タニグチリウイチの出没!
TINAMIX

タニグチリウイチの出没!

干天に慈雨あり

それでも、中には干天の慈雨が如きプログラムもあったから、決して捨てたものではない。最初の企画として行われた、法政大の教授でファンタジーの翻訳で名前の通っている金原瑞人が登場した対談では、金原氏が大学で開いている創作のゼミに生徒として在籍した「ブラックロッド」「タツモリ家の食卓」の古橋秀之、「猫の地球儀」「E.G.コンバット」の秋山瑞人という、今のヤングアダルト文庫を引っ張る2人に関する話を手始めに、日本ではそれほど主流ではない大学の創作ゼミがどういった段取りで運営されているのか、どういった人たちがどういった内容のことを学んでいるのか、といった話を聞く。

ギャオス!ギャオスはどこ?!
怪獣に倒されても崩されても元通りの、これが1番アートだったり

2年生で200枚、3年生で250枚4年で300枚、書けば単位はもらえるとか。それで作家になれるかどうかは分からないけれど、少なくとも1行だって書かない人は作家にはなれない訳で、まずは何かを書くことの大変さを知り、それでも書き続ける面白さを知って、人の才能は伸びていくんだろう。ちゃんと授業に出るならニセ学生だって黙認らしいけど、遠く高尾山にある学校に通ってでも、作家になるための修行をしたい人は、挑戦してみたら面白いかも。

これも正式には1回目ながら正確には2回目となるイベントが、例年だったら「東京おもちゃショー」と重なっていただろう3月16日と17日の2日間、大地震が起こったらおそらくは東京タワーの下敷きになるだろう場所にある東京タワーアミューズメントホールと開催された「GEISAI-1」というイベント。「GEISAI」とは「芸祭」すなわち「芸術祭」のローマ字読みだろうけれど、そこはサブカルチャーやオタクの要素を取り入れた作品を数多く作り出しては、オタク的にもアート的にも物議を醸し続けているアーティスト、村上隆のプロデュースによるイベントだけあって、「ゲージュツ」の格調なんて脇にけ飛ばし、パッと見は原宿に群れる露店の人とか「ワンダーフェスティバル」に出展する模型ディーラーのような参加者が、おもいおもいの作品を持ち寄って勝手に並べてその場で売るという、アートの世界にはない熱気にあふれた内容となっていた。

権威を壊せ秩序を崩せ

白眉だったのが村上隆や奈良祥智、会田誠といった日本を代表する現代アーティストたちをプロデュースする、小山登美夫ギャラリーとミズマアートギャラリーという2つのギャラリーの果たしてどちちがより凄いのか、ということを競うプログラム。アートにどちらが凄いといった資本主義的弱肉強食的な価値観を持ち込むなんて、権威あるアートの人たちから見れば邪道もここに極まれり、といった感じに映るかもしれないけれど、そうした結果アートが売れずアーティストは食えず、挙げ句にアーティストは育たずアートが生まれないという悪循環に陥りかねない状況を打開する上で、ひとつ方向を指し示す意味あるプログラムだったと言えそう。さすがムラカミ。オタクの咀嚼具合には愁眉でも、やっぱり見過ごしてはいられない。

ラッセンはちょっと……
「投票お願いします」「迷いますねえ」「お好きな方で」「ラッセンがいいわ」「ラッセンはちょっと……」

疑問があるとすれば、プレイベント的な役割を担った「芸術道場」が村上隆の個展が開催されていた東京都現代美術館で、関連イベントとして実施されたのに対して、今回は市中のイベントホールだった部分。公立の美術館という、権威の象徴めいた場所で開催するからこそレジスタンスにもレボリューションにもなったりする部分がある訳で、これがオタク系のイベントも時々開催されるイベントホールで開かれた所で、討ち果たすべき権威筋にはまるで響かず、むしろ遠ざかっているような印象も受ける。

グランプリとか、審査員が選ぶ個別賞とかいった表彰制度を持ち込んで、雰囲気的には「ワンダーフェスティバル」に近い「デザインフェスタ」のような、“参加することに意義がある”雰囲気とは違った緊張感を出そうとはしていたけれど、作品を出している側の一攫千金めいた意欲はそれとして、来ている側にそうしたアーティストの意欲と力量を汲み上げ権威の回路にはめ込むなり、マスなマーケットにつなぐといった力がそれほどある訳ではなく、権威の牙城で開いて権威筋に見てもらえ、そうした権威を通して広く世に存在を知らしめる絶好のチャンスだった前回「芸術道場」に比べて、今回はここだけの楽しみに終わってしまいそうな気がしてならない。 

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