漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■IKKIコミックスを一気買い 〜単行本

今回はまず新コミックスシリーズの話題から。昨年11月に創刊しちょうど1年が経過した超重量級漫画雑誌「ビッグスピリッツ増刊 IKKI」(小学館)から、初の単行本群が一斉に刊行された。初回の配本分は以下の7冊。

「ナンバーファイブ」 1巻 松本大洋 (小学館) [bk1]
「G戦場ヘブンズドア」 1巻 日本橋ヨヲコ [bk1]
「セクシーボイスアンドロボ」 1巻 黒田硫黄 [bk1]
「あざ」 1巻 茶屋町勝呂 [bk1]
「SHIMI」 小野塚カホリ [bk1]
「−追儺伝−SEIJI」 森田信吾 [bk1]
「フランケンシュタイナー」 稲光伸二 [bk1]
ナンバーファイブ
セクシーボイスアンドロボ
フランケンシュタイナー
「ナンバーファイブ」1巻
松本大洋
「セクシーボイスアンドロボ」 1巻
黒田硫黄
「フランケンシュタイナー」
稲光伸二
個性派勢ぞろいの超豪華ラインナップを誇る同誌のコミックスシリーズだけあって、漫画マニアにはこたえられない顔ぶれとなっている。この中で個人的に最も注目していたのが稲光伸二「フランケンシュタイナー」。ほかの作家はこれまでに単行本を何冊も出しているが、稲光伸二のみ初単行本。好き勝手やりたい放題なお嬢さまと、選挙に出馬しようという父親の豪快な親娘ゲンカを描いた物語で、シャープな作画は非常にカッコイイ。そのほかの本も、松本大洋の研ぎ澄まされた圧倒的な表現力、日本橋ヨヲコの青臭いアツさ、黒田硫黄の感心するほかない演出力の高さ、茶屋町勝呂の華麗さ、小野塚カホリのセンシティブな描写、森田信吾の地に足のついた質実剛健さ……とそれぞれ一人1ジャンルといった感じの魅力を見せつけている。発行部数がさほど多めではなかったようで、一般の書店では7冊全部置いてないケースもあったようだけど、基本的には7冊全部買っちゃっても後悔することはないと思う。今後の単行本発行予定を見ても、楽しみな作品が目白押し。雑誌ともども楽しみである。

次に、11月は個人的に女性作家当たり月間というか注目作品が多かった。というわけでその中からとくに6冊ほどをピックアップし紹介しておく。

「吉浦大漁節」 たくまる圭 (白泉社) [bk1]
吉浦大漁節
「吉浦大漁節」
たくまる圭
吉浦という小さな港町で、親を亡くし、姉も嫁入りして、一人で暮らすことになった少年カジメの物語。別に大事件が起こるわけではないけれど、明るく元気良く、でもときどき沸き上がってくる一人の寂しさに耐えながら過ごすカジメ少年の姿を描く。作画は線の一本一本が美しくて暖かみがあって非常に魅力的。吉浦については実際にモデルとなった港町とかはないらしいんだけど、カジメ少年を取り巻く人々の暖かさもあり、読む者に懐かしさとやすらぎを与えてくれる。とにかく読んでいてものすごく気持ちがいい。この気持ち良さはなかなか言葉で伝えきることは難しいので、ぜひ一度読んで実際に味わってみていただきたい。
「フェティッシュ」 田中ユキ (講談社) [bk1]
フェティッシュ
「フェティッシュ」
田中ユキ
田中ユキ久々の単行本。基本的には高校生くらいの少女の恋愛ストーリーが中心となっているのだが、その魅力を語るのはけっこう難しい。田中ユキ作品にはどれも共通することなんだけど。描かれるものごとはときに苦く、そしてしっとり艶めかしい。非常に透明度の高い筆致の持ち主で、登場人物たちの微妙な心の動きをとても細やかに描き出している。
「キキララ火山」 かわかみじゅんこ (飛鳥新社) [bk1]
キキララ火山
「キキララ火山」
かわかみじゅんこ
こちらもその魅力を表現するのが難しい作家だ。かわかみじゅんこの描く作品はかなり感覚的な部分が多くて、分かる人は何もいわなくても分かる、分からない人は何をいっても分からない、そんな感じがする。あとこの人の特徴としては、登場人物たちのまなざしが挙げられる。まるで透明度の高い湖のように、表面はキラキラとしていながら、奥底に何かいいしれぬものを湛えているかのような目から一直線に向かってくる眼光は、読む者の心を射抜き、ときにメロメロにしてしまうような魅力を持っている。
「緑の黒髪」 望月花梨 (白泉社) [bk1]
緑の黒髪
「緑の黒髪」
望月花梨
中編2本、「緑の黒髪」と「シャボン」を収録した作品集。とくに表題作がいい。再婚した親の連れ子同士である兄妹の物語。二人は非常に仲が良いのだが、お互いを慈しんでいるがために、ともすれば家族でいるためのバランスを崩してしまいそうになる。二人はその微妙なバランスを保つため、共通の友人を介すなどして距離を保つようにしている。ともすれば一線を踏み越えてしまいそうになる危うさが、物語に緊張感を与えてビシッと引き締めている。二人の関係を実に細やかな手つきで描いた良作。
「ハニー・クレイ・マイハニー」 おがきちか (少年画報社) [bk1]
ハニー・クレイ・マイハニー
「ハニー・クレイ・マイハニー」
おがきちか
表題作「ハニー・クレイ・マイハニー」全5話と、短編「仔羊は迷わない。」「スーパーウール100%」「恋屋15」「エアー・マイ ラブ」を収録した作品集。「ハニー・クレイ・マイハニー」は、考古学を研究している主人公の発掘した土偶がキスによって古代の奴隷であった少女の姿を取り戻すところから始まるラブストーリー。一生懸命主人に尽そうとする土偶少女のハニーの健気さが非常に可愛く、後味のいいラストもとても心地よい。軽やかな作画も好感度が高い。なんとも幸せなラブストーリーを描く人である。
「しあわせインベーダー」 こがわみさき (エニックス) [bk1]
しあわせインベーダー
「しあわせインベーダー」
こがわみさき
「しあわせインベーダー」「ふたりなみだ」「サムシンライクハレーション」「るいるい」を収録した短編集。暖かくて透明感のある絵柄、そして絵柄そのままに可愛らしくコロコロと転がるようなストーリーは非常に軽やか。ページをめくるごとに快感が増していく一冊。 >>次頁
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