No.177124

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十話

アボリアさん

黄巾党√ 第十話です
……最早、一週間に一話のペースで定着してしまいました(笑)
これからは頑張って行きたいと思いつつ、それでも更新は遅めになるかもしれませんがどうかご容赦いただけたらと思います
誤字脱字、おかしな表現等御座いましたら報告頂けるとありがたいです

2010-10-08 21:21:54 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7743   閲覧ユーザー数:6172

南陽でのすったもんだの出来事の後、俺達は南陽を発つと、荊州を南下していた。

本来ならば、あの孫堅の娘で(例に漏れず、孫堅もその子供も女の人らしい)かつ今は美羽の元で客将をしているという孫策さんにも会いたかったのだが、孫策さん及びその家臣は現在、賊討伐の為の遠征中だということで会えずじまいの出立となってしまったのだった。

 

そんなこんなで公演の旅を再開したのだが、南に行くに連れ、大勢の人達が俺達、黄巾党への参加を志望してきてくれたのだが……ただ、その理由を考えると、あまり手放しでは喜べない。

それと言うのも、荊州の南……つまり、美羽や孫策さんたちがいる南陽から離れるにつれ、治安の悪化、役人の横暴などが顕著に現れていたのだ。

 

(まあ、だからこそ現状を変えたいと思う人達がいるわけなんだけどな)

 

とはいえ、兎にも角にも人が増えると言うのは俺達にとって必須な話なのだが、それでも襄陽(じょうよう)、江陵、武陵と南下していくうちに黄巾についてきてくれる人数はかなりものになり、また、侠者からも多くの人、さらには地元名士の私兵部隊、と合計で二万を軽く越すのではないかと言う人数になっていた。

今の俺達の財政ではこの数の人を連れて歩くのは困難であり、また、この規模の軍を動かすのでは目立ってしまい、事を起こす前に計画が露見してしまうのではないかという恐れもある為、俺や人和、水鏡先生に李膺さんといった面子で相談をする事にした。

その結果……今の財政で十分に動かせる数である五千だけを本隊とし、残りを『方』という師団……つまり、方面軍として、波才さん、張曼成さん、韓忠さん達を司令官として荊州に残し、調練及び人員拡大に努めてもらうこととなった。

そして、これからも各地で人を集め、その地方に方を結成して……という流れにする事に決まった。

 

そうして俺達は隣の州、揚州へと移る為、州境にある長沙へと向かったのだった。

「ほらほら!!姉さんも、人和も、一刀も、キリキリ歩きなさいよ!!」

 

「……いつもと違って、元気だな地和」

 

視線の先、俺達の先頭を切って歩き大声を上げている地和に突っ込む。

いつもなら始めにへばってしまう彼女にしては珍しいこともあるものだ、と俺が考えていると、地和はフンッ、と胸を張る。

 

「そりゃあ元気にもなるわよ。最近は人も増えたし、公演だって上手く行ってるし良いことずくめだもん」

 

その言葉に、ああ、と俺は納得する。

確かに最近は出来すぎなくらいに上手くいっていることは間違いないし、何より、目立つことが大好きな地和の事だ。自分達についてくる人達が多くいると言うのは気分が良いのだろう。

 

「姉さん?慢心は敵だ、って、いつも口をすっぱくしていってるわよね?確かに人は増えたけど、今はまだ始まりに立ったばかりといっても過言じゃないんだからね?」

 

地和に向かい、すかさず人和が諫める。

 

「まあ、やる気があるのは良いことだけど、確かにそれで浮き足立っていてはいけないよな」

 

二人のいつも通りのやりとりに俺が苦笑をしていると、地和はむくれたように頬を膨らませる。

 

「そんなの分かってるわよ。でも、喜ぶだけだったらバチは当たんないでしょ」

 

ね~、姉さん。と俺達の後ろを歩いている天和に同意を求めるように訊く地和だったが……

 

「……天和?どうしたんだ?」

 

俺達が振り向くと、天和はぼんやりとしていて、心なしか元気が無いようだった。

 

「……へ?なに?」

 

俺の言葉がはっきりと聞き取れなかったのか、天和が問い返してくるが、表情と同様にその声にもいつものような明るさが無い様に感じる。

 

「ちょっと姉さん。ぼ~、としちゃって。どうしたの?」

 

心配そうな表情で訊く地和。

彼女からしてみれば、いつも一緒になって騒いでいる天和に元気が無いと調子が狂ってしまうのだろう。

俺達が、大丈夫?という視線を送っているのに気付いたのか、天和が首を振って答える。

 

「あ、だ、大丈夫だよ~。ちょっとぼ~、としてただけだから」

 

答えつつ、少し無理矢理といった風に笑顔になる天和……やっぱり、少し心配だよな。

「なあ人和。今日は結構歩いたし、少し早いけど休憩にしないか?」

 

「そうね。珍しくちい姉さんが疲れた~、って言い出さないから、行軍が速めだったし」

 

「ちょ、人和!?折角やる気出してるってのに、その言い草は酷いんじゃない!?」

 

俺達がワイワイと騒いでいると、天和が申し訳なさそうな顔になる。

 

「……ゴメンね一刀、ちいちゃん、人和ちゃん。心配かけて」

 

「気にしないでくれって。俺もそろそろ疲れてたところだったしさ」

 

そういって天和に笑いかける。

すると天和も少しは気が楽になったのか、「……うん、ありがと」と柔らかく微笑んでくれたのだった。

 

「それじゃあ、どこか見渡しの良いところで野営の準備を……って、あら?」

 

野営場所を探す為、前方を見渡していた人和がそこで言葉を止める。

 

「どうした?人和」

 

「一刀さん。あそこ……誰か、倒れてない?」

 

人和が指差す方向を見る。すると、少し遠い為はっきりとはしないものの……赤い髪の、男の人らしき人が倒れているのが見えた。

 

「何かあったのかな……とにかく、いってみようか」

 

ここからではよく分からないが、もし何かあったのならば一大事だ。

そう思い俺達は、その人が倒れている場所へと急いだのだった……

「がつがつがつ!!はぐ!!むぐ!!」

 

「……まさかお腹が空いて行き倒れになってたとはね」

 

目の前でがっついて飯を食う男に向かい、人和が嘆息する。

 

あの後、俺達が倒れていた場所に駆けつけ、男に話しかけてみたのだが……なんというか、その男はただ単に腹が減って動けなくなっていただけだったらしい。

まあだからといって、空腹で行き倒れてそのまま亡くなってしまうというのも日常茶飯事なこのご時勢、見捨てる訳にはいかないし、何よりちょうど休憩をしようとしていたところだったのでこの人にも食料を分けてあげる事にしたのだった。

ちなみに最初こそ調子が悪そうだった天和も、腰を下ろせた事で少しは安らげたのか、先程よりは大分顔色もよくなってきていて、俺達と一緒に彼の食いっぷりを見て唖然としていた。

 

「……ぷはぁ。いや~助かった!!ここ最近、ろくに物を口にしていなくてな」

 

「っていうかさ。あんた、何でこんな所で倒れてたのよ?」

 

満足そうな顔をしている男に地和が突っ込むと、男の人は、ん?と地和の言葉に反応すると、語りだす

 

「ああ。俺は流れの医者をやっている者なんだが……恥ずかしい事に、陳留からこっちに来る最中に連れとはぐれてしまってな。路銀もその連れの二人に預けてたもんだからどうする事も出来なくなってしまって、そこを君達に助けてもらったってわけだ」

 

「流れの……医者、ですか?」

 

男の人の言葉に驚く俺。

仕方の無い話だが、この時代、医療は全くと言って良いほど進展はしておらず必然的に医者の数は少ない。

ましてや旅の医者なんてそれこそ稀で、俺がこの世界に来てからあった医者と言うのも、村で民間療法のような事をやっている人たちばかりだった。

 

「そういえば自己紹介がまだだったか」

 

男はそういうと、俺達のほうに向き直って……何か言おうとして、口を紡ぐ。

 

「? どうしたんですか?」

 

「ん?、ああ、いや……時に、君達は官軍か何かか?」

 

「いえ、官軍ではなく、義勇軍ですけど……それがどうかしましたか?」

 

俺がそう答えると、男の人は安堵したような表情になり続ける。

 

「いや、なんというか、これまた恥ずかしい話なんだが……先程も言ったように少し前、陳留にいてな。そこの刺史の持病の治療を頼まれていたんだが、俺の力不足もあって治療をしくじってしまったんだ。おまけに何の誤解か、手配書を回されてしまって……」

 

何故なのだろうな、と悩む仕草を見せる男の人……陳留の刺史といったら曹操の事だろうか?

 

「まあ、そんなわけであまり名をおおっぴらに名乗る事が出来ないんだ。だから俺の事は字の『元化』と呼んでくれ」

 

男の人……元化さんはそういって笑顔を見せる……のだが……

 

「……ってかさ、元化だっけ?」

 

地和が話しかけると、元化さんは「おう、なんだ?」と気さくな感じで答える。

 

「あんた、官軍に追われてて名前を隠してるのは分かったけど、その理由をぺらぺらと話しちゃうのはどうなのよ?」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

その突込みに元化さんは今気付いたとばかりに驚愕し、「しまったぁぁーー!!」と暑苦しい感じで叫んでいた……うん、この人、天然なのかも知れない。

その後もなんだかんだと一悶着あったものの(主に地和が元化さんを突き出して褒賞金を貰おうと言い出したり、それに元化が反論したり)、別に悪い人には見えないし、本人も無実だと言っていることから彼の言い分を信じる事にした俺達は、なんだかウマがあってしまった元化との話に華を咲かせていた。

 

「へぇ、それで修行の為にこっちに来たのか」

 

「ああ、ここから先の、長沙に古い知り合いがいるんだ。その人も医者をやっているから、良い話が訊けるかと思ってな」

 

彼は陳留の一件――やはりというべきか、曹操の治療だったという――で自分はまだまだ未熟だと思い知ったのだという。

そのため、腕を磨く修行をする為に旅を続けつつ、各地の医療を学んでいるらしい。

 

「長沙?なら目的地も一緒だし、折角だから一緒に行かない?」

 

地和がそういって提案するのだが、元化はいや、と首を振る。

 

「気持ちは嬉しいし、出来たらそうさせて貰いたい所なんだが……さっきも言ったが、連れの二人を探さないといけないし、道中の村にも立ち寄って、病人や怪我人がいないか確かめながら進みたいんだ」

 

「そうか……残念だな」

 

これはお世辞なんかではなく、本心から思った。

短い時間話しただけの間柄だったものの、元化の人柄は伝わってきていたし、出来るならもう少し話をしたかったのだが……まあ、こればっかりは仕方ないか。

 

「さて、と……俺はそろそろ行くとするよ。一刀と、張姉妹には本当に世話になった」

 

そういって元化さんは俺達に向かって頭を下げる。

 

「いえ、お礼なんて……と、それよりも元化さん」

 

立ち上がる元化を人和が呼び止めると、元化さんは「どうした?」と問い返す。

 

「いえ、路銀もなく、連れの方を探すにも当てが無いのに、これからどうする気なのかと思いまして」

 

「……しまった、そうだった」

 

自分の置かれている状況を思い出し、顔を顰める元化。

人和は「そんな事だろうと思いました」と嘆息しつつ、続ける。

 

「ねえ、天和姉さん。この人に数日分の糧食をあげても良いかな?」

 

「ん~、と。確か武陵をでる時、大目に食べ物用意してもらったよね?だったら良いんじゃないかな」

 

天和達が話していると、元化が慌てたように割ってはいる。

 

「むっ、いや、助けてもらっただけでもありがたい話だというのに、この上迷惑をかける訳には……」

「だからってあんたが行き倒れになったら私達だって目覚めが悪いじゃない」

 

元化の言葉を一刀両断する地和。それは完全に正論な為、元化は二の句を継げずに窮してしまう

 

「まあ、良いじゃないか。こんな時代だし、困った時はお互い様って事だよ」

 

「……そうか」

 

元化はそう答えると、なにやら拳をプルプルと震わせ、

 

 

 

「俺は……俺は今、猛烈に感動している!!」

 

 

 

「……え~、と?」

 

なんだか熱血っぽいことを言い出したのでリアクションに困ってしまう。

 

「人は餓え、官は腐敗し、国自体が大いなる病魔に侵されているといっても過言ではないこの世の中で……こんなにも温かい人の温もりにふれる事になろうとは!!」

 

熱い、というか暑苦しい、昭和を思い起こさせるようなテンションで突っ走る元化。

いや本気でそこまでの事ではないと思うんだが……

 

「この、五斗米道正式継承者、華元化!!この恩は一生忘れない!!」

 

そういって昔はやっていたスポ根モノのように目を燃やして涙を流す元化。

 

「……なんかこの人、顔は良いのに、何処と無く残念だよね……」

 

地和が漏らしたその言葉に、俺達は深く同意するのだった……

元化と別れて数日後、俺達はいよいよ長沙の街、城門近くまで来ていた。

 

「はぁ~やっと着いたね~」

 

「そうだな。今回は少し長旅だったからな」

 

腰を下ろしつつ、俺と地和が話す。武陵からここまで色々な事があったが、無事着いて一安心だ。

 

「さ~て!!天和姉さんも、人和も、この街でも頑張りましょう!!」

 

「そうね」

 

地和の言葉に人和が答えるのだが……あれ?

もう一人からの返事が帰ってこないとこに疑問を憶えた俺が振り向く。

すると天和はいつかのように、ぼぉ、と立ち尽くしていた。

 

「もう、姉さん!!疲れてるのは分かるけどしっかりして――」

 

そう、地和が叫ぼうとした瞬間、

 

 

 

ドサッ

 

 

 

まるで、糸が切れたかのように、天和が……地面に倒れこんだ

 

 

 

「……え?」

 

「天和姉さん!?」

 

「天和!!大丈夫か!?」

 

急いで俺たちが天和の元へと駆けつけ、体を抱き起こすのだが、

 

「熱ッ!!」

 

「そんな……凄い熱……」

 

天和の体はかなりの熱を帯びていて、明らかなほどに異常だった。

 

「ちょっと見せて下さい」

 

非常事態と察した水鏡先生の指示で、地べたに布を敷き、その上に天和を横たえ、水鏡先生が天和を診てくれる。

 

「……これは、傷寒病かもしれません」

 

見て下さい、という先生の言葉に、天和の首筋を見ると、そこには発疹のようなものが見て取れた。

「傷寒って、でも、今朝まではそんな事無かったのに!!」

 

「落ち着いてください、張宝ちゃん。……この病は突発的に罹る感染病の類なの。高熱が出て、発疹が現れて……もし手遅れとなれば、死に至ります」

 

「死、って……」

 

俺の隣で、人和が息を飲む。

 

「それで、どうしたら良いんですか!?」

 

「あなたも落ち着いてください、一刀君。手遅れになれば、と言ったのです。幸いというべきか、ここ長沙にはこの病について詳しい方がいます。急ぎ、その方の下へと彼女を運びましょう」

 

「わ、分かりました!!」

 

そういって俺は天和を背負う。

 

「かず、と……」

 

「大丈夫だから、もうちょっと待ってくれ天和!!」

 

「……ごめ……皆に、迷惑、かけて……」

 

「っ、そんな事無い!!だからもうちょっとだけ頑張ってくれ!!」

 

俺達は彼女に負担をかけないよう慎重に、かつ急ぎ足で街の中へと急いだのだった……

 

 


 
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