軍議終了後、俺と愛紗は冥琳と共に今回の作戦について最終確認をしていた。
「さて、今回の戦いでは、北郷は右翼の指揮を、私は左翼の指揮を行おうと思うが、どうだ?」
「俺は良いよ。兵の指揮なら少しは出来るから」
「では私はご主人様の側で補佐と護衛をやらせていただきます」
俺は冥琳の提案を了承し、愛紗は冥琳に対して、俺の護衛の役目を買って出てくれた。
正直いうと普通の兵程度なら俺一人でも大丈夫なんだが、実際に斬りあいをした事が無いので、戦場では不安だったのだ。だから愛紗の言葉は俺にとって願ったり叶ったりであった。
「ふむ、良いだろう。城攻めは祭殿達で充分だろうからな」
冥琳はそう言って許可をだす。
それに対して愛紗は会釈して礼を言う。
「ところで冥琳、蓮華のことなんだけど・・・・」
「今回の戦で後方に置かれたことか?」
俺の質問に対して、冥琳はそう聞き返してきた。
「ああ、だいぶ落ち込んでたけど・・・」
「仕方があるまい。戦で後方に置かれたのだ。おそらく自分は必要ないと感じておられるのだろう」
まあ初陣でいきなり後ろに下がってろって言われたからな・・・。
落ち込みもするだろ・・・。俺には分かんないけど・・・。
「あの方はそもそも内政に関して力を発揮されるお方だ。事実雪蓮も、国を富ませ発展させることに関しては蓮華様に及ばないと言っていた。ゆえにあの方には戦場よりも、戦乱が終わった後の世で活躍してもらいたいと考えているのだよ。まあ兵を率いる才も非凡ではあるがな」
冥琳はそう言いながら眼鏡を指で押し上げた。
確かに前の世界でも蓮華は内政中心であまり戦をしなかったからな・・・。
それが原因で冥琳と対立したんだけど。
「それでだ北郷、よければ蓮華様と少し話でもしてはくれないか?」
「へ?」
何で俺?
「いや、あの方が真名を許されたのだ。お前が行った方が適任かと思ったのだが」
「いや・・・でも俺と蓮華は初対面だぞ?」
実際前の世界の蓮華は知っているけど、こっちの世界では真名をゆるされたとはいえ初対面。あまり適任とは思えないけど・・。
「あの方は全く信頼が置けない人間に真名を許すほど愚かではない。お前のこともそれなりに信頼しているのだよ」
「なるほど・・・、じゃあ引き受けようかな」
と、そういうわけで蓮華の陣地に向かっているのだが、
「何で愛紗までついてくるの?」
「念のためです!もしご主人様のお命を狙う輩が現れたら・・・」
「・・・いや、現れないから」
俺達まだそこまで名前売れてないよ?
「それに!ご主人様が蓮華に色目を使ったりしないように監視するためです!!」
・ ・・それが本音だろ・・・。
「・・・あのね、少しは俺のこと信頼してくれよ・・・。そんなことしないって」
「いままでの前科があります!!」
うっ・・・、それを言われるときつい・・・。
前の世界じゃあ節操無しだったからなあ、俺。
「とにかく!私も一緒に行かせていただきます!!」
「ああ~!!もう分かった分かった!!」
そういうことで愛紗も着いていくことになった。
(ご主人様の種馬化、絶対に阻止せねば!!!) by愛紗
「ん?北郷か・・・・。関平もいるのか・・・。何のようだ・・」
蓮華は俺達を見ると開口一番そう尋ねた。
なぜかあまり元気が無い。やっぱり後方に置かれたのを気にしているのか?
「いや、冥琳がちょっと蓮華と話をしてきてくれって」
「私はご主人様の護衛を(そしてご主人様の監視を)」
と俺と愛紗は答える。・・・なんか愛紗がボソボソ言ったような・・・。気のせいか。
「・・・・そうか」
俺達の言葉に蓮華はそう言ったっきり、黙ってしまった。
その後しばらく重苦しい沈黙が流れたがふいに蓮華が口を開いた。
「・・・どうして」
蓮華は小さな声でそうつぶやいた。
「どうして私は後方なのだ・・・。どうして私だけ戦いに加えられなかったのだ・・・。
やはり・・・私など戦場では役立たずなのか・・・?姉様の隣で戦う資格など無いのか・・・?」
蓮華はまるで訴えかけるかのように言った。
やれやれ、冥琳の言った通りだな。こりゃかなり重症だな。
「いや、雪蓮も言ってただろ?蓮華は次の王だから万が一にも死んだら困るって」
「それはつまり、私は弱いから頼りないということではないか!!
役立たずということではないのか!!」
・・やれやれ、こりゃ弱ったな・・。
「なあ、蓮華、別に前線に出て戦うことだけが王の役目じゃないと思うんだけどね」
「?それはどういうことだ?」
俺の言葉に蓮華は振り向く。
「実は俺も前、・・・といっても一年もたってないけどある国の王だったことがあってさ、
愛紗はそのときから側にいてささえてくれてたんだ」
「北郷が・・・王?」
蓮華は驚いて目を見開いていた。その態度を不敬ととったのか愛紗は蓮華をにらみつける。
まあいきなり俺は昔王様でした、なんて言っても信じてもらえないだろうな・・・。
「なんだその疑うような目は!!いいか!!ご主人様はな!!こう見えても一度はとある大陸を支配なされたお方なのだぞ!!」
「愛紗、そんな昔のこと言わなくたっていいって。それに俺はもう王じゃないんだから。
あとこう見えてもって何、こう見えてもって」
俺としてはそっちのほうが気になるけどね。
「まあそれは置いといて、俺も以前は王で、当然戦にも行ったさ。そのとき俺は戦場で剣振り回して戦ってたと思うか?」
と、俺は蓮華に尋ねた。
「そうではないのか?」
「違うな、戦いは愛紗達に任せて俺は後ろで見ていた」
「なっ!戦を家臣任せにしていたというのか!?」
蓮華は俺の言葉に怒号を上げる。まあ呉の頭首があんなに前線に飛び出しているんだ。
俺のやってるのは王のやることじゃないとでも思ったんだろう。
「そういわれてもな・・・。その頃の俺はものすごく弱くてな、とてもじゃないけど戦場で役にたたなかったんだ。それに、王が死んだら軍は瓦解しちゃうし」
「し、しかし・・・」
「まあ納得できないのも無理は無いけどね。俺自身戦場で人が次々と死んでいくのをただ見ているだけだったのはつらかった。だから俺でもできることを探したんだ。
まあまずは文字が読めなかったから文字を習ったりしたんだけど・・・。
それから政の手伝いをしたり、街の警邏をしたり、段々とやることが増えていったよ。
それで、こんな俺でも、誰かの役にたててるって実感が持てるようになったのさ」
そこまで話して俺は少し恥ずかしくなり頬を掻いた。
みんな俺のこと評価してくれたけど、過大評価しすぎだって・・・。
「まあ俺でも一応王様やれたんだ、蓮華はもっと立派なことができるよ。雪蓮も蓮華のこと評価してたし」
「姉様が?」
「ああ、国を富ませて、発展させる才能があるって。まあ実際雪蓮が内政まじめにやる姿は想像できないしな」
俺はそういいながら、雪蓮が文句をいいながら書類を読んでいる姿を思い浮かべた。
うん、確かに内政には向いてなさそうだ。
隣の愛紗も同じ想像をしたのか苦笑している。
「ふふっ、確かに、姉様に内政は似合わないな」
蓮華も俺の言葉を聞いて少し笑みを浮かべた。
うん、やっぱり蓮華は笑顔が似合うな。
「まあ、戦うだけが王の役目じゃあないさ。国を富ませるのも王の役目だよ。蓮華にはその才能があるんだからいいじゃないか。戦場にでるのも、完全に機会が無くなったわけじゃあないし。
だから、そんなに気を落とすなよ」
「ああ、そうだな、ありがとう北郷、少し元気が出てきた」
「そっか、それはよかった」
俺はそう言って蓮華に笑いかける。
何故か蓮華が顔を赤らめているけど、熱でもあるのか・・・って痛い痛い!!
なにするの愛紗さん!!
「・・・・・・」
俺の抗議の視線に対して、愛紗はそっぽを向いた。
・・・もしかして妬いているのか?
「そ、それじゃあ俺達はそろそろ行くから」
「ああ、今夜はありがとう、一刀・・・・!!」
「ん?」
突然蓮華が顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。って、さっき俺の名前呼んだな・・・。
「あ、す、すまない!!か、勝手にお前の名前を呼んでしまって!!こ、これは・・・その・・・」
「いいよ」
「え?」
何故か蓮華が焦っているため(おそらく無意識に俺の名前を呼んだため)俺は声をかける。
「俺の名前、呼んでも別に気にしてないから。呼んでもいいよ」
「・・・いいの、か?」
「うん。むしろ他人行儀みたいで北郷、っていうのはちょっとね。
だからむしろ呼んで欲しい、かな?」
俺は蓮華にそう声をかける。まあ向こうの世界と同じ顔で他人行儀は正直ちょっときついしね。
「あ、ありがとう、一刀」
蓮華は顔を真っ赤にしながら小さい声で礼を言った。
と、突然俺の腕が思いっきり引っ張られた。
「ご主人様!そろそろ陣に戻りましょう!!」
愛紗はそう言いながら、俺の腕を引っ張った。って痛い痛い!!腕が抜ける、腕が抜けるから放して愛紗~!!
「あ、か、一刀・・・」
「ご、ごめん蓮華!そろそろ陣に戻るから・・・って痛い痛い!!愛紗!!自分で歩くから!歩きますから!放して~!!」
俺は愛紗に引っ張られながら蓮華に別れを告げた。
その後俺は夜になるまで愛紗の説教を食らい続けた。・・・・何ヶ月ぶりだろうな・・ホント・・・。
劉表side
「紅刃様~、孫策軍に送り込んでいた間者から連絡があったであります~」
全身迷彩服のまだ幼げな少女が、全身に漆黒の鎧を纏った男、劉表にのんびりした声で言った。
「ほう・・・、してどのような報告か」
「どうやら敵の城に潜入して火攻めにするそうであります~」
劉表の問いかけに迷彩服の少女はそう答えた。
「なるほど・・・して、城に潜入する将は?」
「はい~、周幼平と、あのくされ江賊です~」
「甘寧、か・・・・。貴様のせいで奴には逃げられてしまったわ・・・。
なかなか優秀であったのに・・・惜しいことをしたものよ・・・」
「うっ・・・。し、しかし、私はあのような賊ふぜいが紅刃様に仕えるのにふさわしくないと思ったのです!!それに・・・」
「お前自身、江賊に恨みがあるからな」
少女の言葉に劉表は肩をすくめた。
「はい・・・・」
「ふん、まあいい。ここまでの情報を集めるとは、さすが黄祖、我が軍における諜報の要よ」
「も、もったいなきお言葉でございます~!!」
劉表の言葉に、少女、黄祖はあわてて頭を下げる。心なしかその顔は赤くなっていた。
「それで、城攻めはいつ行われると?」
「へ?・・は、はい~!し、城攻めは今夜、諸侯が引き上げたときとのことです~」
「ふむ・・・・。ちと見物に行ってくるか」
「ふえ!!?、こ、紅刃様御自らですか~!!?」
劉表の言葉に黄祖は驚いて大声を上げた。
「心配するな。余はそう簡単に死なん。どうしても心配なら、一人か二人、付き添いで来ても構わんぞ」
「そ、それならば私が・・・・」
「お前は留守番だ、鏡花」
「ふえええええええ!!??」
その言葉に黄祖は傷ついた顔で劉表を見つめる。
「そんな顔をするな・・・。お前にはまだ重要な任務がある。それをこなしてもらいたいのだ」
「重要な任務、ですか?」
「ああ、曹操の陣営を探ってきてもらいたいのだ」
劉表の指示に黄祖は不思議そうに首を傾げた。
「曹操、ですか~?袁紹、袁術ではなく?」
「あの二人は所詮アリのようなものよ。放置しておいても構うまい。それよりも、曹操はこれから先、さらに勢力をのばしてゆくであろう。天下を取る可能性もある」
「て、天下を、ですか~!!?」
「いちいち驚くな・・・。まあそういうわけだ。よろしく頼むぞ。鏡花」
「は、はい~!!分かりました~!この鏡花におまかせを~!」
劉表の言葉を聞いた黄祖は立ち上がってお辞儀をした後、すさまじい速さで陣を後にした。
「やれやれ・・。あの様子では曹操の陣に向かったのだろうが、そこまで急ぐ必要はないだろうに・・・。まああれがあやつのいい所でもあるのだが・・・」
そう呟いた劉表は天幕の天井を見上げて一人笑みを浮かべた。
「さて、孫伯府よ。お前の実力を見せてもらうぞ。間違ってもお前の母親のようにならんことを願っているぞ・・・クク、ハーハッハッハッハ!!!!」
そして、夜になった。
あとがき
十三話目投稿しました。
本当はここで黄巾党との戦いを終わらせようと考えていたのですが・・・、思ったより時間がなかったので、あと自分の力の至らなさで結局次に繰り越しになってしまいました。
さて、今回、劉表軍の将として黄祖をだしました。
主に諜報活動専門の武将で、劉表大好きという設定です。
ちなみに孫堅を殺したのは劉表で、黄祖ではありません。
史実と違いますがそこはご勘弁を。
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ようやく一三話目投稿!
なかなかアイディアが浮かばなくて・・・・。
まあとりあえずお楽しみを。