漫画的男子しばたの生涯一読者■新井英樹の新連載が2本 〜単行本未収録作品それでは最後に、単行本にまだ収録されていないあたりで注目の作品を。 「キーチ!!」 「SUGAR」 新井英樹
3月に「ザ・ワールド・イズ・マイン」(→bk1)を完結させた新井英樹が再始動。7月に連載が2本スタートした。掲載誌はどちらも月2回発行の雑誌なんで、これからしばらくは週刊ぺースで新井英樹作品が読めるということになる。まず1本めは「ヤングマガジンUppers」8/7 No.15(講談社)からの新連載「SUGAR」。北海道の町でダンスチームを組んでいた人気者の少年・リンが高校を中退して上京する。まだどういうお話になるかは見えていないが、主人公のリンは激しく動き回るタイプで、かなり忙しいお話になりそうだ。それからもう1本は「ビッグコミックスペリオール」8/10 No.16(小学館)からスタートした「キーチ!!」。こちらは無口で変わってるけど男らしい3歳児、キーチの物語。こちらもなかなか説明しづらい。新井英樹の作品はストーリーよりもまずキャラクターがあり、その行動を追っかけていく形で展開していくので、その行動によってお話がガラッと変わってしまう。ジャンル分けがしにくいのだ。まあなんにせよ現代漫画界では屈指の激しい作風を持った作家だけに、きっと刺激的な作品となるだろう。今後の展開がすごく楽しみだ。
「アベノ橋魔法☆商店街」 原案・設定:GAINAX
あのGAINAXが「アフタヌーン」「マガジンZ」(講談社)と手を組んだ、アニメ・漫画ジョイント企画である。漫画のほうはともに9月号から、アニメに先行して連載がスタートした。ストーリーは「
夏休みのある日。アベノ橋商店街に住む今宮聖志(サッシ)と朝比奈あるみは不思議パラレルワールドへ迷い込んでしまう!そこは常識が通用しない“魔法商店街”だった!? なんで?どうして?なんやそれ!ボケたおすサッシ。ツッコミのあるみ。二人が帰るホントの世界はどこにあるの?」とのこと(GAINAX公式サイトより)。「アフタヌーン」では鶴田謙二、「マガジンZ」では出口竜正が作画を担当する。鶴田謙二は美しいペンタッチで知られ、出口竜正は元気のいいお色気&ギャグテイストを特徴とする。持ち味がまったく違うだけに、それぞれの面白さが出るんじゃないかと思う。期待したい。遅筆で有名な鶴田謙二バージョンがどこまで続くのかを危惧する向きは多いと思うけど……。 「屈辱er大河原上」 坂本タクマ
「コミックバンチ」7/17 No.8(新潮社)で始まったギャグ漫画の新連載。「コミックバンチ」は気合い十分で創刊された雑誌だが、やたら濃い口に感じられたのも事実。箸休めになるような、軽いギャグ漫画があったほうが雑誌全体としてバランスがとれるんじゃないかと思っていたところでこの漫画がスタートした。この作品の主人公は、異様に誇り高い男・大河原上。彼はすべての行為を「屈辱」という観点から判断する男で、例えば自動販売機のジュースを取るのに身を屈めねばならないといったことにさえ屈辱を感じてしまう。いちいち「〜をしなければならない屈辱」と口に出し、意地でもその屈辱を受けまいとする大河原上の行動はかなり奇矯で面白い。始まったときはちょっと地味かなと思ったんだけど、ネタもけっこうヒネリが利いてるしかなりイケる。
「空の小鳥」 羽海野チカ
今年の5月に「CUTiE comic」(宝島社)が休刊したが、その後、「ハチミツとクローバー」(本連載では第12回で紹介済み→bk1)の羽海野チカがどの雑誌で次に描くか、マニア筋では注目されていたが、どうやら「YOUNG YOU」(集英社)が今後の活動場所となりそう。まず8月号に読切で本作が掲載された。主人公は布類小物を作ってる女性で、仕事をやりつつ彼氏のために家事もこなすしっかり者なんだけど、あまりきちんきちんとやりすぎてだんだんストレスがたまってきてしまい……といったお話。きれいさと可愛げが同時にある達者な作画、まとまりのいい軽やかなストーリーなど、やはり好感度は高い。今後、10月発売の11月号から新連載が始まる予定になっているのでそちらも楽しみだ。
「魔女レーナ マジョリーナ」石田敦子
「エースネクスト」8月号(角川書店)から始まった新連載。平凡な少年・空太が最近気になっているクラスメートの女の子は、実は一つの身体に二つの人格が宿っているらしい魔女っ娘だった……といった感じで始まる物語。うたい文句は「まじかるラブ・コメディ」となっているけど、「からくり変化あかりミックス!」や「純粋!デート倶楽部」でも、柔らかい絵柄からはパッと見には想像つかないような心の痛みに正面から向き合う物語をしっかり描いていた作者のこと、この作品も単純な魔女っ娘モノでは終わらないかもしれない。
「BACK ROAD」 澤田賢二
「ビッグコミックスペリオール」(小学館)のクルマをテーマにした増刊「CAR BOOK 2001」に掲載された作品で、第48回小学館新人コミック大賞佳作受賞作品。澤田賢二は、以前「アフタヌーン」(講談社)で連載されていた、シンナー臭バリバリのゾク漫画「鍍乱綺羅威挫婀(とらんきらいざあ)」(単行本は全2巻。1993〜1994年発行)を描いていた人だと思われる。スクリーントーンなしでガリガリ描き込む異様に力の入った作画と、シンナーでトリップしている少年たちを描く物語に異様な迫力があり、強烈に印象に残っている。で、今回の「BACK ROAD」はそれとはだいぶ趣を異にする。子供のころに、田舎のじいちゃんからバイクの素晴らしさを教わった少年が、大人になってから今は入院しているじいちゃんの元を訪れるというお話。メリハリの利いた大胆な描写が痛快で、ストーリーもちょっと泣かせるいいお話に仕上がっている。ともあれ久しぶりに健在であることを確認できてうれしかった。
「海へ去る者」浅見淳
「コミックフラッパー」8月号(メディアファクトリー)に掲載された新鋭の読切。騎士団、飛空艇、銃、保安官などなど、未来風味と中世ヨーロッパ風味がごちゃまぜになった世界を舞台にした活劇。この作品でまず目をひくのがペンタッチに艶があって気持ちのいい作画。キャラクターがイキイキ描けているし、アクションシーンもダイナミックできちんとしている。お話も爽やかできれいにまとまっているし、完成度は高い。すぐに連載を持ってもやっていけそう……と思っていたら、8月発売の9月号に続編の「海の家」も掲載されていた。とにかくどんどん描いて、登場頻度を上げていってほしい楽しみな作家さんである。
といったところで今月もおしまいであります。◆ page 3/3
|