漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

■新たな時を拓くか 生き残る新雑誌たち

さて、新世紀第2回めということで新世紀最初の月の漫画チェックである。当たり前のことだが、世紀が変わったからといって何か画期的な漫画が出てくるというものではない。ただ、なんとなくだけど1月は世紀が変わることを意識して全般的に制作側のモチベーションが上がっていたのか、意欲的な雑誌・単行本が目立ったような気がする。気のせいかもしれないけど。

それではまず初めに、21世紀早々新創刊された雑誌を三つほど見ていこう。

・error(美術出版社)

error
「error」
美術出版社

この雑誌は、主に漫画描画テクニックに焦点を当てた雑誌である「コミッカーズ」の「MANGA COLLECTION」という位置づけで発行されたもので、1月にまず「vol.00 preview issue」が発売された。実のところ、雑誌の方向性がどのようになるのか現時点ではまだ不明な点が多いのだが、この雑誌、preview issueからして何やら普通の漫画雑誌とは若干違った雰囲気が漂っている。雑誌の表紙に開けられた穴から表紙裏の絵柄がのぞく凝った装丁など、全般的にアート色が強い。実際に掲載されている漫画についても、やたらと絵がかっこいいものばかりで雑誌でありながら画集のような雰囲気でもある。

ちなみにpreview issueの執筆陣はひろき真冬、小池桂一、福島敦子、カナビス、沓澤龍一郎、丹地陽子、ヨコタカツミ、伊藤まさや、睦、籬讒贓、刑部一平、もりおかしんいち、エマニュエル・ギベール、谷口ジロー。一般的な認知度はさほど高くないかもしれないが、知る人ぞ知る高品質な絵を描く人たちが揃いも揃っている。今のところストーリーでガッチリ読ませるというタイプの作品こそないものの、漫画表現のある部分の先端を確実に歩んでいる作家たちの競演を見るのは素直にワクワクするものがある。今号はまだ掲載されていないが、前回紹介した谷口ジロー+メビウス「イカル」の続編が今後この雑誌で展開されていくという予定もある。連載が中断されたままになっているのを惜しんでいた人は多いだけに、これはうれしいニュースだ。なお、この雑誌は1、4、7、10月の20日ごろ発売の季刊誌となる模様。

・ステンシル(エニックス)

ステンシル
「ステンシル」
エニックス

今号から新創刊の少女漫画雑誌で、毎月28日発売の月刊誌となる。この雑誌自体は1999年3月に第1号が出て、2000年3月までに季刊ペースで5号ほど発行されたが、その後はしばらくお休みしていた。季刊ペースで出ていたころは、「オトコノコにも読んでほしい」というのをキャッチフレーズとしていたが、新創刊第1号を見る限りではどちらかというとだいぶオンナノコ寄りになったように思える。「コミッククリムゾン」「コミック・ピット!」あたりに近い、カッコイイ男の子が賑やかに登場する今風(なんだかどうだかはよく知らんけど、伝統的な少女漫画誌とは一線を画する)誌面になった。第1号の執筆陣は、峰倉かずや、七海慎吾、森永あい、藤枝とおる、斎藤カズサ、松葉博、天野こずえ、エノロッコ(金城マナブから改名)、幸宮チノ、南京ぐれ子、藤森なっつ、有栖川るい、咲良麻美、林ふみの、吉崎あまね。個人的にはリニューアル前のステンシルがけっこう好きだったので、感触が変わってしまったのはちょっと残念。ただ、既成の少女漫画にとらわれず自由なことをやれそうな雰囲気はあるので、これからステンシルならではのモノを出していって個性的な雑誌に成長していってほしい。

・マンガ・エロティクスF(太田出版)

マンガ・エロティクスF
「マンガ・エロティクスF」
大田出版

前号でお伝えしたとおり、MANGA FがエロティクスFと名前を変えて新創刊。1月末に第1号が発売された。執筆陣はフレデリック・ボワレ、松本次郎、田村マリオ、安田弘之、安彦麻理絵、卯月妙子、中村明日美子、南Q太、やまだないと、山口綾子、町野変丸、雁須磨子、山田ユイジ、莢日梨央、マツシマ愛コ、深谷陽、駕籠真太郎、畑中純、月子、ひだまりん。MANGA Fを読んでいた人は当然気づくとおり、執筆陣はあまり変わっていない。表紙を描いているのもMANGA Fと同様に田村マリオだったり装丁もほとんど同じだったりと、正直なところ新味はない。ただ、太田出版の漫画賞から月子、マツシマ愛コといった新人を登用してきているのは好感が持てる。この雑誌(およびマンガ・エロティクス)は、サブカル系のアプローチを持ち通常のエロ系雑誌とはまた違った独自のポジションを占めているだけに、特殊な作家層の発掘場所および活動場所としてうまく機能していってほしいものだ。

それでは新創刊以外の1月に目立った雑誌に触れていこう。

・ビッグコミックスピリッツ増刊 IKKI 2/28 No.2(小学館)

ビッグコミックスピリッツ増刊 IKKI 2/28 No.2
「ビッグコミックスピリッツ増刊 IKKI 2/28 No.2」
小学館

昨年11月に創刊された小学館版小学館版弩級雑誌の第2号である。隔月発行なんで出るたびにいちいち取り上げる必要もないんだけど、21世紀期待の1冊ということで。本連載の第10回で取り上げたが、それ以降の新たな動きとして、IKKI掲載漫画がWeb上で無料配信されるようになった。IKKIは隔月発行だが、最新号が出るちょっと前くらいにその前の号が「まんがの国」(http://manga.accessticket.com/)で公開されるという仕組み。配布ファイルは独自形式で、読むためにはアクセスチケットシステムというソフトをPCにインストールする必要がありちょっと面倒だが、それでも掲載作品を全部Webで公開してしまおうという試みはなかなかに興味深い。おそらく現時点では紙で読むほうがはるかに手軽だし、ネットからダウンロードして通読しようという人はほとんどいないんじゃないかと思われる。しかし、もしかしたら今世紀あたり、森林資源が枯渇して今のように紙を湯水のように使う発行形態はやりにくくなってくるかもしれない。それに備える意味でもネット配信システムについての経験値を積んでおくというのは、出版社的には有益なことといえるだろう。

ところで1月末に発行された紙のほうの第2号だが、今回も超重量級なラインナップ。松本大洋、山本直樹、作&脚本:渡辺浩弐+キャラデザ&構成:岡崎武士+制作:ACiD、作:坂元裕二+画:平凡&陳淑芬、日本橋ヨヲコ、唐沢なをき、米倉けんご、本秀康、黒田硫黄、しりあがり寿+EVA、さそうあきら、片桐利博+原作&監修:信沢あつし、永田陵、竹谷隆之、諸星大二郎、小野塚カホリ、林田球、稲光伸二、相原コージ、茶屋町勝呂、滝沢聖峰、英時世、森田信吾、見ル野栄司、比古地朔弥、石川賢、とんだばやし、松永豊和といった顔ぶれ。ニューフェイスとして、幻想的で読みごたえのある作品を描く名手・諸星大二郎、それからエロ漫画方面でも実績のある米倉けんごが参入している。正直いって全般的にあまりにもみっちり力の入った作品がつまっていて、息を抜けるところがなく1冊読むとお腹いっぱい、というか1冊を何日かに分けて読んだほうがいいほどのボリューム感なのだが、まあ21世紀初っぱなだし、新しい時代を切り拓くためにはこのくらい過剰なくらいなほうがちょうどいいかもしれない。まあたぶん、何号か経つうちにこなれてくるだろうとは思うし。

・アワーズ増刊 3月号 アワーズガール(少年画報社)
・OURs LITE 3月号(少年画報社)

アワーズ増刊 3月号 アワーズガール
「アワーズ増刊 3月号 アワーズガール」表紙
少年画報社
マンガ・エロティクス
「OURs LITE 3月号」表紙
少年画報社

21世紀、というより今度は今年楽しみな雑誌ということでヤングキング系列のさらにヤングキングアワーズ系列であるこの2誌を挙げておく。OURs LITEは月刊なのでまあ1月がとくにってわけではないけれどこのところなかなか面白い誌面になっているし、不定期刊のアワーズガールが出たということでここでまとめて取り上げておきたい。元となっているヤングキングアワーズのほうは、単行本でまとめ読みしたほうが面白いような安定組が多くを占めてしまいこのごろいまいちエキサイティングでないのだが、ガール/LITEの2誌は(売上的な面は知らないが内容的には)ともに好調である。

まずアワーズガールのほうだが、少女漫画雑誌としては珍しい中とじ製本。内容的にも男女問わず読めるような作品が揃っていて、オリジナリティを感じさせる。おがきちか、犬上すくねといった滑らかで心地よい読感を持った作品を安定して供給できる作家陣に加え、今号では繊細な描線で美しい作品を描く「おまえが世界をこわしたいなら」(単行本はソニー・マガジンズ刊。全3巻)などで知られる藤原薫や、病的にかわいいお人形さん的独自世界を作り上げている水野純子ら多彩なメンツが顔を揃える。

それからOURs LITEのほうは、きれいな絵柄ながら痛々しくハードな主題も描きこなせる石田敦子、オオシマヒロユキ+猪原大介、あと伊藤伸平、アワーズガールでも活躍中の犬上すくねといったところがメインとなり、さらにオタク的妄想ギャグパワー全開であまりにも立派な小野寺浩二「妄想戦士ヤマモト」が雑誌全体を活気づけている。さらに3月号では新鋭として西村竜、山名沢湖といった創作同人誌界で定評のあるフレッシュな才能も登用している。安定どころ、トリックスター、そして新人とバラエティに富んでいてかなり瑞々しい誌面となっている。こういった雑誌がうまいこと育って入手もしやすくなってくると、漫画オタク的には非常にありがたい(けっこうOURs LITEとかは書店で見つかりにくいのだ)。

・ビッグコミックスペリオール 2/6増刊(小学館)

ビッグコミックスペリオール 2/6増刊
「ビッグコミックスペリオール 2/6増刊」
小学館

ここのところ好調で注目しているのがビッグコミックスペリオール。誌面的には地味めだけれど、小山ゆう「あずみ」、作:久部緑郎+画:河井単「ラーメン発見伝」、作:花村萬月+画:さそうあきら「犬・犬・犬」などなど、確実に読める力作、佳作が揃っていて捨てどころがない。そのスペリオールが好調を受けてか、増刊にも進出してきた。増刊号には特集が用意されていて、「SEX BOOK 2001」と銘打たれていた。といってもエロがメインというよりは、セックスが抜きがたい要素としてからんでくる大人同士の恋愛模様を描くといった感じの作品が揃えられている。執筆陣は星里もちる、高田靖彦、東陽片岡、吉田まゆみ、松田洋子、浦川いさお、井浦秀夫、人見茜、池上花英、トクノー史子、成田学、小林大介、伊藤理沙。

で、この増刊号だが、まとめて読むとかなり読みごたえがある。例えば本誌連載である星里もちる「本気のしるし」の外伝は、本編の主人公・辻イチローの大学時代の彼女のお話なのだが、なんだかもうかなり後味がわっるーい作品となっている。イチローがそれまでウブだった女の子と恋仲になるも、それがきっかけで彼女は性に目覚め別の男も引きずり込むようになり、二人の中は暗転していく。でも仲直りする、などという甘っちょろい救いはなく、ただ苦い別れがあるのみ。星里もちるの絵はスマートなだけに読みやすいが、気を抜いて読むとけっこう鬱になる。「演歌の達」の高田靖彦の「がんばってね。」も妻が浮気して妊娠してしまった夫婦という、かなり重いテーマが扱われているし。その中で、松田洋子「ハッピーエンダー」は遊び人な旦那とそれを監視する女房のおもろい夫婦物語となっていて、軽やかに読ませる笑えるお話に仕上がっていた。なお、この増刊はシリーズ化されるようで次は4月発売予定とのこと。>>次頁

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