「一刀。あなた最近痩せてきてるんじゃない?ちゃんと食べてる?」
暖かい日差しが差し込む廊下で、蓮華は一刀に話しかけた。
「うん。食べてるよ」
そう答える一刀を心配そうに見つめながら、蓮華は手をあごに置いた。
「本当に?では、なぜ痩せて行っているのかしら?……もしかして、働きすぎたりしてる?」
「そんなことないよ。食べては寝て、食べては寝ての繰り返しさ」
「……それなら、逆に太ってもおかしくないわね」
一刀の答えに、ますます何が原因なのか分からなくなったのか、蓮華は眉間にしわを寄せた。
「と、とにかく。あなたに倒れられでもしたら、みんな心配するのだから、ちゃんと食事をとってもらうわ。幸い、今日私は休みだから。……その、わ、私が、りょ、料理を作ってあげるわ」
「本当かい?ありがとう蓮華」
恥じらいながらもそう言う蓮華に、一刀はそう頬笑みながら答えた。
「そ、それじゃあ、料理が出来たら一刀の部屋に持っていくから、それまで部屋で待っていてくれる?」
「うん。分かった」
そう言うと、一刀はよたよたと自分の部屋に向かって歩いて行った。
(一刀に喜んでもらえるように、頑張って作ろう)
そう思って厨房へと向かう蓮華だったが、この時彼女は、一刀の目がどことなく虚ろで、差し込んでいる太陽の日差しを、ひどく眩しげに眺めていることに、気付いていなかった。
「あぁ。太陽が黄色いなぁ……」
よたよたと歩きながら、一刀はそう呟いた。
~数日前~
「なんじゃ北郷。そんなにひょろひょろと歩きおって。ちゃんと飯は食っておるのか?」
「あぁ、祭さん。ご飯はちゃんと食べてるよ。昨日なんて蓮華が俺にご飯を作ってくれたんだ」
「ほぅ。じゃが、今のお主がひょろひょろとしているのは事実じゃな。……よし。儂が飯を作ってやろう」
「ホント?うれしいよ。ちょうど少しお腹が空いていたところなんだ」
「おう。とびきりうまい奴を作ってやろう」
~数日前その2~
「か、一刀様。どうされたのですか?元気がないようですが……」
「あぁ、亞莎。……そんなに元気がなさそうに見えるかい?」
「はい。元気がないというよりも、すこしお痩せになったように思えます。頬も少しこけていらっしゃるようですし」
「そうかぁ……。でも、大丈夫だよ。今日は亞莎との勉強会の日だし、元気を出していかないとね」
「は、はい!……それで、その。この間は失敗してしまったゴマ団子なのですが、きょ、今日は頑張って作りますので。なので、その……」
「勉強会の時に持ってきてくれるの?」
「は、はい」
「ふふ。楽しみにしているね」
「はい。が、頑張ってたくさん作ります!」
「うん。それじゃあ、今夜ね」
~数日前その3~
「かーずと!どうしたの?目の下にそんな大きなクマなんか作っちゃって」
「シャオ。ちゃんと人の部屋に入ってくる時は、ノックしてから入ってくるようにって、いつも言ってるだろう?」
「はーい。……それで、一刀。大丈夫なの?最近眠れないことでもあったの?」
「いや。心配してもらうほどのことじゃないんだ。まぁ、自業自得だしね」
「ふーん。よくわかんないけど、あんまり無理しちゃ駄目だからね?一刀は、シャオの夫なんだから、長生きしてもらわないと困るんだからね?」
「うん。ありがとう。気をつけるよ」
「うん!それでさぁ、一刀。そろそろお昼だけど、お腹空いてない?」
「あぁ、もうそんな時間か。そう言われれば、少しお腹が空いてきたかな」
「それじゃあー。シャオがお昼作ってあげようか?この前、祭にお料理を教えてもらったから、きっとすっごい美味しいのが作れるよ?」
「そうかい?それじゃあ、お願いしようかな」
「まっかせといて!あまりのおいしさに、一刀がシャオのとこ襲っちゃうようなのを作ってきてあげるから!」
~数日前その4~
「かーずーとーさぁーん」
「うん?あぁ穏。どうしたんだい?」
「あのですね?昨日、城下の本屋さんに行ったら、あの曹操さんが大陸を出て行かれる前に書かれたという本があったんですよぉ」
「……もしかして、それを読んだの?」
「はいー。と、言いたいところなんですけど。この本、どうやらお料理の本みたいなんですぅ」
「ちょっと見せて。えぇっと?『四時食制』?……中身は、珍しい料理の作り方が載ってるみたいだね」
「そーなんですよー。穏は、あんまり料理とかしないのでよくわかりませんし。でも、あの曹操さんの書かれた本なんですから、きっとまだ私の知らない知識がいっぱい詰まっているはずなんです!」
「そ、そうか。……でも料理なら、俺じゃなくて祭とかに頼めばいいじゃないか。俺なんかよりもよっぽどうまいと思うぞ?」
「いえ!祭さまに頼むと、またお酒を要求とかされちゃうので、それは出来ません!……だから一刀さん。穏に力を貸してください。この本を見ながら作った料理は、一刀さんが食べてもかまいませんからぁ」
「うーん。あの曹操が選んだ料理なら食べてみたい気もするけど……」
「そうですよね!それなら決まりですぅ」
「わ!ちょ、穏!いきなり腕引っ張らないでくれ。最近寝不足で、足元がおぼつかないんだ」
「大丈夫です!そんなのは、この本に書かれた料理を食べれば治ります!」
~数日前その5~
「おい!貴様!」
「……あぁ、思春」
――以下略。
~数日前その6~
「お猫さまー」
――以下略。
「か、一刀。どうかしら?」
一刀が口の中のものを飲み込むのを、蓮華は不安そうに待っていた。
「あぁ。少し焦げているところとかもあったけど、とてもおいしかったよ」
「本当?よかったぁ……」
一刀の言葉に、蓮華ほっとした表情をした。
「うん。それに、蓮華が俺のために作ってくれた料理が、不味いわけなんてないしね」
その言葉がうれしくて、蓮華は頬を赤らめた。
「か、一刀……。そ、その今から……」
蓮華は、寝台の方をチラチラと見ながらそう切り出した。
「あ、きょ、今日はたまった仕事をしなくちゃいけないから、その……」
だが一刀は、そう言って蓮華の言葉を遮った。
「そ、そう……。そうよね。いくら一刀とでも、昼間からはよくないわよね」
「あ、いや。そう言うことじゃなくて……」
「それじゃあ一刀。また、今夜。お邪魔させてもらうわ」
恥じらいですこし頬を赤く染めながらも、そう言ってほほ笑む蓮華に、一刀は自分の本心を言えなかった。
「……うん。分かった……」
「ふふ。それじゃあ、仕事頑張ってね」
――パタン
笑顔の蓮華が、そう言って静かに扉を閉めると、一刀は自分の意思の弱さに頭を抱えていた。
「ふぅ……。これで3週目突入か」
王宮のはるか上空にある雲の上から、その様子を見つめていた冥琳がそう呟いた。
「まったく。ちゃんと食べているのかと聞かれた時に、あんなことを言うからこうなるのだ」
冥琳は、依然として頭を抱えている北郷を眺めながらそう言った。
「そうよねぇ。一刀は料理も食べて、女の子も食べて、それから寝ているのだものねぇ」
冥琳の後ろから音もなく表れた雪蓮が、すこし苦笑いを浮かべながらそう言った。
「しかし、そうやって北郷に料理を食べさせて、そのまま自分も食べてもらおうという流れが始まってから、今日でもう15日目だぞ?北郷の意思の弱さのせいもあるが、1日も休まずに何日もあんな生活をしていては、体がもたんだろう」
そう言ってから、冥琳はため息をついた。
「はぁ。……ねぇ、雪蓮。そろそろ皆の夢枕に立たないと、北郷が死んでしまう気がするのだけど」
冥琳はそう言うと、雪蓮がニコっと笑った。
「そうよ冥琳。このまま一刀が死んじゃったら、きっと私たち三人で、楽しく暮らせるわよ?」
「しぇ、雪蓮!滅多なことは言うものではない。本当に一刀が死んでしまったらどうするのだ」
「えぇー。だって、蓮華たちのお腹にはもう赤ちゃんがいるんだし、冥琳だって一刀の子ども、ほしいと思うでしょ?」
「い、いや。それとこれとは、また違う話だろう!」
「それにー。母様に一刀も紹介したいし。あと、私も一刀に食べられたいもの!」
「はぁ……。死ぬにしろ生きるにしろ、お前は眠れぬようだ。北郷……」
あとがき
どうもkomanariです。
すみません。くだらない一発ネタでした。
ヤマもなく、オチもなく、意味もない。まさに801!……すみません。調子に乗りました。
納豆ご飯を食べたお椀を洗っている時に、「食っちゃ寝、食っちゃ寝」という言葉が浮かんできて、その言葉と一刀くんの行動が、こう推理小説で点と点がつながる時みたいに、スッとつながって、こんな話を書いてしまいました。
思春さん。明命さん。ごめんなさい。あなた達二人のネタまで思い浮かびませんでした。
なんかもう、いろんなものがぶっ壊れていますが、今やっているシリーズの息抜きということで、許していただけるとうれしいです。
それでは、また~
追伸
今更なんですが、これは全年齢対象でも大丈夫なのでしょうか?すこし不安です。
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『こっち向いてよ!猫耳軍師様!』を書いている途中なのですが、ふとこんなネタが浮かんだので、投稿してみます。
もしかしたら、他の方の作品でこんな話があるかも知れませんが、その時はご一報ください。
今回は、本当にただのネタです。しかも、あんまりおもしろくないかもです。