俺達が村へと引き返すと、そこに待っていたのは
長老さんの人当たりの良い笑顔でも、彼の孫である女の子の笑い声でも
村人達の元気な姿ですらなく
ただただ、目を逸らしたくなるような、凄惨な光景だけだった
「なによ、これ……」
地和が呟いたように、朝まで此処にいた俺たちには、とても理解できる光景ではなかった。
この惨状をつくったであろう賊の姿こそ無かったものの、ある家は焼かれ、ある家は崩れ落ち、蹲って嗚咽を漏らす人や、呆然と立ち尽くす人。そして……
「なんなのよ、これ!?」
その何倍もの、血を流し、倒れた……一目で、事切れていると分かる、人達。
天和と人和も、言葉こそ発さないが……いや、言葉が出ないぐらい、その光景に驚愕していた。
「……と、とにかく、せめて息がある人達だけでも助けないと!!」
呆然と、まるで目の前の光景を拒否するかのごとく立ち尽くす三人に声をかけ、俺達は村人の救出に当たった。
……何かあったとき、自分以外の人が混乱している方が、落ち着いて考えられるというのは本当らしい。もし一人だったら、俺も言葉を無くしてしまうか、大声で叫んでしまっていたかもしれない……こんな場面でそんな事に気付いたって、少しも嬉しくなかったが。
ただ、今は天和達がいるから、天和達だって自分のようにショックを受けているだろうから、と何とか自分を奮い立たせ、こみ上げてくる気持ちも、吐き気すら抑えて俺は村人の救出に没頭したのだった。
……あれから、どれくらい経ったか定かではないが、俺達は今なお、村人の救出を行っていた。
その間も、亡くなった人や、俺たちではどうしようもない程の重症の人だって沢山いた。
何とか助けた人達も、殆どが心が折れたように嘆き、悲しむ人が殆どだったが、それでも生きているなら、と思い懸命に俺達は動いた。
そして、村を殆ど回った時だった。
「……お、お……幻じゃろうか……。何で、お嬢ちゃん達が……」
あの、俺達に良くしてくれた、長老さんと孫の女の子を見つけたのだった。
「大丈夫です、か……っ!!」
近寄って、助け起こそうとする俺達は、その姿を見て息を呑んでしまった。
長老さんの腹部からは、大量の血が流れていて、見ただけで、……致命傷だ、と分かってしまったのだ。
そして恐らく、長老さんが抱えている女の子も……
「何で……、何で、こんな事に」
嘆く天和に、長老さんが苦しそうに言う。
「……お嬢ちゃんたちが出発して、暫らく経った頃だったか。いきなり、大勢の賊がやってきて……」
「で、でも、官軍がいたじゃないですか!?」
人和が叫ぶが、長老さんはいや、と首を振る。
「奴等、賊が現れるや否や、数の多さに気圧されたのか、直ぐにどっかに行ってしまったよ。……いや、今考えたら、もしかしたら奴等、裏で手を組んでいたのかもしれん。いくら何でも、戦わんうちから、ゴフッ、逃げるとは、思えんし、機が、整いすぎていたからのぉ……」
「……っ!!」
俺達は絶句してしまった
確かに、官軍が現れて直ぐに、その官軍がいる村に賊が出るなんて考えづらい話である。
もしかしたら官軍は、賊が来ても直ぐに村人が逃げ出さないよう、賊と手を組んで見張っていたんじゃ、とまで邪推できてしまう状況だ。
俺の知っている歴史の知識では、賊と官軍がグルになる、なんて話は政治腐敗の一例でよく聞いた話ではあったが……実際、こんな事が起こるなんて、信じられなかった。
「そ、それなら、そのことをもっと上の領主さんに話せば!!」
そういう地和だったが、今度は人和が沈んだ声で答えた。
「……それは、無理だと思う。そんな、賊と組むような役人が何にも対策して無いなんて考えられないし、第一、グルだったなんて証拠は無い。そもそも太守様が私達の話なんて聞いてくれるとは思えないよ」
そういうことじゃ、と長老さんは苦しそうな咳と共に血を吐き、苦しそうな、悔しそうな声で言葉を紡ぐ。
「こんな老骨だけなら、いつ死んでも、構わなかったんじゃが、この子まで……一体、この子が何をしたって言うんじゃ……」
長老さんは、女の子の頭を撫でる……その目からは、涙が溢れていた。
「お嬢ちゃん達、最後の頼みじゃ……この子は、お前さん達の歌を楽しみにしとった。最後に、この子に、歌を、歌ってあげてくれんか……?」
長老さんの、懇願するような眼差しを見て、天和が立ち上がる。
「歌おう」
言って、俺達の方に向き直る……その目は、涙ぐんでこそいたが、強い意志を感じさせるような眼差しだった。
「歌おう。私、あの子に約束したもん。今度は、必ず歌を聞かせてあげるって」
天和のその言葉に、俺達は無言で頷くと……俺達は、全力で歌い始めた。
「~~♪~♪~」
天和は、溢れる涙を隠そうとはせず、でも、気丈に微笑んで
「♪~~♪~」
地和は、いつもの強気な表情からは考えられない悲しげな顔で、必死に涙を堪えて
「~♪~~♪~~♪」
人和は、普段のような、冷静な顔で、それでも涙が溢れて
「♪~~~~」
俺も、頬を伝わる雫を振り払い、俺に出来る限りの、全力の演奏を行った。
「ありがとう……これで、思い残す事も無い」
そういって、長老さんが瞼を閉じる……それでも、俺達は歌うのをやめなかった。
次第に、生き残った人達が……先程まで、嘆くばかりだった人達が、俺達の演奏に惹きつけられるように集まってきた。
俺達は、力の限り、演奏を続けた
皆の心の傷を少しでも癒せればと、優しい曲を
皆を元気付ける為に、明るい、陽気な曲を
そして……皆が、安らかに逝けるように、悲しい鎮魂歌を
俺達は、歌い続けた……生き残った村人に、逝ってしまった人達に、長老さんに、そして、俺達の歌を楽しみにしていた、女の子に向けて
この歌声が、遥か天にまで届けと、想いを込めて
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黄巾党IF√第四話です
駄文ではありますが、楽しんでいただけたら幸いです
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有難いです