漫画的男子しばたの生涯一読者■まだまだ続くぞ 〜単行本その22ページめは、まず小説原作の作品2冊から行ってみよう。 「NANASE」 1巻 作:筒井康隆+画:山崎さやか (講談社) [bk1]
筒井康隆の小説「七瀬ふたたび」を漫画化した作品。七瀬シリーズは映画など、何度か映像化がこれまでに行われていて、山崎さやかがどのように調理するのか注目していたが、これまでのところかなりうまく行っていると思う。この作品では、相手の考えることが分かってしまう精神感応能力を持っているがゆえに、男たちの露骨な欲望やら、女たちの嫉妬や敵意などの負の感情も受け取ってしまう美女・七瀬の姿を追っていく。山崎さやかはこれまでの作品でも一貫して「女性」というものを描き続けてきた名手といってもいいような作家だが、それだけにこの作品の七瀬も非常に魅力的に描けている。また、相手の思考を読み取った上での駆け引き、やり取りには緊迫感がありとてもうまい。
「すべてがFになる」 作:森博嗣+画:浅田寅ヲ (ソニー・マガジンズ) [bk1]
今やミステリ小説界では一つのブランドとなったメフィスト賞の第1回受賞作「すべてがFになる」(→bk1)が漫画化された。孤島の研究所の奥深くに隔離された超天才女性博士の死の謎を、大学助教授・犀川創平とその教え子で犀川を慕う昔なじみの女の子・西之園萌絵が追求するという作品。原作は理系的な天才のクールな描写、理知的で端整な作りが際立つ非常にいい作品だったが、漫画版もなかなかの健闘を見せている。漫画の場合、言葉で長々と謎解きやペダンチックな物事を語るのは嫌われることが多いので、長編ミステリは苦手に思われがちなところがあったが、この作品ではディティールの省略がうまく行っているし、作画のほうもなかなかにいい雰囲気となっている。原作の愛読者にとってはもの足りなく思える点も少なからずあるかもしれないが、個人的には上出来な部類だと思う。原作うんぬんは抜きに、独立したミステリものの漫画としても十分楽しめるし。
「ピューと吹く!ジャガー」 1巻 うすた京介 (集英社) [bk1]
「セクシーコマンドー すごいよマサルさん!!」のうすた京介の最新作。ミュージシャン希望の少年・ピヨ彦(本当は清彦)が、奇矯な縦笛の使い手ジャガーさんに出会ったことによりたいへん迷惑することになるというお話。ジャガーさんはとにかくボケまくり、ピヨ彦はツッコミまくる。そのかけ合いはどうにも馬鹿馬鹿しくて愉快でとても平和。
「週刊少年マガジン」のスポーツ漫画の大御所、塀内夏子が各所で描いた短編・中編を収録した作品集。2冊が同時発売された。この中では、1993年にビッグコミックスピリッツに掲載された天才美人マラソンランナーの復活劇と恋を描いた「49.195のダフネ」が収録されたのがうれしかった。ちなみに収録作品は、「天国への階段」「42.195のダフネ」「突撃!スポーツマン」(以上「天国への階段」に収録)、「いつも心に筋肉を」「水の子」「谷川高校へっぽこ陸上部」(以上「いつも心に筋肉を」に収録))。
カネコアツシ2冊同時発売。まずは「BAMBi」6巻。長らく続いた殺戮乙女バンビの旅も終焉を迎えた。派手なアクション、退廃的な空気などの描写がとても巧みで、エンターテインメントに徹した非常に面白い作品に仕上がった。それから短編集「atomic?」もブラックジョークがピリッと利いている。太いアメコミチックな描線はキャッチーで、1枚絵のセンスの良さも際立っている。
「ストレイキャット」 松本太郎 (河出書房新社) [bk1]
現在、「マンガ・エロティクスF」(太田出版)や「ビッグコミックスピリッツ増刊IKKI」(小学館)で活躍中の松本次郎の実兄、松本太郎が1996〜1997年にモーニングで連載した作品。長い間幻の作品となっていたが、ついに単行本化された。お話は、飼い主にして最愛の女である弥羅を守るため、ネコのロックが魔法の靴を履いて悪い魔法使いと対決するというアメリカンテイストな現代風おとぎ話。可愛い顔してけっこう荒っぽい口を利くロックが魅力的。それにしても河出書房新社は、最近なかなか通好みの単行本出してくれるので非常にありがたい存在となってます。
「純粋!デート倶楽部」 1巻 石田敦子 (少年画報社) [bk1]
この作品のタイトルになっているデート倶楽部は、ナンパでも合コンでも援助交際でもなく、肉体関係を持たずにただ「一緒にいてドキドキときめく」恋愛感情を与えてくれるデートを提供する倶楽部である。それ以上の発展は求めず、ただ恋愛の入口のトキメキ感のみを求めるというのはたいへんにピュアなようでもあり、非常に歪んでいるようでもあり。改めて読み返してみてもなかなかスゴいコンセプトだ。その倶楽部を通じて、メンバーの女の子たちの心の傷を浮き彫りにしていく過程は、華やかな絵柄とは裏腹にドスンとくる読みごたえがある。安易な結論に持っていかない、実はハードコアな恋愛モノなのだ。>>次頁
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