どうも米野です、
一週間で1作品。
だんだんと、投稿のペースが速くなるとともに、投稿の長さも長くなっていると思います。
今回は、』あの子が主人公?
むしろ一刀?
とりあえず、彼女の真面目さを応援してあげてください!
では、ご賞味あれ
一刀はいつもどおり政務に励んでいた。これも愛する孫呉の民のため、ひいては自らの妻たち子供たちのため、と思えば拍車がかかるのも当然のことだった。
一刀が主に滞在する呉の都、建業。一刀のいた天の国ではすなわち南京にあたる。すぐそばには長江が流れ、一刀は初めてその地を訪れたとき、驚きを隠せなかった。
自然というものはここまで雄大なのかと。
しかしその雄大さが猛威を振るうのもまた、今も昔も変わらないのだった。
一刀が今頭を悩ませているのは、イナゴである。
たかが虫、されど無視はできない。……いや、ギャグではない。
もともと建業を含む呉の領地は、江南すなわち長江の南部での稲作が主に国庫を豊かにしてきた。しかし、今年はいつもにましてイナゴの被害がひどく、対策に頭を悩ませていたのである。
一番つらいのは自分たちではない。民なのだ。
その民から糾弾を受けるのは自分たち政を司るものである。
為政者として、何とかしなければならない。
そのことが次第に一刀の頭を悩ませた。一方、いくら考えてもなかなかいい案が出てこないことに、また自らがただの学生のままこの世界にやってきてしまったことを改めて思い起こさせることにもなるのであった。
農業大国であった自分の国、日本。しかし、その文化水準、技術水準は今の呉のはるか上を行きすぎている。そしてまた、その水準にいたるまでに培われてきた先人たちの知恵を一刀は全て知っているわけではないのだ。
言ってしまえば、現代の技術を適応することは、一刀の手をもってしては不可能である。
そのためには天の国、すなわち日本の技術力に少しでも近づけるような才能を持つ人間が必要だったのだ。
しかし、もう二十も後半である。あまりにも時間がたちすぎていた。
自分に力があれば。
自分に才能があれば。
自分に知識があれば。
自分が今まで生きてきた中で吸収できた知識があれば救えたはずの人々が、その救いの手から零れ落ちていく。
一刀はそのことをとても後悔していた。
何もできないゆえの苦悩。
その人たちの姿が、かつての親友であり恋人でもあった二人と重なったせいかもしれない。
その日は誠にとって週に一度の特別な日であった、明命たっての希望で、週に一度一刀と誠は警邏をして町を歩くことができるのである。他の姉妹たちは、勉強や鍛錬で一緒の時間を取ってもらえるが、自分にはそういった時間がなかった。そのことを母である明命に訴えてからの措置であった。
そうして警邏を楽しみにしていた誠は、いつものように自らの武具を丁寧に整備していく。
約束の刻限までは後半刻ほど。
母とは異なりまだ伸びきっていない黒髪は短く、母譲りなのだろうかその童顔ととても似合っていた。今は刃に吐息がかからないようにと口に父にもらった特製の紙をくわえている。
幼いながらもその武具を見る目は真剣そのもので、その眼差しだけしか知らなければ、とても近寄りがたい雰囲気の子供であったろう。
愛木刀『五月雨』
まだ刃物を持たせることを嫌った一刀の処置であった。
他の娘たちにもそれぞれ、全て刃や鏃のないものを持たせている。
殺さなくてすむならそれに越したことはない。第一に、それだけの実力も持たずに生き物を殺すことを覚えるのは間違っているというのは一刀の言である。
誠こと一刀が第二子周卲は武具の整備を終えて一呼吸。
「とはいうものの、父上はそれでも人を殺めたことがおありなのですよね」
誠の中の一刀はどうしてもいつも柔らかい印象が強かった。
もちろんその柔らかい印象は孫呉に昔から住む人間にしてみれば今も変わらない。
しかし不謹慎だが誠にとってそんな軟弱な人間が、自分が生まれてくる戦乱の世を、将として、人を殺して生き抜いたことに幾ばくか疑問を持たないわけにはいかなかったのである。一刀のそのあまりにもの優しさゆえに。
『五月雨』をおき、部屋で正座をしながら一刀のことを待つ誠。
よく母が語ってくれていたことを誠は思い出していた。
「一刀様は、本当に優しいお方です。今こうして私と誠が幸せでいられるのも一刀様のお陰なのですよ」
と。それに対して、誠が何故蓮華様ではなく、父上なのですか?と尋ねると、母上はふふっと笑って、
「一刀様は私たちのことを考えてくれていますから」
お猫様をモフモフするような顔で私の頭を撫でながら、お答えくださいました。
正直な所、あの時はなんだかはぐらかされた気がしたのだ。
そこに突如として音が鳴る。
こんこん。
ノックの音。
最近は語でも少しずつ浸透しておりみんな習慣になっているが、誠が父のノックを間違えることはなかった。
ゆったりと、二回、たたく。
「どうぞ」
「うん、誠、はいるよ」
扉を開けた向こうには、大好きな父の姿があった。今日はこれから町へ出向くこともあり、天の服ではなく、こちらの兵士の服を着ている。
「準備はできたかい?」
「はい、抜かりはありません」
「ははは、頼もしいな」
そういって頭を撫でる一刀。
今日もいつもと変わらぬ朝だった。
警邏といっても、建業の町は広い。一日ではとてもではないが全て見回りができない。
そこで一刀は少しずつ、いろんな場所にいってみようと、こうして誠を町へと連れ出す。
初めて誠が町へ出たときの感想は、何しろ人が多いの一言だった。
しかし一刀の言葉によると、これからどんどんと建業の人は増えていくだろうといわれ、さらに目を丸くすることになるのだった。
人というものは、生きていくことに一生懸命だ。だからこそ、安全な町へ住もうと想い移動する。いまや、呉と蜀二国の中で建業ほど治安体制が優れている町はない。
その基盤となるシステムを作ったのは一刀だった。一刀はその功績もあって、今では引退したものの、初代警備隊長として建業では結構有名人である。
「隊長、今日は一日宜しくお願いいたします」
「いや、こちらこそ毎回すまない。こっちの都合で日程を変えてもらって」
「いえ、我々は、北郷隊長の姿を見ることができただけでも感激ですから」
「大袈裟だなぁ」
最初に本部となる詰め所に一刀と誠は挨拶に来ていた。
それに応じるのは現在の警備隊隊長。
「今日はどのあたりをご覧になられますか?」
「ああ、この地区にしようと思う」
「え、ですがここは……」
そういって罰の悪そうな顔で現隊長が誠のほうを見た。
「わかっている。だけど、こういうところがあることを知ることをこの子達は知らなければならない。自分たちが恵まれていることを自覚しなければいけないんだよ」
「どういうことですか、父上?」
「ちょっと刺激が強いかもしれないけど、いけばわかるよ」
一刀は誠に行き先を告げないまま、本部を出発した。
「それじゃあ、今日は五番街に行こうか」
誠はそこで自覚した。
(なるほど、貧民街にいくのか)
噂程度に話を知っていた。職を失ったものや、身体を壊してしまったもの、様々な理由でこの町にいられなくなってしまった者たちが集まった区画五番街。
(一番治安の悪い場所とも聞いているが、もしかしたら父上は私に実戦で腕試しをさせてくれるつもりかもしれない)
そう思うと、誠は少しだけ心が高鳴ったのだった。
貧民街に着くと、誠の思った以上だった。
まず、他の地区よりも全体的に空気が悪い。それはところどころに転がった生き物の死骸から発せられているからだった。
(お猫様まで……)
「父上」
「なんだい、誠?」
「今日の目標みたいなものはあるんですか?」
「目標? 警邏にそんなものは必要ないだろう」
「いや、でも」
「強いて言うなら、命を大事にだな」
「はぁ」
誠は一刀の考えていることがよくわからないのだった。しかし、一刀の隣をとにかくついていくことにした。
「御遣い様だ」
「御遣い様がいらっしゃった」
「やぁ、みんな元気にしてるかい?」
裸同然の格好をしたものたちに一刀は普段宮中で見せるのと変わらない笑顔を見せていた。
正直誠は困っていた。なにしろ、体臭がきつい。その上にどこを見ていいのかわからないほど、人々の身体は真っ黒なのだ。
「安さん、身体の調子はどう?」
「おかげさまで、大分よくなりました。これも御遣い様が無料の診療所を開いてくださったお陰です」
「助けたのは俺じゃないよ。診療所の人たちだ。彼らにお礼を言ってあげて」
(そういえばこの前それぞれの区画で無料の診療所ができたと聞いたっけ。なんでも華陀先生の流れを組む人達とか)
一刀の案より、神医として名高い華陀を建業に招き、その弟子を育成するための機関を設けたのだ。そのため簡単な病で人は死ぬことが少なくなり、子供たちの間では『五斗米道』ごっこが流行っていた。
もちろん、誠も姉妹と一緒にやっている。
「李さん、どうだい、最近は何も困ってないかい?」
「はい、おかげさまで。今度職を得ることもできそうです」
「そりゃ、なによりだね。何を始めるんだい?」
「技師として、お国に雇っていただけることになりまして」
「そうか、じゃあ、城内で会うこともあるかもしれないな」
「壁の修繕が主な仕事になりそうなんですが、私も何とか自立してやっていけそうです」
「うん、じゃあ今度城で会ったら、一緒にご飯でもいこう!」
「そんな、恐れ多い……」
「俺と、李さんの仲じゃないか」
職の斡旋所を設け始めたのも一刀であった。さすがに国家にかかわる大事な職業、例にすれば警備隊などになると、結構面倒な面接やら試験を通る必要があるが、人手不足の仕事は国内探せばどこにでもあるのだ。
一刀はその雇用者の要望に適う人材を捜すことのできる場所を設けたのだった。
(人間一人ひとりを見て、父上は政策を揚げているのだろうか?)
誠は初めてみる父の姿に、いまさらながら驚きを隠せないのだった。
警邏を始めてしばらく、一人の男がこちらへとやってきた。しかし、どこかその足取りは危ない
「み、身遣い様……」
「氾さん、じゃないか! どうしたんだ、その切り傷」
「あいつらが、また……」
「あいつら?」
問いかける一刀に、氾は無言で頷き返した。
死ぬほど重傷ではないが、下手に傷口から雑菌が入れば悪化する可能性もある。
「誰か、氾さんを診療所へ。いくぞ、誠」
「は、はい」
初めて見る父の横顔に、誠は思わずどきりとした。
悔しそうに歯を食いしばり、こぶしを強く握り締める。
「警備の人にも連絡をお願いする。数でこられると少しばかり手間取るかもしれないからな」
人々にそう指示を与えると、誠について来いとも言わずに一刀は走り出した。
しかし、誠も遅れずについていく。
「父上、あいつらとは誰のことですか?」
「最近この区画に出入りするようになった、若いやつらだ」
「盗賊や山賊などですか?」
「違う、それよりももっと面倒な相手だ」
一刀の顔が悲しくゆがんでいく。
「平和と自由を勘違いしている馬鹿者どもだ」
現場にたどり着くと、そこには十人ほどの若者が思い思いに座り込んできた。
「いやぁ、やっぱり楽しいなぁ」
「そうっすねぇ、こういう風に暴れられる所なんて少ないですからね」
「まったく親父たちは平和になってよかっただのいうけどよぉ、平和なんて退屈の極みだっての」
「ちげーねぇ」
そういって笑い出す男たちを、誠は信じられない目で見つめていた。
(彼らは何を言っているのだろうか? また戦乱の世になってほしいとでも願っているのだろうか?)
「おい、お前ら」
「ん? なんだよおっさん」
「氾さんを傷つけたのはお前らか?」
「誰だよそれ?」
「あぁ、さっきお前が殴ってたやつじゃね?」
「ああ、あのおっさんか。でも、氾って名前かどうかはわかんねぇな」
「まぁ、適当につかまえて金出させただけだからね」
(何、こいつらの言っていることが理解できない)
不良たち行っている会話についていけない、誠だった。
そんな混乱を深める誠を他所に、一刀は冷静に対処していた。
「とりあえず、警備隊に言って自首してもらえるか?」
「じ、しゅ~?」
「なんで、俺らがそんなことしなきゃなんねんだよ」
「お前らが罪を犯したからだ」
「罪だ? 何のことか知ってるか?」
「いえ、しりませんよ」
ニヤニヤと笑いを浮かべるごろつきたち。
一刀の目つきが鋭くなる。
「もう一度言う。自首をしろ」
「うるせんだよ、あんなくずどもを呉の臣である俺らがどう扱おうが、どうでもいいじゃねぇか」
「お前もやってみねぇか? 結構たのしぃぜ、無抵抗の人間をなぶるのは」
不愉快な笑い声が二人の耳に響いた。
「誠、よく見ておけ。これがお前たちの世代で相手にしていかなければならない人間たちの目だ」
一刀の言われたとおりに誠はその人間たちを観察しようと目を凝らす。
その目は黄ばんでいた。色というよりも、何を見ているのかわからないほどに悪化していた。
「そこのお父さん、娘の前でいいかっこするのはいいけど、俺たちに敵うと思ってんの?」
「俺たちたぶんそこらの武将より強いよ?」
誠は何をバカなこと言っていると思ったがあえて口に出さなかった。
誠の視線は不安そうに父のほうに向いていた。
一人ひとりの技量は父のほうが上だろう。しかし、一対多数の戦い方は、蔡殿から学んだがなかなか難しい。
それを父上ができるのだろうかというのが、誠の感想だった。
「父上」
「心配するな、誠。すぐに終わる」
その言葉が引き金だった。座っていた若者たちが立ち上がり一斉に声をあげ挑みかかってきた。無手ではあるが危険ではある。
一刀が真剣を抜く。そして若者たちが間合いに入る前に―――
一閃!
「え?」
誠が疑問を発すると同時に、若者たちの動きが止まり、のろのろとその場に座り込んだ。そこで腰を抜かしていたのだ。
一番先頭にいたものが声をあげる。
「な、なん、なんなんだよあんたは!!」
「お前たちには覚悟が足りない。人を殺すということがどういうことかわかっていない」
冷たく言い下ろす一刀。一刀は刀を鞘にしまうと、いつの間にかしがみついていた誠の肩にそっと手を置いた。
誠は急に怖くなって一刀にしがみついたのだ。相手が怖かったのではない、今さっき発した一刀の殺気が怖かったのだ。
警備兵がやってきた。
「隊長! ご無事ですか!」
「ああ、それより仕事だ。こいつらを留置し、本性を明かさせろ。上から権力がかかってきたら俺の名を出してもかまわない」
「は!」
そうして若者たちはひっ捕らえられていった。
「誠、怖かったか?」
誠は答えずに黙って頷いた。
「殺気をもろに受けたのは初めてだろう」
その返答に、誠は驚きを隠せなかった。誠は自分の恐怖の対象を一刀が勘違いしていると思っていたからである。
「今日ここに誠を連れてきたのはね、まぁこういうことも予想してなかったわけではないけど、本来は別のところにあるんだ」
「別の?」
「そう、誠はこの五番街を見てどう思った?」
「それは、……」
言いにくかった。自分の父が懇切丁寧に作り上げた国の一部である。それを悪く言うことを誠はできなかったのである。
「正直に言ってごらん」
「……空気がまずいと思いました」
「うん」
「臭いとも思いました」
「うん」
「なんてみすぼらしいんだろうと思いました」
「そっか……。じゃぁ、誠、彼らは不幸かな」
「え?」
「いいかい誠、人が生きるので大事なことは幸せでいることだ」
「それはわかります」
「でもね、幸せであることは、富を持つことではないんだよ」
温かな日差しのような笑みを浮かべる一刀に誠はなすがままにされる。
「本当に幸せな人はね、守りたいと思うものがある人のことだ」
「守りたいもの?」
「どんな小さなものでもいい。どんなものでも、守りたいものがあれば人は力を出せる。俺にとっての明命や誠はその一つだよ」
「あ、ありがとう、ございます。父上」
「俺も誠を幸せにしてあげたい。でも、その幸せっていうものは自分で掴みとらなきゃいけないものなんだ」
「はい、父上」
「うん、いい返事だ。まだ、誠は子供だ。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから自分が幸せになれる道を探していきなさい」
そういうと一刀は誠を抱き上げた。
「ち、父上、恥ずかしいです!」
「おろさないよ、お前たちが大人になったら俺はこんなことはできなくなるんだから」
「そんなぁ」
恥ずかしがる誠は心の中で思った。
(守るための強さ、覚悟、父上にはそれがある。だから殺気が出たんだ。やっぱり父上はすごい)
一人の少女が、建業で今日もまた成長していく。
しばらくして一刀は夕日にくれていく建業の街中を、誠をお姫様抱っこして帰っていったのだが、途中寝てしまった誠の顔に
(やべぇ、なにこれ、めっちゃ天使ジャン。ああ、明命モフモフしたい気持ちがよくわかるよ~)
と頬を緩ませたのはいつものこと。さらにはそれが他の姉妹に見つかり、結局全員分おんぶや抱っこをして、次の日一刀の腕が上がらなくなったのはまた別のお話。
あとがき
ごきげんよう!
ちょい、今回はシリアス度高めでいきます。
というか、まぁ一刀が歴史から異なっていく世界でどう暮らしていくのか。それを自分なりに解釈していった結果、一刀の闇の部分が浮き彫りになっていくようになりました。
十分、かっこいいですけどね。
他の作品も、おうえんしてください。
ではでは!
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第三話投稿です。
今回ずいぶんと長くなりました。
もともと拠点系のシナリオは苦手なので、どうしてもシリアスが混ざってしまいますねぇ。
だんだんとオリジナルとなってきていますがもう少し頑張ろうと想います。
意見感想待ってます。
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