漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者

■ななかSOSだぜ 〜単行本未収録作品

・八神健「ななか6/17」

八神健
「ななか6/17」
(c)八神健

第3回で取り上げた「ななか6/17」が、週刊少年チャンピオン 12/7 No.53からいよいよ週刊連載となった。読切時点で読んでた人には今さら説明する必要もないと思うけれども、「ななか6/17」では17歳のガリ勉女子高生・ななかが転倒したショックで精神だけ6歳のころに逆戻り。外見は元のまんまなのに、いきなりそれまでのガリ勉でクールなイメージとは正反対の、無邪気で天真爛漫な性格になってしまったななかに、周囲、とくに幼ななじみの稔二は振り回されていくのだった……ってなお話である。八神健といえば、週刊少年ジャンプで連載された「密・リターンズ」が有名だが、シンプルで爽やか、ちょっと甘味のある絵柄はさらに柔らかみを増してこなれてきている。そしてこの作品では、めがねっ娘であるななかがやたらと可愛い。めがねっ娘といえばマジメで引っ込み思案、もしくはドジって感じの描かれ方をするキャラが多いけれども、精神的に幼児ってことで、それとはまた違ったタイプの魅力を振りまいている。これはたいへんに萌えポイントが高い。連載始まって間もないが、すでにメロメロになっている人も多いはず。

雲のグラデュアーレ
「雲のグラデュアーレ」
(c)作:木原浩勝
画:志水アキ
ハンドルには使えません
「銃夢 Last Order」
(c)木城ゆきと
FADE OUT
「FADE OUT」
(c)いけだたかし
晴れた日に絶望が見える
「晴れた日に絶望が見える」
(c)あびゅうきょ
純粋!デート倶楽部
「純粋!デート倶楽部」
(c)石田敦子
といっちゃん
「といっちゃん」
(c)作:美一葉
画:岡野恵

・作:木原浩勝+画:志水アキの「雲のグラデュアーレ」

志水アキといえば、コミックバーズで「夜刀の神つかい」(原作:奥瀬サキ)の作画を担当している漫画家さんであるが、今回は「コミックフラッパー」(メディアファクトリー)に登場。12月号から始まった新連載「雲のグラデュアーレ」は、飛行船を、「ザラストロ」と呼ばれる空賊が襲撃するところから始まる。まだどんな物語になるかは見えてないんだけど、宮崎駿映画を思わせるダイナミックな空中アクションシーンはなかなかに痛快。志水アキの作画力もかなりなもので、伸びやかで気持ちがいい。とくにカラーページの美しさはパッと目に映える。血沸き肉踊る冒険活劇という感じで、かなり期待が持てそうだ。

・木城ゆきと「銃夢 Last Order」

それからも一つ新連載の注目株。「ウルトラジャンプ」(集英社)の12月号から連載が始まった「銃夢 Last Order」は、タイトルから分かるとおり、SF伝奇の傑作「銃夢」の続編である。初っぱなから、ビシバシとハッタリが利いていて面白くなりそうな雰囲気が漂っている。前作のファンのみならず、新規読者も要注目である。

・いけだたかし「FADE OUT」

「月刊サンデーGX」12月号(小学館)掲載の読切作品。いけだたかしは、ビッグコミック系の雑誌を中心に印象的な読切を描いていた作家さんで、GXに登場したというのはちょっと意外だった。この作品は、霊界と物質界を行き来できる「幽霊族」という特殊な家系に生まれた、でも普段は平凡な学生である女の子と、彼女の幼ななじみの男の子の恋愛模様を描いた作品である。スッキリとした絵柄同様、読後感も爽やか。大ゴマの使い方も気持ち良く、なかなかの秀作に仕上がっている。この人はすでに読切を中心に、それなりのキャリアを積んできてはいるのだけれど、単行本はまだ出ていない。そろそろお願いします。小学館様。

・あびゅうきょ「晴れた日に絶望が見える」

「OURs LITE」1月号(少年画報社)に掲載。この人の特徴は、トーンを使わず隅から隅まで丹念に描き込まれた美麗極まりない作画。神聖で無垢なる少女を一方に示し、その対極として現代社会において尊厳ある生を選ぶことができず、なおかつ死ぬ価値さえ付与できない堕落しきった男の姿を描く。作品全体から漂ってくるのはこの世界、そして男という存在に対する絶望感。描かれる少女の姿は可憐で、その筆致からは崇拝と憎悪をともに感じる。作者の背負った業は果てしなく深い。美味だが中毒性のある、危険な作風。あびゅうきょ先生は間違いなく本気だ。

・石田敦子「純粋!デート倶楽部」

こちらも「OURs LITE」掲載作品で、1月号からの新連載。「ナンパではなく」「合コンでもなく」「身体の関係はもちろんない 手もつなげない…」「ただ一緒にいてドキドキときめく…」「そんなデートを提供します!」。これが純粋デート倶楽部のポリシー。つまりは初恋的トキメキ感覚のみを味わい、それ以降の恋愛ステップにはまったく進まないという、ある意味ものすごくイッちゃった主義なのだ。石田敦子の絵柄が柔らかく美しいだけに一見フツーのいい話っぽいのだが、どうしてどうしてこれはかなりに病んでいる。これからどうなっていってしまうのか目が離せない。

・作:美一葉+画:岡野恵「といっちゃん」

「別冊ヤングジャンプ」VOL.11(集英社)掲載作品。サラ金の跡取り娘である小学生の女の子「といっちゃん」が、ギャンブルで借金を山ほど抱えてしまった担任の先生から金を取り立て、さらに夜逃げの手伝いもするというお話。これは面白かった。金融方面の知識にやたら長けた少女という設定がまず面白いし、基礎がしっかりできてイキイキした作画にも独自の味がある。岡野恵は個性的な作風をすでに確立しているし、コンスタントに作品を発表できる場に恵まれればかなりの力を発揮しそうである。

そんな感じで今年も残りわずか。20世紀の最後の最後はどんな漫画が我々を楽しませてくれるんでありましょうか。それではまた21世紀にお会いしましょう。良いお年を〜。


page 4/4


==========
ホームに戻る
インデックスに戻る
*
前ページへ
EOF