TINAMIX REVIEW
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相沢恵の 他人事じゃない!

■ひとつのクリアな解決方法

(!)これより先は『君が望む永遠』に関する情報が暴露されています。未プレイの読者は注意してください!

もちろんマルチヒロイン形式のギャルゲーにおいて、意図した物語的水準を達成するためには、プレイヤーの経験がことのほか重要であるという認識はこれまでにもあったはずで、その参考例としては、ゲームプレイが恣意性に委ねられていた『雫』(Leaf/1996)から、バッドエンドの経由を義務づけ(例えば千鶴シナリオ)逆に終盤のカタルシスとさらなるゲームプレイへの意欲を高めた『痕』(Leaf/1996)への発展を指摘できるだろう。しかし『君が望む永遠』はより本質的な更新を行っている。(注3)

君が望む永遠
『君が望む永遠』(アージュ/2001)

では『君が望む永遠』は、どうやって『WHITE ALBUM』問題を解決したのだろうか?

ひとことで言うと、本作は、プレイヤーが経験する時間を複数化させた、全二章構成をとっている。これによって、プレイヤーはまず第一章で、主人公である高校三年生の鳴海孝之と主要な四人の人物(涼宮遙、速瀬水月、涼宮茜、平慎二)との関係性、なかでもヒロインの涼宮遙と恋人関係になり、交際が順調にすべりだすまでの時間を、約一ヶ月間に渡って経験することになる。それゆえ遙は恋人として起こる。

これが、前述した「ギャルゲーに特有の時間性」を「経験」させるシステムであることはいうまでもないだろう。だが見誤ってはならない。第一章は、単なる導入部でも、次なる本編に繋げるためのサブエピソードでもない。言うなれば遙シナリオのみを目的とする独立したギャルゲーなのである。プレイヤーが経験する時間の複数化は、言い換えるならば「複数の時間=ゲーム」をプレイさせることにほかならない。第一章のみがパッケージングされた体験版は、この意味でまぎれもなく、遙のために用意された「本編」というわけだ。

したがって第一章の設計は遙に多くを集中させるだろう。例えば、いまだ恋愛状態にない主人公の自意識を、いささか露骨なまでに遙から遠ざけ、しかるのちに接近させるといったシナリオ操作。本来ゲーム期間内に点在すべき事件を圧縮させた幾つかの連続イベント。特定キャラに偏る作劇は、単純に考えて、マルチシナリオでは度し難かったはずのものだが、こうした力学を受けながら僕たちは半ば必然的に遙を好きになるのだろう。そして第一章は、遙の交通事故によって、あっけなく切断されてしまう。

――以上のような第一章を先行させること。すなわち「反復する時間」ならぬ「複数の時間」を導入することで、『君が望む永遠』が、一方では第二章において従来のギャルゲーフォーマットを更新させる作劇を行い、また他方では「複数の時間性の経験」=「各章形式の採用」を軸にいくつかの作品の再評価を可能にしたのではないかと僕は考えている。次回は、その二点をめぐって話を展開させていきたいと思う。◆

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(注3)『君が望む永遠』の設計については、制作者から、前作『君がいた季節』(アージュ/1999)が採用した恋人設定の問題点(『WHITE ALBUM』問題)をユーザーに指摘された反省に立っていることがアナウンスされている。(「Colorful PUREGIRL」2001/8月号/p.23 参照)こうしたメーカー側の真摯な態度は積極的に評価されるべきである。
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