No.194041

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第十話

よしお。さん

第十話をお送りします。

―この戦場はただの戦場ではない。
白装束たちが見ている。見ているのだ―

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2011-01-04 23:18:23 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5556   閲覧ユーザー数:4596

 

 

 

対峙する夏侯惇と俺こと北郷一刀。

互いに距離を取り機を伺う。

得物のリーチにほとんど差が無い分、恋の時のように一方的な展開にはならないだろうが、相手は魏武の大剣と呼ばれる程の猛者。気は抜けない。

 

正眼からやや下に剣先を下ろし迎撃の構えに移行する

対峙して初めて気づく生の殺気。じっとりと汗が滲み、心拍数が上がっていく。

 

「行くぞ、北郷!」

 

声と同時に振り下ろされる大剣は真っ直ぐ左肩を狙っている。

それをしっかりと見据え、刀で受け流そうとするが想像以上の威力に後ろへ押し出されてしまう。

 

一瞬の安堵もつかの間、すぐさま放たれる追撃の数々もなんとか捌き切る。

徐々に後退しながらも致命的なキズは無い。

恋や霞相手の特訓が功を成したのか驚くほど体が反応する。

 

「なかなかやるな。武官としての心得もあるのか」

 

何合か打ち合った後、感心したような声で夏侯惇が喋りかけてきた。

息が乱れた様子は無い。こっちは一合ごとに魂が削られる気分だというのに……。

 

「護身程度の実力だけどね。簡単には負けないよ」

 

夏侯惇は薄く笑い、再び殺気が放たれる。

どうやらこちらの実力を過大評価してるみたいだ。手加減されていたのか今まで以上のプレッシャーに押し潰されそうになる。

 

……前言撤回。すぐにでも負けそうだ。いずれ押さえ込まれて捕らえられてしまうビジョンが目に浮かぶ。

ここであえて曹操側に捕まるのも選択肢のひとつかもしれないが、女の子を残して負けを認めるのは納得いかない。

途中退場してしまえば恋や月に無用な心配をされてしまう。

捕まえる=記憶があるという事が本当ならきっと俺を求めてくれているんだろうけど……。

 

曹操には悪いが今の俺は董卓軍の将。彼女達を守りたいんだ。

負けるわけにはいかない。例えどんな手を使ったとしても。

だから―――

 

 

 

 

 

 

「……貴様、何の真似だ」

 

「とっておきさ。言ったろ?簡単には負けないって」

 

下段寄りの構えを解き、霞相手に使った裏技の構えを取る。

夏侯惇はそれを見て正気を疑う。それはあまりにも異質で、見た事も聞いた事も無い構えだからだ。

 

両足を開き腰を落とし、一切の機動を捨てた死に体に。

上半身は右肩を突き出し、左手は鞘へ。

あまつさえ剣は納刀した状態。……いや、若干抜いた状態か。

どちらにせよ、“剣を収めた状態の構え”など有り得ない。

 

「勝負を捨てたか北郷!」

 

降参の意思にしてはまったく目が死んでいない。むしろ鋭さが増しているがその質問はもっともだ。

けれど一刀は目はそのまま、小馬鹿にした態度で挑発してきた。

 

「御託はいいよ。もしかして怖くなったか?猪武者」

 

「……なんだと?」

 

真意を聞くより早く、次々と侮蔑の声が続く。

 

「勝負を捨てるわけ無いだろ?馬鹿だろあんた。少ない脳みそでよく考えろよ。あっ、そこまで頭が回らないから馬鹿なのか」

 

「なっ」

 

「見た事が無い構えだから怖いって正直に言ってみろよ?もうこの仕合は早くも終了ですね」

 

「貴様、いい加減に……!」

 

「おお怖い、怖い」

 

うざい顔と突然の事にどんどん夏侯惇の怒りゲージが高まっていく。

そしてトドメと言わんばかりの一言。

 

 

 

「こんな事じゃ曹操なんてたかが知れてるな。部下がこれならとんだ無能……愚者の極みだな」

 

―――ぶちっ

 

一刀を包囲する兵士達は確かにその音を聞いた。

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」

 

この広い戦場に怒号が響き渡る。まるで空気自体が振動していると錯覚するほどの声量。

真正面からそれを聞いた俺は心臓が止まりそうな衝撃を受けた。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

まさに地雷。夏侯惇の逆鱗に触れた今、必殺の一撃が迫ってくる。

これをまともに受ける術など無い。無慈悲にそのまま殺されるだけ。

そう確信できる程の戦い始めとは比べ物にならない最速最大威力の豪撃。

だが―――

 

(そう、お前ならそう来るよな)

 

この状況こそが罠。乾坤一擲の策だ。まともに正面からの戦いで勝てない以上、搦め手が必要。

こちらの最高の手札は“居合い抜き”。 

 

納刀状態から鞘を使って加速。抜き際に刀と鞘を同時に引き、更に加速。

刀だけが持つ最速剣技。

本来なら居合いは実戦向きの剣技じゃない。放った後のスキも大きいし、少しでも剣先がぶれると威力は半減する。

刻一刻と変化する戦闘で使うものじゃない。まして十分な修練を積んでいない一刀にとって相手の剣に合わせるなんて芸当は不可能だ。

だがこれでなければ夏侯惇を負かす事は出来ないだろう。

ならば成功させる為の状況を作りださなくてならない。

ゆえの挑発。怒り心頭の状態なら単調な攻撃になりやすい。予め来る箇所が分かるなら未熟な居合い技術でも対処できる。

初めからそこに構えを持っていけば成功率は一気に増すからだ。

 

(大切な曹操を侮辱されたお前は絶対にキレるはず。そしてその状態からの一撃目は!)

 

脳内に浮かび上がる過去の記憶。ぼんやりと浮かぶ情景の中に確かに彼女はいた

 

(大上段からの袈裟斬りだろ!春蘭!!)

 

夏侯惇の豪撃と一刀の居合い。

大剣と刀は見事打ち合い、甲高い金属音が鳴り渡る。

取り囲む兵士達は二人の剣筋を追う事は出来なかったが、どちらも最高の一撃というのは感じられた。

 

一瞬の静寂の後、上空から空を切る音が落ちてくる。

それはどちらの武器か?

 

 

 

地面に突き刺さったのは―――

 

 

 

 

 

 

「今のを見たか。翠よ」

 

「……ああ、間違いねぇよ。……ご主人様だ」

 

二人の決戦より少し前、劉備軍陣営にてそれはよく見えた。

突如、崖を降りてきた一刀の姿、遠目とはいえ、見た瞬間に湧き上がる懐かしさに胸が詰まる。

 

「やっぱりここに居たんだ。ご主人様……」

 

桃香は安堵の為か、すでに涙目になっている。もしかしたら二度と会えないかもしれないという悪い予感がやっと解消されたからだ。

 

「すぐにでも迎えを用意しましょう!」

 

冷静な判断を下すべき朱里も興奮した様子で言葉を続ける。

 

「愛紗さんは華雄将軍の相手をしています。なので別の方にお願いしたいんですが……」

 

「鈴々!鈴々が行くのだ!!」

 

「待て、敵陣を突っ切る危険な任務だ。ここは任せて貰おうか」

 

「いいや、あたしの馬で一気に拾ってくるぜ」

 

喧々囂々。我先にと主張を繰り返す将軍達。

誰もが一番に再会を果たしたいのだろう。泗水関の先陣を決めるときより余程白熱している。

そんな輪に入れなかった少女が一人、雛里がいじけた様子で崖の方を仰ぎ見ていた。

 

「あう、ちょっと怖いよぅ。朱里ちゃんもなんだかいつもと違うし」

 

誰にも聞こえないような呟き。根っから気の小さい雛里にとって今の状況はとてもじゃ無いが入り込めない。

せめて二番目くらいに会いたいな、と空に祈っていた。

そして、少々の時間が過ぎ。仲間の元へ帰ろうとした時、一陣の風が吹き荒んだ。

 

「あわわ!?な、なに?」

 

思わず尻餅を突いてしまうほどの突風、帽子が飛ばされないようしっかりと手を握り、目を開けると隙間から意外なものが写った。

 

「蹄の跡?なんで?お馬さんなんて通ってないのに……?」

 

風と共に地面に残された真新しい蹄の跡。その先を追うと真っ直ぐ一刀の落下地点に向かっているようだ。人の波が掻き分けられているようにも見える。

 

「まさか……幽霊!?」

 

今は昼だとか幽霊に足跡は残せるのかと疑問はたくさん残るが、彼女の平常心を奪うには十分な怪異だ。

 

「あわわ!朱里ちゃん助けてぇー!幽霊が!お馬さんの幽霊がぁ……」

 

腰を抜かし慌てふためくが、いまだ誰が行くか決まっていないのか助けに来る気配は無い。

此処こそが大きなターニングポイントだったのに。

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿な」

 

信じられない、といった顔で夏侯惇は自分の大剣を見た。

手元にあるはずのそれは離れた地面に突き刺さっている。対する相手の武器は自分の首の前で静止している。つまり。

 

「……この私が一騎討ちで負けたというのか」

 

愕然とした気持ちでうなだれる。華雄に続きこんな男にも敗北するとは不甲斐無いにも程がある。

 

「ここは俺の勝ちって事でいいよね。トドメを差すつもりは無いからこのまま通してくれる?」

 

刃を突きつけながらもそういう男はどこか申し訳なさげに喋りかけてくる。

 

「それとさっきはゴメン。曹操を侮辱して。あれは本心じゃないから勘弁してほしい」

 

「……どういうことだ」

 

「あくまでさっきのは君を惑わす為の口上だからさ。実際の曹操がどれほど優れているのかはよく知っているからね」

 

事実、魏という大国を一代で築き上げた人物が並みの凡人でない事は確かだ。

 

「つまり、まんまと貴様の策に嵌まったわけか……」

 

「そう、なるね。うん、そうでもないと勝てそうになかったし」

 

こんな危険な賭けはこれ限りにしたいと一刀は強く願う。

夏侯惇は敗北感からか顔を上げず、表情が読み取れない。

それを見てなぜか胸がチクリと痛む、あの猛将に勝ったというのに晴れた気持ちにはなれず純粋に彼女を慰めたくなった。

 

「あ、あのさ―」

 

慰めの言葉をかけようと刀を下ろそうとしたその時、視界に危険な光が映った。

それがなんなのか理解するより早く体が動く。

庇う様に夏侯惇を抱き、強引に引き寄せるが。間一髪間に合わず光が一刀に当たる。

 

「わぷっ!?貴様何を……!?」

 

突然の抱擁になぜか赤面しつつも一刀の背中を見て驚く。

そこには一本の矢が突き刺さり、血がドクドクと流れているではないか。

 

「ぐっ!」

 

白いマントは血で染まり、身代わりの形となった一刀はぐらりと倒れ込んでしまう。

 

「くっ。誰だ!一騎討ちに水を差す愚か者は!!」

 

戦士に対するこれ以上の侮辱は無い。矢の元を追うとそこには見た事の無い衣装に身を包む人間がいた。

明らかに魏の兵士とは異なる風貌、白装束を深く被り顔は判らない。

ただ一言が繰り返し聞こえてくる。

 

「歴史、修正……歴史、修正……歴史、修正……」

 

うわ言の様に唯一見える唇が動き、更に矢を放つべく弓を引き絞っている。

 

「お前達、なにをぼうっとしている!そいつを取り押さえろ!」

 

号令を放つがなぜか反応する声は返ってこない。

なぜなら。

いつの間にか取り囲んでいた兵士は皆倒れ、白装束に包囲されていたからだ。

 

(……白装束だと)

 

失血のせいか眩む視界でぼやけるが確かに一面が白い人物で満たされている。

なぜ、此処で現れるのか。まさかこの場所で命を奪うつもりなのか。

疑問は尽きないが兎にも角にも大ピンチには変わりない。

 

(一難去ってまた一難か……)

 

前線で戦うのがこんなにも苦しいとは知らなかった。

自分は何度もこんな場所に彼女達を送り込んでいたのかと思うと、さっきと同じように胸が締め付けられる思いになった。

 

「くそっ、こいつらはいったい何者だ!」

 

「……白装束。敵だよ」

 

「北郷!?」

 

「俺の事は良いから武器を拾って突破してくれ。こんな空けた場所じゃいい的だ」

 

今度は自分を庇うように立ってくれている彼女にそう告げた。

 

「目的は分からないけど、とにかく今は逃げてくれ。敵将を守るなんて矛盾はするなよ」

 

「くっ」

 

『それはお前もだろう』と言いたいが、確かにこの状況では共倒れがいいとこだ。

どうしたものかと思案していると、またもや異変が起こる。

目の前の白装束の人間が吹き飛び、蹄の音が聞こえる。

けれど姿は見えず圧迫感だけが迫ってくる。

そして音は真横まで近づきなにかが止まった。そして。

 

「なぁ!?」

 

独りでに一刀の体が持ち上がり始めた。それどころか徐々に姿が消えていく。

まさに怪異。もはや言葉にならずただその様子を眺めてしまう。

やがて完全に姿は視認できなくなり、再び蹄の音だけが遠ざかっていく。

近くで沈黙していた赤い馬は何を思ったのか、遠ざかる足音に向かって駆け出していった。

敵中に一人残されながらも夏侯惇は一人愚痴る。

 

「どうなっているのだ、この戦場は……」

 

当然、白装束が応えるはずも無く。

変わりとばかりに矢が放たれた。

 

 

 

 

 

 

「一刀!!」

 

薄れる意識の中。誰かの声がする。

とても懐かしい声だ。聞くだけで涙が零れそうになるのはなぜだろう?

いつの間にか抱き抱えられているのが分かる。優しくもしっかりとした抱擁。

いまだ朦朧とする意識の中で一人の女性の名が思い浮かんでくる。

苛烈で気高く、誰よりも仲間を愛する女の子。

いつかどこかで悲しい別れがあったはずなのに……。

祈るような気持ちで一言呟いた。

 

「……雪蓮?」

 

すぐさま自分を抱きしめる力は強くなり、返事が返ってきた。

 

「そうよ一刀!だから、死なないで!」

 

孫策伯符。真名は雪蓮。孫呉の王である君がどうして此処に?

疑問を尋ねる気力も尽きかけ、口に出ない。

 

「まずいわね、当たり所が悪すぎる。……お願いもう少し頑張って!」

 

担ぎ上げられ恐らくは馬に乗せられたのだろう、視界が少し上がった。

その隅から道士の格好をした一人の女が近付いてくる。

二言、三言会話があった後、不思議な感覚に襲われ声を聞いた。

 

「御意、わたしにお任せください」

 

道士の女は答え、次の一声を聴くと急速に意識が奪われていく。   

 

「消」

 

それは如何なる呪法か。

確認はできず、心配するセキトの声を最後に意識を手放した―――。

 

 

 


 
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