No.116367

マジコイ一子IFルートその4

うえじさん

ずいぶん間が空いてしまいました。。。
理由としてはカラー絵+慣れないフォトショ+塗る人数多のせいで絵に時間かかりすぎました……orz
でもその割に全然うまくなし……

まぁ、あと2~3回以内で完結させられればなと思ってますです。

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2010-01-04 04:41:17 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2717   閲覧ユーザー数:2593

「クリスっ!!!」

「お嬢様っ!!!」

 決着の合図とともに会場へ駆け込むクリス父とマルギッテ。試合が終わるまで待っていられたこと自体がすでに奇跡だったのか、即座にクリスの元へと駆け込む。

「焦るでない。よく鍛えてあったクリスに、重傷はそんなにないわ。これから川神院に搬送するからそこまで取り乱すでないわ」

 しかし二人は一切鉄心の言葉など聞かず、慌てて傷口の状態などを確認している。

 やれやれ、ほとほと子離れにはまだ時間がかかりそうじゃのう。とため息をつくけれども、鉄心も対面にいる一子のことが心配で仕方がなく、人のことは言えなかったりした。

『ワ~~~~~~~~っっっ!!!』

 

 歓声が場内に溢れ返る。その張り詰めるような緊迫感から解き放たれたと同時に観客たちのテンションは最上へと上り詰めた。

「よくがんばったぞ川神の~~~っ!」

「クリスも最高にいい戦いしてたぞ~~~っ!」

 それまで戦っていた両選手に惜しみない賞賛の声が鳴り響いた。それはまるで決勝戦のような盛り上がりであり、実質この会場内にいる誰もが今日一番の満足感に浸っていた。

 そんな中、セコンドに抱えられながら控室へと戻る勝者の顔には、歓声にこたえる満面の笑みが浮かんでいた。

 

 控室。

「……あぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

 声を押し殺しても響いてしまう悲痛な叫び。彼女の体は悲鳴を上げていた。

「よく頑張ったなワン子。今の試合、最高だったぞ」

 寝かせた状態で静かにマッサージをする大和。しかしもうマッサージの必要性さえもないほどに彼女の体はボロボロだった。

「え、えへへ。あ…りがとう……大和ぉ」

「だが頑張りすぎだ」

「あぅっ」

「ここまで酷い状態……正直今すぐにでも病院に行った方がいいレベルだ」

 観戦していた時も見ていて酷い状態とは思っていたが、実際に体に触れてその傷の深さがより深刻に理解できた。

 外傷としての出血は少なく、擦り傷が多少ある程度しかない。だが、ところどころ腕や脚、おそらくは胸や腹部などもそうであろうが痣が、酷く浮き出ていた。肌には内出血により赤黒い斑点や青黒い打撲傷が生々しくちりばめられている。触っただけで痛々しい悲鳴を上げるワン子だが、おそらくは筋肉や靭帯などもかなり痛めているだろうし、肋骨にもダメージが蓄積されているように思える。

 故に大和に出来ることは少なかった。傷口を刺激しないように、最低限でも体力を回復させ、傷口の応急処置を行い彼女を休ませることだ。

 しかしもはやこの状態では焼け石に水もいいところだ。

「うあぁぁっ……!」

 ワン子の悲痛が控室に響く。小さくも痛々しい声。これでは聞いている大和の方が精神を摩耗してしまう。

「おいワン子。こんな状態でこの後戦えるか……」

「……あぁう」

「おい大丈夫かワン子!?」

「え?あ、だい……じょうぶだよ大和。あたしはまだ戦えるわー!」

 必死に笑顔で答えるその顔には冷や汗が垂れている。明らかに無理をしている顔だ。

「…………」

 控室のドアの向こう。静かに気配を消して彼女の声を聞くのは川神百代。何を思うでもなく、ただ目を瞑り奥歯を噛みしめている。

 今すぐにでも控室にいって彼女を止めたい。しかし武人として、姉として妹の覚悟を踏みにじることなど出来ない。このジレンマに彼女は内心歯噛みしていた。

(……ワン子)

 そして音もなく消えていく百代の影。そこにはもう何も残っていなかった。

 

 

 それからのことは記憶が断片的になっていた。

 クリスに勝利してから大和にマッサージされたところまでは覚えている。

 

――大和の顔、すごくつらそうだった……――

 何回勝負があったかすら覚えていない。けど気が付いたら、対戦相手が何か叫んだりごちゃごちゃしゃべっているのが分かった。

 

――あんなに悲しそうなカオ……初めて見た――

 体がもげるように痛かった記憶の後、気が付いたらまた控室にいた。どうやらなんとか勝てたらしい。

 

――でも、あと少しでお姉様と、たた、かえ……る――

 時間がたつにつれて意識がトブのが増えてきた。

 

――お、ねぇ様……アタシは……――

 会場が静かだ。気が付いたら相手が仰向けで倒れている。遠くにあるトーナメント表の一番上にあたしの名前が書かれてる。どうやら優勝したようだ。

 

――ぜッタい二……オ、ねぇ…さま、と……――

 でもなぜか会場が静かだ。どうしたんだろう?

 

――アトスコシ、アトスコシデ……――

 風間ファミリーの皆もすごく悲しそうな顔をしてる。どうして?

 ガクトとまゆっちが何か叫んでる?キャップも?どうしてだろう、もう何にも聞こえないや。

 

――アレ……あたまガ……トッテも。オモい……――

 頑張らないと。実感が湧かないけど、やっと念願のお姉さまとの決戦の資格が手に入ったんだもの。絶対に合格してやるんだから。

 

「……ワン子」

 もう直視できないほどに彼女の姿はボロボロになっていた。

 ガクトも、モロも、キャップも、まゆっちも、京も皆顔を青くさせて舞台を仰ぎ見る。彼女の身近にいたからこそ、彼女のその姿は見れたものではなかったのだ。

 クリス戦以降の勝負は全て一撃で相手を倒していた。

 一子の姿を見て憐れむもの、見くびるもの、侮り誹謗中傷するもの、そのことごとくを必殺の一凪ぎで屠っていった。その姿は回を重ねるごとに洗練され、会場の観客も大いに賑わっていった。

 だが決勝に近づくにつれ、すなわち戦闘の回数が増えていくたびにその容姿から生気がみるみる失われていく。

 不自然なクマが目の周りに明確に表れ、唇は色を濁らせて行き、歩く姿は風が吹くだけで消し飛んでしまいそうなくらいに危うく見える。

 どうよく見ても、人として成り立たないくらいに彼女の顔は死んでいた。

「……」

 審査員もこのまま続行させることを検討していたが、現に猛者を一撃で沈めていく様をみるとその判断も下しにくくなる。故に審査員も苦悩していた。

 

「ワン子、おい聞こえてるかワン子?」

「え?あ、はは。大丈夫だよ大和。絶対お姉さまを打倒してみせるわ~」

 控室での会話。大和は既に彼女の意識が途切れ途切れになっていることを知っていた。むしろ今彼女に会話をするだけの余裕すらないことも看破している。故に彼は優しく話しかけ続けることしか出来ない。

「……ああ、そうだなワン子。お前なら絶対姉さんに勝てる。俺が保証するんだ、間違いないぞ」

 他愛のない会話。それが今の大和の出来る精一杯のサポートだった。

「……ついに、ここまでやってきたのね」

 試合の始まるわずか前、最後の最後まで丹念にマッサージを受けながらワン子は静かにつぶやく。その言葉にどれほどの重みがあるかなど大和には十分すぎるほどに理解していた。

「よく頑張ったな、ワン子」

 だから。

「ワン子、お前本気で姉さんを倒せると思っているか?」

 どうしても確認しなくてはならなかった。

「あ、あはは~、何言ってるのよ大和。あたしはそのつもりでここまで……」

「『あの』姉さんにか?」

 その一言で二人は沈黙する。

 鬼神と呼ばれ恐れられていた最強の武道家川神百代。身近でその雄姿を見てきたからこそ彼女には姉の高みがどれほどのものなのか分かる。たとえそれが、自分では永劫届くことない理想の頂点であるとしても。

 お姉さまは強い。それはお世辞や賞賛、憧れや目標など、そういった固定観念を除いても間違いなく強い。

おそらく、あの人はレベルがどうとか次元がどうとか、そんな単純な話を飛び越えたところに存在する人だ。十分に手加減して、力をセーブした状態で並みいる武道家を一掃出来る程の力を持つ。もはや人間としての限界を超越した女性だ。

それは天賦の才か、川神に受け継がれた純粋な格闘家としての血の結晶なのか。なんにしても自分とは一切関係ない、むしろ対極にある構成要素だ。

戦うことにいくら体を特化させようと、一般人では上限が見えてしまう。努力をいくら積み重ねても、それよりも価値のある才能によって否定される。それがこの世界だ。

それが差。才能という生まれもった埋めようのない絶対値である。

それを十分に理解した上で大和は尋ねる。この勝負で百代に正々堂々と向かい合い、打ち倒すことの可能性を。もはやゼロコンマもありえないほどの可能性を本気で信じているのかと。

「……」

 彼の言いたいことはわかる。わずかな可能性しかなくても諦めずに邁進することを勇気と称え、しかし僅かな可能性もなく挑むことを無謀と蔑む。そしてそれ以前に、自らが心の片隅にでも諦めがあれば、それは無謀とすら呼べないただの『愚行』であると。

 僅かな逡巡に空気が凍りついたように肌を刺す。この空間内において、二人はある種闘争に近い状態を維持し続けていた。

 それほどまでに重要な事柄。後回しには決してできない大切な問い。

 だから、こう答えるしかなかった。

「……無理に、決まってるじゃない」

 静かに、ただ感情を乗せずに、言葉を出す。

故にそこにあるのは圧倒的な絶望、悲観、後悔でもなく、ただ純粋な結論であった。

「たとえあたしが万全の状態でもお姉様に掠り傷一つつけることは出来ないわ。どうあがいたって、何をしたってお姉様には敵わない。そんなの、勝負を挑む前から十分に理解していたことだわ……」

 もはやその声に活力はなかった。ただ発声しているだけ。そんな人形のような言葉をただ吐き続ける。

しかし……

「だから、あたしはこの勝負に『勝ちたい』のよ!」

 言ってのけた。正直に、素直に自身の感情に正直に、ため込んだ意志を爆発させるように大和へぶつけた。

 そう、大和が確認したかったこと。それは目的。

 鬼神とも恐れられる彼女を打ち負かすことなど、おそらく祖父鉄心をもってしても怪しいところだろう。

 ならばどうすればいいか。何がしたいか。最終目標は何なのか。

 それが勝負に『勝つ』ことである。そう、この試合で負けることは確実であろう。しかし彼女の勝負はこのトーナメントの結果にない。

 彼女の目的こそ彼女の追い求めた、彼女の恋い焦がれた、かけがえのない夢なのだから。その結果こそこの試合をもって証明する。そのためにここにいるのだと、彼女の目には決意の眼差しが鋭く輝いていた。

「……」

 彼女の答えを聞き、大和はふと表情を和らげる。今の彼女の答えこそ、彼の求めていたものと同じであったのだから。

「よく言ったなワン子、その答を聞いて俺も覚悟が決まったよ」

 きょとんとするワン子にヤマトはまた表情を真剣に変え

「最後に俺から、対姉さん用の『策』を仕込んでやる」

「!!!」

 その言葉に思わず声を上げて驚いてしまうワン子。それもそのはず。あの鬼神に対し勝つためのプランなど、今の状態でありえるのだろうか?

 満身創痍、疲労困憊の彼女にはもう隠した切り札もない。正真正銘真っ向勝負を覚悟していた一子には大和の言葉は、ただの理想論ではないかと詳細を聞く前から疑念を抱くに十分の発言であった。

「いいかワン子、これは一から十まですべてワン子の信念と気力が鍵になる。それを承知の上で聞いてくれ。この作戦の内容を……」

静かに語られるその作戦内容。そこにどんな無謀、期待、可能性、理想があろうと一子は静かにただ聴き続けた。

ここまで誰よりも自分に尽くし、応援してくれた自分の恩人でもあり誇りでもある大切な人物の作った作戦を。

そして一切の文句も疑念も戸惑いも不安もなく、ただ静かに頷いた。

話し終えたときには彼の顔はわずかに歪んでいた。それは必死にこらえても我慢しきれない程の感情の渦。自らが示した案のいかに幼稚で愚昧であるかが彼の胸を強く締め付け続けた結果である。

それまでの試合で彼女の戦う姿を見続け、必死に思案を巡らせた結果のわずかな可能性。自身が考え付く最良であり最善の策。しかしその策のいかに儚いものか、そしてその脆い石橋の上を自分の大切な人にわたってもらうことの罪悪感。すべてが彼を締め付けていた。

出来ることならばもっと確実な手段を導き出したかった。可能ならば少しでも彼女が傷つかない安全な作戦を出してあげたかった。

すべて彼女を想うからこそ出てきた感情。それに歯止めなどできるはずがない。

「……ありがとう大和」

 そんな彼に彼女は一言だけ告げる。

「大和が考えてくれた策だもの。ぜっっっっったいにこたえなきゃ女がすたるってものなのよね~!」

 今までと同じ調子で天真爛漫に、無邪気な笑みを彼に見せながら。

「だから泣かないで……。あたしは、結果がどうあれ大和を憎んだりしないから……」

 そっと彼の頭が彼女の腕に抱かれる。それは母親が子をなだめるように温かく、胸の内が満たされるような心地であった。

 辺りは静寂。

 一時の間、二人はそっと寄り添いあう。

 


 
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