TINAMIX REVIEW
TINAMIX
青少年のための少女マンガ入門(8)いがらしゆみこ

■恋愛か仕事か!???

最近ネットで知り合った、ハンドル名ハバナ80くん(千葉県在住 推定年齢26歳)と飲んでたら、いきなりマジ顔で相談されてしまった。

聞いてください、オレの悩み。最近仕事が忙しくて、彼女とまったく会えないんです。彼女からは、「仕事を口実にアタシを避けてるんじゃない?」って言われたりもして困っています。でもちょっと冷たいところが逆に魅力的なタイプで、彼女以外の女性なんてとても考えられません。大事な彼女にも会えない仕事なんてやめてしまおうか、そう思うこともときどきあります。教えてください。オレは恋愛と仕事、どっちを選ぶべきでしょうか?(上記要約。ほんとはこれと同じ内容のものを、えんえん1時間クダを巻かれた。)

私の心の回答

どっちも選べや!!

だいたいなんで、恋愛と仕事、どっちか選ばにゃならんねん?どっちも選んでしまえ。なんでもかんでも、ハムレットみたいに「生きるべきか死ぬべきか」ってな、二者択一な悩み方する必要なかろうが。「生きるべきか死ぬべきか」ならまだ話はわかるぞ。「生きる」の反対は「死ぬ」で、「生きていない」即ち「死んでいる」、「死んでいない」即ち「生きている」だ。「恋愛」の反対は「仕事」じゃない。「恋愛していない」即ち「仕事している」じゃないし、「仕事していない」即ち「恋愛している」でもない。つまり両者は本質的にはまったくの無関係だ。なんだか言ってることが混乱してしまったが、とにかくどっちも選べ!!以上!

と、尊敬する故梶原一騎先生ならばこう一刀両断したことだろう。でも、あたしがこんな正論を言っても意味も説得力もない。だから、あたしなりの誠意に満ちたアドバイスを送った。

『キャンディ・キャンディ』読んでみてください。

■キャンディはワーキング・ガール

キャンディキャンディ
『キャンディ・キャンディ』1巻/全9巻/講談社コミックスなかよし/1975年10月/370円+税
発売後20年以上が経過した今でも、オリジナルの新書サイズが発行され続けている。まさに不朽の名作。

そしたら、こんな返答。

「『キャンディ・キャンディ』って、読んだことないんですけど、あのアンソニーとかテリーとかドリーとかブロディとかいろんな男が出てきて、キャンディが恋しまくりってだけの漫画でしょ。恋愛はまだわかるけど、なんでそれが仕事と関係あるんですか?」

ううむ、ハバナ80くんは誤解しているようだ。まず一つ「キャンディ・キャンディ」には、確かにアンソニーとテリーは出てくるが、ドリーとブロディは出てこない。それは古き良き全日本プロレスの世界だ。うぅ、ブロディなぜ死んだ…

もう一つの彼の誤解。それは、『キャンディ・キャンディ』は、恋愛だけを描いた漫画ではない。この漫画は、主人公キャンディ(本名 キャンディス=ホワイト=アードレー)の成長を綴った物語であり、恋愛はその一要素にすぎない。これは、実際読んだことのある人の多くが、きっと同意してくれるだろう。キャンディの成長を綴った物語、即ち女の一代記である。橋田寿賀子ドラマである。じゃあ、キャンディは泉ピン子か? としばし自問自答。 女の一代記だからして、そこには当然、仕事というものが存在する。テレビの懐かしアニメ特番でしか『キャンディ・キャンディ』を見たことがない人は知らないだろうが、実はキャンディは看護婦になるのだ

アメリカの富豪アードレー家の養女となったキャンディだが、アードレー家の庇護を受けるだけの生活を捨て、自分の力で生きていく道を選ぶ。そこで彼女が志したのが、看護婦という職業なのである。

でもそこは思春期の恋する女の子でもあるキャンデイ。愛するテリー(本名 テリュース=G=グランチェスター)の劇団が公演にやってきた。だけど、まだまだ見習い看護婦のキャンディ。その日は夜勤が入っている。テリーに会うことはできない。どうするキャンディ?

キャンディの選択

仕事を抜け出して、テリーの芝居を見に行く

どこが、仕事を描いた漫画じゃい! ただの色ボケ漫画じゃねーか!!と、おっしゃるあなた。そうですね。これだけだったら、本当にただの色ボケ漫画です。でも、その後が違う。当然、仕事をさぼったキャンディに周囲の目は厳しいです。

「あなたには看護婦の資格がないんじゃない?」
「そうね重病人をほうりだして遊びにいくわよ きっと」
「なあにそのチャラチャラしたひどいかっこう……」
「やる気がないのならさっさとやめたら!」

こう面と向かって言われたキャンディ。しかしそこで、何十ページもかけて「あたしは看護婦にふさわしいのだろうか?」なんて、そういう鬱陶しいことで悩みません。上記非難セリフの次のコマで、はっきりとこう言います。

「やる気はあります。こんどのことはわるかったと思います。これからはいままで以上にがんばります。」

そしてキャンディは仕事に励む。

もちろん、あたしは仕事をサボったことを誉めているのではない。どちらかといえば、それは間違った選択だ、とすら言えるかもしれない。しかし、その是非をマジメに問うのはあまり意味がないだろう。だって、ただのウソ話(物語)なんだから。一つだけ確かなこと、『キャンディ・キャンディ』は「恋愛か仕事か!?」なんて、アホなことで悩んで数百ページ無駄にするような漫画ではない。これだけは確実だ。と、ここまで書いたところで、あたしも昔、忙しさ絶頂のところで「ちょっと具合悪いんで今日は早退します」と会社に大ウソこいて女のところに行った甘酸っぱくも苦い思い出がフィードバックしてきた。……うぅぅ、モーニング娘聴いて、気を入れなおそう……>>次頁

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