No.194053

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第十一話

よしお。さん

第十一話をお送りします。

―過去の記憶を持って目覚めた孫策。
呉には同じく過去の記憶を持った者が―

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2011-01-04 23:45:22 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5487   閲覧ユーザー数:4533

 

 

 

―――死の先は存在しない。

思考する脳が無い。だから疑問を感じない。

行動する四肢が無い。だから痛みを感じない。

自分という存在が無い。だから孤独を感じない。

此処には何も無く、此処がどこかなんて知る術も無い。

 

 

 

だから おかしい。

 

 

 

今、私は確実に思考しているから。深くて暗いまどろみの中で確信する。

悲しいと、感じている。

握り締めた拳に、痛みを感じている。

誰かが愛しいと、感じている。

だから起きなくてはいけない。

 

 

 

視界がゆっくりと懐かしい色の世界に移り変わり、同調するように記憶が揺り戻される。

 

 

 

私の名前は孫策伯符。

―――孫呉の王。

 

 

 

そう自覚した瞬間。一面の黒色は消え去り世界が反転した―――。

 

 

 

 

 

 

ゆっくり目を開くと天井が見える。赤く塗られた自室の模様がひどく懐かしい。

腕を掲げ、自分の存在を確かめるように動かすと現実感が湧いてくる。

頭の中に去来するのはこれから先の未来、まだ見ぬはずの日々の中で大陸制覇へと乗り出す夢……。

 

だがその宿願は適わないはず

少なくともこの“孫策”が死ぬまでは。

 

「夢?もしくは死後の世界かしら……」

 

呟き、自分でその言葉を打ち消す。

 

「にしては記憶が矛盾してるわね」

 

確かに昨晩ここで就寝したのは覚えている。同時に毒矢で射られ、志半ばに倒れた記憶がある。

どちらにも実感があり夢幻とは到底思えない。

 

「ああ、もう。どうなってるのよ?」

 

頭を掴み、唸るが答えは出ない。

異なる記憶は織り交ざり合いながら次々と情報が押し寄せてくる。

 

仮に死んだ記憶を前回のものとするのならば、今はまだ袁術の元で活動している時期かしら?

ともすれば二回目の生という事。始まりは曖昧だけどこの表現が一番しっくり来るわね。

……またあのちび助の相手をしなくてはいけないと思うと嫌になるけど。

 

溜息を一つ。焦らず記憶の整理を始めていく。

呉の事、冥琳や妹達の事。たくさんの思いの中で一際輝く存在がいた。

 

天の御遣いとして祀り上げられ、利用される立場にあったはずの彼……。

突出した才能なんて一つも無いのに、なぜか気になってしょうがなかった。

本当に全ての人々を救いたいと願い、努力を続けていた。およそ自分とは正反対の優しすぎる性格。

だからこそ惹かれたのだろう。仲間達全てが彼に恋していたように。

 

 

 

「一刀……」

 

 

 

私を只の女の子と言ってくれた、彼。また私達は再会できるのかしら……。

思考に暮れ、寝台から半身起こした状態でいると、どこからか足音が近づき、扉が開け放たれた。

そこには見慣れたはずの顔がある。

 

「雪蓮、早く起きるんだ。いつまでも寝坊は許さんぞ」

 

呆れたようなその声を聞き、私は思考の渦から現実へと引き戻された。

 

「冥、琳……」

 

「ん?どうした。何をそんな驚いた顔をしている?」

 

今と前回の記憶に整理がつかない状況での彼女との再会はあまりにも衝撃的で、思わず感情が爆発してしまう。

 

「冥琳!!」

 

寝台から両手を広げ、飛ぶように襲い掛かる。

 

「わっ!?な、なんだいきなり!うわっ、こら、いきなり抱きつくな!」

 

「冥琳!冥琳!!本当にあなたなのよね?これが夢とかいわないでよ!」

 

彼女は突然のことに困惑した様子だが、私の勢いは止まらない。抱きしめ、全身で存在を感じる。

 

「ああ……!私は本当に生き返ったのね!またみんなと一緒にいられるのね!」

 

これが如何なる奇跡であろうと今はどうでもいい。

さっきまで思い悩んでいたのが馬鹿らしく感じる。

 

「何の事を言っているのだ、とにかく離れろ!」

 

「悪いけど聞いてあげない。しばらくはこうさせてもらうわ」

 

「なんだと?くっ、一体どうしたというのだお前は」

 

「どうもしないわ、私は私。……そうよね。さすがにびっくりするわね。冥琳、長くなるけど聞いて欲しい話があるの」

 

 

 

 

 

 

そこから私は前回の、自分が命を落とすその時までの歴史を語った。

死からの再生なんて、夢のような出来事だけど、今の現実とこの記憶はきっと繋がっている。

全てを語り尽くすには時間が掛かるので要点だけ説明を済まし、こう切り出した。

 

「一刀を探しに行きましょう!」

 

今の世界ではまだ姿を見ていない、一刀はきっとどこかで待っているはずだ。

天の御遣いという存在は大きいし、また一緒に過ごせると思うと心が躍る。

この先の未来が分かるなら運命は変えられるはずだ。

毒矢に倒れる事も、妹達に重責を負わせる事もない明るい孫呉の未来が!!

 

「……いい加減落ち着かんか、孫策」

 

「冥琳?」

 

黙って聞いていた彼女は背に回した腕を無理に剥がし、怒気をはらんだ声で訴えかける。

 

「先程からの言葉、狂言にしか聞こえんぞ……。お前は王。何があったか知らんが、もっと毅然とした態度を取れ!!」

 

自分でも抑えきれない高揚が癇に障ったらしい。

 

「第一、雪蓮が言っている 天の御遣いとは誰の事だ?少なくともそんな予言は聞いた事が無いぞ」

 

「……え?ちょっと待ってよ。私が拾ってくる天の御遣い、一刀よ。ほら、管輅が予言した流星の話、知らないはずなんてあるはずが……」

 

いや、そうだ。流星落下の報告はあっても“天の御遣い”の予言を聞いた事は無かった。

だとするなら、一刀は存在しないのか。

一抹の寂しさと例えようの無い違和感が交錯する。

 

御遣いという存在は大陸制覇には必ずしも必要ではない。いないほうが自然とも言えるはず。

だが、この確信めいた予感。これを気のせいとは信じたくは無かった。

依然として抗議の視線を投げかける彼女に説明を続けるが、まるで信じてくれる様子は無い。

 

どうしたものかと考えていると、廊下のほうから走る音が聞こえる。

やがてそれは近づいて、部屋の前で止まった。

 

「……穏?」

 

大きな胸を揺らし、息を切らせながら、潤んだ目でこちらを見つめている。

思いつめたような瞳はやがて、決壊したように涙を溢れさせ、さっきの私のように飛び込んできた。

 

「うっ、うっ……うああああああああああああん!」

 

冥琳ごと抱きしめられ、子供のようにえんえんと泣き始める陸遜。

 

「な、なんなのだ今日は……」

 

朝から連続する珍事にさすがの周瑜も混乱してきたようだ。

 

 

 

 

 

 

「ひぐっ、雪蓮様ー、冥淋様ー、お会いしたかったですー。う、うあぁぁ……」

 

「穏、まさかあなた……」

 

その言葉にもしかして、と声をかけようとしたところで更なる客人が入ってくる。

 

「おお、会話の途中いきなり走りだしたかと思えばここにいたか」

 

「黄蓋殿まで、いったいこれは」

 

涙を流し続け、会話が成り立たない穏に一瞥くれると、

褐色の肌、歴戦の雰囲気を感じさせる女性は首を傾げながら話始める。

 

「こやつ朝から言動がおかしくてな、会うなり、やれ天下二分だの、過去の記憶だのと質問攻めに負うて困っておったのじゃ」

 

「過去の、記憶ですか」

 

「うむ。当然世迷言と一蹴したのだが、策殿に会うと駆けて行くものでな。なにか只事ではないと思い、着いてきたのだ」

 

「……やっぱり。穏、前の事を思い出したのね」

 

抱き締められるままだった雪蓮は応えるように腕を回し再会を喜ぶ。

 

「ぐすっ、朝起きたと思ったら昨日の部屋と違うのに気が付いて、うぅ、通り掛かった祭様との会話で気が、ついっ、ふぐぅぅ……」

 

止まらない涙と一緒になって漏れる言葉は聞き取りにくかったが、その気持ちは十分に伝わってくる。

さすがの冥琳もそんな彼女を足蹴に出来るわけもなく、泣き止むまでそのままでいてくれた。

今度こそと、事態が把握できない祭を含めた四人できちんと話し終えるまでには、すでに昼に差しかかろうという時間が立った。

 

 

 

「……だから、本当だったらこれから先の戦いでお二人ともお亡くなりになられていたんですよぅ……。

ううっ、また再会できるなんて夢のようですぅ」

 

 

 

穏の記憶はずっと未来、大陸制覇まで覚えているらしい。

私が死んだ後の呉は蓮華の指揮のもと、ついに宿願を果たしてくれたのだ。

ただ、その戦いの中で冥琳までもが命を落とすとは思ってもみなかった。

他にも記憶の内容をすり合わせ、この世界に戻ってきた確信を得る。

 

「にわかには信じがたいのう。いったい、なにが起こっている?」

 

「それが私にも皆目検討もつかず……」

 

記憶の無い二人はいまだ私たちに奇異の視線を浴びせてくる。

とりあえずは信じてくれたようだが、なぜこんな事態になったのかまでは分からないままだった。

それでも今ここで生きている奇跡を噛み締めたい。

 

「きっと他の娘も妹達も覚えているはずよ。その為にも冥琳、お願いがあるの」

 

「……聞くだけは聞いてやろう」

 

「やっぱり一刀は必要だと思うの。だから―」

 

「却下だ」

 

「聞いてくれるんじゃ無いの!?」

 

「仮にお前達の話を鵜呑みにするとしてもだ。その男を引き入れる理由が無い。

“前回”とやらは“天の御遣い”という大義名分があったらしいが今はどうだ?

まさか我らが噂を広め仕立て上げるとでも言うのか?」

 

「それは……」

 

確かに本当に一刀が天の世界から来た人間という確証は無い。

あくまで御遣いの噂、その信仰を利用する為の手段だったからだ。

彼の提案する天の知識のいくらかは穏が記憶している。

必要無いと言われればそうかもしれないが……。

 

「なんにせよ。人捜しをする余裕などどこにも無い。そういう事はまず、袁術をどうにかしなければ始まらんぞ」

 

「儂も同意見じゃ、それに少々落ち着かれた方が良い。方針を変えるというのなら、今この場で決めるのはあまりに早計にと存じますぞ」

 

悲しいが、焦って行動し自滅する事だけはあってはならない。それは一刀も望まないだろう。

 

「大丈夫ですよ、雪蓮様。きっとすぐ再会できますよ」

 

ようやく落ち着いた穏は記憶を持つ者同士、心中を察してか慰めかける。

 

「あの人は絶対どこかに居ます。だから今はやるべき事を成しましょう」

 

この記憶が有れば決して悪いようにはならないはず。私は孫呉の道を突き進もう。

 

(待っててね、一刀)

 

「……」

 

雪蓮の横で冥淋は冷たい視線を向ける。

なぜか、そんな彼女をどこか危ういと感じるからだ。

小さい疑念と前回の記憶という不確定要素に頭を悩ませる。

 

だがその疑問も次の穏の爆弾発言で掻き消えてしまう。

陶酔したようなうっとりした声で呟く様は女を感じさせ、ぽつりと一言。

 

 

 

「はぁ、私も早く旦那様にお会いしたいですぅ……」

 

「「「ッ!?」」」

 

 

 

三人の声が綺麗に重なった。

 

 

 


 
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