三大ロック漫画礼賛
「ロックとは何か?」。ロック雑誌なんかで繰り返し論じられてきた不毛な話題。だが、そんなの簡単。とりあえず、以下に紹介する三大ロック漫画を読めば一目瞭然。
たとえ、レディオヘッドもビートルズもニック・ドレイクも、なに一つとしてロック音楽を聴いてなくても、まったく関係なし。この三大ロック漫画さえ読めば、もうあなたにロックの心が宿るのだ。
三大ロック漫画、その一
水野英子の『ファイヤー』。母親想いの優しい少年アロンは、無実の罪で感化院に送られる。アロンはそこで、激しく唄う男ウルフと出会う。自由を求めた末死んだウルフに影響されたアロンは、自らロックの世界に身を投じ、音楽による革命を実践しようとする。ヒッピーによるLove&Peaceな世界観とその敗北を描いたこの作品は、いまだに読者を震撼せしめる飛びっぷり。当時の少年漫画が、全共闘運動の影響下で四畳半フォーク世界観から抜けられなかったことを考えると、水野英子の描いたことはあまりにスケールが大きく、まさしくワールドワイド。
あえてここでは、世界最高のサマー・オブ・ラヴ漫画と断言。
三大ロック漫画、その二
今回の主役である森脇真末味の『おんなのこ物語』。
アマチュアシーン(おそらく京都あたりが舞台)で誰もが一目置くバンド、ステッカー。リーダー仲尾に心酔する自閉症気味な主人公八角と、八角の隠れた音楽的才能に当惑する仲尾。この二人の関係を軸として、ステッカーは徐々に崩壊していく。ステッカー(仲尾)という心のよりどころを失った八角はどうなってしまうのか?
とにかく同時代の漫画で、いまや伝説のバンド「暗黒大陸じゃがたら」を引用したものなんて、この世にこれだけ。
あえてここでは、世界最高のプレ・オルタナティブ漫画と断言。
三大ロック漫画、その三
みうらじゅんの『アイデン&ティティ』。
バンドブームに翻弄される主人公中島、その主人公に託宣を与えるボブ・ディラン。90年代になってようやく産まれた、「男性漫画家によるロック漫画」の決定的作品。
あえてここでは、世界最高のライク・ア・ローリング・ストーン漫画と断言。
さて、この三作品に共通するものがある。それは、自らのダメさと対峙する主人公、そんな主人公に思想的影響を与える男というキャラ関係。『ファイヤー』のアロンとウルフ、および『おんなのこ物語』の八角と仲尾、『アイデン&ティティ』の中島とボブ・ディラン全てこの構図。
そう、ロックとは何か?、「ダメ男が伊達男に持つ憧れ」そのものだったのである。疑うなら、試しに君の周りのロック・ファンにこの三冊を読ませてやれ。きっと、目に涙を浮かべながら「すげーよ、これ」と呟くから。(もとむらひとし)
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