漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■大合作はアフタヌーンだけじゃないぞ! 〜単行本未収録作品

・「ゲノム」

ゲノム
「ゲノム」
(c)古賀亮一ほか

前回、「アフタヌーン」(講談社)に掲載された「大合作2」について触れた。何十人もの漫画家の手で1本の作品を描くという力任せな豪華企画だ。アレが実現できたのはアフタヌーンの分厚い作家陣あればこそ……と思っていたのだが、なんとエロ漫画誌で同様の企画が実現してしまったのだ。それがこの「カラフルBee」2月号(ビブロス)掲載の「ゲノム」。この作品、本来は古賀亮一によるドタバタギャグ連載なのだが、この回のみ46人の漫画家が一人1コマ描くという形式で大合作しちゃっているのである。参加者は古賀亮一、宮下未紀、春風サキ、秋澤和彦、にしき義統、みさくらなんこつ、たちばなとしひろ、空鵺、故障少将、八雲剣豪、櫻見弘樹、MDC本舗、鳴瀬ひろふみ、加藤礼次朗、山桜桃、狂一郎、ロケット兄弟、とがわはなまる、納都花丸、巻田佳春、羽衣翔、鬼ノ仁、陽香、逸架すばる、長尾山彦、福岡きさら、ZOL、あかひらきりん、和猫、御堂明日香、琴の若子、おつむがパーティ!、西木史郎、篠房六郎、梨加夫、BLADE、松沢慧、来鈍、粟岳高弘、吉川かば夫、RYO、日向悠二、Maruto!、葉月かづひろ、鴻月まゆき。ここまでで45人で、さらに題字が平田弘史となっている。ちなみに平田弘史はアフタヌーンの「大合作2」にも参加していた。まあ何度もやるようなもんではないと思うが、いろいろな作家さんが入れ替わり立ち替わり登場する様子は、お祭り企画として見てて素直に楽しい。ご苦労様でした。

・Okama 「林檎時間」
・OKAMA+ 「椿」

林檎時間
「林檎時間」
(c)OKAMA
椿
「椿」
(c)Okama
サイボーグ大作戦
「サイボーグ大作戦」
(c)小田扉
ヒミズ
「ヒミズ」
(c)古谷実
夢使い
「夢使い」
(c)植芝理一
緑の黙示録
「緑の黙示録」
(c)岡崎二郎
僕の歌は君のうた
「僕の歌は君のうた」
(c)江戸沢敬史

ええと作者名表記は違うけれども通常は「OKAMA」であるところの同一人物の作品であります。「林檎時間」は「ウルトラジャンプ」(集英社)2月号、「椿」は「快楽天」(ワニマガジン)3月号に掲載。どちらにも共通していえることは、OKAMAは絵がべらぼうにうまいってこと。とくに「椿」の見開き扉の色彩の鮮やかさなどは、一見して惚れ惚れしてしまうほどだ。このセンス、この画力。まったく素晴らしい。画像だとちっちゃくしか掲載できないのがまったく残念至極。ウルトラジャンプは19日発売、快楽天は29日発売ってことで、この原稿がアップロードされる16日時点ではまだ入手可能かもしれない。見逃していた人は本屋に走れ!!

・小田扉 「サイボーグ大作戦」

モーニング新マグナム増刊で「話田家」という作品を描いていた小田扉が、今度は「マガジンFRESH」1/29号(講談社)に登場。8ページの読切で、一見フツーの民間人、でも実はあんまり役に立たない能力の持ち主であるサイボーグな人たちが、ファミレスだかなんだかでおしゃべりするという話。この人のいいところは、絶妙に力が抜けているのに絵にものすごく味があること。のほほんとした一枚絵だけでも笑わせられるという持ち味は、吉田戦車以来の才能かもとか思う。セリフのセンス、コマ運びのテンポも絶妙で愉快なことこのうえない。ちなみに小田扉は初の単行本「こさめちゃん」が3月発売予定となっている。「買っておけ」と強くいいたい。

・古谷実 「ヒミズ」

「稲中卓球部」の古谷実の新連載が、「ヤングマガジン」2/12 No.9(講談社)からスタート。実のところ始まったばかりでどんな作品になるかまだ予想がつかないところがあるのだが、とりあえず「夢見る普通人」を憎悪する主人公の少年の苛立ちまみれの日々を描くところから始まっている。もしかした今回は完全にシリアスな作品なのかも、とか思ったりもするのだが、どうなるんだろうか。とりあえず主人公のイライラ感は募っていて、何か起こりそうな気配は漂っている。なんだかどうにでも転がしていけそうな出だしであり、今後の展開を見守っていきたいところ。

・植芝理一 「夢使い」
・岡崎二郎 「緑の黙示録」
・江戸沢敬史 「僕の歌は君のうた」

この三作品は、いずれも「アフタヌーン」3月号(講談社)に掲載ということで(作風はそれぞれまったく違うが)まとめて紹介させていただく。

まず植芝理一の新連載「夢使い」は、昨年連載が終了した「ディスコミュニケーション」の最後のほうで、物語の主役の座をほぼ乗っ取っていた感のある三島姉妹が主人公となっている。姉の塔子は真っ昼間から酒をかっ食らっているヘンな女子高生、妹の燐子はやけに大人びた小学生。二人とも夢の中に入り込んでイメージを具現化する能力を持っており、その力を使って夢にまつわるさまざまな事件を解決していく。ここらへんは「ディスコミュニケーション」の精霊編でもおなじみな構成である。このシリーズは、三島姉妹のキャラの造形が非常に可愛くてキャッチーなこともあってか、非常にノリノリで描かれているように思える。考えてみると、つかみどころのない松笛、それからあんまりアグレッシブでない戸川と、「ディスコミュニケーション」の主役二人は長編作品のメインを張るにはいまいち動かしにくいキャラだった。そのせいか、長期連載の中で物語の方向性があっちいったりこっちいったりフラフラしがちだったが、今回は基本的に探偵モノの構造なのでお話が作りやすそうに思える。ときおりドキッとするような性的な描写もあったりして、全般に刺激に富んでいて面白い。大いに期待できそうだ。

それから岡崎二郎「緑の黙示録」は61ページの読切作品。子供のころから植物が好きで、その声(みたいなもの)を感じることができる能力を持った少女が、学校の温室で起きた殺人事件を植物の声にヒントを得ながら解決するミステリ仕立ての物語。岡崎二郎は「アフター0」「国立博物館物語」など、生物学や科学の知識を盛り込んだ気の利いた短編を描かせたら名手といっていいほどの腕前を持っている人だ。今回の作品も知識と物語がうまく融合していてきれいにまとまっている。ただ、ミステリということで推理を混乱させるためか登場人物が多すぎる感があり、その点で若干散漫になってしまった印象もある。ともあれ今まで小学館系列でしか読めなかった岡崎二郎の活躍場所が広がったというのは、ファンとしては喜ばしいところ。今後もちょくちょく描いてくれるとありがたい。

江戸沢敬史「僕の歌は君のうた」はレベルの高さで定評のある新人賞、四季賞で大賞を受賞した作品。美大受験に失敗してギスギスした気持ちのまま絵を描いていた少女・麻衣子が、予備校で抜群のセンスを持っていながらフラフラしている男・伊勢に出会い、その才能に嫉妬する。しかし伊勢が背負っている重い事情を知り、またその人柄に触れるにつれ、彼女の硬直していた心がしだいに解きほぐされていく……という青春物語。しっかりした線でツヤのある作画はかなり達者だし、物語運びにも安定感があってきっちり読ませられるだけのものを持っている。漫画的基礎技量はかなり高いレベルで備えている人だと感じた。今回のお話自体はまとまりがいいものの地味だし、ガツンとくるようなインパクト、爆発力はあまり感じない。でもわりとコンスタントにいい作品を描いていけそうなタイプという感じがするので、これからどんどん作品を描いて伸びていってもらいたい。

といったわけで21世紀の漫画界を担うかもしれない雑誌、それから才能に思いを馳せつつ今回はこれでおしまい。それじゃまた!!◆

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