漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■オヤジ雑誌も見逃すな!! 〜単行本未収録作品

単行本未収録物件から気になるものをピックアップ。まずは新連載を4本ほど。

「キャラメラ」 武富智
キャラメラ
「キャラメラ」
(c)武富智
8月の新連載で最もうれしかったのがコレ。「ヤングジャンプ」9/6 No.38(集英社)からスタートした武富智については、本連載の第2回めで読切「ほしにねがいを」を紹介したことがあるが、そこでも触れたとおり、この人は非常にうまい。爽やかで美しい作画、印象的な話をピシッと引き締まった構成でまとめてくるセンス、共に抜群である。今回の「キャラメラ」は、気弱だった少年がかつて不良のたまり場だったゲームセンターで出会った店のバイトのおねーさんの姿を、8年越しの想いを込めて追い求めるといった感じの話。正直まだ始まったばかりで今後どういうふうにストーリーが展開していくかは見えないけれども、早くも印象的なシーンがいくつもあったし、あらためて武富智の実力の高さを見せつけられた。まだこの人の単行本は出ていないが、この機会にこの連載はいうに及ばず、これまでに発表した傑作短編もぜひ単行本化してほしいものだ。
「(被)警察24時」 小田扉
マル被警察24時
「(被)警察24時」
(c)小田扉
「漫画サンデー」9/4 No.34(実業之日本社)からスタートした小田扉の初連載作品。この人については、本連載の第14回で初単行本「こさめちゃん」を紹介したが、非常に味のある描線から繰り出されるギャグやしっとりした情感のあるお話は、ほかに代わりのいないたまらない面白さを持っている。で、この作品は、ベテランと新米のおかしな刑事コンビが主役の、ほんわかしたギャグ漫画である。初めてのメジャー誌ということもあり連載開始当初はまだ力が抜けきらないような気がしたが、回を重ねるごとに得もいわれぬ小田扉テイストが出始めてきている。今後も要注目。 ※(被)は正確には○印の中に「被」の字
「警視正大門寺さくら子」 作:大西祥平+画:高橋のぼる
警視正大門寺さくら子
「警視正大門寺さくら子」
(c)作:大西祥平
画:高橋のぼる
このところギャンブル&女体盛り漫画「リーマンギャンブラーマウス」などで、強烈に脂っこいノリを発揮して絶好調の高橋のぼるによる新連載。「ビッグコミックスペリオール」9/7 No.18(小学館)より。原作の大西祥平も、早見純などやたら濃厚な作家のインタビューなどで活躍中の人だが、何か絶妙の取り合わせという気がする。最初の数回を読んだ限りでは、高橋のぼるの持つ唐突で奇妙なノリがお話の中でしっかり生きている。初っぱなから、冴えないサラリーマンが牛丼屋で「肉・ごはん。肉・ごはん・タマネギ。肉・ごはん・肉・ごはん・タマネギ……」と呟きつつ牛丼を喰らっているところに、ジャージ姿の美人が登場〜というなんだか分かったような分からないようなシーンからスタートするあたりタダモノでない。物語はこの美人が実は警察署長で、その器のデカさを発揮してさまざまな事件を解決といった感じになるようだが、出てくるキャラのアクションがいちいち濃くて思わず爆笑してしまう。なにかまたヘンな漫画になりそうでうれしい。
「立つんだ!幸子」 原田重光
立つんだ!幸子
「立つんだ!幸子」
(c)原田重光
「ヤングマガジン」9/3 No.38(講談社)からスタート。以前「イッパツ危機娘」を連載していた原田重光の最新作。親には見捨てられ借金だけが残された不幸な少女・幸子の、一見ポジティブ、実は現実逃避に満ちた日常を描くドタバタギャグ。原田重光は力押しのナンセンスギャグを得意とする作家さんだが、この作品も幸子の天然ボケっぷりが楽しくなかなか面白くなりそう。

それでは最後に読切作品を4本ほど。

「超伝脳パラタクシス」 駕籠真太郎
超伝脳パラタクシス
「超伝脳パラタクシス」
(c)駕籠真太郎
駕籠真太郎といえば本連載でも何度か取り上げているが、恐ろしいほどにパラノイアックでグロい事象を、やたらめったらクールに調理し、軽やかに笑い飛ばしてしまう、現代漫画界屈指の個性派作家だ。この人といえば「駅前シリーズ」など、人体破壊、改造などのヤバ気な物事を扱った作品の印象が強烈だが、実はメジャー誌である「ヤングジャンプ」にも作品が何度か掲載された実績の持ち主なのだ。その代表格がこの「超伝脳パラタクシス」。自らの身体をそれまでの十分の一程度に縮小した人類が、かつての人類(巨人族)をクローンして改造し「サードラ」と呼ばれる利器として、さまざまなことに活用している未来世界を舞台にした作品である。相変わらず人体改造系のネタは山盛りで、さらに本作はハードコアなSFとしても十分通用するだけの本格的な構造を持っている。今回「ヤングジャンプ 9/20増刊 漫革」vol.24(集英社)に2年ぶりに掲載されたのだが、年末までに単行本化の予定もあるという。実に喜ばしい。
「ふわふわりん」 山名沢湖
ふわふわりん
「ふわふわりん」
(c)山名沢湖
「OURs LITE」10月号(少年画報社)より。恋愛っぽいけど恋愛だかなんだか分からない、そんな気持ちを軽やかに描いた、不思議なファンタジー。タイトルどおり、ふわふわとした読み心地を持った作品。山名沢湖の描き出すなんとも形容しがたいリリカルで不思議な世界は、見ていてなんだか非常に気持ちがいい。
「オレンジ」 五代英輔
オレンジ
「オレンジ」
(c)五代英輔
こちらも「OURs LITE」10月号から。第17回で紹介した「君の言葉がききたい」(「アフタヌーン」8月号掲載)の作者の新作。葬式で久しぶりに再会したイトコ同士が恋人になるが、男は性的嗜好が変態的で、女は靴作りに没頭するとほかのことが見えなくなってしまうという、ちょっとした変人同士。単純なラブコメに終わらない、割り切れぬ微妙な感情のやり取りを丁寧に描写している。なかなか面白い作品を描ける人のようなので、これからも期待したい。
「You’ll never walk alone.」 玉置勉強
You’ll never walk alone.
「You’ll never walk alone.」
(c)玉置勉強
「ヤングマガジンUppers」で連載された「恋人プレイ」や、エロ方面での数々の作品で知られる玉置勉強が「アフタヌーンシーズン増刊」Vol.08 Autumn(講談社)に登場。帰国子女で女子サッカーの日本代表入りが噂されている華のある女の子と、万年補欠のサッカー部員である冴えない彼氏の物語。彼氏はどうしても彼女に引けめを感じてしまうのだが、でもやはり二人はお互い恋しあっている。爽やかなラブストーリーに仕上がっていて、読後感良好な佳作。

いや〜それにしても漫画を読むのは楽しいです。といったところでまた来月〜。

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