漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX

漫画的男子しばたの生涯一読者

■単行本

おそらく2001年の漫画界で最も大きな話題となった雑誌は、新潮社の新週刊誌「コミックバンチ」ではなかったかと思う。その「コミックバンチ」から、いよいよ単行本シリーズの発行が始まった。第1回の配本分は、

  • 「蒼天の拳」1巻 原哲夫(監修:武論尊) [bk1]
  • 「エンジェル・ハート」1巻 北条司 [bk1]
  • 「レストアガレージ251」1巻 次原隆二 [bk1]
  • 「眠狂四郎」1巻 作:柴田錬三郎+画:柳川喜弘 [bk1]
  • 「ワイルドリーガー」1巻 渡辺保裕 [bk1]
  • 「リプレイJ」1巻 画:今泉伸二+作:ケン・グリムウッド [bk1]
ワイルドリーガー
「A・LI・CE
「ワイルドリーガー」
1巻
渡辺保裕
「眠狂四郎」1巻
作:柴田錬三郎
画:柳川喜弘

の6冊。この中で筆者が注目したのは「ワイルドリーガー」と「眠狂四郎」。「ワイルドリーガー」は今漫画界を見回してみても屈指の熱さを誇るプロ野球漫画で、男気を強く感じさせる作風を特徴とする。「眠狂四郎」は柴田錬三郎の原作や時代劇でもおなじみだが、艶と力強さのある作画と堂々とした演出力が目を惹く。  原哲夫、北条司、次原隆二、今泉伸二といったあたりはすでに実績豊富なベテラン作家なのである程度の読者獲得を計算できるが、それに加えて今まで無名に近かった渡辺保裕や柳川喜弘といった新鋭・中堅層が伸びてくればより強力なラインナップとなってくる。そういった意味でもこの2作品には期待したいところだ。

「ジジメタル・ジャケット2 ザ・デルタ」
泉昌之 (ブルース・インターアクションズ) [bk1]
ジジメタル・ジャケット2
キッチョメン!
「ジジメタル・ジャケット2 ザ・デルタ」
泉昌之
「キッチョメン!石神井先生 完全版」
泉昌之
(青林堂)
大工の棟梁や酒屋の主人といった町内会のジジイたちがバンドを組み、ヘヴィメタを極めた伝説のバンドがあった。それが「ジジメタル・ジャケット」。かつて双葉社から刊行されていた彼らの活躍を描いた前作(1990年双葉社刊「ジジメタル・ジャケット」)から10年余の歳月を経て、このバンドが甦った。彼らが次に挑むのは自らのルーツを探るサウンド、ブルース。今回は棟梁の息子もメンバーに加え、血管もブチ切れんばかりの勢いで、ジジイたちが魂の叫びをぶちかます。といってもまあ自暴自棄とかになるんではなく、重ねた年輪の重みを感じさせつつ、純粋に音楽を楽しむ彼らの姿には思わずゾクゾクさせられる。風変わりではあるけど、これはこのうえなくアツい音楽漫画である。なんだか妙に感動させられてしまった。なお、泉昌之は最近「小学五年生」で長期連載されていた「キッチョメン!石神井先生 完全版」も単行本化された(青林堂→bk1)。こちらは几帳面でこのうえなくオヤジノリ、でもなんだか憎めない小学校教諭、石神井先生の教育現場を描いた作品。泉昌之らしい生活ウンチクも随所に埋め込まれていて、なかなか楽しい作品となっている。
「ずっと先の話」 望月峯太郎 (講談社)[bk1]
ずっと先の話
「ずっと先の話」
望月峯太郎
「ドラゴンヘッド」「バタアシ金魚」の望月峯太郎の最新刊。ちょっと意外だったんだけど、望月峯太郎としては初の短編集となる。収録作品は「僕ちゃん」「ブッとばすわよっ!」「トゥルーラブ」「COLOR」「リリカルロボット」「ずっと先の話」「サマーオヴラブ」「私的マイケル・ジョーダン見聞記」「私的NBAオールスター2001観戦記」。内容はバラエティに富んでいて、オカマっぽい少年が主人公でドタバタ展開されるコメディ「僕ちゃん」があったかと思えば、「COLOR」などではファンタジーテイストなこともやってるし、アメリカ合衆国のバスケットボールリーグのルポ漫画まである。「強烈に面白い!」という作品こそないが、どの作品にも独特のトボけた間が生きている。望月峯太郎の魅力を味わい尽したい人は必読。
「NOiSE」 弐瓶勉 (講談社) [bk1]
NOiSE
「NOiSE」
弐瓶勉
現在「月刊アフタヌーン」で連載中の「BLAME!」と共通の世界観を持っていて、「BLAME!」で重要な役割を担っているネット遺伝子、硅素生命体などの初期の姿を、裾野結という女性の戦いを通して描く。「BLAME!」は巨大建造物など、今どき珍しいくらいに本格的な舞台設定を持ったハードなSF漫画であるが、設定が壮大なこともあってちょっと読んだだけでは物語がつかみにくいところがあった。しかし今回、共通する世界観を持つ別の物語を読むことで、世界の全体像を多面的に捉えられるようになった。「BLAME!」世界をより深く理解するためにもぜひ読んでおこう。もちろん単体でも十分面白い。
「暴流愚 −ぼるぐ−」1巻 芦田豊雄 (少年画報社) [bk1]
暴流愚 −ぼるぐ−
「暴流愚 −ぼるぐ−」1巻
芦田豊雄
「銀河漂流バイファム」や「宇宙戦艦ヤマト」などアニメ業界で数々の輝かしい実績を残している芦田豊雄が、現在「アワーズライト」(少年画報社)で連載中の作品。「新撰組異聞」というサブタイトルどおり、幕末を舞台に新撰組にふらりと迷い込んできた混血の剣士「ぼるぐ」の戦いを描いていく。さすがにアニメで実績のある人だけに作画はもちろん見事だし、少ない線で見事な躍動感を創り出す描写も堂に入ったもの。単純にカッコイイ。
「六識転想アタラクシア」 駕籠真太郎 (太田出版) [bk1]
六識転想アタラクシア
「六識転想アタラクシア」
駕籠真太郎
マンガ・エロティクスFで連載された長編。解脱することによって到達できる「想界」という人間の意識宇宙みたいな世界と、現世を行き来することによって繰り広げられる物語。想界においては人間の思考がすべて物質としてぷかぷかと宇宙空間みたいなところに漂っていて、解脱した人間たちはそれを物理的にいじくって現実世界の人間に影響を及ぼすことができる。主人公であるイジメられっ子の少女・紺野さんの意識まで含め、記憶の底に封じ込めていた記憶を掘り起こしてきたり、別人格を植えつけて盆栽みたいにして育てたり、記憶をシャッフルしたりするなどの描写が連続し、読んでいる人間の頭までクラクラしてしまう。発想の奇抜さ、特殊な世界設定を一定のルールのもとにいじり倒すアプローチは非常にSF的。想念世界の視覚的なありようも、まるで映画「TRON」のようにサイバーでクール。しかもその設定をまったく破綻させることなく、エンターテインメントとしてしっかりまとめ上げる駕籠真太郎の手腕に今さらながらとても感心させられた。
「全日本妹選手権!!」1巻 堂高しげる (講談社) [bk1]
全日本妹選手権!!
「全日本妹選手権!!」1巻
堂高しげる
女の子ばかりの同人漫画部を舞台とした4コマ漫画。最近、オタク界のみならず漫画界全体に「妹萌え」は広く浸透しているが、その「妹萌え」を軸として、数々のオタク的ファクターを貪欲にぶち込み遊びまくるスタンスはなかなか楽しい。開き直ったお色気サービスもギャグとしてしっかり機能している。これを読んで「妹萌え」を発動させるというより、オタクネタをふんだんに使った愉快なギャグ漫画として素直に面白がれた。
「あしたもおいでよ」 ほりほねさいぞう (東京三世社) [eS]
あしたもおいでよ
「あしたもおいでよ」
ほりほねさいぞう
第19回で紹介した「おにくやさん」に続いて、ほりほねさいぞう(掘骨砕三)2冊めの作品集が発売された。ロリータ系のエロがメインなんだけど、ロリがどうのこうのということを意識から吹っ飛ばしてくれるほどに刺激が強い。例えば巻頭カラーの「きょうはおとまり」。この作品は、教室で女の子二人が乳くりあって、お互いの体にうんちをぬりたくり、その上から服を着て、そのままおにいちゃんたちの待つ部屋まで下校といった、なんともおとろしいシーンから始まる。これだけ聞くと「うえ〜っ」となっちゃう人も多いだろうが、こんなことをやっているにもかかわらず、ほりほねさいぞうの作品はキュートさ、スタイリッシュさをしっかり保持しているのだ。女の子たちは理性のタガがぶっ飛ぶくらいの快楽を体験するが、その描写にしたところでスマートでありながらこのうえなくテンションが高い。しなやかさと極北の描写が共存する、驚くべき才能である。  >>次頁
page 2/3
==========
ホームに戻る
インデックスに戻る
*
前ページへ
次ページへ