■21世紀のお手本
はい、「恋愛レボリューション21」を聴いてエネルギー充填してきました。この曲、間奏部での片チャンネル・娘のVo、もう片チャンネル・ターンテーブルスクラッチの部分がすごく気持ちよいです。ターンテーブルという楽器の快感を非ヒップホップ楽曲で十二分に味わうことができるのって、案外稀なことだと思う。編曲者のダンス☆マン、天才!!
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『キャンディ・キャンディBOX』著:川上千恵子・近藤恵/情報センター出版局/1996年/1,262円+税
いわゆる「○○の秘密」ものなんかとは比べ物にならない、愛情とプロフェッショナル意識に溢れた本。
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閑話休題。90年代以降、漫画の読者年齢が(さらに)アップした。まぁ一億総オタク化社会の日本だからして当然のことなのだが、その結果、あるパターンの描写が増えたように思う。それが、「恋愛か?仕事か?」漫画。これが顕著なのは、対象年齢が高い少女漫画誌(準レディース誌)。しかし、いわゆるサラリーマン層をメイン・ターゲットとした青年誌でも、こういう描写は珍しくないものになっている。
まぁ、80年代ぐらいの漫画でこういう描写があったら、「ああやってるやってる」と苦笑するくらいだが、90年代以降の作品で見かけると、無性に腹立ちませんか。皆さん? と、いきなり同意を求めてしまって申し訳ないが、少なくともあたしは呆れてその漫画を床に叩き付けたくなるのだ。
初めに書いたように、恋愛と仕事は無関係だ。だから、どっちとも選んでしまえばいい。これが正論だと思う。少なくとも、努力もせず最初から選択しようというのは、逃げの発想だと思う。そしてこれは漫画家にとっても逃げの発想ではないだろうか? 「こういう描写入れれば読者の共感得られるな」という負の職業意識が見てとれる。「読者の共感を得ようとする」こと自体は、間違ったことではないと思う。プロの作家なら、当然考慮に入れるべき要素だろう。
しかし、だからといって安易に「恋愛か?仕事か?」という描写に手を染める漫画家を信用したくはない。ウソ話にはウソ話なりのモラルが存在する。それは一般社会のモラルとは違うものではあるけれど。21世紀にもなって、手垢のついた「恋愛か?仕事か?」描写に何十ページも費やす漫画家に、物語作家としてのモラルがあるといえるだろうか?
『キャンディ・キャンディ』は、70年代中期の漫画である。残念なことに、主人公の仕事描写に対する洗練度という点で、この漫画を越えたものはほとんどないように感じられる。はっきりいって、仕事に対する自意識過剰描写で話をだらだら続けている漫画のほうが多い。四半世紀も前に描写された、『キャンディ・キャンディ』の恋愛と仕事が調和した物語創り。「女性の社会進出」なんて言葉、現代においては死語であろう。それくらい当たり前のことになっている(もちろん、様々な点で仕事面での女性蔑視傾向は残っているが)。そういう現代にこそ、『キャンディ・キャンディ』は読まれるべきだ。
幼い頃アニメを見ていた人も、もう既に物心ついたときには伝説化していて読む前から食傷気味な人も、絶対今読むべき作品、それが『キャンディ・キャンディ』だ。もちろん、読んだことあるという人にも、今一度読み返してもらいたい。間違いなく新たな発見がある。それは、自分の社会経験(恋愛経験、仕事経験)が、新しい視点の礎となっているからに他ならない。
だいたい、モーニング娘だって歌ってる。「恋をして、仕事して、歴史刻んだ地球」と。恋愛と仕事、どっちも大事なことなのだ。世紀も変わって、時は今、恋愛レボリューション21世紀。「恋愛か?仕事か?」なんて漫画ではなく、「恋愛も仕事も!!」という漫画が増えることをあたしは切に望んでいる。そう、『キャンディ・キャンディ』のような漫画が増えることを。そのためには、この作品が、老若男女を問わずもっともっと多くの人に読まれることが必須なのだ。
■最後にちょいフォロー
今回は『キャンディ・キャンディ』の仕事描写にスポットをあてたが、もちろんこの漫画、恋愛のほうも抜群におもしろい。正直そっちを書いて、ストーリーをばらしてしまいたくなかったから仕事面を重点的に描いたというのも事実だったりする。そりゃ、四半世紀を越えていまだにオリジナルの新書版コミックスで入手可能な超傑作ですもの。どう読んでもおもしろいです。個人的には、20世紀の少女漫画ベストワンは、『キャンディ・キャンディ』か『ガラスの仮面』かどちらか、と思ってるくらいベタ惚れの作品なのだ。
最後に、あたしのように『キャンディ・キャンディ』に惚れこんだ方、『キャンディ・キャンディBOX』という書籍は既にお持ちですか? 作者の『キャンディ・キャンディ』に対する愛情と客観的な視点が見事なくらい両立していて、この手のマンガに関する書籍としては特筆に値する本です。漫画の関連本には、ときおり読後にや〜な感じが残るものもありますが、この本は、読後まるでポニーの丘にいるような清涼感が味わえます。まだまだ普通に書店で売っている本ですので、是非とも一読お薦めします。◆ (>>次頁 はみだしコラム)
文:もとむら ひとし
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