No.182580

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十一話

アボリアさん

時間の流れというものは思いのほか早いもので、肌寒さが日に日に募る今日この頃 皆様はいかがお過ごしでしょうか?
こんな前置きをして何が言いたいのかというと……すみません、前回の投稿から、一ヶ月近くもの間が開いてしまいましたorz

言い訳をさせて頂けるのならば更新が遅れたのは偏に仕事が週休一日も怪しいほどに忙しかったせいであり、決してとある電撃文庫のライトノベル(現在二十四冊刊行中)にハマりまくってただでさえ少ない余暇の時間が無くなってしまったせいでも、DSリメイク版ドラ〇エⅤにもハマり休日丸々潰してプレイしていたせいでも無い訳で……本当に済みませんw

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2010-11-04 21:20:51 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7460   閲覧ユーザー数:6247

天和が倒れた後の事、俺達は水鏡先生の紹介で、長沙で医者をやっている張仲景という人の下へと彼女を運んだ。

そこで仲景さんから下された診断は……予想通りというべきか、傷寒症を患っているというものだった。

ただ、不幸中の幸いと言うべきか、発病からまだ時間があまり経っていなかった事、そして仲景さんが傷寒症という病についてのスペシャリスト(何でも、仲景さんは不幸にも親類一同がこの病によって命を落としてしまったらしく、その撲滅に全力を注いでいるのだという)らしい為、数日間安静にしていれば大丈夫だろう、という仲景さんのお墨付きだった事に、俺達は胸を撫で下ろしたのだった。

 

 

 

……だったのだが、

 

 

 

「う、うぅ……ん……」

 

あれから一週間ほど経った今でも、天和は熱にうなされていたのだった。

 

 

 

 

「先生、天和の容態は……?」

 

天和を診てくれている初老の男性……仲景さんに尋ねてみる。

すると仲景さんは「ふむぅ……」と、難しい顔をして答えた。

 

「熱はあるものの高熱とまではいかんし、発疹は綺麗さっぱり治っておる。傷寒については完治したとみて間違いないのだが……」

 

だが現に天和は微熱が続いていて、時折苦しそうな声を上げている。

最初に倒れた時のように高熱でうなされ、自力で立ち上がる事ができなかった時に比べればいくらかはマシになったとはいえ、尋常じゃない量の汗がでる、など普通では考えられない状態が続いていたのだ。

 

「風邪(ふうじゃ)の類か?……いや、それにしては様子が違う。それにこの大量の汗……まさか」

 

考え込むようにブツブツと繰り返していた仲景さんだったが、何かに思い至ったように立ち上がると急ぎ足で本――恐らく医術書の類だと思う――を確認し、天和の呼吸や体温などを確認していく。

 

「……時にお主等。この娘は今まで病……特に内の臓か、更に言えば肺の病に罹った事はあるかの?」

 

仲景さんの言葉に俺達は顔を合わせる。

俺が三人に会ってからはそんな事は無かったはずなので、目線で地和、人和に問いかけるのだが……二人から返ってきたのは無言の否定だった。

 

「そう、か……」

 

二人の返答に落胆の表情を浮かべる仲景さんは、厳かな口調で。

 

「恐らくこの娘は傷寒だけでなく、他の病も併発しておる。恐らくは……労咳。儂では……いや、恐らく大陸でも治せる者がおるか、分からんほどの難病じゃ」

 

衝撃的な事実を突きつけたのだった。

「そ、……それってどういうことよ!?」

 

その言葉に跳ね上がるように立ち上がり叫ぶ地和。

 

「お、落ち着いて姉さ……」

 

「落ちついていられるわけ無いでしょ!?な、何よ!?治らないってどういうことよ!?」

 

「だから落ち着いてっていってるでしょう!?」

 

突然の大声にビクッ!!と驚き、声の主……人和を見る地和。

 

「動揺するのは分かるし、私だって平気なわけが無いじゃない。でも、ここで騒いだって姉さんががよくなるわけじゃない。寧ろ、迷惑になるわ」

 

「うっ……」

 

人和の言葉にグッと言葉を詰まらせる地和だったが、それが正論だったため、渋々と言った感じで引き下がる。

 

「……それで。天和は、どうなるんですか?」

 

問いかけに「……正直、症例が少ない為、儂にもはっきりした事は分からんのだが」と前置きをすると、仲景さんが話し始める。

 

「労咳に罹ったものは微熱が断続的に続き、常人では考えられない量の汗をかき、症状が進めば咳を……それも、血を伴う咳をするようになり、感染者のほぼ全てが、死に至る」

 

 

「「「……っ!!」」」

 

 

『死』と言う言葉に俺達は絶句してしまう。

 

「この病は感染しようとも、健常者ならば症状が表に出てくることは少ない。だが、今回は傷寒によって体力が落ちたために症状が発生してしまったのだろう。そして……悔しいが、儂にはそれを治療する術が無い」

 

「そん、な……」

 

仲景さんの言葉に、俺は愕然としてしまう。隣にいる人和も、地和も同様だった。

 

詰まるところ、仲景さんのいった事は……

 

 

 

それは、天和への、死の宣告だった

 

 

「……俺が、もっと気を配っていれば……」

 

誰に言うでもなく呟く。

確か、正史での張角の死因は……病死だったはずだ。

それも、乱世が本格的になる前。つまり、この時期か、もう少し後になっての話だ。

俺はそれを知っていながら、この世界の張角……天和はまだ若い女の子だったからそれに対する懸念を忘れていたんじゃ……

 

(……いや)

 

そんな事は関係ない。俺は天和の……この世界に来て初めて知り合った少女の、命の恩人の、……大切な少女の病気にも、気付いてあげる事が出来なかったのだ。

 

もっと俺が、しっかりしていれば……っ!!

 

「なにか……何か、手は無いんですか!?何でもいい。どうにかして彼女を救う事はできないんですか!?」

 

喚くように仲景さんに詰め寄る。だが仲景さんも、悔しそうに顔を歪めるばかりだった。

 

「ここではどうしようも無いのだ。漢中……そこに伝わる五斗米道なる医術の伝承者、華佗という男ならばあらゆる病をたちどころに治してしまうと聞いたことがあるが、ここから漢中までは……」

 

独白するように小さく呟く仲景さんの声が俺の元にかろうじて聞こえてくる……え?

 

 

 

今の言葉、聞いたことが無かっただろうか?

 

 

 

“俺は流れの『医者』をやっているものだ”

 

 

“『張沙』に古い知り合いがいるんだ。その人も医者をやっているから、良い話が訊けるかと思ってな”

 

 

“この『五斗米道正式継承者、華元化』!!この恩は一生忘れない!!”

 

 

 

 

(五斗米道の医者、華元化……華佗!!)

 

 

 

 

俺はガバッ!!と立ち上がると、一目散に出口へと向かい走り出す。

 

「え?ちょっ、一刀さん!?」

 

「か、一刀!!何処行くのよ!!」

 

突然の行動に驚く二人だったが、今は返事をしている余裕も無い。

 

「地和!!人和!!天和の事を診ていてくれ!!頼む!!」

 

俺は二人に吐き捨てるように叫び、街へと走り出した……っ!!

 

これといって当てがあった訳ではない。

 

(宿には……いない!!)

 

宿街にある店に片っ端から訊いてみたが、有力な話を聞くことはできなかった。

 

 

 

彼は長沙には来るといっていたが、それまでに連れを探し、来る途中の村々にも立ち寄るといっていたから、今、長沙にいるという確証があるわけでもない。

 

(大通りは、……クソッ!!)

 

人混みで賑わってはいたが、あの特徴的な赤髪を見つけることは出来なかった。

 

 

 

それに……考えたくも無いが、用事を済ませて旅立ってしまった可能性もある。仲景さんは彼が長沙にくると知っている口ぶりではなかったし、彼の知り合いというのは別の医者なのかもしれない。それならば別れて二週間近く経っている事を考えても、ありえない話ではない。

 

(だったら裏通り!!)

 

店と店の間、裏路地にも人はいたが……そこにもいなかった。

 

 

 

食堂、道に並ぶさまざまな店、はては民家に至るまで探したが、彼の影を見つけることは出来なかった。

でも、それでも……たとえ無駄だったとしても、ここで立ち止まる事は出来なかった。

 

街中を駆けずり回り、日が傾いてきた……そんな時だった。

 

 

 

「ん?……おおっ!!一刀じゃないか!?」

 

 

 

城門近く、疲労困憊でよろめいていた俺の耳に、そんな声が聞こえた。

 

「いやあ、良かった。あれからずいぶんと経ってしまったから、もうお前達とはあえないと思っていたよ。あれから連れとも合流できて……っと、それはともかく、お前は何でそんな……」

 

「頼む!!」

 

俺が捜し求めていた声の主……華佗が何か言っていたようだったがお構い無しに叫ぶ。

 

「天和が……病で、苦しんでいるんだ。力を貸してくれ……っ!!」

 

「っ!!一刀!!急いで案内してくれ!!」

「なるほど、労咳か」

 

うなされている天和を真剣な眼差しで見詰めつつ、華佗が呟く。

 

「どうなんだ、華佗」

 

「大丈夫だ。前会った時は発症前だった為気付く事ができなかったが、今ははっきりと病魔の姿が見える。かなり厄介な病魔ではあるが……五斗米道に治せない病は(恋の病以外)無い!!」

 

そう叫ぶと、華佗は懐から鍼を収めてある袋を取り出し、その中から金の鍼を手に取り構える。

 

「鍼……?それで治せるのか?」

 

「ああ。五斗米道は鍼を使い、気を整え病魔を打ち消す事を本領としているんだ。本来ならこの金鍼は禁じ手なのだが、この規模の病魔相手では仕方ない。全力でいかせて貰うぞ!!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

華佗が鍼を持つ手に力を込める。

 

 

 

「我が身、我が鍼と一つとなり! 一鍼同体! 全力全快! 必察必治癒……病魔覆滅! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 

華佗が鍼を振り下ろした瞬間、カッ!!と光が走る。

 

 

「……病魔、退散!!」

 

 

……あまりの光景に、俺や地和、人和は元より、付き添いとして居合わせていた周倉や、水鏡先生、医者である仲景さんですら唖然としてしまった。

 

……え~、っと、とりあえず突っ込み所が満載過ぎてなんともいえない訳なんだが……って、それよりもだ。

病気って鍼一本で治るものなのかとか、鍼を振り下ろした時の光もなんだったのだろうか、とか、あまつさえ必殺必中なんていう医者としては物騒極まりない台詞が聞こえた気もしたが今はそんな事を突っ込んでいる余裕は無かった。

 

「ど、どうなったんだ!?天和は!?」

 

慌てて訊くと、華佗は一仕事終えた良い笑顔をして答える。

 

「もう大丈夫だ。病魔は完全に追い払った。体力が落ちているのはどうにもならないから、もう暫くは安静にしていなければならないがな」

 

横たわる天和を見ると、今までのように熱にうなされるわけでもなく静かに寝息をたてていた。

その光景が、華佗の言葉を……病の治癒を裏付けていた。

「姉さん……っ!!良かった、本当に良かった……っ!!」

 

「いきなり叫びだすから最初はどうなるかと思ったけど、変な割にはやるじゃない華佗!!」

 

人和は目に涙を溜めて天和へと駆け寄り、地和も言葉とは裏腹に、感動をしているようだった。

 

「変な、とは失礼だな。……まあいい、患者が助かって何よりだ」

 

「華佗、本当にありがとう……っ!!」

 

そういって俺が頭を下げると、華佗は二ッ、と笑いながら、

 

「なに、医者が病人を助けるのは当たり前の事だ。それに……一刀。お前が前言っていただろう?困った時は、お互い様だとな」

 

その言葉を聞き、感動のあまり華佗の手をがっしりと握る俺。

 

(本当に……本当に良かった!!)

 

そんな風に、俺が万感の思いに浸っていると……、

 

 

 

 

「あらぁ~ん、華佗ちゃん。やぁ~っとみつけたわぁ~ん」

 

 

 

「むぅ、だぁりん。この間も離れ離れになったばかりだというのに、私達に何も告げずにいずこかへと行ってしまっては寂しいではないか」

 

 

 

 

俺の背後、入り口の方からそんな声が聞こえてきて……何故だか、俺の体中に悪寒が迸り、硬直した。

 

「ああ、すまない卑弥呼、貂蝉。急患だったんだ」

 

「もう、華佗ちゃんたらん。病気の人がいるとなると、わき目も振らずに飛び出していっちゃうんだ・も・のぉん♪」

 

「だが、それでこそだぁりん。そんな優しい所もまた魅力的、というものだ」

 

知らない声のはずだ。少なくとも記憶には無い。こんな野太い声を忘れるはずがないし、そもそもこの世界に俺の知り合いがいるはずが無い。卑弥呼や貂蝉(偽名か、赤の他人か……心底違うことを祈っているが本人かは分からないが)という名前にも聞き覚えがない。

なのに何故か、俺は汗が止まらない……特に、先に話した方の声を効いた途端、天和の病気が感染ったといわれても何の違和感も持たないほどの冷や汗が

 

「しかもだ。その患者と言うのが、この間話した命の恩人達だったんだ。いや、合縁奇縁というべきか……」

 

「恩人さん?なぁら、私達も挨拶しないとねぇ~ん」

 

「そうであるな。礼には礼を持って返す。それも一流の漢女としての嗜みというものだ」

 

後ろから、声の主達が近づいてくるのが分かる。地和や、水鏡先生が息を飲むのが気配で分かった。天和に寄り添っていた人和が振り向くなり、ふっ、っと音も無く倒れこむ。護衛も兼ねていた周倉さんですら、なにやらがたがたと震えながら身構えていた。

だが、そんな状態になりながらも、俺は後ろを振り向く勇気を持つ事ができなかった。

 

「むっ、張宝!?どうしたんだ!?」

 

「気絶しているようだが……まあ、無理も無いかもしれん。いきなり私達のような、絶世の美女を目の当たりにしたのだからな」

 

「ドゥフフ♪卑弥呼ったら、いくら本当の事だからって、自分で絶世の美女なんて……って、あらぁん?その、凛々しい後ろ姿は……まさか!?」

体中を駆け巡る悪寒が最高潮を迎える。まるで、自分ではない、もう一人の自分が警告音(アラーム)を最高音量でかき鳴らしているような、そんな錯覚さえしてくる。

 

そうこうしているうちに、後ろから感じる気配と重圧に耐え切れなくなった俺は……覚悟を決めた。

ギギギッ……っと、油の切れた機械のような、固い動きでゆっくりと振り返る。

そこにいたのは……

 

 

カイゼル髭に揉み上げ部分を伸ばした白髪、ネクタイに白褌の逞しい漢(誤字にあらず)と、三つ編みにピンクの紐パンという前衛的を通り越した格好をした筋骨隆々な漢(こちらも誤字にあらず)という……二匹の、巨大なバケモノだった。

 

 

「や、やっぱり!!ごしゅじんさまぁぁぁぁぁん!!」

 

二人のうちの片方、三つ編みの怪物が訳の分からない事を叫びつつ、アメフトのタックルもかくや、といった勢いでこちらに向かって突進してくる。

 

「ヒィッ!?なっ!?いやっ!?ちょ……」

 

驚き、動揺、何より彼らのビジュアルから来るインパクトに圧され、言葉もおぼつかないほどにパニくっている俺へと、三つ編みがその逞しい腕を伸ばしてきて……腕を俺の腰へと回すと、一気に締め上げた。

 

 

 

「会いたかったわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

その、見事なまでの鯖折(※相撲技の一種。相手の腰へと思いっきり抱きつき背骨を折るように締め上げる様が、生き締めにされる鯖を髣髴させる事から命名された。類似技に総合格闘技のベアハッグなど)を喰らい、酸欠と激痛、何より多大なる精神的ショックに襲われた俺の視界は……緩やかに、ブラックアウトしていったのだった……

 

 

 

 

 

 

チーーーン…………

 

 

 

 

 

 


 
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