No.135360

異世界の天の御遣い物語11

暴風雨さん

強化の技、大好きな作者です。
ドラゴン〇ールでも超サイヤ人より界王拳の方が好きな作者です

2010-04-09 21:13:27 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4244   閲覧ユーザー数:3219

〝汜水関の戦い・続〟

 

 

 

〝一刀〟

 

 

「よし!・・・上手くいった!」

 

「上手くいったけど・・・このまま、連合軍壊滅~とかにならないよね?」

 

不安な表情で桃香が言う。

 

「大丈夫です。ほら」

 

「ん?あれは・・・」

 

朱里が指した方に愛紗が視線を向けると、

 

「曹操さんの軍ですね。華雄軍に横槍を入れてくれるみたいです」

 

「となると・・・さらに戦場は混乱するな」

 

「ならその時を狙って華雄と一騎打ちするのだ!んでもってね、鈴々がドーンと勝って、ババーンッて一気に形勢逆転なのだ!」

 

「・・・それも一つの手か」

 

先陣だった俺たちが崩れ、本陣にまで敵に肉薄されている今、敵味方ともに混乱に陥っている。

 

その隙を突けば、華雄を討ち取ることだって可能かもしれない。

 

華雄を討ち取れば、備えを崩し、後退してきたことに対しても、「策であった」と言い訳は立つ。

 

それをみんなに説明すると、

 

「なるほど、良い手ですな」

 

「華雄ほどの良将ならば、正々堂々と勝負したかったが・・・致しかた無いか」

 

「だね。じゃあ・・・鈴々ちゃん。華雄さんのこと、お願いできる?」

 

「任せるのだ!」

 

鈴々は自分の胸をドンッと一叩きする。

 

「では我らは鈴々の援護に回ろう。私は部隊を率いて華雄隊の右翼を受け持つ」

 

「ならば私は左だな」

 

「お二人が左右から当たれば、一瞬ではあるとは思いますが、華雄さんの本陣の道が開かれることになるでしょう、そこを」

 

「鈴々が突撃して勝利を手に入れるのだ!」

 

「そういうことだね。・・・でも、鈴々ちゃん。あまり危険なことしちゃダメだよ?」

 

「それは無理な相談なのだ。一騎打ちは命のやりとりなんだから」

 

相手を倒す気なら自分が倒される覚悟も必要、か。

 

「それはそうだけど・・・」

 

桃香は心配そうに鈴々を見つめる。

 

「ご安心ください、桃香さま。鈴々は必ずや無事に戻ってきてくれます」

 

「うむ。華雄如きに負ける鈴々ではあるまい。・・・ご安心めされい」

 

愛紗と星が桃香を安心させようと言葉をかけるが、

 

「そんなの・・・安心なんて出来るはずないよ」

 

まだ幼い面影を残している鈴々のことが、余程心配なんだろう。

 

「お姉ちゃん、安心するのだ。鈴々は必ず帰ってくるから」

 

「・・・約束だよ?」

 

「約束なのだ!・・・じゃあ、愛紗、星。道を作るのはお願いするのだ」

 

「任せておけ。無事に華雄のところまで連れて行ってやろう」

 

「ああ。いよいよ反撃の狼煙をあげるときが来た。存分に暴れてやろうではないか」

 

不敵な笑みを浮かべる二人。

 

「作戦は決まった。・・・後はそれを実行するだけかな」

 

「御意。・・・では、参ります」

 

「承知・・・では」

 

「行ってくるのだ!」

 

三人が俺たちに背を向け駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

「・・・心配だなぁ」

 

「確かに心配ですけど・・・だからこそ、私たちは愛紗さんたちが動きやすいように、最善を尽くさないと」

 

「・・・そうだね。私は私にできることを。・・・うん!それじゃあ―――」

 

「・・・《キョロ・・キョロ》」

 

桃香は言葉を続けようとしたが、雛里が辺りをキョロキョロと首を忙しく動かしていた。

 

「?・・・どうかしたの、雛里ちゃん」

 

「あの、ご主人様がいないんですけど・・・」

 

その言葉に朱里も慌てて回りを見渡す。

 

「は、はわわ・・・ほんとだ!どこに行ってしまわれたのでしょう!?」

 

「・・・大丈夫だよ。朱里ちゃん、雛里ちゃん。・・・ご主人様の行くところはあそこしかないよ」

 

朱里と雛里は頭の上に?を浮かべていた。

 

「ご主人様なら大丈夫だから。とにかく今は私たちのできることをしよう。ね?」

 

「は、はい。わかりました」

 

朱里も雛里も多少の不安は残るものの、今は目の前のことに頭を切り替えた。

 

「それでは、策なんですけど。こんなのはどうですか?」

 

朱里と雛里は策を桃香に伝えると行動に移った。

 

 

 

 

 

 

〝華雄軍〟

 

 

「華雄様!敵後方部隊が東へと移動する素振りを見せています!このままでは退路が・・・!」

 

「馬鹿者!そんなものは陽動に決まっている!それぐらい見抜けんのか!」

 

「し、しかし前線の兵士たちの間に動揺が走っております!」

 

桃香たちの策とはありったけの旗を兵士が持って東へと移動すること。つまり陽動作戦。

 

華雄なら見抜けたが兵士たちには見抜けなかった。

 

「それを何とかするのが貴様ら士官の役割だろう!何とかしろ!」

 

「は、はっ!」

 

 

 

 

 

 

〝愛紗・星・鈴々・?〟

 

 

 

「・・・ん?敵の動きに乱れが出たか?」

 

「うむ。・・・あれだな?」

 

「あや?旗がいっぱい動いているのだ」

 

「なるほど。派手に後方を扼そうというのか」

 

「我らの勢力のみで華雄の後方は扼せまい。恐らく、そう動いて見せている、といったところだろう」

 

「なるほど。・・・さすがだな。・・・これで我らも楽に仕事ができる」

 

「ああ。お膳立ては我らに任せておけ、鈴々」

 

「うん!鈴々が華雄をぶっ飛ばしてくるから、安心するのだ!」

 

「では参ろうか!」

 

「参るのだ!」

 

「では作戦を開始する!関羽隊は敵右翼を。趙雲隊は敵左翼に当たる!」

 

星が龍牙を構え兵士達に命令する。

 

「今回は敵を倒すのが目的ではない!敵を釣るのが目的だ!各員、命を惜しめよ!」

 

愛紗も青龍偃月刀を構え号令する。

 

愛紗と星はそれと同時に分かれ右翼、左翼にぶつかり戦闘を開始する。

 

また鉄と鉄がぶつかり合う鋭い音と共に、肉体がぶつかり合う鈍い音が、戦場に不協和音を奏でる。

 

鈴々は二人が部隊を引きつけている間に華雄のもとへと駆けて行く。

 

「よし!うまくいったな!・・・!?。あ、あれは・・・」

 

「・・・こんなところまで来るとは、困ったお方だ」

 

一人の男が鈴々の後を追うように駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

「にゃにゃにゃーーーっ!!」

 

鈴々は蛇矛を振り回し目の前の敵を蹴散らしていく。その後ろから、

 

「〝鬼斬り〟!」

 

鈴々を通り越し前方の敵を斬り飛ばしていく。

 

「にゃ!?お、お兄ちゃん!?」

 

鈴々は目を見開いて驚いていた。

 

「よっ。鈴々が心配で来ちまった」

 

「・・・心配してくれるのはうれしいのだ。けど帰ったほうがいいのだ」

 

「なんで?」

 

「・・・愛紗に怒られても鈴々知らないのだ」

 

俺は苦笑いをしながら、

 

「大丈夫。それくらい覚悟しているよ。それに心配ってのもあるけど、鈴々の一騎打ちに邪魔がはいらないように俺はここに来ているんだ」

 

「・・・お兄ちゃん」

 

「さ、喋っている間にも敵がこっちにくるぞ!俺が先導して華雄のところまで連れてってやる!いくぞ!」

 

「応なのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〝華雄軍・愛紗・星・鈴々・一刀〟

 

 

 

「ええい!一度シッポを巻いて逃げ出した部隊が、調子に乗ってじゃれついてくる!邪魔な!」

 

「華雄様!

 

「何だ!」

 

「前線の兵士達が劉備軍に気を取られ、陣が崩れかけています!ご指示を!」

 

その言葉に華雄はイラついたように、

 

「指示だと!?私は袁紹軍とも対峙しなくてはならないのだぞ?そんなもの、胡軫に聞け!」

 

「は、はっ!しかしすでに胡軫将軍の通達も兵には届かず、完全に浮き足だっておりますが・・・」

 

「・・・ちっ。分かった。ならば私が出る。袁紹軍の方へ移動しろと胡軫に伝えておけ!」

 

兵士は返事をしてその場を離れていった。

 

「全く・・・我が軍の質も落ちたものだ。このように無様な有様を曝すとは・・・」

 

そのとき、

 

「それは兵隊のたいしょーに責任があるのだ!」

 

華雄はそれを聞いて俺たちのほうに振り向く。

 

「誰だっ!」

 

「平原の相、劉備が一の家臣、張翼徳とは鈴々のことなのだ!」

 

「そして、おれは――――」

 

「劉備の家臣だと・・・っ!?貴様、どうやってここまで!」

 

あ、あれ?俺には名乗らせてくれないの・・・。

 

「んとねー、愛紗と星が華雄の部隊を引きつけてくれて、その間に鈴々とお兄ちゃんで

ここまで来たのだ」

 

「何だと・・・!ここまでたった二人できたのか・・・!」

 

あ、一応、目には入ってたのか。まぁ・・・それだけでもよしとするか。

 

別に俺が戦うわけじゃないし。・・・一騎打ちは真剣勝負。どちらが勝つにしても手は出せない。

 

しっかり見届けなくちゃな。

 

「そういうことなのだ。・・・さぁ華雄のお姉ちゃん、鈴々と勝負するのだ!」

 

「・・・ふっ。はーっはっはっはっ!」

 

いきなり笑い出す華雄。

 

「にゃ?何がおかしいのだ?」

 

「子供がこの私と勝負するだと?これが笑わずに居られるか」

 

・・・あーあ。言ってはいけないことを。

 

「鈴々は子供じゃないのだ!」

 

「子供で無くとも、そんな小さな体で、どうやってそのデカイ得物を振り回す?・・・ガキが。怪我をする前にこの場より立ち去れぃ!」

 

うわ。華雄、完全に鈴々のことなめきってるよ。

 

「・・・戦わないのか?」

 

鈴々の声が少し震えている。

 

「くどい!私と戦うには十年早いわ!」

 

「・・・じゃあ早いかどうか、確かめればいいのだ!」

 

もう鈴々は我慢の限界みたいだ。

 

鈴々は一気に近づき、蛇矛を横一閃する。

 

「なに・・・っ!?」

 

激しい金属音と共に華雄は後ろへと押されていた。

 

「ぐっ・・・なんて重い一撃を放つんだ、こいつ!」

 

華雄の眼はさっきまでの見下していた眼ではなく、武人の眼になっていた。

 

「ふふんっ。どうだーっ!鈴々と戦う気になったかーっ!」

 

「・・・いいだろう。その武、しかと認めよう。我が戦斧の血錆にしてくれる!」

 

「へーんだ!そっちこそ、鈴々の蛇矛でぶっとばしてやるのだ!」

 

「ほざくな!童っぱ!」

 

「またガキって言ったなーっ!」

 

ガキと言われたことに腹を立て、鈴々は蛇矛を上段から一撃を放つ。

 

「ふっ・・・」

 

しかし華雄はそれを軽々とかわす。

 

「重い攻撃だ。だが・・・」

 

「当たらなければどうと言うことは無い!」

 

それと同時に華雄は反撃する。

 

「あぶっ!?」

 

鈴々はその反撃を蛇矛で受け止め後退する。

 

「どうだ童っぱ!これが世に歌われた華雄の戦斧!その身で味わいたくなければ、この場より立ち去れぃ!」

 

「ふーんなのだ。全然効いてないから、立ち去るなんてしないのだ!」

 

鈴々の方が若干余裕が見える。

 

「・・・どこまでも生意気な!」

 

「生意気って言うのは、自分の能力を弁えない奴がデカイ口を叩くことなのだ。でも鈴々は強いから

生意気じゃないのだ!その証拠を見せてやるのだ!」

 

おお!鈴々が言葉でも押している。

 

「ならば来い!貴様の自慢の一撃、見事受け止めてやろう!

 

「返す剣でその素っ首、叩き落してくれる!」

 

華雄は攻撃してこず、防御の構えをとる。

 

「やれるものならやってみろなのだ!」

 

「身の丈八尺の丈八蛇矛、簡単に受け止められると思うななのだ!」

 

「いっくぞーっ!てぇぇぇ~~~~いっ!!」

 

鈴々は渾身の力を込めた一撃を上から振り下ろす。

 

「ぐっ!」

 

華雄はそれを受け止める。が、苦しい表情を浮かべている。

 

「まだまだぁーーーーーーっ!」

 

「うりゃーーーーーーっ!」

 

さらに渾身弐撃を繰り出し、華雄を押していく。

 

「くぅ・・・!」

 

「うりゃーーーーーーっ!」

 

さらにさらに猛攻の弐撃を放つ。すると、パキィと音と共に華雄の持っていた戦斧が折れた。

 

「なっ・・・!?」

 

「これで・・・さいごだぁぁーーーーーっ!」

 

鈴々は躊躇なく最後の一撃を放った。・・・ドシュ。と音が俺の耳に聞こえてきた。

 

「ぐ・・・」

 

そして華雄は腹から血を出しながら倒れた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。・・・汜水関の猛将華雄、劉備が一の家臣、張翼徳が討ち取ったのだー!」

 

鈴々は高らかに声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〝愛紗・星〟

 

 

「星!前方で鬨の声があがった!そちらで状況は把握しているか!?」

 

「・・・慌てるな、姉バカ殿。おぬしと同じ場所に居る私が、状況を把握できるはずがなかろう」

 

「そ、それはそうだが・・・鈴々とご主人様は、無事なのだろうか・・・」

 

「安心しろ。張翼徳ともあろう者が、そう簡単にやられはせん。主もこの私に勝った男なのだぞ」

 

「・・・そうかもしれんが。だが!」

 

心配でたまらないとそんな表情であせる愛紗。

 

「落ち着けと言うに。鬨の声が上がると同時に、部下を数人、前方に放ってある。おっつけ状況がわかるだろう」

 

「う、うむ・・・」

 

「全く。強いのか弱いのか分からんな。お主は」

 

「放っておけ」

 

「ふふっ。そうはいかん。二人の百合百合しぃ関係を妄想し、ハァハァさせて頂こう」

 

「ぐぬっ・・・相変わらず、おかしな奴だ」

 

「ふっ。お褒めに預かり、恐悦至極」

 

「誰が褒めているんだ、誰が!」

 

そこへ、兵士がやってきた。

 

「あ、あのぉ~・・・」

 

「なんだっ!?」

 

星にからかわれた事で怒り口調で兵士に返答する。

 

「あ、いえ、その・・・張飛将軍がお戻りになられたので、その報告を―――――」

 

「うむ。ご苦労。・・・して、鈴々は?」

 

「ここなのだ!」

 

兵士の後ろから鈴々が歩いてきた。

 

「鈴々っ!無事か?怪我はないか?怖くはなかった?」

 

早口で言う愛紗。その姿にため息を漏らす星。

 

「へへー。全然大丈夫なのだ♪ただいま、愛紗」

 

「ああ、お帰り。・・・無事でよかった」

 

母のような顔で安堵している愛紗。星はその姿を見ながら、

 

「・・・ふむふむ。良いぞ。誠に良い」

 

「くっ・・・要らぬチャチャを入れるな、星」

 

「チャチャなどと、そんな無粋なものをいれるか。私は正直に、心の中から萌えいずる感覚を口にしているだけだ」

 

「・・・にゃ?なんの話をしているのだ?」

 

「いや、いやいや。鈴々は別に気にしなくて良いことだぞ?・・・ところでご主人様はどうした?鈴々」

 

「お兄ちゃんなら、用があるとか言ってその場に残ったのだ」

 

「なっ!?あんな危険な場所にご主人様一人で残ったのか!?・・・くっ!」

 

愛紗は鈴々の言葉を聞いて駆け出そうとするが、星が、

 

「待て、愛紗!・・・主も考えあってのことだろう。ここは主を信じて待とう」

 

「しかし・・・!」

 

「主は考えもなしにあんな危険なところに、残る者ではない。・・・我らが主を信じないでどうする?愛紗よ」

 

「・・・分かった。待とう」

 

「そうそう。お兄ちゃんを信じるのだ。・・・ってこんなことしている場合じゃなかったのだ!

愛紗、星。すぐに追撃しなきゃだめなのだ!」

 

「応。すぐに部隊を進めよう。・・・損害はっ?」

 

星は近くの兵士に聞く。

 

「はっ。激戦のため、負傷者も多いですが・・・やれます。やってみせます!」

 

「良い気合だ。・・・では行くぞ!我が主に勝利を捧げるために!」

 

「「「「応っ!!!」」」」

 

「敵は浮き足だっているのだ!もう一押しして、鈴々たちの強さを見せ付けてやるのだ!」

 

「目前の敵を粉砕し、その勢いのまま汜水関を落とすぞ!各員、奮励努力せよ!」

 

「全軍・・・突撃ぃぃぃぃーーーーーっ!」

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

「ん?愛紗たちが、動き出したな。俺も早く戻らないと」

 

俺は今、汜水関の両脇にそびえ立っている崖の上にいる。幸いここには誰もいなかった。

 

華雄を運ぶのはちょっと大変だったが、場は混乱していたし、本気の瞬歩で移動したから見られなかっただろう。

 

「う・・・う・・・」

 

「さすが武人だな。体を鍛えているだけあって、治りが早い」

 

氣を用いて治療を行う〝内養功の術〟を華雄に掛けているところだ。

 

治療系の氣はあまり得意ではないのだが、そうも言ってられない。

 

ある頼みごとのために俺は華雄を治すことにした。

 

「・・・貴様。なぜ私を・・・助ける?」

 

「お、もう喋れるのか。すごい生命力だな。さすが華雄だ」

 

「・・・っ!はぐらかすなっ!答えろ!」

 

傷が痛むのに大声で俺を怒鳴ってくる華雄。

 

「・・・答えるから、大声を出すな。せっかく閉じかけている傷がまた開くぞ」

 

俺は内養功を使いながら話す。

 

「華雄の戦いを見て思ったんだ。・・・もったいないって」

 

「・・・もったいない、だと?」

 

少し怒り口調の華雄。

 

「それはつまり私に、情けをかけているのか?」

 

「情けじゃない。俺はただ、華雄ほどの力があればもっとたくさんの人々の命を救うことだって

できると思ったんだ」

 

「貴様、なにを・・・」

 

その言葉に驚いたのか、少し困惑していた。

 

「この大陸にはまだまだ苦しんでいる人たちが居る。でも、俺たちは一つの平原に留まっていてその人たちを助けに行けない。だから、その役をお前に・・・華雄に頼みたいんだ」

 

「・・・しかし、私は。私は自分の誇りのために戦ってきた。いまさら、そんなわたしが」

 

華雄が失笑ぎみに自分のことを言う。たぶん鈴々負けたのが堪えたんだろう。

 

「華雄にしか頼めないんだ。・・・頼む」

 

華雄が最後まで言う前に、頭を下げる。

 

「・・・っ!?お、おい。貴様が頭をさげるな!?」

 

「・・・頼む」

 

「・・・・・」

 

頭を下げる俺をじっと見つめる華雄。そして、

 

「・・・分かった。一回、死にそうになった身だ。この命、お前のために使おう」

 

「!。ありがとう!・・・って言うか俺のためにじゃなくて、みんなのために―――」

 

「私的には一緒のことだ。あまり気にするな」

 

「・・・まぁ、華雄がそう言うならいっか」

 

話が終わりそうになったころには、完全に傷が塞がっていた。

 

そして華雄は立ち上がる。

 

「そういえば、礼を言ってなかったな。・・・ありがとう」

 

「へっ?あ、いや。・・・どういたしまして」

 

なんかさっきまでと雰囲気違うから接し方に困る。

 

「さて、それでは、私は具体的にどうすればよいのだ?」

 

「えっと、とりあえず大陸を歩き回ってくれればそれでいい」

 

「なかなか難しい注文をするのだな、おま―――」

 

そこまで言って華雄の口が止まる。

 

「ん?どうした?」

 

「お前の名はなんという?」

 

「あ、そっか。名前を言ってなかったな。俺は北郷一刀。真名はないから好きによんでくれ」

 

「そうか。では、北郷様と呼ばせていただこう」

 

さ、様っ!?

 

「さ、様はちょっと・・・」

 

「好きに呼んでくれと言ったではないか」

 

「た、確かに。・・・しかしなんで、様?」

 

「命の恩人だからに決まっておろう」

 

「・・・そ、そうですか」

 

なんか何言っても変えそうになさそうだから、もう言わないでおこう。

 

「話を戻すけど、滅多のことが無い限り、ばれないと思うけど念のために名前を変えとこう」

 

「なっ!?私に名を捨てろというのか!?」

 

「しょうがないだろ。生きてるってばれたら大変なことになるんだから、名前を変えとけば、なんとか

そっくりさんってことにできるから。・・・な、頼む?」

 

「・・・北郷様の頼みならば仕方が無い」

 

華雄はしぶしぶながら了承してくれた。

 

「ごめんな。・・・えーとっ、それじゃあ・・・葉雄(しょうゆう)にしよう」

 

「・・・葉雄、か。悪くない」

 

まんざらでもない表情を浮かべてくれる葉雄。

 

「なら、これが旅のお金な。これでまた武器でも買ってくれ」

 

おれはポケットマネーを葉雄に渡す。

 

「かたじけない、北郷様」

 

お金を受け取ると一礼する。

 

「それじゃあ、そろそろ戻らないといけないから、行くな」

 

「・・・応。また会える日を楽しみにしているぞ」

 

俺はそのまま葉雄に背を向け、本気の瞬歩で崖を降りていった。

 

降りている途中、言い訳を考えていた。

 

「華雄の死体は俺が手厚く葬った。死体を曝すのは敵だろうと嫌のはずだから」

 

ってな感じでいいかな・・・?。

 

 

 

 

 

〝葉雄〟

 

 

「・・・・・」

 

葉雄は崖の上から戦場の様子を眺めていた。そこには自分の部下〝だった〟人たちが居た。

 

その人たちは、最後まで立ち向かうもの、投降するもの、逃げ出すもの。いろいろな輩が居た。

 

「・・・すまん」

 

自分が負けたせいでこんな事になっていることに、圧を感じつい言葉に出してしまう。

 

だがそれで葉雄の心は軽くならず、葉雄は目の前の出来事を胸に刻みつけていた。

 

自己満足。そんなことはわかっているが、見ることをやめようとはしなかった。

 

そしてしばらく見た後、葉雄は洛陽とは違う方向に歩き始めた。

 

「・・・貴様らが生きられなかった分、私は最後まで諦めずに生きよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あの~」

 

「うわ!?」

 

俺が後ろから声をかけると葉雄は驚きざまにこちらをむいた。

 

「な・・・北郷様!?なんで、またここに――――」

 

葉雄の言葉を遮るように、

 

「「「華雄さまーーーーっ!」」」

 

華雄の家臣の人たち、十数人が華雄に近づいていった。

 

「お、お、お前達!なぜここに・・・!」

 

「それは俺から説明するよ」

 

「北郷様・・・!」

 

「下まで降りたんだけど、その時にその人たちが、俺が華雄を連れて行ったことを見てたらしくてさ、

んで、さっきまでのことを説明したら、俺たちも華雄さまとご一緒したいです。なんて言うから

連れてきちまった」

 

困惑している葉雄・・・ええい、めんどくさいから今は華雄でいいや。華雄に簡単に説明する。

 

「お前達・・・私は一騎打ちに負けた敗将だぞ。そんな私についてきたところで・・・・」

 

「たとえ負けても華雄様は我らの主!名高き猛将なのです!」

 

「・・・まだ私を猛将と言ってくれるのか・・・」

 

「華雄様こそ天下一の猛将・・・!我ら家臣一同、どこまでもついていきます!」

 

「・・・っ!?」

 

その言葉に華雄の目の端に涙がたまっていく。

 

「華雄さまっ!」

 

「おまえたちぃぃぃぃ~~~!!」

 

「か~ゆ~う~さ~ま~あぁぁぁぁ~~~!!」

 

 

華雄と家臣は仲良く抱きしめあっていた。

 

うんうん。これも青春だな。・・・なんか邪魔っぽいし帰ろう。

 

俺は今度こそ愛紗たちのところへ戻るため、崖を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝袁紹軍〟

 

 

「あ、あれ?敵の部隊の勢いが弱くなってる?」

 

「おろ?ほんとだ。・・・なんだろうな?」

 

「分からないけど・・・華雄さんの旗の近くが混乱しているように見えるね」

 

「華雄に何かあったって事か?・・・なんだろう?」

 

「もしかして、華雄さんが戦死したとか?」

 

「まさかぁ。猛将にして良将なんて世間にべた褒めされている華雄が、そう簡単に戦死なんてするかぁ?」

 

「でも戦場では色んなことが起こるし・・・」

 

「ないない。ないってば。それに華雄はあたいが討ち取る予定なんだから。こんなところで戦死なんてしてもらっちゃ困るって」

 

「あははっ、予定なんだ。・・・じゃあ今から華雄さん討ち取ってきてよ、文ちゃん」

 

「今は無理!」

 

即答する文醜。

 

「む、無理なんだ。どうして?」

 

「いまはあたいの気が乗らない。博打は勝てるときにしないと意味ないし」

 

いつも考えなしで賭けてるくせに、と思う顔良だった。

 

「ん?なんかいった?」

 

「ううん、何も言ってないよ。・・・とりあえず斥候だして様子を探ってもらおうか」

 

「斗詩にお任せ!」

 

「もぉ~・・・文ちゃんも少しは働いてよぉ」

 

 

 

 

 

 

〝曹操軍〟

 

 

「夏侯惇将軍!どうやら敵本陣で混乱が起こっているようです!」

 

「混乱?なぜそんなことになっているのだ」

 

「はっ。現在のところまだ状況は把握できておりません。ですが敵陣に斥候を放っておりますので

おっつけ状況が判明するかと」

 

「そうか。ご苦労。・・・どう思う、秋蘭」

 

「ふむ。・・・袁紹軍と対峙しているとはいえ、あの華雄がそうも簡単に軍の統率を失うとは考えにくい」

 

「では、華雄に何かあった、ということか」

 

「恐らくそうだろう。・・・この状況に至る前に、北郷たちが何かしら動いていたからな」

 

「まさか北郷たちが華雄を討ち取ったとでも?・・・いや、それもありうるか」

 

「だな。・・・北郷は姉者にも勝っているからな。ふふっ」

 

「なっ!?秋蘭!?余計なことを言うな!」

 

「ふふっ。すまぬな姉者。・・・しかし、華琳さまへの手土産がなくなってしまったな」

 

「くー!北郷め!余計な真似をしおって」

 

 

 

 

 

 

〝孫策軍〟

 

 

「ん・・・華雄軍の動きが鈍ったか」

 

周瑜が髪をかきあげながら、華雄軍の方を見る。

 

「そうみたいね。・・・劉備配下の誰かが華雄を討ち取ったんでしょ」

 

「ふむ?・・・華雄が討ち取られたとなぜわかる?」

 

「なんとなく。・・・勘かな?」

 

「勘、ねぇ。・・・誰かある!」

 

周瑜の呼びかけに一人の兵士が近づいてくる。

 

「敵本陣に斥候をもぐりこませろ。状況を把握したい」

 

兵士は返事をして立ち去っていった。

 

「あー。私の言ったこと、信じないんだ?」

 

「勘なんてものを簡単に信じるようじゃ、軍師失格でしょう?私は現実主義者なのよ」

 

「絶対当たってるのに・・・」

 

少し拗ねたように周瑜を見る。

 

「確かに、あなたの勘は外れたこと無いけどね。・・・天に愛されている人間の発言を凡人が

納得するのは、それなりの理由が必要なの」

 

「めんどくさいなぁ。もう」

 

「そう言わずに、凡人たちに合わせて頂戴」

 

「はいはい。・・・で?情報が入るまでここで待機って訳じゃないんでしょ?」

 

「当然よ。混乱で生じた隙をついて、一気に汜水関を落とすわよ」

 

「そう来なくっちゃ!じゃあ私は前に行ってるから!」

 

キャッキャッとうれしそうに喋る孫策。

 

「そうね。ただし、余り無茶はしないでよ?」

 

「考えとく。・・・じゃね♪」

 

それだけ言うとさっさと前線に移動する。

 

「・・・全く。考えてなんてくれないくせに。・・・誰かある!」

 

さっきとは違う兵士が来る。

 

「前線の黄蓋殿に伝令。伯符の手綱をしっかり絞ってくださいと伝えてくれ」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

〝桃香・朱里・雛里〟

 

 

 

「劉備様!前線にて趙、張、関の旗が一斉に動き出しました!」

 

「えっ?ということはもしかして・・・」

 

「作戦は成功ってことですね」

 

「桃香様。今が好機です。本陣も押し出してご主人様たちと合流しましょう」」

 

「このまま一気に華雄軍を殲滅し、その勢いのまま汜水関に向かうのが宜しいかと」

 

「うん、わかった!二人とも、部隊の指揮、お願いね」

 

「はいっ!では全軍、前線に向かって移動しましょう!」

 

「ご主人様たちと合流後は、華雄軍の撃退に集中します。各員は戦闘準備を怠りなく」

 

「「「「応っ!!!」」」」

 

「あと少しだね。気を引き締めていこう♪」

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

「ふぅ・・・やっと、追いついた」

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

「なにっ!?・・・ご主人様!」

 

愛紗は俺のことを確認するとすぐに近寄ってきて安堵の表情をみせるが、すぐに般若のような

 

顔に変貌し、俺を叱ってきた。

 

「ご主人様!今までどこで何をやっていたのですか!?どれだけ心配したと」

 

「ん・・・まぁ・・・いろいろと・・・ね」

 

なんと答えていいのか、まとまっておらず、歯切れがわるくなってしまう。

 

まさか華雄を治してた、なんて言えないし。・・・あ、そっか。

 

「華雄の死体を手厚く葬ってた。死体を曝すのは敵だろうと嫌のはずだから」

 

「主、そんなバレバレの嘘をつかないで欲しいものですな」

 

げぇ!?星!?やっぱり星くらいになるとウソだってばれちまうか。

 

「・・・ご主人様ぁ~。ちゃ・ん・と、説明してもらいますからね」

 

「あ、あははー。愛紗ー。わ、分かったから、そんな怖い顔するな」

 

「ではこの戦いが終わったら、説明してもらいますからね」

 

「は、はい!」

 

愛紗の圧に思わずいい返事をしてしまった俺。

 

その後、桃香たちが合流し残りの敵兵たちを殲滅していった。

 

その混乱に乗じた孫策によって汜水関の門は突破され・・・激戦の末、

 

連合軍は洛陽に一歩、駒を進めることができた。

 

 

 

 

 

こうして、長い汜水関の戦いは終わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

俺たち連合軍は、一日の小休止のあと虎牢関へと行軍していた。

 

そして俺は桃香たちに華雄のことを伝えた。

 

 

「私はご主人様のしたことは、正しいと思う。大陸のみんなを一人でも多く助けたいっていう

気持ちが感じられるもん」

 

「確かにそうですが、しかし敵だった将を助けるなど・・・。そのうちにご主人様の命を

狙ってくるかもしれません」

 

「愛紗。良将などと世間から言われている人間がそんなことをすると思うか?」

 

「鈴々、戦ってみたからわかるけど。華雄はそんなことをする奴じゃないとおもうのだ」

 

「しかし・・・!」

 

「愛紗、俺を信じてくれ。きっと華雄は愛紗たちのように庶人を助けてくれるさ」

 

こればっかりは信じてもらうしかない。俺はそう思い愛紗に頼み込む。

 

「・・・・・」

 

愛紗は少しの間無言で考える。そして、

 

「・・・分かりました。ご主人様を信じます」

 

「愛紗ちゃんはご主人様の言葉だけは素直に聞くんだよねー♪」

 

桃香がニコニコ顔で愛紗に言う。

 

「なっ!?桃香さま!?」

 

「まぁ愛紗さんも女の子だってことです」

 

「朱里ちゃん。それ、何気にひどい・・・」

 

俺たちの中に笑いの風が吹いていた。するとそこへ、

 

「大本陣より伝令!劉備軍は速やかに前進し、虎牢関の前方に布陣せよ!その後は敵の動きにあわせ、

華麗に敵を撃退せよ!以上!」

 

それだけ言って兵士は去っていった。

 

「・・・またか」

 

「またですね・・・」

 

「・・・まただねぇ」

 

以下同文。

 

「・・・あのバカの大将はなんでこんなバカなの?」

 

「ご主人様・・・バカ、二回言ってる」

 

「だってなぁ、さすがに二回連続でこんな命令来たら言いたくもなるぞ・・・」

 

「何を弱気なことを言っているのですかっ!また私たちが頑張れば良いのです」

 

「・・・そうは言うがな大佐」

 

「は?たい、さ?」

 

「いや、ごめん。言ってみただけ。・・・確かに愛紗の言うとおりだ。後ろ向きはだめだな」

 

俺は自分の心に喝を入れる。

 

「とりあえず虎牢関の前まで、軍を動かそう。話はそれからだ」

 

「御意!各員、持ち場につけ!移動するぞ!」

 

愛紗の号令と共に俺たちは虎牢関前のところに移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

〝胎動〟

 

 

 

「もう少しで虎牢関に着くぞ。・・・おい!聞いてんのか!金嘩(きんか)!」

 

竜人は背中に乗っている二人のうちの一人、幻猫の金嘩に呼びかける。

 

「ふわぁ~・・・、やっと着くの・・・?。まったく、竜のクセに遅いわね」

 

「・・・てめぇ。俺様に運んでもらっておいて、なんだその態度は。おまけに気持ちよく寝やがって」

 

金嘩は頭に生えている猫耳をピクピクさせながら、無視をする。

 

「・・・こいつ。・・・マジでブチ殺してぇ・・・!」

 

「・・・・・」

 

もう一人の人物はその様子をただだまって眺めていた。

 

「ちっ。・・・俺の大嫌いな〝人間〟まで背中に乗ってるから、余計気分が悪いぜ・・・」

 

そうして少し竜人は空を飛んでいると、虎牢関上空までやってきた。

 

「着いたぞ。・・・まったく西王母の奴、なにが「これから邪魔になる人間を偵察して来なさい」、だ。ふざけやがって。偵察ならてめぇでやれってんだ」

 

「もう。さっきからうるさいわよ!竜のクセに小さい事言ってんじゃないわよ。一刀を見てるんだから

邪魔しないでよね」

 

「はいはい。わかりましたよ。お猫さま」

 

竜人はバカにしたような口調で言う。

 

「一刀~。・・・・・あっ!」

 

「なんだよ、大きな声出しやがって。下の奴らに聞こえないにしろ、大声出すんじゃねぇ!」

 

「あんたの声も大きいわよ。って、そんなことはどうでもいいのよ!」

 

金嘩は先ほどより声を抑えながら、

 

「あの乳デカ~・・・!。あいかわらず私の一刀に近づいてんじゃないわよ!」

 

「・・・はぁ。大声上げるからなんだと思えば、また関雲長のことかよ。・・・いい加減しつこいぜ。

一回負けたんだろ。だったら―――」

 

「あんたは黙ってて!シェイロン!」

 

幻龍の竜人・シェイロンは呆れるようにため息をつく。

 

「・・・おい、シェイロン」

 

人間がそんなシェイロンに話しかける。

 

「人間が気安く俺の名前を呼ぶんじゃねぇ・・・!」

 

「そらすまなかったな。けど西王母からの連絡や。しっかり聞きや」

 

その睨み付けるような眼光を涼しい顔で受け流し口にする。

 

「・・・ったく。わかったよ。んで、念話でなんて言ってたんだよ?」

 

「幻狼の銀樺(ぎんか)が帰ってきたから、お前たちも帰って来い。だとさ」

 

その言葉に金嘩がいち早く反応する。

 

「えぇー!あの狼娘もう帰ってきたんだ。さすが西王母にベッタリなだけあって、仕事が早いね」

 

「五胡からここまでやってきて、あいつらが戦う前にもう帰るとはな」

 

シェイロンは怒るきもなれずに、ただ呟く。

 

「しかたないやろ、命令なんやし。・・・ほらほら、愚痴ってないで。・・・帰るで」

 

「ああ・・・。わかったよ、いちいち言うな人間」

 

言った後、シェイロンは五胡へと進路をとり、空を飛ぶ。

 

その背中で人間は、

 

「・・・あの時、合コンに来てくれたらもう少し友達でおれたのに、残念やで。・・・かずピー」

 

そう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

〝難攻不落絶対無敵七転八倒虎牢関〟

 

 

 

シェイロンたちが去っていった、同時刻。戦いが始まろうとしていた。

 

〝張遼・呂布〟

 

 

「・・・来る」

 

「ん?来るて・・・連合軍がか?まさか。汜水関を抜くにしても―――」

 

言葉を続けようとした張遼だったが、前方からゆっくりと砂塵が舞い上がってるのが見えてくる。

 

そして視線を呂布に戻すとその砂塵のほうを指さしていた。

 

「・・・ん」

 

「さすが恋やな。砂塵が上がる前に来ることがわかるなんてなぁ。・・・誰かおるか!」

 

その呼びかけに近くの兵士が近づいてくる。

 

「出陣や。準備しとき」

 

「へっ?出陣・・・ですか?籠城して時を稼ぐのでは・・・?」

 

「時を稼いだところで援軍なんかこん。ウチら以外の諸侯が連合を組んでるんやからな。

・・・外に出て、派手に暴れまわるほうがええやろ?」

 

その考えに兵士は少し考え、

 

「・・・それもそうですな。了解です!すぐに出陣準備を整えます」

 

「応。頼むで」

 

これから死ぬかもしれない戦場に出るというのに、兵士はいい返事をしその場を去った。

 

「さてさて。張文遠、最後の大舞台や。・・・派手に死に花、咲かしたるでぇ~」

 

自分に言葉をかけていると、横から服が引っ張られていることに気づく。

 

「ん?なんや」

 

「・・・霞、死ぬの、よくない」

 

「恋・・・」

 

恋は呂布の真名である。

 

「戦って、生きる。それがいい」

 

「まぁそりゃそうやけど。・・・ぶっちゃけ、今の状況はウチらにとって絶対絶命やで?

生きるよりも、死に花咲かせたいって、ウチは思うねん」

 

「死に花咲かせても、誰も喜ばない。でも、生きていれば、誰か喜ぶ」

 

その呂布らしい言葉に、張遼は頬を綻ばせながら、

 

「・・・そんなこと考えたことも無かったわ」

 

「なら考える」

 

「・・・せやな。恋の言葉、心に刻んどく」

 

張遼の言葉に満足そうに頷く呂布。

 

「せやけど・・・敵は強大や。生きるためにどう戦うつもりや?」

 

「たくさん倒す。それだけ・・・」

 

呂布の言葉はたったそれだけだった。

 

「ははっ、簡単やなぁ」

 

「簡単。恋、強い。・・・でも、霞も強い。だから・・・大丈夫」

 

「・・・恋に掛かれば、戦いも軽い運動と変わらんねんなぁ」

 

「・・・??」

 

キョトンと首をかしげる呂布。

 

「その強さをあまり自覚してないところが、恋の可愛いところやけど」

 

「・・・かわいい?」

 

「うい奴やってこっちゃ!」

 

あまりわかっていないのかまた首をかしげ、頭の上に?を乗せていた。

 

「ふふっ・・・分からんねやったらそれでええで。ほんなら恋。そろそろ出陣しようか!

・・・月や賈駆っちのためにも」

 

「・・・(コクッ)」

 

 

 

 

〝袁紹軍〟

 

 

 

「あっれぇ~・・・姫、なんか虎牢関の奴ら、外に布陣してるみたいなんですけどー」

 

「外に?籠城もせず?・・・全く。軍略に沿わないなんて、おバカにもほどがありますわね」

 

お前が言うなっ!っと、諸侯の声が聞こえてきそうだ。

 

「そっすねー。・・・でも、ああいう賭けをする奴ら、あたいは好きかなー」

 

「潔いとは思うけど、でもちょっと考え無しなような気がするなぁ」

 

「そこ!そこにはてしない夢があるんだってば!わっかんないかなぁ~」

 

・・・どこだ。

 

「それを分かってるのは文ちゃんだけかも・・・」

 

「そっかー。姫を斗詩も、まだまだだなぁ~」

 

「何がまだまだか知りませんけど、顔良さん、文醜さん、あの敵をぶっ飛ばしておしまいなさい」

 

「あらほらさっさー!」

 

「・・・・・」

 

顔良は二人のやりとりをだまってジト目で見ていた。

 

「あれ?斗詩、どうしたんだぁ?ノリ悪いなぁ。ほらいっしょに、あらほらさっさー!」

 

「うう、あらほらさっさぁ~・・・」

 

少し涙目でしょうがなくやる顔良だった。

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

「うっす。言われた通り来たぞ、華琳」

 

「ええ。待っていたわよ、一刀」

 

今俺は華琳からの兵に案内され、華琳たちの軍のところに来ていた。

 

なんでも張遼、呂布の情報をくれるそうなのだ。

 

なんでそんなことをするのかと疑問に思ったが、朱里が、

 

「おそらく曹操さんも汜水関のようにはいかないと判断して、我々に情報を

くれるのだと思います。・・・それだけ呂布さん、張遼さんを警戒しているのでしょう」

 

その説明に納得し俺がこうして出向いたというわけだ。

 

愛紗たちも勝つためには仕方がないと納得し、俺を送り出してくれた。

 

「それじゃあ、時間もないし、さっそく情報説明したいのだけれど、いいかしら?」

 

「ああ。そうだな。聞かせてくれ。・・・っと、その前に、情報ありがとな、華琳」

 

「別に私のためにあなたに情報をあげるのだから、礼を言われても困るわ」

 

「それでもだ。情報をくれることによって俺たちが少しでも楽になるのなら、やっぱり礼を言わなくちゃ」

 

「・・・ふん、勝手にしなさい」

 

そっぽを向いてしまう華琳。その様子をやきもきしながら見る桂花。

 

(やっぱりこの男はいつかなんとかしないとねぇ・・・)

 

桂花は心のなかでそんなことを思っていた。

 

「それでは説明するぞ、北郷」

 

「おう。頼む、秋蘭」

 

「まず呂布だが、言わずと知れた天下無双。黄巾の乱では黄巾兵を一人で三万人を倒したと言われている」

 

「さ、3万!?・・・それはさすがに予想外だな」

 

ちょっと予想できる数字を軽く超えていたので驚く。

 

「ふん。さすがの貴様も呂布には勝てないだろう」

 

「・・・・(確かにその数字が本当なら今のままなら勝てないだろうなぁ。でもあの技を使えばなんとかいけるか?)」

 

「ん?・・・何をブツブツしゃべっているのだ?」

 

「・・・いや、なんでもない。話を続けてくれ」

 

「ああ。次に張遼だが、神速の張遼と呼ばれ自分の武はもちろん、用兵も神出鬼没。とにかく攻撃も速い。兵の動かし方も速い。速さに重点を置く武将だ」

 

「恐らくだけど、董卓の軍勢で最強なのはこの二人ね」

 

と秋蘭のあとに桂花がしめてくれる。

 

どうやら華琳たちには華雄は眼中に入ってないようだ。良かったと思うと同時に頑張れと

 

心のなかで応援しとく。

 

「なるほどね。天下無双に神速と・・・。」

 

頭の中で整理しておくと、

 

「・・・欲しいわね、その強さ」

 

華琳がそんな言葉を口にしていた。

 

「また悪い癖が・・・華琳様」

 

なんつーか、華琳は人材コレクターって称号が合いそうな気がする。

 

「今回ばかりはお控えください。張遼はともかく、呂布の強さは人知を超えております」

 

「もしどうしてもご所望とあらば・・・そうですね。姉者と私、あと季衣と流琉あたりはいなくなるもの

とおもっていただきたい」

 

「・・・随分と弱気ね」

 

華琳たちが話しているところで俺は、

 

「・・・(なぁ季衣の後に出てきた名前の人って誰だ?)」

 

桂花に小さい声で話しかけていた。華琳たちの邪魔しちゃ悪いからな。

 

「ちょっとくっつかないでよ。・・・あそこで凪たちと一緒に季衣が居るでしょ。その隣の」

 

「・・・んー。・・・ああ、あの娘か」

 

髪の色は緑っぽい感じで季衣と背丈が同じの女の子が居た。

 

どうやら凪達は軍の編成をしているようだ。それもそうか時間もないしな。

 

「あら。あなた達いつからそんなに仲良くなったの?」

 

いつの間にか華琳が後ろに来ていた。話は終わったみたいだ。

 

「ご、誤解です、華琳さま!私がこんな男と仲良くだなんて、そんなこと天地がひっくり返ってもありえないことです!」

 

うっわー。そこまで言われるとまじへこむんですけど。

 

「そう?まぁそういうことにしておきましょう」

 

「か、華琳さまぁ~・・・」

 

情けない声を上げた後、桂花はキッと俺をにらんできた。

 

ここは無視と。目線を合わせない俺。

 

「それで華琳、話からして呂布はダメそうだな。なら張遼を狙うのか?」

 

「一刀、よくわかってるじゃない。ええそうよ。兵は桂花が、張遼は春蘭が、なんとか

してくれることになったわ」

 

「御意。華琳さま」

 

話に参加してなかったのにすぐに返事をする桂花。・・・まったくあいかわらずだな。

 

「それじゃあ、俺たちは張遼の相手はしなくてすみそうだな」

 

「ええ。でもあなた達は一番やっかいな人間を相手にしなくちゃいけないのよ。そう手放しに喜べないんじゃない?」

 

「そうだが・・・孫策がどう動くのか分からないし、まぁみんなでなんとかするさ」

 

「ま、頑張んなさい。武運は祈っといてあげるわ」

 

「・・・ああ。あんがと。んじゃそろそろ戻るわ」

 

そうして俺は桃香たちのところに戻る。

 

 

 

 

〝孫策軍〟

 

 

 

「ほお・・・敵は城外に布陣しておるな。・・・公謹よ。これをどう見る?」

 

「ふむ・・・軍略の定石ならば、ここは関に拠って敵軍を撃退するのだが・・・。崖に伏兵を潜ませ、弓で上から狙ってくるかも知れませんね」

 

「違うわよ冥琳。わかんないの?」

 

「ふむ?雪蓮には分かるというの?」

 

「そりゃもちろん」

 

不敵に笑いながら孫策は言う。

 

「ほお。では拝聴しよう。奴らの真意は?」

 

「正々堂々と戦って、隙をみて逃げる」

 

「・・・どんな真意を見抜いてるかと思えば、そんな訳無いでしょう?」

 

周瑜は呆れたような顔をしながらため息混じりに言う。

 

「そっかな?私にはそれしかないと思うんだけどなぁ」

 

孫策は自信満々に言う。

 

「ふむ・・・策殿がそう言うのならば、案外そうなのかもしれんな」

 

策殿と呼ぶこの人は名は黄蓋、字を公覆という。弓の使い手であり、孫堅の代から孫家に仕える宿将。ちなみに胸の大きさもハンパない。

 

「黄蓋殿までそんなことを言うのか?」

 

「我らが主の勘は神がかっておるからな。それに・・・相手は飛将軍とまで謳われる呂奉先だ。それぐらいの気概を持っていてもおかしくはあるまい?」

 

「そうそう。知を極めた者にしか分からない真理があるように、武を極めた者にしか分からない真理ってものがあるんだから」

 

「雪蓮にはそれがわかるの?」

 

返ってくる答えなど分かりきっているが周瑜は孫策に聞く。

 

「うん。分かっちゃう」

 

質問を笑顔でかえす孫策に、

 

「ふむ。・・・ならば主殿の神がかりを信じてみることにするか」

 

「だな。で、兵はどう動かす?」

 

「意気軒昂なる敵に正面から対峙するのは愚作中の愚作。・・・その相手は劉備と袁紹に任せておこう」

 

「えーっ!やだやだ!呂布と戦いたい!」

 

「・・・私が許すと思って?」

 

真顔で孫策に詰め寄る周瑜。

 

「思わないけど・・・ぶー」

 

「少しは自重なさってくだされ策殿。・・・では公謹よ。先陣は儂がとっても良いのじゃな?」

 

「ええ。副将には穏と思春をつけましょう。敵本体の脇をついて虎牢関を落としてください」

 

「わかった。穏、思春、儂についてこい!」

 

呼ばれた二人は黄蓋のあとをついていった。

 

穏は真名で名は陸遜。周瑜の愛弟子で副軍師である。思春の名は甘寧。孫権の右腕で義の忠臣。

 

「ううぅ~・・・いいなぁ。私も暴れたいなぁ」

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

「・・・ってことになったから」

 

俺は桃香たちのところに戻ってきてすぐに、さっきの情報をみんなに話す。

 

「曹操が張遼の相手を。・・・しかし捕らえるなど私は無理だと思うのですが」

 

「ま、そう簡単にはいかないよな。でも今は張遼のことより呂布のことを考えよう。多分、俺たちが相手すると思うから」

 

袁紹たちも今回は前線に出てきたがちょっとも期待できないからなぁ。

 

「御意。・・・しかし相手は籠城もせず、決戦を望んでくるとは思いもしませんでした」

 

「潔いよいやつらなのだ」

 

「でもそのおかげで、私たちには有利になったよ。野戦なら数の多い私たちのほうが・・・」

 

「・・・それはどうでしょう?」

 

と雛里が桃香の言葉を遮る。

 

「難攻不落の虎牢関を捨てて、わざわざ野戦に持ち込むなんて・・・普通はしないはずです」

 

「ふむ・・・確かにそうだな」

 

「考えられるのは、乾坤一擲、玉砕覚悟で総大将の首級を望むか、それとも・・・退却するか、です」

 

「退却?それなら関に籠もっていたほうが、退却しやすいのではないか?」

 

「いえ。そうとも言えないんです。・・・籠城を選ぶと関の防御力に頼り、逃げ時を見失うときがあるんです」

 

「なるほど。逆に外に居れば、逃げたいときに逃げられるってわけか」

 

「・・・(コクッコクッ)」

 

「でも包囲されたらどうするのだ?・・・包囲されても鈴々たちから逃げられると思っているのなら、なめているのだ!」

 

そんな鈴々に俺は肩をポンポンと叩き、我らの総大将が居る方向に指を差す。

 

「にゃー・・・なめられてもしょうがないのだ・・・」

 

どうやらわかってくれたようだ。

 

「とにかくまだ予想だ。相手がどんな動きをしても即座に対応できるように、準備しておこう」

 

 

 

 

 

〝張遼・呂布軍〟

 

 

「ほおー。奴ら、動きを止めよったな。こっちの出方を窺うつもりか。・・・どうするよ、恋」

 

「・・・ちんきゅー」

 

「はいです!」

 

元気よく返事をしたちんきゅー。漢字で書くと陳宮←こんな感じ。身長は鈴々といい勝負。

 

「・・・どうする?」

 

「敵は虎牢関を出て布陣している我々に対して、驚きと疑問を抱いているでしょう。ならば呂布殿は、一気呵成に敵本陣を突き、その混乱に乗じてさっさと逃げるのが得策!」

 

「そうも問屋が卸すもんか?先陣らしい劉旗を追い散らして、総大将の袁紹の陣に乱入するて、結構難儀なことやで?」

 

「呂布殿なら無問題です!」

 

「いや、現実てきにやな・・・」

 

「霞・・・恋、頑張る」

 

「が、頑張るって。・・・うーん、・・・まっ、ええかっ!」

 

「・・・(コクッ)」

 

「よっしゃ。ほんならウチが一発、皆に気合をいれたるわ!」

 

すーっぅ、と息を吸う張遼。そして、

 

「ええかっ!敵は連合軍とか言うとるが、そんなん名ばかりの烏合の衆や!ウチらに勝てるはずがあらへん!」

 

「怖がる必要はないで!訓練とおんなじように、派手にいっぱつぶちかましたれ!」

 

「あいつらしばきまわしてから、堂々と退却すんで!ええなぁ!」

 

「「「「「応っ!!!」」」」」

 

「ええ返事や!ほんなら呂布隊、先陣きって連合軍をぶち殺したれ!」

 

「「「「「応っ!!!」」」」」

 

「張遼隊は連合軍の横っ面ブッ叩いて、そのあと呂布隊と合流や!わかったなぁ!」

 

「うぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

「よっしゃ!全軍突撃ぃぃぃーーーっ!ボケども全員いてこましたれーーーーーっ!」

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

「敵軍突撃を開始しました!」

 

「本陣からの指示は?」

 

「ある訳ないですよぉ~!」

 

朱里が情けない声を出していた。

 

無いってことは、勝手に動いていいってことだよな。後で文句言われたって大丈夫だ。

 

「ご主人様!桃香さま!迎撃しましょう。・・・ご指示を!」

 

「よし。俺たちはさっき言った通り、呂布に全力を尽くそう。どうやら先陣切っているのは呂布の隊のようだから、俺と愛紗で前曲を率いて相手の突撃を受け止めよう。そして星と鈴々で俺たちの左右を固めて、桃香と朱里と雛里は後曲を率いて援護してくれ!」

 

「ご主人様!?それは危険です!自ら前線に出て受け止めるなど―――」

 

「愛紗。俺は大丈夫だから、心配するな」

 

「・・・はぁ。・・・ご主人様はいつも私に人の話を聞けと言いながら、私の話を聞いてもくれないのですね」

 

少しムスッとする愛紗に俺は、

 

「あ、あはは・・・。それは言わないでくれ。・・・この戦いが終わったらいくらでも聞いてやるから」

 

苦笑いをしながら答える。

 

「ふぅ・・・わかりました。もう何も言いません。私がご主人様を守ればいいだけのことです!」

 

そう言いながら青龍偃月刀を構える。

 

「お、応!そ、その意気だ!」

 

愛紗の気迫にちょっと言葉がどもる。

 

「ふふ・・・主も大変ですな」

 

星はどこか楽しそうに笑っていた。

 

「ご主人様、みんな!無事に帰ってこないとダメだからね!」

 

「応なのだ!」

 

「御意!・・・桃香さまもお気をつけて」

 

「承知。・・・主、前線に出る以上覚悟してくだされ。・・・生きる覚悟を」

 

「・・・ああ。わかってる。・・・それじゃ、桃香。行って来る。朱里と雛里も気をつけるんだよ」

 

三人の頭を順番に撫でていく。これやると少し落ち着く。

 

「はい。ご主人様もお気をつけて」

 

「・・・絶対に生きて、帰ってきてください」」

 

二人の言葉に頷いて、そして、

 

「部隊を配置した後、それぞれ陣をしいてくれ。敵の動きに合わせて陣を変えるから、本体の合図を聞き逃すなよ!これに勝てばもう少しで洛陽だ!気合入れろよっ!」

 

俺が兵達に指示を出す。

 

「鈴々隊は前線で敵とぶつかるんだから、たくさん気合いれるのだ!」

 

「趙雲隊は北郷、関羽隊の両隊を援護しつつ、隙をみて横撃をかける!状況を見失うな!」

 

「おおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

〝曹操軍〟

 

 

「・・・来たわね。春蘭、桂花!手はず通り、よろしくね」

 

「御意。お任せください!」

 

「はっ!私は張遼と一騎打ちをし、桂花は凪達を連れ、相手兵を抑えるのでしたな」

 

「そうよ。・・・春蘭。張遼が手に入るかは貴女に掛かっているのだから、しっかりね」

 

「はっ!・・・ですが、あの、その、・・・なんといいますか・・・」

 

「・・・??」

 

返事の後にもじもじとする春蘭に華琳は不思議がる。

 

「ふふっ・・・華琳様。姉者は張遼に華琳様の愛が取られてしまうのではないかと、心配しているのですよ」

 

「なっ!?秋蘭!そんなはっきりと言うなっ!?」

 

「そんなことを心配していたの?なら、安心なさい。そんなことは決して無いから、あなたはあなたの仕事をしなさい」

 

「か、華琳様っ!・・・はっ!夏侯元譲、見事果たして見せます!」

 

その言葉に満足したのか、春蘭はそそくさと走っていった。

 

「・・・ふふっ、かわいい娘」

 

「華琳さまぁ~・・・」

 

「この作戦が終わったらたっぷりと可愛がってあげるから、あなたも頑張んなさい」

 

「は、はい!」

 

桂花もキラキラした顔で春蘭の後を追いかけていった。

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

そこら中から剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。そして俺の目の前にもその剣を持っているやつらが居る。

 

剣を持っている奴らは俺に向かってくる。その数は約十人。俺はその人と人の隙間を三本の刀を抜きながら、

 

「三刀流〝刀狼流し〟」

 

敵の攻撃を受け流しつつ斬る。通り抜けて三歩ほど歩いたところで、その約十人は一斉に倒れる。

 

「・・・これが呂布隊の兵か。すごいな」

 

俺は少し驚いていた。歩兵でこの強さはなかなかできない。負けることはないが、俺たちの兵士では三人一組でも少し苦戦しそうだな。とりあえずさっき愛紗が檄入れてたし、俺も頑張らないとな。

 

「隙やりーーっ!」

 

突っ立って考えていた俺に兵士が掛かってくる。

 

ヒュッ―――ドゴッ!。

 

「峰撃ちだ。勘弁しろよ」

 

即座に避けて峰で気絶させる。

 

そしてその場をすばやく移動する。とにかく敵の数を減らさなくちゃな。

 

そうして敵をしばらく減らしていると、目の前に赤い髪の女の子が見えてきた。

 

俺はすぐに足を止めて、その姿を見ていた。

 

「・・・(わかる。あの娘が呂布だ。瞬間見ただけで肌にビリッてきた!)」

 

「・・・・・・ん?」

 

多分、呂布であろうその娘は見ている俺に気づき、ベストな間合いまで近づき話しかけてくる。

 

「お前・・・強い」

 

「へ?・・・あ、ああ。・・・どうも」

 

第一声が強いって・・・。俺は訳もわからず少しお辞儀をしてしまう。

 

「・・・名前は?」

 

「え、えっと。北郷一刀だけど・・・。君は呂布で・・・いいんだよね?」

 

なんかあんまり表情がわかんなくて、調子が狂うな。

 

「・・・(コクッ)。・・・恋は呂布。字は奉先。・・・よろしく」

 

「・・・ああ。よろしく」

 

・・・なんだこの娘?本当に呂布なのか・・・な?イメージしてたのと随分違う。

 

でも、戦わなくてもわかるぐらい、この娘は強い。それだけははっきりしている。

 

愛紗は向こうの方で、兵達に指示しながら戦ってるから相談もできないし・・・うーん。どうしよう?

 

「・・・いく」

 

「・・・え?」

 

その瞬間、俺の目の前には呂布が手に持っていた戟だけが映っていた。

 

俺は咄嗟に刀を前でクロスさせると同時にバックする。ガキィィンと音と共に俺は吹き飛んだ。

 

「ぐうっ!!」

 

「・・・防がれた」

 

呂布は俺が居たところに立ちながら、追撃もせず立っていた。

 

俺は空中で体勢を整え、着地する。

 

「・・・(おいおい!?ちょっと速すぎだろ!?殆ど見えなかったぞ!?)」

 

いや、でも今のは考え事してただけで、しっかり見れば今度は防げるはずだ。・・・落ち着け。

 

「すぅー・・・はぁー・・・」

 

「・・・??。・・・もう一回いく」

 

地面を一本足で蹴り、こっちに向かって来る。そして俺の目の前で今度は、

 

「・・・(下っ!右っ!左っ!上っ!突きっ!そこから横なぎっ!今度は、上っ!―――いやっ!これはフェイクだっ!)」

 

フェイクの後の横一閃を天月、雷切で防ぎながら、力比べをする。

 

「・・・(くそっ!全部防ぎきれなかった!)」

 

俺の頬と腹から血が出ていた。頬はかすった。腹も切れているが浅いから、まだいける。けど・・・やっぱり速い。

 

俺の反応速度を完全とはいかないまでも、超えている攻撃をしてくる。こんなこと、この世界に来てから初めてだ。

 

「・・・また、防がれた」

 

呂布は少し驚いているようだ・・・多分。多分ってのは、表情がいまいち読めないからだ。

 

ギギィギィと、俺の刀と呂布の戟が擦りあう音が聞こえてくる。

 

「くうぅ・・っ!・・・ぅううぁあああ!」

 

少し押されたが腕に渾身を込めて、押し返し、距離をとるために吹っ飛ばす。

 

「ここまで、恋の攻撃を防いだ人・・・初めて」

 

今度は喜んでいるようにも見える。・・・攻撃してくる時の顔と全然ちがう。こっちはなんか・・・和む。

 

って、そんな余裕もないな・・・。

 

「今度は・・・・・来い」

 

どうやら、自分ばかりが攻撃していては不公平だと感じているのだろう。呂布は防御の構えをする。

 

「・・・よし。・・・行ってみるか」

 

俺は脚に氣を流し、地面を蹴る。

 

「三刀流〝虎〟・・・が、!?」

 

俺は咄嗟に踏みとどまり、バックステップを踏む。

 

「・・・・・・」

 

呂布の構えは変わらなかった。っていうか、今、俺、止まっていなかったら、防がれて反撃されて、

 

「・・・・・斬られてた」

 

口からそんな言葉が無意識に出ていた。

 

「・・・・・・来ないのか?」

 

落ち着けっ!なら飛ぶ斬撃ならっ!

 

「三刀流 〝百八煩悩鳳〟!!」

 

線状の三本の斬撃が呂布、目掛けて飛んでいく。

 

「・・・フッ!」

 

斬撃は二本は避けられ、一本は戟で防がれてしまった。二本の斬撃は呂布の後ろの地面を切り裂きながら消えていった。

 

その斬撃のおかげか、否か。回りで戦っていた者達が一刀と呂布に注目する。

 

「あ、あれは!・・・ご主人様っ!?」

 

愛紗はその姿を見た瞬間、駆け出した。

 

そして、愛紗とは違う場所で星や鈴々もその姿を見て駆け出した。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「・・・主っ!」

 

 

 

 

 

 

〝張遼〟

 

 

一刀と呂布が戦う少し前、こちらは二人の乙女が激闘を繰り広げていた。

 

 

「でやぁああああっ!」

 

「うらあああっ!」

 

二人が出会い、戦い始めてからもう数十合の攻防になっている。

 

張遼が攻めれば、夏侯惇が守り。夏侯惇が攻めれば、張遼が守る。

 

二人は戦いながら、笑っていた。

 

「楽しいなぁ、やっぱ本気で戦える相手っちゅうのは、血ぃが滾るわ!」

 

「うむ!まさにその通りだな!貴様ほどの相手を制したとあらば、華琳さまもお喜びになるだろう!」

 

そんな時、

 

「姉者」

 

夏侯淵がやってきた。

 

「おう!秋蘭か!見よ、もうすぐ華琳さまの御前にこやつを連れて行けそうだぞ」

 

「そうか。なら、周りの敵は私が包囲しよう。姉者は張遼を頼む」

 

「応っ!」

 

夏侯淵は返事を聞き、周りの張遼の兵達を包囲するため、隊を率いて桂花とは違う場所に

 

向かおうとしたが、

 

「・・・なにか嫌な予感が・・・!?」

 

夏侯淵は弓を構え、自分の大事な人に向けている兵士を見つける。

 

 

 

「・・・待たせたな。さぁ続きといこうではないか」

 

「ええで。それよりあんた、あとどのくらい戦えそうや?」

 

「ふんっ。貴様の倍は合数を重ねて見せるわ!そんなことは気にせず、掛かって来い!」

 

「ええなぁ・・・それ。良すぎるわぁ・・・!なら、遠慮なくいくでぇ!」

 

「おう!来るな来――――」

 

その瞬間―――――。

 

「姉者っ!」

 

ヒュッ!―――――ドスッ!。

 

「・・・ぐっ・・・っ!」

 

「姉者っ!姉者っ!」

 

夏侯淵は叫びながら、夏侯惇に近づいていく。

 

「・・・・ぐ・・・くぅ・・っ!」

 

「なっ・・・惇ちゃんっ!?」

 

「ぐ・・・あああああっ!?」

 

「お、おのれぇえっ!」

 

夏侯淵は怒りにまかせ、矢を放った兵に矢を放つ。しかし、

 

「おっと。そんなの当たるかよっ!っと」

 

矢は避けられてしまった。

 

「なにっ!?」

 

「・・・殺すことはできなかったか。残念。ではまた」

 

そう言って矢を放った兵士はとんでもない速さでこの場を去っていった。

 

「・・・(なんやあいつ!ウチの隊にあんな奴おらんかったはずや。いつの間にこの場に・・・!)」

 

「くそっ!逃がしたっ!・・・姉者っ!」

 

「ぐあああああああ・・・っ!」

 

叫びながら夏侯惇は目に刺さっている矢を目玉ごと引っこ抜いた。

 

「我が精は父から、我が魂は母からいただいたもの!そしてこの五体と魂は、今は華琳さまのもの!断り無く捨てるわけにも、失うわけにもいかぬ!」

 

夏侯惇は言いながら、目玉のついた矢を口に持っていく。

 

「我が左の眼・・・永久に我と共にあり!」

 

「と、惇ちゃんっ・・・!」

 

目玉を口に入れて食べる。

 

「んっ、んぐ・・・ぐっ・・・がはっ・・・!」

 

「姉者っ!大丈夫かっ!?姉者!」

 

「・・・大事ない。取り乱すな、秋蘭」

 

左の瞼のところから。血を垂らしながら、痛い素振りもみせず、安心させるために夏侯惇は言う。

 

「・・・姉者・・・っ!」

 

我慢していることぐらい、尋常ではない汗をみなくても、わかること。

 

しかし、夏侯淵はそんな夏侯惇を見て、自分が崩れるわけにはいかないと、踏ん張る。

 

そして、

 

「水を差されたが・・待たせたな、張遼。さあ、一騎打ちの続きといこうではないか」

 

夏侯惇は地面に落ちていた、幅広の刀・七星餓狼を取り、構える。

 

「なっ・・・・」

 

張遼はその姿をみて驚く。

 

「ん?来ないなら、こっちからいくぞ?」

 

「なんや・・・アンタって奴は・・・。ええ、ええなぁ・・・最高や・・・。鬼気せまるっちゅうんは、

そういうのを言うんやろなぁ・・・!まさか、こんなところで修羅と戦えるなんて、思うてもみなかったわっ!」

 

左目を失いながらも、まだ戦おうとする夏侯惇に張遼は身震いしながら、自らの武器・飛龍偃月刀を構える。

 

「御託はいらん!来るなら来い!」

 

「おう!もう口上も戦場も関係ない!ウチはあんたと戦うためにここにおる!いくでぇ!」

 

 

「はあああああっ!」

 

「うらぁあああああっ!」

 

 

そうして両者はまた刃と刃、力と力のぶつかり合いを始める。

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・やっぱり、強かった」

 

俺は肩で息をし始めていた。飛ぶ斬撃を避けられ、防がれてから、もう数十合の攻防になっていた。

 

体は致命傷といかないまでも、あちこち斬られていた。最初についた頬と腹に傷をはじめ、

 

左肩、右腕、右足と徐々に増えていった。俺も呂布に少しは傷を与えるとはできたが、たいしたものでなく力の差は、完全に呂布のほうが上だった。

 

「・・・(天下無双と称えられるだけあって、強い・・・っていうか、強すぎ)」

 

「でも・・・そろそろ、終わりにする」

 

言いながら、呂布は肩に戟を担いだ構えをする。

 

その構えに来る!と思い、俺も構えたとき、

 

「ご主人様っ!?」

 

「お兄ちゃんーー!」

 

「主っ!」

 

三人がそれぞれ別のところからやってきた。

 

それを見て呂布は止まった。

 

「ご、ご主人・・・様・・・」

 

愛紗は俺の傷だらけの姿を見て、力なく俺を呼んでいた。

 

「(私はいったい何をやっていたのだっ!ご主人様を守るといいながら、あんなに傷だらけに・・・っ!)」

 

「愛紗ーーーっ!俺は大丈夫だから!そんな顔するなーーー!」

 

俺は青ざめている愛紗に言葉を投げかける、心配してくれるのはうれしいが。・・・あんな顔させたくない。

 

「・・・くっ!」

 

愛紗は俺の言葉に気合を入れてくれたみたいだった。そして三人は俺の前までやってくる。

 

「お兄ちゃん!・・・怪我痛くないのだ?」

 

「いや、痛いけど、みんなの顔みたら痛くなくなったし、元気もでた」

 

「・・・主。よく生きていてくださいました」

 

「星・・・。ありがとう」

 

二人を撫でてあげたいけど、血で汚れてしまうといやなので諦める。

 

「ご主人様。ここからは我々が・・・」

 

「それはダメだよ。愛紗」

 

「な、なにを・・・っ!」

 

「愛紗だってわかってるだろ。これは一騎打ちだ。一騎打ちを変わるなんて武人として、愛紗だったら嫌だろう?」

 

「それはそうですがっ!しかし・・・っ!」

 

「お兄ちゃん。鈴々はその気持ちわかるけど、今回は反対なのだ」

 

「鈴々・・・」

 

「だって、鈴々。お兄ちゃんの傷だらけの姿を見て、いやな気持ちになったのだ!だから、反対なのだっ!」

 

鈴々が少し涙ぐんで俺を見てくる。

 

「・・・星はどうなんだ?」

 

「正直に申せば・・・反対です。しかし・・・ここで退きたくないという主の気持ちもわかるつもりです」

 

「・・・だから?」

 

「だから・・・主のお好きなようになさってください」

 

「せ、星っ!お主、何てことをっ!?」

 

星の言葉に愛紗が反応する。

 

「しかたなかろう。私がもし、主の立場ならと考えると。・・・止められたくないと思ってしまったのだから」

 

「・・・星」

 

「・・・愛紗、鈴々。やらせてくれないか?」

 

二人をみて頼み込む。

 

「鈴々・・・わかったのだ。でも、もしやられそうになったら。・・・鈴々。絶対止めにはいるのだ!」

 

「・・・私もなんと言われようとも、止めにはいりますからね」

 

それは愛紗、鈴々からのOKという返事だった。

 

「おう」

 

俺がそれに返事すると三人は俺の後ろへと歩いていった。

 

そして俺は、呂布に、

 

「・・・待っててくれて、ありがとう」

 

「・・・・・いい」

 

呂布は返事をしたあと、戟をさっきみたいに肩に担ぎ上げ構える。

 

「・・・・来い」

 

「・・・(しかし。戦いたいって言ったけど、勝ち目殆どないんだよなぁ。どうしよ?)」

 

俺は三本の刀を構えながら考えていた。

 

「(やっぱり、あの技を使うしかないかな・・・。でも、〝アレ〟体に負担かかるし、なによりコントロールできないし)」

 

でも、愛紗たちにはもう、あんな不安そうな顔させたくない。だったら、やるしかないよな。

 

俺は構えを解き、三本の刀を地面に刺す。

 

「・・・・??」

 

呂布はその行動に首を傾げていた。

 

「天叢流〝天の羽衣〟(あまのはごろも)」

 

自然体で立ち、体にある氣を全体に満遍なく通し、それを。・・・電流に性質変化させる。

 

すると、俺の体は少し眼に残るほどに淡い蒼白く光り、時々その周りに蒼白い放電がはしる。

 

「・・・・おお」

 

呂布はそれを見て、なんか驚いている。・・・本当に驚いてるのか?

 

 

 

 

〝愛紗・星・鈴々〟

 

 

「お兄ちゃん、光ってるのだ!?」

 

「・・・星。私は眼がおかしくなったのだろうか?」

 

「安心しろ、愛紗。皆が見えている」

 

三人はもちろん、その周りで戦っていた兵士たちも、止まり、一刀を見ていた。

 

「北郷様・・・。神々しいです」

 

「なんだあいつはっ!?」

 

味方の兵士は最初は驚いていたが、心のなかで崇めはじめていた。

 

敵兵士は光る人間をみて、驚愕していた。

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

「あまり時間もない。一気にいくぞ!」

 

「・・・来い」

 

俺は地面に刺さっている刀を抜き、駆け出す。

 

「三刀流〝虎〟・・・〝狩り〟!」

 

刀を背負うようにして構え、三本の刀を振り下ろす。

 

「・・・っ!?」

 

それを見事に防ぐがさっきまでと表情が違っていた。今度は俺にもわかるくらいに。

 

「まだまだっ!」

 

刃同士が押し合っている状態で、

 

「〝龍〟・・・〝巻き〟!」

 

回転斬りで旋風を発生させ、上空へと吹き飛ばす。

 

「すごい・・・。」

 

俺はそれを追いかけるように飛び上がり、

 

「三刀流〝鴉魔〟・・・〝狩り〟」

 

ジャンプした状態で呂布に攻撃する。

 

「・・・くっ!」

 

全部を当てることはできなかったが、二撃ほどかすれた。

 

先に地面に着地した呂布に、

 

「三刀流〝夜叉鴉〟(やしゃがらす)」

 

口に咥えた刀の前で残りの2本をクロスさせ、空中前転しながら相手に突っ込む技。

 

その攻撃を呂布は上段に構えた戟で対応する。

 

「・・・重い」

 

その言葉は呂布からはじめて聞いた言葉だった。

 

俺は飛びのき、間合いをとる。

 

「さっきよりも、さらに・・・強くなった。・・・不思議」

 

「これでようやく互角か。・・・だが」

 

俺は、ほんの少しずつ体に痺れが奔る感覚に悩んでいた。

 

「(やっぱりまだうまく制御できてないや。〝羽衣〟の一つしたの〝衣〟でもよかったかもしれないけど

・・・それじゃあ、呂布には勝てないよなぁ・・・。)」

 

その戦いを周りの兵士だけでなく、曹操や孫策などが見ていることに一刀は知る由もなかった。

 

孫策や曹操のところからでも、二人の戦いは見えるほどに派手だった。

 

 

 

 

 

〝張遼〟

 

 

 

「かぁー、負けたぁ!」

 

「ふっ・・・なかなかよい戦いだったぞ、張遼」

 

「ウチも最高やったわぁ。生きとるうちにこんな勝負できるなんて、思いもせんかったで」

 

「満足したところで悪いが、戦う前に言ったとおり・・・」

 

「ああ。わかっとる。・・・曹操にくだったるわ。・・・あんたほどの鬼神がそこまで忠誠を

誓う主。・・・興味あるわ」

 

「そうか。なら・・・ぐっ!」

 

夏侯惇はいきなりグラリと身体が揺れ、倒れる。

 

「姉者!」

 

今まで戦いを見ていた夏侯淵が近づいていく。

 

「ああもう!あないな無茶するからや!曹操に会う前にアンタの傷の手当や。夏侯淵、このアホ

後方に連れてくで!」

 

「うむ!」

 

そうして二人の戦いは終わり、張遼と夏侯淵で夏侯惇を運んでいると。

 

ガキィィン。ドゴォォン。

 

「なんや!?。・・・あそこは恋が戦っている場所!?」

 

ここまで聞こえてくる戦いの音。いったいどんな奴が恋と戦っているのかと、考えてしまう張遼。

 

「・・・(っと、あかん。早く惇ちゃんを連れていかなぁ。)」

 

「張遼。急ぐぞ!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

〝曹操軍〟

 

 

「なんて・・・戦い・・・なの」

 

華琳は中央らへんで戦っている一刀、呂布に釘付けだった。

 

「隊長・・・あんなに強かったやね。なぁ、凪」

 

「ん・・・ああ。そうだな」

 

凪は考えていた。なんで自分の時にあの力を使ってくれなかったのだろう、と。

 

「隊長、ピカピカ光ってて綺麗なのー」

 

「さ、沙和っ!?そんな、気持ち悪いこと言わないでくれるっ?」

 

桂花たちはすでに仕事を終え、自軍に戻ってきていた。

 

「あんな力を持っていたなんて・・・一刀、許さないわよ」

 

なんで言わないのよ、と心の中で言う華琳。

 

そんなとき、

 

「華琳さまっ!」

 

秋蘭が帰ってきた。

 

「どうしたの?秋蘭。そんなに・・・あわてて・・・!?」

 

華琳は呼ばれた方向に向き、愕然とする。春蘭が二人に担がれているのを見て、

 

「どうしたのっ!?春蘭!?」

 

「春蘭様っ!?」

 

季衣や凪達も驚愕する。

 

「謎の人物に矢を放たれ、姉者の左眼に・・・。申し訳ありませんっ!華琳さま!。

私が、矢を放つのに気づきながら、間に合いませんでしたっ!」

 

秋蘭は涙しながら華琳に謝る。

 

「・・・秋蘭。顔を上げなさい。あなたは悪くないわ」

 

「華琳さま・・・。」

 

「あなたが泣いていては、春蘭が余計に悲しむわ。だから・・・」

 

「・・・・御意」

 

完全といかないまでも、なんとか立ち戻る秋蘭。

 

「とにかく治療をしましょう。救護班をここに連れてきなさい。」

 

「はっ!」

 

そうして、軽い天幕を張り、春蘭を運び治療が始まる。

 

 

「・・・悪いわね、張遼。ちゃんと挨拶もできなくて」

 

「いや。ええで。孟ちゃんがどれだけ周りのことを大切にしているか、見れたし」

 

「・・・それで?」

 

「・・・これからよろしゅう、と言っておくわ」

 

「ええ、よろしく。これからは、華琳でいいわ。・・・それとあなたに聞きたいことがあるのだけれど」

 

「そら、あんがと。なら、ウチも霞でええで。んで、なんや?」

 

「春蘭に矢を放った人物に心あたりはないの?」

 

「・・・すまんけど、ないわ。あんな奴ウチの隊にはおらんかったし、見たこともない奴やったで」

 

「・・・そう」

 

かならず見つけ出して、八つ裂きにしてやる、と心の中で誓う華琳。

 

「・・・なぁ、華琳。ウチも一つ聞きたいんやけど」

 

「なに?」

 

張遼は指を中央にさし、

 

「あそこで戦ってる奴って誰なん?」

 

「あれは、北郷一刀よ。・・・天の御遣いと呼ばれている男よ」

 

「・・・一刀かぁ。・・・ええなぁ」

 

「・・・霞?」

 

「こんな気持ちになったんわ、初めてや。なんかこう・・・あいつ見てるとドキドキしてくんねん」

 

「・・・・」

 

華琳は口を少し開け、驚いていた。

 

 

 

 

 

〝孫策軍〟

 

 

「いいわね~。・・・あの子」

 

「ちょっと雪蓮。からだ、震えてるわよ」

 

「ごめん。でも・・・動き出さないの抑えるので精一杯で震えちゃうのよ。・・・あんな戦い見せられちゃうとね」

 

「・・・はぁ。勘弁してよね。黄蓋殿たちは前線に居て、私一人じゃあなたを抑えられないんだから」

 

「・・・冥琳が泣いて、抑えてくれるなら止まるかもね♪」

 

「・・・変態」

 

「ひどーいっ!・・・本気なのに」

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・」

 

ついに肩で少し息し始めた呂布。

 

「・・・そろそろ呂布も疲れてきたみたいだな」

 

「・・・・疲れてない」

 

「いや、それ、うそでしょ?」

 

「・・・・疲れて・・・・ない」

 

けっこう意地っぱりなのかな・・・?。

 

「まぁいいけど。・・・でも」

 

やばいな。こっちはそろそろ〝羽衣〟も限界だ。身体が痺れてきて動かせなくなってきている。

 

「・・・・限界?」

 

「・・・ああ。そろそろやばいな」

 

「なら、次で最後」

 

「・・・ああ」

 

そうして二人で間合いを取り、

 

「恋。・・・戦いで、楽しいって、思ったこと・・・初めて。・・・だから、勝つ」

 

「そうか。・・・俺も最初は苦しかったけど、途中からは。・・・殺し合いなのに、少し楽しいと思えた」

 

「・・・ふふっ」

 

呂布が初めて見せた笑顔だった。

 

「・・・真名、恋。・・・覚えておいて」

 

「恋か。・・・覚えておく」

 

そうして、俺たちは相手の動きを見ることに集中する。

 

「三刀流・・・〝奥義〟」

(奥義で〝コレ〟やるのはじめてだな。・・・うまくいってくれよ!)

 

「・・・・・・・」

 

両手の刀を前方で風車のように回転させながら、

 

「・・・・行くっ!」

 

呂布が先に踏み出してくる。俺もそれに合わせ踏み出す。

 

そして―――――。

 

「はあっ!!」

 

「〝三・千・世・界〟!!!」

      

      ・

      ・

      ・

      ・

      ・

 

俺たちはすれ違い、一人が倒れた。

 

 

 

 

 

 

 


 
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