「兄ちゃんよ、こんな荒野で何やってんだ」
この先のことを考えていたところで、燐は男に声をかけられた。
声の方を見れば、やや小柄な男が品のない笑いを漏らしながら立っている。服装はボロの布をなんとか服の形にしたような具合でおおよそ現代の文化人という感じはしない。黄色い布を腕章のように右腕に巻き付けてある。
後ろの方に痩せた背の高い男と大柄な男もいたが、にまにまとやはり品のない笑みを浮かべており、やはり二人も頭巾を被るような形で黄色い布を身に付けていた。
心配して声を掛けてくれたわけではないだろう。この嬉しくない第一村人発見にどうしてくれようかと燐は思案していた。
普通の人ならここがどこだか聞けたんだけど、この手の手合いは録なことを考えないんだよなあ、燐は大きくため息を吐くことで落胆の意を表現する。
事実、男達の手には槍やらこん棒やらの何かしらの得物が握られており、友好的とは言いがたい雰囲気を醸し出していた。
「なあ、兄ちゃん。お願いがあるんだがよ」
小柄の男は下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる。
「なにかな? 俺はカラーギャングに絡まれるようなことしてないと思うけど」
「からあなんだって? まあいいや、難しいこたぁねえよ。よく見りゃ変わった服着てるし、良いとこの坊っちゃんなんだろう? 身ぐるみ全部置いてってくれや」
案の定山賊の類であった。今日日時代劇でも聞かないような三下の台詞である。
やっぱりそうくるよなあと燐は頭を掻いてみせると、相手を刺激しないように両手を挙げる。
「お、素直なのは良いことだ。命まではとらねぇでやるよ。ノッポ、デブやっちまいな」
小柄な男、チビの言葉でノッポと呼ばれた背の高い男とデブと呼ばれた大柄の男が距離を詰める。
丸腰の相手に完全に油断している。普通、油断しない方がおかしいというものである。
ただし3人にとって不幸だったのは、彼はそういう荒事を望む望まないに関わらず経験していたということだろう。どういうことかは、すぐに答えが出た。
ノッポが服に手を伸ばそうとしたところで、そろそろ頃合いかなと燐はすばやく腰を落としてノッポに肉薄する。
驚いたのはノッポの方で、突然視界から消えたような錯覚に襲われ辺りをキョロキョロと見渡す。
「し、下なんだな」
デブがなんとか声を漏らすが、そのときには燐の水面蹴りがノッポを襲う。
受け身などとれるはずもなくノッポは倒れこんだ。燐はその勢いのままおまけとばかりに腹部に肘打ちを入れる。肺の空気が全て吐き出されるたノッポは意識を手放し槍は地面に転がった。
「やろぉ、やりやがった。命まではとらねえと言ったがあれはやめだ。デブ、やっちまえ」
逆上したチビに、デブは呼応するとおもいっきりこん棒を振り下ろした。
威力こそはあるが緩慢な初撃をかわすと、そのまま腕を掴んで放り投げた。いわゆる浮落としというやつである。
自分よりもかなり小柄な男に投げられらデブは何をされたかわからなかっただろう。
チビはやけくそ気味に小刀を取り出すと、
「やろぉぶくらっしゃー!」
意味のない言葉を叫びながら脇腹に抱え込むような構えで燐へと突進をかける。
鬼気迫る勢いではあったが、燐は冷静にチビの利き腕をとり、腕ごと体を潜り込ませ勢いを借りて投げ飛ばした。綺麗な一本背負いが決まり、チビの視界はチカチカと点滅を繰り返している。
「まさに一本ってね。こんなときばかりはじい様に感謝だな」
ここにはいない武道の師でもある祖父に感謝しつつ、さてさてと伸びをするとノッポの槍をとる。
そうして痛みに震えながらなんとか立ち上がろうとするチビの喉元にノッポの槍が向けられた。
ひぃっと情けない声を出すチビに燐はにっこり微笑む。目は笑ってなかったが。
「有り金置いてとっとと立ち去れ」
チャキっと音をならしつつ、さらに槍の穂先が喉元に近付く。
チビは無言で2度頷くと、粗末な布袋を放り投げるようにして逃げ出した。
起き上がったデブはノッポを引きずりながら、アニキまってほしいんだなと情けない声をあげ、チビの後を追いかけていく。
こうして、衝撃的なダーツの旅第一村人とのやり取りは幕を迎えたのだった。
デブが遠くに行くのを見送りながら、これではどっちが山賊かわかったものではないなと苦笑しつつ、チビが置いていった布袋の中身を見た。
中には銅銭が何枚か入っているばかり。詳しいわけではないが、少なくても日本の通貨ではないのは確かだ。
「本当に日本じゃないのかもな」
1人ポツンと呟く燐に、パチパチと拍手が贈られる。
そちらへ目を移すと、最初に白い衣装が目に飛び込んで来る。
「助太刀がいるかと思ったが、いやはやなかなかどうして。見事な立ち回りでしたな」
愉快そうに笑う拍手の主は、美少女といっても差し支えないほど可愛らしい水色の髪が映える女の子だった。
正直、また厄介事かと思ったが、先ほどの3人とは違って身なりは綺麗である。振り袖のような印象をもつものの、女性らしさが前面に出された変わった衣装であった。
それよりも目に引くのは彼女の手に持つ服に似つかわしくない槍。
ノッポから奪ったちんけなものとは違い業物だと素人目にも感じられた。
「そんなにじっと見つめられますと照れますな。いや、私の美貌は確かに素晴らしいと自負はしておりますが」
からかっているのだとわかる声音であるが、女性をじろじろと見るのが失礼なのは確かである。非礼を詫びるが彼女は愉快そうに笑うばかり。
出会ってから一時も女性から隙が感じられず、戦っても無駄だろうな、と思えた燐は怒らせないことだけを考えつつ天を仰いだ。
願わくばこれ以上面倒なことはありませんように。
ささやかな燐の祈りは果たして届いたのか?
空に昇る太陽は何も語ることはない。
いかがでしたでしょうか?
いきなりの急展開に置いてけぼりになってませんか?
たぶんなってるとは思うんですが、一刀くんレベルだとお話にならないので、少し武がある子になってます。
もちろん武将には渡り合えないと思いますが。
女の子は誰でしょうね?
白々しくてすみません。というか革命とか知らないので勉強しないとなあ。キャラ増えててびっくりしました。
2023年の董卓ルートがやりたいですねえ
誤字脱字、要望、コメントなんでもくれると喜びます。
それでは皆さま。また次回お会いいたしましょう。
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途方にくれる青年を見ていたのは誰なのか?
ってだいたいわかりますよね、すみません。
それでは2話スタートです。