No.177335

真恋姫†無双呉√アフター~新たな外史をつむぐもの~ 第三話

米野陸広さん

久々の更新です。
しかも本編じゃなく外伝です。
tinamiコンテストの作品も鋭意製作中です。
今回は秋蘭編ですね。
一刀のいない恋姫夢想ご覧あれ。

2010-10-09 22:44:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4014   閲覧ユーザー数:3506

第三話 秋蘭~友として~

天幕の外で大きな歓声が上がっている。その声で秋蘭は目を覚ました。

(ん、どうしたんだ一体、……まさか)

身支度を軽く整えると睡眠をとっていた秋蘭は天幕から外へ出た。陽光が淡く辺りを照らしていた。まだ朝早い。だがその活気がしばらく収まることはなさそうだった。

「皆ようやったで! この船は大海へと漕ぎ出す船や。そうや、大将に名前付けて貰わんと」

その中で特に大はしゃぎしている仲間の姿を秋蘭は見つける。彼女の名は李典、三国……いや、世界きっての発明家だ。

「真桜、完成したのか?」

「あっ、秋蘭様やないですか。おはやうございます。見てくださいこの光に照らされる船体。自分で言うのもなんですけど、いい仕事したと思います」

もともとあったこの船は、戦船である。赤壁での負け戦にて命からがら抜け出してきた魏国最後の一船だった。

その船を真桜は、見事海用の船へと改造を遂げたのである。

「よくやってくれたな、真桜」

「ありがとうございます、秋蘭様。あ、それで華琳様にこの船の命名をしてもらおうとおもうんですが、今、大丈夫ですかね」

「……ふむ、そうだな。今はよしておいたほうがいいだろう。しばらくすれば朝議がある。その時に報告をするといい。あらかじめ私のほうから華琳様には報告しておこう」

「そうですか。わかりました。……これで大将の気も晴れるといいんやけど」

ふと漏らした言葉は秋蘭の耳にも届いていた。しかしあえて聞こえないふりをする。

(魏の将になれば皆気づくことか)

秋蘭は華琳の寝ているはずの天幕を見やった。自分では埋めきれないほど大きく空いてしまった覇王への渇望という穴。

それはどの将であっても変わらない。

秋蘭はただ悔しさに唇をかみしめるしかなかった。

「そう、遂に完成したのね」

「はっ、真桜の話によれば微調整すれば、すぐにでも進水できるとのことです。それでその船の名を華琳様に命名していただきたいとのことですが……」

「そうね、……わかったわ。朝議の時に皆の意見も交えながら聞くとしましょう」

「御意に」

「では、秋蘭。髪をお願いできる?」

秋蘭はそれに無言でうなずくと、華琳の背後に立った。その背中にはどこかしら疲れた雰囲気が漂っていた。

違和感を覚えずにはいられない。今までこのような華琳を見たことがなかったからだ。

(初めての敗北、結果としてではない。初めて心から折られたのだ、無理もない)

心の機微に敏いのは決して秋蘭だけではなかったが、付き合いが最も長いのは夏侯姉妹を置いてほかにない。幼少からの付き合いである。この二人と桂花では同じ長いといっても密度も濃さも違ってくる。

だからこそ、この二人は余計につらかった上にわからないでいた。

負けたことがないゆえに、どうして負けたのかもわかからない。

ただ、敗北という事実は必ずそこに横たわっており、また這い上がるということを善しとさせない。

ただただ思う。

これが天命なのかと。

気まぐれに吹いたのだろうか、あの東南の風は?

だとしたならば、それはとても、残酷なことだ。

「秋蘭? どうしたの、手が止まっているわ」

「は、申し訳ありません」

「調子でも悪い?」

「いえ、決してそういうわけでは」

「なら、どうして……、いえなんでもないわ」

しばしの沈黙が訪れる。

互いに分かっていた。

原因は華琳にあるがそれを言い出しても栓のないことだ。

そう、仕方のないことなのだ。

華琳の髪を整え終わると秋蘭はつぶやいた。

「申し訳ありません」

「いいのよ、秋蘭」

 

どこまでも孤独。

 

どこまでも孤高。

 

(ああ、いつの間に華琳さまと私たちの間にはこんなにも壁ができてしまったのだろう?

 幼き頃、互いに気兼ねなどなく笑いあっていたあの頃とは、もう違うのだろうか?)

朝議が始ま前に姉の春蘭を起こそうと思い天幕へと一度戻った。

が、寝床はすでにもぬけの殻。夜遅くに天幕に戻ったから、まだ寝ていると踏んだのだが当てが外れたようだ。

瞬間、殺気を覚えた。と同時に身体だけは反応して反射的に前方へと身体は転がっていた。

(この殺気は!)

飛んでくるであろう剣圧は、なぜかそのままで一向に飛んでくる気配はなかった。

だが天幕の入り口には予想通りの人物が立っていた。

「何の戯れだ! 姉者!」

夏侯惇元譲、彼女の自慢の姉である。が、彼女はこう言い放つ。

「姉者? 私は貴様のような妹を持った覚えなど毛頭ない」

「なっ!?」

春蘭は怒りっぽいが基本的に怒らない。なぜならその怒りは単純に自分のポカが発端になるからだ。

だからこそ秋蘭は驚いた。

初めて見る、姉のキレタ顔に。

戦闘狂とまではいかないが戦うことに誇りがあるときとは違うその表情は、恐ろしいものがあった。

(私は怒られているのか?)

武器は構えていない。ただ、彼女には見えた。次に動いた瞬間斬られているという自分の未来図が。

「夏侯妙才、残念だ。同じ姓を戴くものながらいつまでその名に甘んじているつもりだ?」

「どういう意味だ、姉者。私には何がなにやら」

「華琳様はどうしてお前を警護につけたのか、私にはまるで理解できない」

信じられない発言を、平気で言う春蘭に秋蘭は呆気にとられるばかりだった。なぜならば今まで一度として春蘭が間接的にでも華琳のすることを疑ったことなどなかったから。

「それは、……私には華琳様の考えることはわからないよ。ただ、私がしなければならないのは華琳様の言を忠実に守ることだけだ」

先ほどよりも殺気が増大した。普通の兵士であればすでに気絶して泡を吹いていてもおかしくないだろう。

「華琳様のせいにするな!」 

その気を言葉の刃に乗せて彼女は実の妹に斬りかかった。

「確かにお前と違って私は馬鹿だ。だけど私にだって分かることはある。今の華琳様が寂しいと思っていることだって分かる」

そんなことは秋蘭とて百も承知である。

「その悩みを一番に分かってやらなければならないのは私たち姉妹以外誰がいるんだ? 桂花か? 季衣か? 霞か?」

(そんなのは決まっている、私、たちだ)

「違うだろう。私たち三人は魏の中でも特別付き合いが長いんだ」

「分かってやらなければいけないのは私たちだろう?」

諭すような姉の言葉が胸に響く。理屈では埋め切れなかった感情が満たされていく。本物の想いによって。

「主君が歩み寄るのをいつまで待っているつもりだ、秋蘭」

(もう、私は待つばかりではならない)

「華琳様に壁を作っているのはお前なんだぞ!」

(壁、か。実に的を得ている。そしてそんな壁は魏武の大剣にはなきに等しいものだったということか)

そんな姉を持ったことが秋蘭は誇りだった。昔から、今も、そしてこれからも。

「ふふっ、姉者は相変わらずだなぁ」

秋蘭の空気が変わったのを見てとったのだろう。すでに春蘭の顔も笑顔だった。

「妹の不始末は姉が片付けるのが世の習いだからな。たまには私が説教するのもいいだろう」

本来ならば、いつもこの空気の中にはもう一人の少女の笑顔があるはずだった。

だがそれを取り戻すのは彼女たちだけではない。みなの力で取り戻さなければならない。

「姉者、朝議に向かうとしよう」

「ああ、秋蘭」

(華琳様、貴女は孤独ではない。敗北は挫折ではありません。そのようなことは聡明な華琳様なら分かっていらっしゃるでしょう?)

 

華琳とて分かっている。ただ割り切れていないだけなのだ。

私たちは海に漕ぎ出す。

しかしそこに私が求めるものは何だというの?

私の民は中原の民。

これから救いにいくのは蛮族の民。

そこで新しい王にでもなるつもりなのかしら?

 

華琳は自嘲気味に笑う。

 

もう、終わっているのよね。私の覇道は……。

 

向かいしは一つの天幕。今日ここで新たな船の名を決めなければならない。

国が滅び、私はありとあらゆるものを失ってきた。

いったい何が残っているのかしら。

 

最終回華琳編へ

あとがき

久々の投稿でいきなり核心まで進んでしまった自分の不甲斐なさに謝るしか能がない米野です。

パソコンが新調され、勉強もそこそこ落ち着き、スパロボに現を抜かしつつ、やっぱ東方不敗はつええと日々アーガマを落とされております。

で、新時代編ですがとりあえず次回で最終回になります。

一区切りといった感じですか。

もちろん、一部みたいな感じで二部につながるんですが、そちらの構想はぜんぜんできていないので、とりあえず今月中に一部を完結させます。

そういうことなので皆さんよろしくお願いしますね。

それではごきげんよう!


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
16
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択