漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

そろそろ社会人は夏休みシーズンも終わりって感じだけど、コレ読んでる人だと、夏休みは家でゴロゴロして漫画ばかり読んでたって人もけっこういるかも。それもまたよし。というわけで7月の漫画から。

■アクションにアクションあり 〜雑誌

ここのところ、いつも出だしは新雑誌の話題から入ってたし7月も注目の新創刊雑誌はあったのだが、今回はあえて激動中の既存雑誌の話題からいってみよう。

・どーなっちゃうの? 〜漫画アクション系列

MANGA F
『マンガアクション』
双葉社

本連載の第2回めでメキメキ面白くなっている雑誌として「漫画アクション」(双葉社)を取り上げた。その後、いくぶんテンションは落ちたものの面白い作品がそこそこ掲載され続けてきていい感じで推移しているかに思えていたのだが、ここにきていきなり異変が起きた。

8/8 No.32で、江口寿史「キャラ者」、相原コージ「漫歌」、いとう耐「風前の灯火」というギャグ漫画勢がいきなりそろって連載終了。しかも「キャラ者」はぴあ、「漫歌」はスペリオールに移籍するという。「キャラ者」では江口寿史が吐き捨てるようなセリフを残してるし、「漫歌」に至っては「読者の漫歌的体験談募集」の告知が打たれたままと、連載終了が急でかつ不自然なものである様子が伺えた。

キャラ者
『キャラ者』
(c)江口寿史

その後、同じ双葉社のアクションヤングでこれまた突然休刊のおしらせが掲載された。それによれば、編集部員全員が週刊アクション編集部に移籍。そのために休刊、アクションヤングの作家陣のうちの何人かは週刊アクションに描くことになったとのこと。アクションヤング自体は来年の春ごろにまた復刊する予定とのアナウンスもあり、こちらもいまいち釈然としないものがあった。

8月頭に発売されたアクション 8/15 No.33では、さっそくエロ漫画雑誌であるアクションヤング系の読切3作が掲載され、半エロ漫画雑誌化していた。9月5日発売号で本格的なリニューアルが行われるとのことで、今までとはまったく違う雑誌になろうとしている。

双葉社といえば、以前にも個性的な作品を集めてマニア筋で評価の高かったアクションキャラクターがアクションピザッツとなり、その過程でエロ漫画雑誌化していったということがあったが、今回のケースもそれと似たような雰囲気が感じられる。ただ、週刊で発行され、駅やコンビニ売りもあった雑誌がこれだけ突然変わってしまうという事態はかなり珍しい。

昨年の後半から今年前半にかけて、意欲的な作家登用をし充実した個性的な誌面を作っていて非常に面白かっただけに、この転身はとても残念に感じられた。アクションヤング、ピザッツと、双葉社にはすでにコンビニ売り系エロ漫画雑誌は存在していただけに、わざわざアクションを同じような感じにしなくてもいいような気がする。既存読者層も、かなり戸惑ったのではないかと思われる。営業面での問題などはいろいろあるのかもしれないが、このあたりの経緯については編集部サイドから読者に向けて、十分なアナウンスが行われることを望みたい。

・ウルトラジャンプに宣戦布告!? 〜サンデーGX

それでは創刊雑誌の話題に。

サンデーGX
『サンデーGX』
小学館

まずは7月19日に小学館から鳴り物入りでデビューしたのが、「サンデーGX」(サンデージェネックス)である。この雑誌を初めて見たときに「なんかどこかで見たような……」と思った人は少なくあるまい。B5平とじでツルツルのコート紙の表紙などなど、集英社の「ウルトラジャンプ」にそっくりなのだ。発売日は両方とも19日、さらに年間定期購読の振込用紙が添付されているところまで一緒。相手を強く意識した構成であることが分かる。

創刊号は、皆川亮二+たかしげ宙「スプリガン FIRST MISSION」が目玉で、島本和彦、細野不二彦、喜国雅彦+国樹由香、小野敏洋、こいずみまり、酒井直行+田巻久雄、萩原玲二、阿部潤、落合尚之、木村明広、花見沢Q太郎、陽気婢、成沢円(エロ漫画方面で活躍している二階堂みつきと同一人物の模様)、杉浦守といった布陣。

実際の読後感も、初期のウルトラジャンプに非常に近い印象。わりと名前のある、けっこうクオリティの高い作画の人が多いが、全般的にいまいちしっくりこないというか上滑りした印象。なんというか、どの作品もその作者にとって70〜80点レベルの作品が並んでいるといった感じがした。ただ、しっくりこないという印象は、おそらくは号数を重ねていくうちに解消されていくのではないかと思われる。ウルトラジャンプがそうであったように。

少し年齢層高めのオタク系少年誌エリアは、これまで小学館はシェアを持っていなかった分野であり(まあ少年サンデーがその系統といえなくはないんだが)、どの程度闘えるかは興味深いところ。小学館は今年に入って、コロコロと少年サンデーの間を埋めるような雑誌であるコミックGOTTAも創刊しており、不得意分野へ参入しようという意欲は感じられる。

「ウルトラジャンプに似ている」という反応は、おそらく製作者サイドも覚悟のうえであろう。これから両誌はライバルとして競っていくことになると思うが、その競争がお互いを刺激しあって、レベルアップにつながることを期待したい。

・骨抜き系のニュースター 〜OURs LITE

新創刊雑誌をも一つ。

OURs LITE
『OURs LITE』
少年画報社

ヤングキング、キングダム、アワーズの3誌でそれぞれ健闘している少年画報社から、文系色の強い新雑誌「OURs LITE」が創刊された。執筆陣は犬上すくね、石田敦子、鬼魔あづさ、やまむらはじめ、おがきちか、宮尾岳、ひぐちきみこ、TAGRO、伊藤伸平、樹るう、どざむら、小野寺浩二、磯本つよし、小田すま、西村竜。漫画マニアの中のある種の層は、この顔ぶれを見ただけでもう即買い決定、シビれまくり〜という感じだったはずだ。それほどに、この顔ぶれはある種の人々の好みをピンポイントで突いている。

ちょっと前までヤングキングアワーズが積極的に登用し続けていた若手作家を中心にした、癒しありトキメキありの、ある種、軟派の極み的なラインナップである。創作系同人誌的雰囲気が濃厚に漂い、そちら方面の空気を愛する人にはたまらない誌面となっている。剛直なモノが好きな向きには、もちろん向かないだろうけれども。

今回の掲載作品の中で、個人的に一番面白いと思ったのはTAGRO「トラベリングムード」。山奥の温泉宿を舞台に、一人旅の情緒をしみじみ描き出している。筆によるタッチがなんともいい雰囲気を醸し出していて染みる味わい。「からくり変化あかりミックス!」の石田敦子の登場はちょっと意外だったが、この雑誌のカラーからするとぴったりハマっている。可憐な絵柄で、優しいお話を描いている。背のちっちゃい女の子の描写は、罪なほどのかわいらしさだ。犬上すくねの甘さにちょっぴり苦みを配合した作品も、恋愛人間のハートをズバリ直撃だ。

少年画報社はこれに続いて、さらに少女誌のOURs girlも10月に発行予定であるらしい。執筆陣は、今市子、伊藤潤二、波津彬子、篠原鳥童、有元美保、黒田硫黄、大沢美月、水野純子、犬上すくね、川原由美子、逆柱いみり、おがきちか、小石川ふにといったラインナップを予定。「ネムキ」(朝日ソノラマ)の主力+アルファといった顔ぶれになっている。定期刊行雑誌になるのか、だとしたらどのくらいのペースでの発行かはまだ分からないが、B5中とじと少女漫画誌としては珍しい判型であるなど(少女漫画誌は平とじが普通)、いろいろと個性的な雑誌に仕上がりそうで楽しみだ。

・季刊で復活 〜コミックきみとぼく

コミックきみとぼく
『コミックきみとぼく』
ソニーマガジンズ

今年の4月、6月号をもって休刊した「きみとぼく」が季刊で「コミックきみとぼく(KB)」として復活した。「きみとぼく」は、自前で新人を意欲的に発掘、育成していて、なかなか個性的な誌面の雑誌だったので、休刊時は非常に惜しいと思っていただけに復活はうれしい。復刊第1号の夏号の執筆陣は村上真紀、くさなぎ俊折、子安武人+佐野真砂輝+わたなべ京、桃乃すずめ、天野かおる、花樹いちや改め梅沢はな、二ノ宮知子、水縞とおる、根津舞香+あきみれい、藤田たかみ、松山花子、植木家朗、安部川キネコ、響ないき。個人的には、休刊前の「きみとぼく」でずっと楽しみにしていた藤原薫、藤枝とおるといったところが不在なのは残念だけど、今後に期待したい雑誌であることは確かだ。

・なにげに好調 〜モーニング。

モーニング
『モーニング』
講談社

筆者がチェックしている雑誌の中で、最近毎号けっこう楽しみなのが「モーニング」(講談社)。看板連載の井上雄彦「バガボンド」はもちろん、高橋ツトム「鉄腕ガール」、三宅乱丈「ぶっせん」、作:田島隆+画:東風孝広「カバチタレ!」(監修:青木雄二)などなど、連載陣が安定して力を発揮している。さらに、かわぐちかいじの架空戦記的作品「ジパング」も連載開始。また、本連載の第5回でも紹介した、新鋭・福島聡の「DAY DREAM BELIEVER」も好調だ。この人はとてもセンスのいい漫画描きなので、注目していてもらいたい。

さらにこの雑誌のいいところは、シリーズ連載など、ときどき出てくる作品に面白いものが多いので、コンスタントに誌面に変化をつけられる点。本格的な宇宙モノである幸村誠「プラネテス」、シリーズ連載で安定した力を発揮する山下和美「天才柳沢教授の生活」、それからギャンブル漫画というか女体盛り漫画としてすっかり定着気味の高橋のぼる「リーマンギャンブラーマウス」など、充実度が高い。ときおり掲載される新鋭作家の読切もいいアクセントになっている。

キッス
『キッス』
(c)室井大資

今回のチェック期間で最も目についた読切は室井大資「キッス」。高校生5人組が、半分ヒマつぶし的な動機から、自主制作映画を作り始めるうちに、だんだんその作業に熱中していくという物語。高校生という、限られた時期の男友達同士でないとできない、後から考えるなんの得にもならない、でもすごい思い出になるような馬鹿な行動を爽やかに描いている。こういうのを読んでいると、青春真っただ中な若い奴らが羨ましくなってしょうがない。作画、構成など、漫画の基礎的な力量も確かでとてもいい作品だった。

雑誌には面白いときと面白くないときで、けっこう波があるものなので、旬を逃さずきっちりチェックしておいていただきたい。>>次頁


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