「ここや」
張遼に案内され、一刀は董卓の待つ部屋の前へとやってきた。
扉を開けて中に入ると、そこには董卓と賈詡の姿があった。
「良く来てくださいました。北郷さん・・・・・・ですよね?」
「はい。北郷一刀と申します」
「どうぞ、座ってください」
「では・・・・・・」
董卓に促され、席に着く一刀。
「まずはお礼を言わせてください。将達から話は聞きました。来たのがあなたでなければ、説得に応じる事は無かったかもしれないと。それに、我々が悪人ではないと信じてくださった事が私・・・・・・嬉しくて」
「あの場で言ったように、貴女が涼州にいた頃の話は聞いていましたし、軍の者達を見て分かったというのも、結局は貴女の人望によるものです。私を信じさせたのは貴女達なのですから、私の功績ではありませんよ。」
「そんな・・・・・・」
「意外に謙虚なのね。天の御使いと言うから、もっと尊大な態度を取るかと思ってたわ」
「そんな失礼な真似はいたしません。天の御使いだろうと何だろうと、礼を尽くすべき時には尽くします」
「殊勝な心掛けね」
「ところで、礼を言うために呼ばれたと聞いているのですが、他にも何か話があるのでは?」
一刀の発言に目を細める賈詡。
「・・・・・・ええ。一つ頼みがあってね」
「伺いましょう」
「単刀直入に言うわ。私達の陣営に来てもらえないかしら?」
「お断りします」
「・・・・・・」
まさか即答されるとは思わなかったのか、固まる賈詡。
が、数秒で持ち直し、話を続けた。
「す、すぐに断られるとは思わなかったわ。理由を聞いてもいいかしら?」
「天の意志です」
「天の?」
「天が私を遣わしたのは孫呉の者達の所でした。つまり、私には彼女達のもとでやるべき事があるということでしょう。・・・・・・もしも、私が遣わされたのが貴女達の所だったとしたら、今回のように誰かから誘いをかけられても同じように断り、共に事を為したでしょう」
「む・・・・・・」
「そもそも、私を引き入れる必要はありませんよ。私に対し、何か危惧している事があると見ましたが、私は天の御使いとして、貴女達に害をなすような真似をするつもりはありません。むしろ、貴女達とは良好な関係を築いていきたいと思っているくらいです」
「・・・・・・」
黙り込む賈詡。
一刀の言った事は当たっていた。
天の御使いと言う名の影響力を考えれば、北郷一刀という存在を放置しておくのは危険ではないか。ならばいっそ、自分達の側に置いておき、下手な事をせぬよう監視するべきではないかと賈詡は考えていた。
月にもその事は話したが、恩人に対してその扱いはどうかと不満を漏らしていた。
まずは北郷一刀と言う人間を見極める事が重要だ。役に立つ人間なら、それなりに遇するつもりだと言うと、月は完全に納得した訳では無さそうだったが、勧誘に関しては承認したのだった。
賈詡が言葉を発せずにいると、董卓が席を立ち、一刀に対して頭を下げた。
「北郷さんのおっしゃるとおりです。申し訳ありませんでした」
「月!なにもそこまで・・・・・・」
賈詡の訴えを目で制し、董卓は言葉を続けた。
「恩人に対し、私達は疑惑と敵意を持って自分たちの手元に置こうとしました。人として恥ずべきことです。本当にごめんなさい」
「頭を上げてください董卓殿。別に私は怒っていません。こうして誠意ある謝罪をしていただいた訳ですし、貴女達の立場からすればそういう考えに至ってもやむ負えないでしょうし」
「ご理解、感謝します」
頭を上げ、再び席に着く董卓。
「そういう訳で、貴女達の下へは行けません。諦めてもらえますか?」
「はい。こちらこそ無理なお願いをしてすいませんでした」
「いえ。先ほども言いましたが、貴女達とは良好な関係を築いていきたいんです。今後ともよろしくお願いします」
「はい」
「では、私はそろそろ失礼します」
席を立ち、背を向ける一刀に董卓から声がかけられた。
「北郷さん。何か望みはありませんか?先程の失礼のお詫びと、此度の戦における褒美として何かして差し上げたいのですが」
「望みですか?なら、私達が困った時、力を貸していただければとは思いますが・・・・・・」
「それは当然のことです。北郷さんにお願いされずとも、出来る限り力を貸すつもりです。何か他にありませんか?」
「そうですね・・・・・・」
一刀は少し考えこみ、
「では、一つお願いしたいことが・・・・・・」
雪蓮達の所に戻った一刀は一部始終を話し終えた所だった。
「まったく、油断も隙もないわね」
「しかし一刀。本来ならその場には、私と雪蓮と共に行くべきだったのではないか?」
「俺もそう思ったんだが、二人が一緒だと向こうを警戒させる事になるんじゃないかと思って」
「それはそうだろうが・・・・・・」
「まあ、結果良ければ全てよしという事で、今回は勘弁してくれ」
「やれやれ」
「ところで一刀。あんたが董卓にしたお願いの事だけど」
「ああ。あのまま放っておくのも危ないと思ったんだけど、駄目だったかな?」
「どう思う?冥琳」
「さてな・・・・・・」
それからしばらくして、反董卓連合に参加した諸候への沙汰が下った。
袁紹は領地、財産の全てを没収され、文醜、顔良と共に牢屋の中。
いずれは極刑を言い渡されるだろう。
他の諸侯も地位の格下げ、大幅な領地の削減を言い渡され、その勢力は大幅に衰える事となった。
そして、元々地位も領地の規模も小さかった劉備は・・・・・・
「劉備、あなたは領地、財は全て没収の上、将共々私達の部下として働く事を命じるわ」
「な!?」
「うにゃっ!?」
「はわわ・・・・・・」
「あわわ・・・・・・」
関羽を筆頭に、驚きを隠せない劉備軍の諸将たち。
しかし、
「・・・・・・分かりました」
劉備は俯きながら、ただただ承諾するのみだった。
「お姉ちゃん!?」
「よろしいのですか?桃香様」
「・・・・・・うん。だって、私達は悪い事をしたんだから、ちゃんと償わないと」
関羽と張飛の言葉に弱々しい声を返す劉備。
こうして劉備達は、董卓陣営に組み込まれる事となったのだった・・・・・・
どうも、アキナスです。
前回の投稿から一年以上経ってしまいました。
また少しずつ書く気になってきて、本当は正月に上げられればと思っていたんですが、結局ここまで伸びてしまいました。
今年は少しでも多く投稿できるといいのですが・・・・・・
では、また次回・・・・・・
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董卓の下へ一人向かった一刀・・・・・・