漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■復活の3月 〜作品

単行本未収録作品だが、3月は連載休止から復活したものでいくつか注目作品があったので、まずそちらから。

「えの素」 榎本俊二
えの素
「えの素」
榎本俊二
長いこと連載休止していたが、「モーニング」4/5 No.16(講談社)からようやく復活。内容自体は今までと同様に、下品でポップなギャグを次々と繰り出すリズムの良さが身上。まだどうも本調子ではないようで、これからは3号掲載1号休みというペースになるのだそうだ。




「ONE OUTS」 甲斐谷忍
えの素
「ONE OUTS」
甲斐谷忍
こちらは「ビジネスジャンプ」4/15 No.9(集英社)から連載再開。この作品の主人公・渡久地東亜は、アウトを一つ取るごとに500万円獲得、その代わり失点1につき5000万円を支払うという変則的な契約でプロ野球界入りしたピッチャー。速球は120km/hそこそこしか出ないが、その分駆け引きは抜群に優れていて、無失点記録を続けている。そんな彼の前に、ついに最強の刺客が現れる。その選手は、なんとピッチャーがモーションを起こしてから球がキャッチャーに届くよりも早くホームへ到達するほどの快足の持ち主だった。さて、どうする渡久地! ……という非常に盛り上がったところでずーっと連載が止まっていたのでやきもきしていたのだが、再開してくれて何より。この作品、プロ野球のルールの盲点を衝くような数々のトリックが仕掛けられていて、かなり画期的な野球漫画となっているので、これまでの野球漫画に飽き足らなくなっていた方はぜひ一度読んでみてもらいたい。
「チキン」 村上真裕
チキン
「チキン」
村上真裕
この作品は「ヤングマガジン」4/9 No.17(講談社)から始まった新連載なんだけど、ある意味復活モノでもある。ストーリーとしてはかつてハードパンチャーだったボクサーがアマチュア最後の試合で暴走、相手を植物人間にしてしまい、その後はまったくボクシングスタイルを変更。フットワークを駆使して相手のパンチをすべて避け、合間合間でへなちょこパンチを当て判定勝ちを狙うというものに。ゼロKOのままチャンピオンになって君臨し続ける。このシリーズ、実は以前にも同じキャラ、筋立てを用いて読切や集中連載で何度か登場したことがあり、それから3年の時を経て今度はヤンマガ本誌連載となって帰ってきたわけだ。作者はデビュー以来ずっと継続して同じシリーズを描き続けており、相当にこだわっているんだなというのが伺える。こうなったらもう納得行くまで描ききってもらいたいもの。。
「レゾレゾ」 サガノヘルマー
レゾレゾ
「レゾレゾ」
サガノヘルマー
「別冊ヤングマガジン」4/1 No.018(講談社)から本格連載開始。1999年末に発売されたヤンマガ本誌の2000年1/10 No.2以来の掲載。女性がすべてを支配し、男は女に快感を与える虫たちの栄養源としてしか存在を許されていない社会において、特殊な虫の力で圧倒的な性力を得た主人公が世界を変えていく……といった感じの物語。この人の変態的な妄想渦巻く世界は、とてもアクが強く刺激的である。読んでいると脳内麻薬がドバドバと出てくるようなアヤしい世界を描いていて、これからも楽しみ。
「七瀬ふたたび」 山崎さやか
七瀬ふたたび
「七瀬ふたたび」
山崎さやか
「別冊ヤングマガジン」掲載作でもう一つ。これは連載再開モノではなく新連載である。タイトルを見てピンときた人も多いだろうが、これは筒井康隆の小説「七瀬ふたたび」を漫画化したものだ。原作の小説は文庫の初版が1978年(新潮社)。この作品の主人公は、他人の心を読むことができる美女・火田七瀬。美女であるだけに男たちは彼女を見て卑猥な妄想をすることも多く、そのような思念の流入に七瀬は普段から悩まされている。七瀬を主人公とする作品には「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」の3作があり、「七瀬三部作」などと呼ばれている。超能力と美女というモチーフがとてもキャッチーなせいか、このシリーズは映像化されることもけっこう多かった。それだけに山崎さやかが原作をどう料理するかは注目である。出だしはなかなかいい感じだが……。
「魔獣狩り」 木戸嘉実
魔獣狩り
「魔獣狩り」
木戸嘉実
「漫画アクション」3/27 No.13(双葉社)から始まった本作品も小説の漫画化である。原作は夢枕獏。本連載の第3回でちょっと触れたが、この作品の漫画化に関しては、作画者を公募によって決定するという試みがなされた。第一次審査で12作品に絞り込まれ、その後昨年の11月6日新宿・紀伊國屋ホールで一般公開のもと最終審査が行われ、木戸嘉実に決定された。この公募が告知された後、「漫画アクション」はご存じのとおり、週刊エロ漫画雑誌にリニューアルされてしまったので現在の誌面イメージとは多少違和感があるかもしれないが、試みとしては面白いし作品自体の出来も良さげなので期待したいところだ。
「ハニー・クレイ・マイハニー」 おがきちか
ハニー・クレイ・マイハニー
「ハニー・クレイ・マイハニー」
おがきちか
こちらは連載終了。「OURs LITE」5月号(少年画報社)で最終回。かつて主人とともに墓に埋められた奴隷の娘の宿った土偶が発掘され、女の子の姿をとって現代日本に復活。それを掘り起こした男と同居するうちラブラブになっていく……というお話。スマートで愛くるしい絵柄と暖かい読後感で、なかなか気持ちのいい作品だった。これ、単行本になってくれるかな……? なるといいなあ。

それでは最後に読切作品を3本ほど。
「なるとちゃん出前一丁!」 オオシマヒロユキ+猪原大介
なるとちゃん出前一丁!
「なるとちゃん出前一丁!」
オオシマヒロユキ+猪原大介
これも「OURs LITE」5月号掲載作品。ラーメン屋さんの元気娘で学校のアイドルでもあるなるとちゃんが、ラーメンと愛の力でふさぎ込みがちだった少年を元気付けてあげるというお話。元気が良くて爽やか、ポジティブないい作品だった。この号では雑誌の表紙も飾っていたが、完成度の高い愛らしい作画がお見事。




「快適陸上生活」 遥々アルク
快適陸上生活
「快適陸上生活」
遥々アルク
第9回MANGA OPENにて「わたせせいぞう賞」を受賞し、「モーニング」3/29 No.15(講談社)に掲載された作品。とある理由により「生物の姿を模した機械生命体」の製造が禁止されている未来世界が舞台。そんな中、違法を承知で機械仕掛けの鳥を製造する仕事を請け負った無名の技術者・安吾が、それを作っていく過程でかつて自分が見失ってしまったものを再び取り戻していく……といったお話。細い線を大量に集めて描かれた、ゴチャゴチャした工房風景はとてもSFらしい、なんとも良さげな雰囲気。作画、雰囲気作りともにかなり達者で今後の再登場が楽しみな作家さんだ。やっぱ21世紀はSFでしょ。
「ドライブ」 kashmir
ドライブ
「ドライブ」
kashmir
このところ誌面が刷新されなかなか充実してきたコンビニ売り系美少女漫画雑誌、「ヤングヒップ」の4月号(ワニマガジン)に掲載された。車に乗って逃避行中と思われる二組の男女の行動を追う。彼らが起こしたと思われる事件を報じるニュースがラジオなどで流れる中、二人は行くあてもなくふらふらと迷走する。つかみどころのない幻想的な語り口が面白く、可愛らしいけれどもどこか冷めた絵柄もストーリーにマッチしている。kashimirは寡作だけれどなかなかトリッキーで面白い作品を描く人なので、ちょっと覚えておいてもらいたい。

というわけで今月はおしまいでゲス。◆
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