「ツン!恋姫夢想 ~とある外史のツンツン演義~」
「第二話 刀と出会いて焔燃えあがるのこと」
軟弱そうな優男。
それが、私のそいつに関する第一印象だった。
出会ったのは、荊州は宛県にある、とある邑。私はその時、師匠であるお人から、見聞を広めるための武者修行に出させられていた。
そしてちょうどその邑にたどり着いたとき、路銀が底をつきかけていた私は、その邑にある飯店に用心棒として雇ってもらった。
そこに、そいつが来た。
「ったく。完全な一文無しだなんて、これから先どうするつもりだったんだか」
「……そりゃ仕方ないだろ?さっきも言ったとおり、気がついたらこの世界に来ていたんだから」
「……言っとくけど、私はまだ、それを完全に信じたわけじゃあないんだからね?あ、あくまでも、人として放っておけなかった。ただそれだけなんだからね!わかった?」
「……はい。すべては私の不徳のいたすところです……」
「ならよろしい」
……完全に、尻に敷かれている情けない男が、猫耳のついた貫頭衣を着た女と一緒に、私のいる飯店に入ってきた。……男のほうは、今まで見たことのないような、白く光る着物を着ていた。見た感じ、少々の腕は立つように見られたが、まだまだ私には遠く及ばない程度の、生っちょろい青二才といった感じだった。
「とりあえず、腹ごしらえしながら、もう一度あんたの話を整理しましょうか。……あ、ねえ!ちょっとそこのあんた!注文したいんだけど!」
「……」
女の声を私は聞き流した。当たり前だろう?私はここの用心棒だ。給仕係というわけではないんだから。
「ちょっとあんた!聞こえてんでしょ!?何無視してくれているのよ!?」
「フン。……お前の目にどう映っているのかは知らんが、私は給仕じゃない。ここの用心棒だ。何か食い物を頼むのなら、他の奴に言うんだな」
「は?用心棒?……そのカッコで?」
「……俺もてっきり、ウェイトレスさんかと思ってた。そんな、メイド服みたいなの着てるから」
う。……いや、その。確かに、私はこの店独特の、給仕の着るひらひらとした着物を着てはいるが。しかもこれがなかなか可愛い意匠で、ひそかに気に入っていたりとかもしてはいるが。いや、そうじゃなくて!
「……う、うるさい!///け、契約のときに、店内ではこれを着ているようにと言われたんだ!だ、だいたい、うぇいとれすだのめいどだの、わけのわからんことを言いおって!私を馬鹿にしているのか貴様!?」
「そ、そんなつもりで言ったんじゃあ!ただその、可愛い娘だなあ、と思っただけで」
ぼっ!!///
一瞬で真っ赤になった私。いまこいつ、私のことをなんて言った?か、可愛い?わ、わたしが?!そ、そんなことがあるわけがけして、いやその。
「……ちょっと北郷?なに給仕に色目使ってんのよ?ふん!いやらしい」
「いやあの荀彧さん?別に俺はいやらしいことなんて何も」
「ふん、どうだか。……そのしょうもない頭の中で、この女をあんな格好やこんな格好やらさせてにやけてたんでしょうが。あーやだやだ。これだから男なんて嫌いなのよ!ハッ!?……まさかあんた、あたしまでその頭の中で犯してないでしょうね?!やだ!この全身精液のけだもの!」
「……そんなことしてませんってば……」
……聞いてるこっちも同情するぐらい、荀彧、と男にそう呼ばれた女の罵声は凄まじかった。まあ、よくあれだけ出てくるものだ。……なんでそんなのが、男と二人で旅をしているんだか。正直理解に苦しむな、うん。
結局その後、本来の給仕に食事を頼んだ二人は、運ばれてきた料理を、あっという間に平らげてしまった。……それほど腹が減っていたとは、いったい何日食事を取っていなかったのやら。
そして、食後の茶をしながら、二人は何事かを話し始めた。……時間帯が通常の食事時を過ぎていたということもあり、店内には数えるほどの客しかいない。だからというわけでもないが、二人の会話は、割と近くにいた私の耳にも届いてきた。……別に、聞き耳を立てていたわけではないからな?
「……それにしても、千八百年……だったかしら?あんたがそんな、遠い時代の人間だって言われても、どうにも信用できないのよね」
「……それについては、俺自身だって信じたくないさ。けど、さまざまな状況がそれを証明してるからさ。例えばこの採譜(メニュー)の字。……正直、半分も読めないからね。俺が知ってる漢字とはぜんぜん違うし」
男はそういいながら、採譜をぱらぱらとめくる。……会話の内容はよく理解できないが、男が文字を読むことが出来ないことは、私にも理解することができた。
「……じゃあ、あんたはこれからどうするのよ?文字が読めない以上、どっかに仕官とかも難しいでしょうし。……まあ、武官としてなら、雇ってもらえるかもしれないけど」
武官?この優男が?……とてもそうは見えないが。
「……どっかへの仕官ってのも、とりあえずは念頭から外したいと思ってる。出来れば、文字を教えてくれそうな先生を見つけて、教えを請えたらな、とは思っているんだけど」
「……そ、そう?……そ、その、そういうことなら、わ、私が教えてあげてもいい、けど?」
「……ほんとに?!そりゃ助かるよ!やっぱ教えてもらえるんなら、かわいい女の子の方がいいしね」
「(ボッ!)か、かかか、可愛い、だなんて///ば、馬鹿言ってんじゃないわよ、この女たらし!ハッ?!……さてはあんた、教えを請うのをいいことに、その間、私にあんな事やこんな事をする気じゃあ……!!」
「……俺は君の目にどんな風に映ってるんだよ……」
男の可愛いという一言に、真っ赤になりながら、激しく罵声をぶつける娘。……なんか、痴話喧嘩というか、じゃれあいにしか見えないのはわたしの気のせいだろうか?
「と、ともかく!そ、そいうことなら、この荀文若さまがと・く・べ・つ・に!教授してあげるわよ。……一応言っとくけど、何かしたら承知しないわよ?!」
「……しませんですってば」
「ふんっ。ま、一応、信用しといたげる。……さて、と。それならどこか、宿を見つけて、そこで……あれ?」
席から立ち上がりつつ、そういいながらごそごそと懐を探る娘。しかし、途中でその様子がおかしくなる。……まさかとは思うが。
「……無い」
「へ?」
「無い!無い無い無い!私の財布が無い!」
「って。……ええーーーー!?」
あ。やっぱり。……しょーがないな、これは。がた、と。私は席を立って、慌てふためいている二人の方へと歩いていく。まあ、とりあえず、女将に突き出して、後は体で払ってもらうしかないだろう。
「荀彧ちゃーん!これ三番卓ねー!」
「は、は~い!……うう、何で私がこんな格好を……」
ぶつぶつと何か言いながらも、その娘-荀彧が店内狭しと駆け回る。桃色の、ふりふりとした給仕服に身を包み、少々引きつった笑顔を振り撒きつつ。
まあ、要するに。
どこかで財布を落としたらしい二人組は、店の女将に散々頭を下げた挙句、この店で飲食の代金分を、働いて返すことになったわけである。
荀彧という名前の娘のほうは、給仕として働くことになり。北郷という男のほうは、先ほどまで店の裏手で薪割りをしていて、今は厨房で大量の食器と格闘中である。……用は皿洗いのことだ。
荀彧の方は、最初は思い切り嫌がっていた。こんな少女趣味な着物は着たくない、と。しかし、そこは無銭飲食をした側である。拒否権なぞ到底あるはずも無く、女将の無言の威圧に、とうとう観念した。
「荀彧ちゃん!今度は五番さんと七番さんだよ!」
「は~い!……すべてはあの三人組のせいよ!今度会ったら、絶対とっちめてやるんだから~!」
どうやら二人は、この邑に着く前に、賊に襲われたそうである。多分、そのときに財布を落としたのだろう、と。本人はそう言っていた。ちなみに、その賊たちは、今厨房で皿洗いをしている北郷が、あっさりと叩きのめしたらしい。……正直、いまいち信用できんが。
「女将さ~ん!お皿、全部洗い終わりました~!今度は何をしましょうか~!?」
その北郷が、女将に次の仕事を求める声が聞こえてくる。どうやら、とりあえずの仕事は終わったようだ。だったら、ちょっと私に付き合ってもらおうか。……見た目とてもそうは思えないこの男が、本当にそんなに強いのか。少し試してみたくなった自分がいた。
だが、私が席を立とうとしたその時だった。
「腹減ったすね、アニキ~。早いとこ、なんか食べましょうぜ~」
「お、オデも、は、腹減ったんだな」
「慌てんじゃねえよ。金ならたんまりあるんだ。いっそのこと、店の食いもん、全部平らげてやるか」
げらげらと笑いながら、三人の男たちが店に入ってきた。細面の男と、ちび。それとやたらでかい大男。細面の男の手には、そいつらには似つかわしくない、結構上等そうな財布が握られている。
「いらっしゃいませ~!!……って。あ、あ、あ、あんたら~!!」
「ああん?なんか用か姉ちゃん……って、おま、お前はあの時の!?」
その三人に愛想を振り撒こうとした荀彧が、大声を上げてそいつらを指差し。その三人もまた、荀彧の顔をみて驚きの声を上げた。
「ちょっと!何であんたらがこんなところに来るのよ!?ていうか、その財布あたしのじゃないのよ!」
「ちっ!」
「あ、アニキ~。ど、どうするんすか~?」
「どうもこうも、こういうときの手は一つだろうが!……ずらかれ!!」
「あ!こら!ちょっと待ちなさいよ!」
そそくさと逃げ去っていく三人組を、荀彧が慌ててその後を追う。何考えているんだあいつは?!一人で追ったところで何が出来る!
「すいません!俺が後を追うんで、後お願いします!」
「え?あ、おい!」
この騒ぎに気づいた北郷も、荀彧の後を追って走り出す。……しょうがない。
「女将!すまんが少し店を離れる!」
「ちょっと?!魏延ちゃん!!」
店を出ると、北郷が裏路地に入っていく姿がちらりと見えた。
「……待てよ?あの先は確か、ろくでもない連中の溜まり場じゃなかったか?……まずいな」
どんなところにも、食い詰めた挙句に、悪さばかりをする連中というのはいるものだ。ここみたいな小さな邑でも、それは例外ではない。
「くそっ!二人とも、無茶するんじゃないぞ!」
愛用の鈍砕骨を手に、私は二人の後を大急ぎで追った。
追いついたのは、それから四半刻(三十分)もした頃だったか。ほぼ予想通り、荀彧はガラの悪い連中に捕まり、ほぼ半裸状態にひん剥かれていた。北郷はというと、先ほどの大男に背後から捕まった状態で、複数の男たちに、良い様に袋叩きにされていた。……おそらく、荀彧を人質にとられたため、下手に抵抗が出来なくなったのだろう。
「ちょっと!北郷を放しなさいよ!……お願いだからもう止めて!それ以上やったら北郷が死んじゃうわよ!」
「あ~?なんだ姉ちゃん、彼氏の心配してる場合か?自分がどういう状態かわかってんのかよ?へっへっへ」
「ちょ!変なとこ触んないでよ、汚らわしい!ていうか、北郷は彼氏なんかじゃないわよ!……だったらいいかなー、なんてちょっと思ったりぐらいはしてるけど……ごにょごにょ」
……なんか、最後のほうは聞き取りにくかったが、この状況でよくあんな強気でいられるものだ。
「おーおー、気のつえー姉ちゃんだ。……こりゃ、犯りがいがあるってもんだぜ」
「そうだな。泣いて許しを請うぐらいになるまで、いや、もっとしてくださいって言うぐらいまで、たっぷり味あわせてもらうとするか」
「ひっ?!」
……下衆どもが。私の頭に、だんだんと血が上ってくる。……桔梗さま。戒めを破ること、どうかお許しください。……もう、我慢の限界です。
「……おまえ、ら。それ以上、荀彧さんに、手を出すな……。彼女を、逃がすんじゃ、なかったのかよ?俺が、言うことを聞け、ば」
「ああ?そんなこと言ったけかな~?覚えがねえな~。けっけっけえっ(ごすぅっ)!!」
荀彧を捕まえていた男が、大きく曲線を描いて吹き飛んだ。……私のこぶしを、思い切り顔面に受けて。
「て!手前!突然出てきて何しやがる!?」
「……下衆に鉄槌を下しただけだ。それと」
どがああああんっっっ!!
「うぎゃああああっっ!!」
「……お前ら全員に、死ぬよりつらい地獄をみせてやる。……この、魏文長さまの手でな!」
「……あ、あんた」
「……下がってろ。……北郷、戦えるなら手を貸せ。もう、わざと捕まっている必要は無いだろう?」
「魏延さん……。わかった」
北郷の口からその台詞が出た瞬間、彼を捕まえていた大男が、これまた綺麗に宙を舞い、私の横の壁に激突した。
「……やるじゃないか。ただの優男だと思っていたけど。……さて、と」
ぎろ、と。私は残りのごろつきどもをにらみつけた。
「……悪餓鬼ども。お仕置きの時間だ。……泣いてももう許さんぞ?」
その後。
例の三人組を含めた馬鹿どもを叩きのめした私たちは、全員を自警団に引き渡し、飯店へと戻った。
取り返した財布で、さきの飲食代を払おうとした荀彧だったが、女将の好意……というか、店を手伝った分でもう払いは十分ということになり、その上、飲食代以上の働きだったと、逆に賃金まで貰っていた。
どうやら荀彧の仕事中の姿が、相当客に受けたらしい。ぶっきらぼうながらも、ぎこちなく笑顔を振り撒くあの姿が、男どもの好感を得たようである。北郷いわく、
「……ツンデレはどこでも、男の萌え心に火をつけるんだな……」
だそうである。……つんでれとか萌えとか、今一何のことかよくわからない言葉だったが。その本人はまあ、もう二度とやりたくないとは、一応は言ってはいた。……少しだけうれしそうな表情をしていたのは、私の気のせいかもしれない。
それはともかく、それから数日後、私たちは三人そろって、荊州を南下する途上にいた。
「……なんであんたまで一緒についてくるのよ?」
「ふん。別についてきているわけではない。私の行く先が、たまたまお前たちと同じだっただけだ」
そう。けっして、北郷に興味を持ったとかそういうのではない。あくまでも、たまたま、同じ方向に歩いているだけだ。
「そういう荀彧こそ、なぜこっちにきているのだ?お前は確か、陳留に向かっているはずではなかったのか?」
「……るっさいわね。どうせなら、荊州の情勢を見て回って、それから陳留に行ったほうが、曹操さまに仕官するにも都合が良いと思っただけよ。ふんっ」
「ふーん。そーか、そーか。……てっきり私は、荀彧どのは北郷一刀にべた惚れでついてきたと思っていたが」
まあ、十中八九そうなんだろう、と。私は荀彧の態度から、ある程度は察していた。色恋に疎い私でもわかるくらい、荀彧はどうやら、北郷に相当ほの字のようだ。しかし、本人は絶対それを肯定しない。こんな感じで、思い切り否定してきた。
「んな?!だ、だれがこんな女たらしの全身性液に惚れてんのよ!脳筋女がいい加減なこと言うんじゃないわよ!」
「な!?誰が脳筋だとぉ!?」
「あんたに決まってるでしょうが!この暴力女!!」
ぎゃあぎゃあと、互いに罵声を浴びせあう私たち。その後ろで、北郷がこんな事をつぶやいているとも知らずに。
「あ、はは、ははは……大丈夫なのかなー?こんなメンバーで旅だなんて……。うう、なんか、胃が痛くなってきた」
「ふんっ!」
「ふんっ!」
最後に思い切り鼻息をつきながら、私たちは互いから顔を背けた。
……本音を言えば、私も北郷一刀という男に、ある種の興味を抱いてはいた。
けれど。
それが、実は、私にとっての初恋だったと。
そう気づくのは、もう少し先のことだった。
~続く~
さて、ツン√、第二話でございます。
今回焔耶が合流しました。
が。
・・・焔耶のツンって難しい・・・。
なんか、デレっぱなしのイメージしか無いんですよねー。
なんでかな?一刀に対しては、しっかりツンなキャラな筈なのに?
それと、モノローグがどうも思春と被ってる様な気がしないでもない。
もっと勉強しないとなー。
とりあえず、次の第三話で、初期面子の三人が揃います。
誰かはもう、お分かりですよね?
焔耶としっかり区別つくように、きちんと表現できるよう、鋭意努力させていただきますw
それでは、今回はこれまで。
再見~!ですw
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はいはい、ツン√二話目で~す。
2828萌えていただける内容になっていたら、
作者としてはうれしい限りですw
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