小義の為に大義を討つのだ」
必ず私は、貴方を殺そう。
慈悲深き魔王よ。
復讐という名の正義で
眼前に広がる黒い兵団。
掲げられた漆黒の魏旗。
嘗て、背に背負ったその旗が、今は敵として前に揺れている。
一刀「兵数は、、二千五百、程か。こちらの五倍だな」
兵士「、、、、ごくっ」
隣に居る生唾を飲む兵を見ればわかるように、切迫した状況だ。
籠城戦に置いての優位を兵数で覆されている事もそうだが、それ以上に魏旗の中で異彩を放つ関旗が恐怖をそそる。
一刀「軍神、関羽。もう二度と戦いたい相手では無かったんだが」
兵士「ほ、鳳薦様。その、、大丈夫なのでしょうか」
一刀「大丈夫だ。俺が居るのだ、負ける筈がないだろう」
兵士「そ、そうですよね」
そう言いながらも、震える兵を見れば、危いと感じる。
しかし、それも仕方の無いことだろう。此処は天然の要塞、中岳嵩山城。
建造以降、”ただの一度も戦を経験したことが無い城””無血城”
攻めかたく、守るにやすい。
故に、戦わない城。戦うことへの経験が無い兵が集まる場所。
天国至上、最も誠実で、脆弱な兵士達の吹き溜まり。
罪なき民から、兵になった者達の城。
一刀「皮肉だな。いや、この場合、相手の軍師の力量を褒め称えるべきか」
風と音々は此処が戦場になるなどとは考えもしなかった。
俺もまた、考えなかった。
当然だ。
此処に戦略的価値は無い。
物資の供給を断つのなら、北にある邙山を落とせばいい。
洛陽進軍への足がかりが欲しいなら、東にある虎牢関を攻めるべきだ。
両者に比べて、ここには何の価値もない。
ただ、あるだけの城。ただ、守りやくす攻め難いだけの城。
一刀「こんな所を攻めるなど、馬鹿か大馬鹿かどちらかだけだと思っていたが」
たぶん、どちらでも無いだろう。
相手はおそらく、天才だ。
現に、洛陽に引きこもっていた俺は出てこざるおえなくなった。
戦い開始直後に城が落ちたとあっては全体の士気に関わる。
だから、俺は此処に居る。
最も危険な戦場に、王の俺は立っていなければならない。
一刀「今、思えば、二人の軍師で五人の軍師に勝てという方が無茶だったな。風の策を予想した上での、天国包囲作戦か。痛烈痛快に俺達は相手の策に嵌った訳だ」
戦を長引かせることを良しとせず、唯の一戦にて王を取る作戦。
乱暴なように見えて、計算しつくされた策。一の為の、五十九万七千五百の囮。
一刀「ふ、はははは、はは」
兵士「ほ、鳳薦様?」
この策を考えた者の笑みを思うとつい笑い声が零れる。
獅堂以上に他人を馬鹿にした笑みを浮かべ、他人を貶めることを至上の至福とする軍師。
合理的、かつ、大胆不敵な策を弄する天才。
一刀「俺が華琳を裏切ったことを怒っているのはわかるが、流石に関羽まで連れてくるのは、やり過ぎだと思うのだが。これで満足か?桂花」
天の将が誰も知らぬ中、一刀の生死を駈けた戦いが始まろうとしていた。
いや、ただ一人、知っていて一刀を救おうと大地を駈ける将が居た。
けれど、その者は救うこと叶わず。
たどり着くことすら許されずに剣を落としていたのだから。
やはり、”今”一刀の窮地を知る者は誰もいない。
場所は変わり、洛陽真天城。
麗羽「、、、、、、、」
天軍自称次席たる袁本初はそこに居た。
麗羽「、、、、 、、、、 、、、、 、、、、 」
五歩歩くたびに180度反転し、同じ場所をウロウロと動いていた。
彼女にしては煮え切らないその態度も、今の状況下では仕方のないこと。
長安への民の移送のため、劉協元陛下と共に少し洛陽を離れ、戻ると一刀が書き置きを残して消えていたのだから。
―――天勝利の為、少し、洛陽を離れる。後は任せた。一刀―――
麗羽「大体、何処に行くかくらい書いておくべきですわ!」
くるっと反転
麗羽「でも、その余裕すら無いくらいの危機が迫っていたのかも知れませんし」
再び反転
麗羽「でも、一刀さんは王ですのよ!昔のように将では無いのですから、無茶な真似をするなんて、馬鹿すぎますわ!今すぐにでも探さなければ!」
三度反転
麗羽「でも、私が心配するまでもなく一刀さんは優秀ですし、、いらない真似をして洛陽を混乱させる訳にはいきませんし」
しかし、でも、されど、何度も何度も熟考して。
反転が十一を数える頃、麗羽は足を止める。
麗羽「はぁ、らしく、ありませんわ。こんな態度、美しくも華麗でも無いですわ。考えても答えは出ませんし、したいようにさせてもらいますわ」
納得したように何度も頷いた後、麗羽は一刀からの手紙を見る。
麗羽「行き先が書いてないのはすぐに帰ってくるということですし、具体的な指示がないのも私の優秀さを買ってのことですわね」
ふふん、と自信に満ちた笑顔で手紙を読み返すとその手紙をお守りのように懐にしまう。
麗羽「私は袁本初、袁家当主にして天軍次席。洛陽は任されて差し上げますわ、一刀さん。早く帰ってこないと、天を乗っ取ってしまいますわよ」
そう言って彼女は部屋を後にする、もう、後ろは振り返らない。
何度も同じ所を回ることはせず、ただ前のみを見て歩くその姿こそ、彼女のあるべき姿。
あるいは、その決断は彼女の幸運を持ってしての必然だったのかもしれない。
もし、一刀を追うという決断を下していたのなら、その身は、その黄金輝く髪は血に染まっていたのだろう。
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真恋姫無双夜の王。復讐の英雄、一人立つ王。