TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(9)紡木たく

■車で死んだ同級生いますか?

Tくんは、僕の小学校・中学校の同級生だ。彼は学年最強の男、一番ケンカが強かった。実際、僕も小学校二年生のとき、彼に「おい、T」と呼び捨てにしたら、いきなり殴られた。学年のみんな、Tくんを恐れていたといっても過言ではない。

だけど、彼は弱い者イジメをするような奴ではなかった。どちらかといえば、古い少年マンガに出てくる番長のような存在だった。そういえば、よく他校の生徒と裏山でケンカをしていたっけ。

僕が中学校の頃というのは、校内暴力がよく新聞で取り沙汰されていた時期だった。ケンカが強く親分気質だった彼は、中学校に入学してすぐ先生に目をつけられるようになる。そのうち、彼もおきまりコースで不良化していき、学校に来なくなってしまった。

忘れられないことが二つ。

一つは、授業中いきなり彼が教室に押し込んできたこと。訳のわからないことを叫びまくる彼は、あきらかにシンナーでラリっていた。平々凡々と授業をする教師やそれをやりすごす僕ら普通の生徒に、彼は何を言いたかったのだろう? 残念ながらわからない。

もう一つ、中三のとき地区の対抗駅伝大会に彼と僕が、補欠として選ばれた(その頃は卒業が近かったせいか彼も学校に来るようになっていた)。でも補欠だから二人とも暇で、先生の車の中で座ってるだけだった。すると突然彼は言った。「オレ、この車ぐらなら運転できるんだぜ」。そう言う彼の顔は、誇らしさに満ちていた。普段ケンカに勝っても寂しげな顔をしている彼が、そのときは本当に嬉しそうな笑顔を見せていた。

彼は、車で死んだ。ガードレールを突き破って、崖下に転落死。

僕は訃報を東京で聞いた。そのとき丁度、大学受験だったからだ。

葬式には行かなかった。行こうと思えば行けた。でも、中学卒業後疎遠で、たまに盛り場で顔を見る程度だったし。

そのくせ、たまたま同時期に行われた「神様」手塚治虫の一般葬儀には参列してた。別に手塚の大ファンだった訳でもなかったにの。ただのミーハー心で行っただけだ。

僕は、いまだに彼の葬儀に行かなかったことを後悔してる。

そして、いまだに夜中に彼が出てくる夢を見る。>>次頁

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