『慌てて寝癖を整えた私は、いつものようにリビングへ向かった』
よし、いいんじゃない?
「あの、どうでしょうか…」
私はおずおずと先輩に見せた。
「どれどれ? 二行か…これ、台詞は入るのよね?」
「はい、そのつもりです」
一応「小説」の態を取ってるんだから、台詞はないと寂しい。それこそ、
上手い下手なんて二の次で考えるんだから、台詞は入れるつもりだった。
「ん~、まぁ、出だしとしてはいいんじゃないかしら。もちろん、
まだまだ出だしだから、評価する段階ではないけれど」
「あ、そうなんですか。でも、ありがとうございます」
原稿を返してもらった私は、そのまま書き続けた。
『「おはよ~」家族に挨拶をした私は、そのまま自分の席に座って、
朝ご飯が出てくるのを待った』
これが上手いか下手か、て言ったら、多分すっごい稚拙なんだと思うけど、
なんだか楽しくなって来たぞ?
「倉橋さんはいいとして…木谷さんはどうかしら? さっきから、
かなり進んでるようだけど…」
「え? あ、すみません。つい没頭しちゃって。せっかくなんで、私の原稿、
見て頂けませんか?」
ん? 木谷さんも見せるのか。果たして、木谷さんの実力やいかに!
「どれどれ? なるほど、高校生の青春群像劇なのね? テーマとしては、
簡単。でも、面白く、深く描こうとすると、難しい。チャレンジャブルね」
「でも、その方が取り組み甲斐があると思いませんか?」
ニヒルな笑みを浮かべる木谷さん。まるっきり、「実力を示すぜ」タイム。
そんな感じだ。うひ~。
私にはたどり着けない世界にいるっていうのを、まさに実感した。
「ふむふむ、こっちもまだまだ二ページで序盤だけど、面白くなりそうね」
「そう思って頂けます? これは光栄ですね」
ハイレベルなやり取りには付いて行けない。私は私の文章に打ち込もうっと!
『出て来た朝食は、トーストと目玉焼きと千切りキャベツ、それにコーヒー、
定番中の定番だ。とはいえ、私が起きだした物音で食パンをトースターに入れるんだ、
母はすごいと言わざるを得まい』
て、本当に切り売りみたいに今日の自分レポートでいいのかな。やっぱ、
フィクションも入れたいよぅ!
「むむむ…」
私は一人、唸り声を発した。
「それにしても木谷さん、あなた逸材ね。さすがに入部希望者だけあるわ」
「ありがとうございます」
部長さんと木谷さん、二人の会話はやっぱり高度だ。いきなり「逸材」だと?
「ねぇ木谷さん、私にも見せてもらって、いい?」
「駄目」
え? 今、なんて…
「なん…ですと?」
「だから、駄目」
ちょっと!
その冷たい言葉に、私は絶句するのだった。
~つづく~
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第27回