No.99862

連載小説27

水希さん

第27回

2009-10-09 15:54:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:403   閲覧ユーザー数:401

『慌てて寝癖を整えた私は、いつものようにリビングへ向かった』

 

 

 よし、いいんじゃない?

「あの、どうでしょうか…」

 私はおずおずと先輩に見せた。

「どれどれ? 二行か…これ、台詞は入るのよね?」

「はい、そのつもりです」

 一応「小説」の態を取ってるんだから、台詞はないと寂しい。それこそ、

上手い下手なんて二の次で考えるんだから、台詞は入れるつもりだった。

「ん~、まぁ、出だしとしてはいいんじゃないかしら。もちろん、

まだまだ出だしだから、評価する段階ではないけれど」

「あ、そうなんですか。でも、ありがとうございます」

 原稿を返してもらった私は、そのまま書き続けた。

『「おはよ~」家族に挨拶をした私は、そのまま自分の席に座って、

朝ご飯が出てくるのを待った』

 これが上手いか下手か、て言ったら、多分すっごい稚拙なんだと思うけど、

なんだか楽しくなって来たぞ?

「倉橋さんはいいとして…木谷さんはどうかしら? さっきから、

かなり進んでるようだけど…」

「え? あ、すみません。つい没頭しちゃって。せっかくなんで、私の原稿、

見て頂けませんか?」

 ん? 木谷さんも見せるのか。果たして、木谷さんの実力やいかに!

「どれどれ? なるほど、高校生の青春群像劇なのね? テーマとしては、

簡単。でも、面白く、深く描こうとすると、難しい。チャレンジャブルね」

「でも、その方が取り組み甲斐があると思いませんか?」

 ニヒルな笑みを浮かべる木谷さん。まるっきり、「実力を示すぜ」タイム。

そんな感じだ。うひ~。

 私にはたどり着けない世界にいるっていうのを、まさに実感した。

「ふむふむ、こっちもまだまだ二ページで序盤だけど、面白くなりそうね」

「そう思って頂けます? これは光栄ですね」

 ハイレベルなやり取りには付いて行けない。私は私の文章に打ち込もうっと!

『出て来た朝食は、トーストと目玉焼きと千切りキャベツ、それにコーヒー、

定番中の定番だ。とはいえ、私が起きだした物音で食パンをトースターに入れるんだ、

母はすごいと言わざるを得まい』

 て、本当に切り売りみたいに今日の自分レポートでいいのかな。やっぱ、

フィクションも入れたいよぅ!

「むむむ…」

 私は一人、唸り声を発した。

 

「それにしても木谷さん、あなた逸材ね。さすがに入部希望者だけあるわ」

「ありがとうございます」

 部長さんと木谷さん、二人の会話はやっぱり高度だ。いきなり「逸材」だと?

「ねぇ木谷さん、私にも見せてもらって、いい?」

「駄目」

 え? 今、なんて…

「なん…ですと?」

「だから、駄目」

 ちょっと!

 

その冷たい言葉に、私は絶句するのだった。

 

 

~つづく~


 
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