No.997220

孤高の御遣い 北郷流無刀術阿修羅伝 君の真名を呼ぶ 29

Seigouさん

夢、現

2019-06-24 18:50:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5314   閲覧ユーザー数:3898

壊れたはずのオルゴールが突然鳴り出して、懐かしい曲が流れてくる

 

俺はふと夢から覚める

 

オルゴールなんかありもしない

 

だが俺の手の平には、小さなオルゴールが乗っていた

 

そしてまた俺は夢から覚める

 

まるで玉ねぎを剥き続けるかのように・・・・・どこまでも夢、夢、夢

 

現実に辿り着かない

 

そんな嫌な夢だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・もう、俺にはこんな感傷に浸る資格もないな」

 

愛していたと嘆くには、今はもう遅過ぎる

 

一つの目で明日を見て、一つの目で昨日を見つめるように

 

君の愛の揺り籠で、もう一度安らかに眠れたら・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は、眠りながら目覚め、目覚めながら眠っている

 

過去は事実か?記憶は真実か?夢はどこからが夢なのか?

 

寝ながら見る夢、起きていて夢見る夢

 

どちらも同じだ

 

夢を見ないという奴は憶えていないだけ、夢がないという奴も気付いていないだけ

 

臆病なのさ

 

見たいくせに見ないようにしているだけなんだ

 

そしてこれは、ただの幻影だ

 

見えざる手に操られ、真実は分厚いベールに覆われたままだ

 

だがそれはひっそりと、まるで夜空に輝くあの月のように人知れず存在し、砂嵐が過ぎ去った頃いつか姿を現すだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左慈「・・・・・ふっ、俺は何を黄昏ているんだ」

 

だからもう、俺はたかが娯楽に目くじら立てたりなんかしない

 

これは冗談なんかじゃない、フィクションでもない

 

それとも、俺は悪い夢でも見ていたのか?

 

 

 

 

 

 

 

神殿の正門にて、目下のここへ向かう一刀には目もくれず空を見上げる左慈

 

その空は、既に夕暮れを過ぎ茜色が地平の果てに沈みかけ、星が顔を覗かせ始めていた

 

太陽の代わりに月の光が世界を支配し、その光は左慈を優しく包み込んでいく

 

そして、左慈は神殿の中へと戻っていく

 

信じている、左慈は一刀がここに来ることを、誰よりも信じているのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「一刀様、一刀様あああああああああ!!!!!」

 

菖蒲「一刀様、どうか行かないでください!!!!!」

 

その呼びかけは一切届かず、空しく響くのみ

 

赤い壁の外側から見ていることしか出来ない

 

遠ざかっていく一刀の姿に、全てが終わったかのように脱力し、その場にへたり込む者達も出てきた

 

葵「くっそ~~~、ここまで来て何も出来ないってのか!!」

 

恋「・・・・・悔しい」

 

凪「また、また何も出来ない・・・・・無力だ、私達は無力だ・・・・・」

 

指を咥えて見ている事しか出来ない

 

神仙の力をこれでもかと見せつけられ、自分達がいかに弱く、どうしようもなく小さき存在かを思い知らされる

 

刀誠に鍛えてもらった、あの鍛錬の時間は全て徒労

 

自分達に出来る事など、最初から何も無かったかのような無力感が心を支配していく

 

管輅「・・・・・貴方達には、どんな結末になろうとも、終末を見届ける義務があるわ」

 

貂蝉「管輅ちゃん、何か出来ることがあるの?」

 

管輅「ええ、神農様の結界を破ることは出来ないけど、これくらいなら・・・・・」

 

懐から水晶を取り出し、力を籠める

 

水晶が淡く光りだし、空中に少しずつ映像が投映される

 

桃香「あ、ご主人様!!?」

 

そこに映し出されたのは、全てを失い、全てを捨て去り、泰山へとひた歩く一刀

 

まるで十三階段の如く、一歩一歩踏みしめ向かっていく

 

絞首刑台にでも向かっていくかのようなその姿は、余りに儚い

 

葵「・・・・・死ぬつもりか、一刀」

 

翠「え、どういうことだよ、母さん!!?」

 

葵「一刀の目を見てみろ、まるで生気が籠っていない、あれは死にに行く者の目だ・・・・・」

 

貂蝉「無理もないわよ、龍奈ちゃんを目の前で殺されたんでしょ・・・・・」

 

卑弥呼「ああ、あのご主人様なら、それも自分のせいとしてもおかしくない・・・・・」

 

雫「あ・・・・・あああぁ・・・・・・・・・・っ!!」

 

菖蒲「うう、く、ううううぅ・・・・・・・・・・っ!!」

 

華琳「っ!!?ちょっと雫、菖蒲、何をしているの!!?」

 

突然、それぞれの武器を抜き、首筋に突き付ける雫と菖蒲に、一同はギョッとする

 

少し手を引けば、一瞬で頸動脈を掻っ捌ける体勢となる

 

雫「一刀様が死ねば、私も死にます!!!」

 

菖蒲「私もです!!!一刀様の居ない世界なんて、考えられません!!!」

 

雪蓮「ちょっと、馬鹿なことは止めなさい!!」

 

まだ心が折れていない者が止めようとするが

 

貂蝉「ふんぬっ!」

 

卑弥呼「かあっ!」

 

それよりもこの二人の方が早く動いていた

 

一瞬で雫と菖蒲との距離を詰め、それぞれの武器を取り上げた

 

雫「っ!!返して、返してください!!!」

 

菖蒲「どうか一刀様と共に逝かせてください!!!」

 

卑弥呼「そうゆうわけにはいかん、管輅も言ったであろう、お主らには何があろうともご主人様の成り行きを見届ける義務があると」

 

貂蝉「たとえご主人様が死ぬことになったとしても、貴方達に死ぬことなんて許されないわ、貴方達自身がご主人様にしたことを罪過として認識しているなら、それは死んでも償いきれるものではないもの」

 

雫「ああ・・・・・うう・・・・・っ~~~~~!!」

 

菖蒲「ううう・・・・・一刀様、一刀様ぁ~~~・・・・・」

 

大粒の涙を流し力なく項垂れる二人を他所に、事態は無情にも進んでいく

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

華琳「な、なに!?何が起こっているの!?」

 

突然の地鳴りに一同は一斉に宙に浮かんだ映像に目を向けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

その地鳴りの発生元は、一刀の目の前だった

 

ますます増大していく地鳴りと共に、地面が盛り上がっていく

 

???「フゥーハハハハハハハハ!!!お初にお目にかかる、この世界の御遣いよ!!!」

 

地面から無駄に煌びやかな神輿が表れ、その上では壮大な高笑いを上げる男が立っていた

 

???「朕は嬴趙政、人民は朕を始皇帝と崇め奉る、以降朕のことは尊敬と畏怖の念を込め、皇・帝・陛・下と呼ぶように、フゥーハハハハハハハハ!!!!」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「あ、あれが始皇帝ですって!!?」

 

桃香「えーーーーーー!!!?あれがこの大陸を初めて統一した人なんですか!!!?」

 

雪蓮「まさか、始皇帝も神仙だっていうの!?」

 

映像の中に現れたのは、無駄に金銀をちりばめた服装に身を包んだ男だった

 

その身形は、ありとあらゆる装飾で固められ、かなり動きにくそうである

 

猪々子「うわぁ~~~~・・・・・ありゃ姫以上の見栄っ張りだな・・・・・」

 

悠「ああ、以前の麗羽を思い出すぜ・・・・・」

 

麗羽「ちょっと猪々子さん、悠さん、古傷を抉るのは止めてくださいまし!」

 

斗詩「今となっては、いい思い出です・・・・・たぶん・・・・・」

 

聖「あれが、私の祖、劉邦の怨敵・・・・・」

 

貂蝉「まさか、嬴リンまで来てるなんて」

 

卑弥呼「ふむ、久しく見ていなかったが、相変わらずの傍若無人ぶりよのう」

 

管輅「神農様、貴方様の狙いは何なのですか・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

始皇帝「・・・・・クククク、フフフ、フゥーハハハハハハハハ!!!どうやら驚きと畏怖の念の余り声も出ないようであるな、無理もない、かつてこの世の富と名誉と美女は、全てこの朕のものだったのだからな、朕を前にすればどのような者、例え御遣いであろうと震え上がってしまうのであるな・・・・・朕の有り余る威厳が恐ろしい♪♪」

 

自分自身に酔いしれまくり、悦に浸る

 

そんな始皇帝を、下らないものでも見るかの如く一刀は変わらず死んだような目で見ていた

 

始皇帝「ふむ、朕ばかりしゃべっていては興が盛り上がらんではないか・・・・・朕を見ておるのかお主?しっかり目を見ねばなにも「御託はいい」・・・・・なに?」

 

一刀「とっとと来い、皇帝陛下・・・・・」

 

始皇帝「・・・・・いいだろう、その不遜な態度、朕の寛大な心をもって許すとしよう、朕も全力をもって相手をしようではないか・・・・・出でよ、朕の従順なる僕達よ!!!」

 

次の瞬間、さらなる地鳴りが鳴り響き始皇帝が乗る神輿の周りの地面が盛り上がる

 

地面から湧いて出てきたのは、どれもこれも似たような顔をした人形達だった

 

始皇帝「これぞ朕が誇る最強の兵団、兵馬俑!!!朕の意図の通りに動き、疲れも知らず永遠に働き続ける、正に朕が作りし理想の軍団よ!!!」

 

更に地鳴りは続き、より一層地面が盛り上がったと思えば、それまで出てきた兵馬俑の3倍は大きいであろう兵馬俑が10体ほど出てきた

 

それぞれが大刀や大槌を持ち、唸りを上げながら一刀に肉薄する

 

始皇帝「どうだ、朕が兵団の威厳は!!!言っておくが、こ奴らを只の土くれ人形と思うでないぞ、何せ朕が氣によって操られ強化されておるのだからな、歩兵に至るまで一騎当千、おまけに巨大兵馬俑はその歩兵の数段の強さを誇るのだ、フゥーハハハハハハハハ!!!」

 

一刀「・・・・・それが何だ・・・・・・・・・・・っ」

 

ガキャガキャガキャガキャガキャーーーーーーン!!!!!

 

大した気合もなく、縮地で兵馬俑の群れに突っ込む

 

たったそれだけで、兵馬俑達は巨大なものや小さいものも関係なしに、波打つように、あるいはドミノ倒しのように薙ぎ払われ砕け散っていく

 

始皇帝「んなっ!!!??」

 

高笑いをしていた始皇帝は何が起きたのか分からなかった

 

始皇帝「はぼべばぁっっっ!!!!!??」

 

次の瞬間、右頬に衝撃が走り神輿からはじき出される

 

一瞬にして神輿に上った一刀の右の裏拳で見事に吹っ飛ばされたのだ

 

始皇帝「おお、おおおぉぅ・・・・・ば、馬鹿な・・・・・朕が最強の、兵馬俑達が・・・・・」

 

地面に叩き付けられ右頬を青くし力なく寝そべる

 

何故自分が地べたに平伏しているのか理解できず、ぼやける意識のまま辺りを見回す

 

目の前に広がる屑物となった兵馬俑達を目の当たりにして、始皇帝はようやく何が起こったか理解したようだ

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

始皇帝「ひ、ひいいいいいい!!!??」

 

神輿から飛び降り一歩一歩迫ってくる一刀に、始皇帝は戦慄する

 

始皇帝「ちちち、朕が悪かった!!!頼む許してくれ、朕も頼まれて仕方なくやったのだ!!!」

 

その場で土下座をし、地面に頭を擦り付ける始皇帝だったが

 

始皇帝「(聞いていないぞこんなもの!!何が楽な仕事だ、足止めをするだけでよいというから来たというのに!!おのれ神農、ただではおかぬぞ!!)

 

頭の中は文句タラタラだった

 

しかし

 

始皇帝「・・・・・え?」

 

一刀は、そんな始皇帝には目もくれず泰山へと向かっていく

 

神輿から降り、そのまま方向転換をしていた

 

こちらへ向かってきたのは一瞬だけ、泰山へ向かうための挙動でしかなかった

 

こちらの命乞いなど、全く耳に入っていない様子である

 

始皇帝「(お、おのれ・・・・・おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!!)」

 

自分の事など、道端に落ちている砂利と同じかそれ以下

 

かつて大陸全土を支配下に治めた自分を、風景の一部としか思っていないかのような振る舞いに始皇帝の頭の中は憤りで一杯になっていく

 

始皇帝「死ねやおんどりゃああああああああああ!!!!!」

 

とても皇帝の掛け声とは思えぬ奇声を上げながら、腰の剣を抜き一刀の背中に突き出した

 

始皇帝「・・・・・は?」

 

しかし、その剣は空を切る

 

それまで確かに視界に入っていた一刀の姿が忽然と消えたのだ

 

メキャッ!

 

始皇帝「・・・・・はえ?」

 

次の瞬間、鈍い音と共に視界が傾く

 

巳の型回歩によって一瞬で後ろに回り込まれ、ヘッドロックで首を極められ、そのまま折られた

 

目の前が暗くなり、膝から崩れ落ち、地面にうつ伏せに寝そべった

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

首が明後日の方向を向き、物言わなくなった始皇帝をその場に捨て置き、一刀は再び泰山へと歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香「・・・・・始皇帝さんが、あんなにあっけなく」

 

雪蓮「まぁ、強大な力を持っているからと言って、それが本人の力だとは限らないという事ね・・・・・」

 

華琳「始皇帝の支配が何故二代で終わったか、分かった気がするわ・・・・・地位や威厳も使い方次第という事ね」

 

聖「あんなのが、太祖劉邦の宿敵・・・・・空しいわ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀の足は泰山の頂上へと連なる石段に差し掛かる

 

これまでと変わらぬ足取りで、一定の速さで登っていく

 

それは機械的に、まるでベルトコンベアで運ばれ最終的には粉砕機に入る石の如く

 

相も変わらず、その瞳は光を宿していない

 

そして、最初の踊り場へと到達し素通りしようとしたその時

 

ズドン!!

 

いきなりの轟音と共に、目の前に何かが天から飛来した

 

???「まったく神農の野郎、この俺を小間使いにしやがって、後で覚えてやがれ・・・・・」

 

衝撃で舞い上がった土煙が晴れていくと、一人の男が現れる

 

その出で立ちは、胸当てを着込み、手には矛を持っている

 

???「嬴の奴も情けないぜ、だから普段武の鍛錬をしておけと言っていたんだ、神仙といっても怠けりゃその分衰えるに決まってんだろうが」

 

そして、男は言葉を紡ぎながら振り向いた

 

???「ようお前、相当に強いらしいな・・・・・俺は李信、字は有成、いっちょ喧嘩と洒落込もうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「んな!!?李信いうたらあれやろ、戦国時代の!!」

 

純夏「ええ、秦の大将軍よ」

 

春蘭「またなのか、一体どうなってるんだ、神仙というのは!!?」

 

次々と現れる過去の英傑達を目の当たりにし、一同は仰天を隠せなかった

 

管輅「神仙の中には、外史から転生を果たした者もいるのよ、さっきの始皇帝もその一人よ」

 

卑弥呼「まぁ、あ奴は負けるべくして負けたといえるがな」

 

貂蝉「でも腐っても神仙だし、死ぬことはないでしょうけど」

 

桔梗「なんだと、首の骨をへし折られたのだぞ!!あれで死なないという事があるか!!」

 

卑弥呼「我ら神仙があれしきでくたばることはないし、くたばれんわ」

 

貂蝉「そうねん、あれは気を失っただけよ、暫くすれば起きてくるでしょ」

 

紫苑「なんてでたらめな・・・・・」

 

祭「という事は、全ての神仙は不死身という事か、ならば最初から一刀に勝ち目など無いではないか」

 

貂蝉「そうでもないわ、確かに私達は不死身に近い存在ね、ただし攻撃を受ければ傷付くし傷の治りも人間のものと差はないわ」

 

卑弥呼「治癒の術という傷の治りを早める術があるが、致命傷を負えばその衝撃で気を失うし、その傷が元でその後まともに動けんくなってしまうこともある」

 

貂蝉「その場合は、死んだも同然ね、普通に動けなくもなったら神仙どころか人間としても生物としても致命的だもの」

 

管輅「治癒の術も万能ではないわ、あれだけ見事に折られてしまったらたとえ術を施しても治しきれないでしょう」

 

卑弥呼「治したとしても後遺症が残るであろうし、始皇帝はもはや使い物にならんだろう」

 

貂蝉「だから私達はそうした大怪我を負わないように武や術の鍛錬をするのよ・・・・・嬴リンは自らの力を過信して自分自身を鍛える事を怠ったわ、ああなったのは自明の理ね・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

李信「まぁ、神農の指図ってのが気に食わねえが、強い奴と喧嘩出来るなら儲けものよ・・・・・おらとっとと構えな青二才、この李信様が直々に相手をしてやるんだ、喜べや!!」

 

矛を向け獣のような形相で一刀を睨み付ける李信

 

戦国時代の将軍だけあってその殺気は尋常ではなく、映像を通して見ている一同の中でも震え上がっている者もいた

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

しかし、そんな殺気に直に晒されても、一刀は眉一つ動かさず、構えも取らなかった

 

李信「・・・・・何だてめえ、舐めてんのか、それともそのまま何もしないで死ぬつもりかよ」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

相変わらずの死んだ目、李信の姿が映っているのかいないのか分からない目のまま、一刀は李信に向かってゆっくり歩き出した

 

李信「へっ、ヘタレ野郎が、たかだか百万ちょい殺したくらいで感傷に浸りやがって・・・・・こちとらいちいち死人が出て多感になってられるほど甘い時代をやってきたわけじゃねえんだぞ」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

そんな言葉など耳に入っていないかのように、一刀は歩を進める

 

李信「それとも、そんなにあの龍が死んだことが堪えてるってか・・・・・なら俺があの龍の所に送ってやんよ!!!」

 

そして、矛を水平にし、氣を開放しながら一刀に突貫する李信

 

李信「俺の矛を受けてみな!!!」

 

ヒュババババ!!!

 

その矛捌きは余りに素早く、常人では目で追う事すらも出来ずに絶命していただろう

 

しかし、一刀は死んだ瞳のままその絶技ともいえる矛の連続攻撃を躱した

 

李信「ほおう、目が死んでいる割にやるじゃねえか、こいつを初見で躱したのはてめえが初めてだ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春蘭「うおっ!!?なんだ今のは!!?」

 

星「ああ、矛が三本あるように見えたぞ!!」

 

明命「はうあ!!?何かの手品ですか!!?」

 

管輅「次元屈折現象よ、並列世界から呼び込まれる3つの異なる攻撃が同時に襲ってきたのよ」

 

貂蝉「信ちゃんは、神仙の中でも特に武闘派ですからね、こと矛に関しては、あの子の右に出る者はいないんじゃないかしら」

 

卑弥呼「氣の練度も五本の指に入るであろうな、あそこまでの領域に至ればあれくらいのことは造作もないであろう」

 

霞「つうことは、実質三人を相手にするゆう事か!!?」

 

愛紗「そんな、あれほどの使い手が三人係だと!!?」

 

鈴々「ズルいのだ!!」

 

それぞれが、まず一刀の勝ちは無いだろうと予想する中

 

焔耶「はっ、あんな奴お館の敵じゃない」

 

意外なことに一番冷静だったのが焔耶だった

 

翠「おいおい焔耶、何言ってんだ、お前も見ただろうあいつの矛捌きを!!ありゃ達人なんてものを通り越してるぜ!!」

 

蒲公英「そうだよ、なんの根拠もなしに適当なこと言わないでよ!!」

 

焔耶「お前こそ忘れたのか、お館も同じことが出来るって」

 

蒲公英「・・・・・・・・・・え?」

 

焔耶「しかも、その滅茶苦茶重い龍滅金剛刀でな」

 

恋「・・・・・あ」

 

焔耶「あの技で、私の鈍砕骨を真っ二つにされたこと、それこそ神仙の術でもない限り忘れられん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

李信「はええなてめえ・・・・・だが次は外さねえぜ」

 

矛を構え直し、再び一刀に向ける

 

李信「確かにてめえは強ええ、心ここにあらずだってのに俺のあの三本を躱しやがったんだからな・・・・・久々に本気を出せる相手が表れて嬉しいぜ♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

久しぶりの強敵出現に一喜一憂する李信だが、相変わらず一刀は興味の無い目をしていた

 

李信「さっきのが俺の本気だなんて思うなよ、たかが三本でこの李信様が満足するか!!!!!」

 

ヒュバァッ!!!!

 

その言葉の通り、先程より二本多い五本の矛が一刀を襲う

 

多重次元屈折現象とも呼べるそれは、一刀の首、両腕、両足を断ち切らんが為に襲い掛かる

 

李信「(勝った!!!)

 

李信の脳裏には、一瞬先にバラバラになった一刀の肢体が地面に転がる光景が浮かび上がった

 

しかし

 

バキイイイイイイン!!!

 

李信「がふあっ!!!???」

 

勝利を確信した李信の目に映ったのは、真っ二つに折られた自らの矛だった

 

それと同時に腹と喉から激痛が走り、膝から崩れ落ちる

 

李信「(は?なんだこりゃ?なんで、俺の矛が?・・・・・何が起こりやがった?)」

 

頭の中は疑問だらけ、何故自分の矛が折られ、何故自分がやられたのかまるで分からない

 

意識が遠ざかる中、微かに声が聞こえた

 

一刀「五本か・・・・・少し足りなかったな」

 

無刀術訃技、北斗蒼龍

 

極限集中状態から同時に繰り出される、七本の貫手

 

五本の貫手が同時に襲ってくる五本の矛を白刃取りし、残り二本の貫手が李信を襲う

 

体の中心部、鳩尾と喉に穴を穿ったのだ

 

最後に李信の目に映ったのは、両手の人差し指を血で染める一刀の姿だった

 

李信「(なんてこった・・・・・この俺が手数で負けるとはな・・・・・だが、満足だぜ♪)」

 

自分の腕に絶対の自信を持っていたが故に、胸当てという軽装備だったことが仇となった

 

もし、体全体を覆う鎧を身に纏っていれば、違う結果となっていたかもしれない

 

それでも、鎧相手の技も多く有している北郷流からしてみれば大した差は無かったろう

 

しかし、己の全てを出し切った清々しさと共に、李信は意識を手放したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焔耶「ほら見ろ、言った通りだろう」

 

蒲公英「うん、蒲公英がどうかしてたよ・・・・・」

 

愛紗「もともと、ご主人様に数の差など殆ど無意味だったな・・・・・」

 

鈴々「うん、鈴々達が何人束になっても、一回も勝ててないもん・・・・・」

 

やはり一刀に勝てる者など居ないと安堵する四人だったが

 

葵「馬鹿かお前ら、いつまで一刀無敵論を振りかざすつもりだ!!!」

 

霞「せや、一刀はここに死にに来たんやで、呆けるのも大概にしい!!!」

 

亞莎「その通りです、左慈と于吉は私達が討たねばならないのですよ!!!」

 

焔耶「・・・・・もっともだ」

 

蒲公英「本当、蒲公英どうかしてるよ・・・・・」

 

愛紗「私も、いい加減目を覚まさねば・・・・・」

 

鈴々「ごめんなのだ・・・・・」

 

いかにこれまで一刀に頼り切り依存してきたか、それを改めて認識する

 

すぐにでも駆け付けたい衝動で一杯だが、神農が築いた赤い壁に阻まれ動くに動けない

 

何も出来ないもどかしさに、焦りは募るばかりだった

 

翠「ちっくしょう本当にどうしようもないのかよ、このままご主人様が何事もなく左慈と于吉を倒してくれることを祈るしかないのかよ!!」

 

卑弥呼「・・・・・それにしても凄まじいものよ、ご主人様は」

 

貂蝉「そうねん、まさか信ちゃんの矛を全て受け切るなんて・・・・・」

 

管輅「彼の氣の練度は魔の領域にまで達しているわ、神仙の中でも彼を相手に出来るものは余りに限られるわね・・・・・」

 

たとえ神仙でもあそこまでの領域に達するには少なくとも何十年という歳月が必要なはずである

 

これも、南華老仙の血の成せる業か、あるいはこの外史の一刀特有のものなのか

 

答えは、外史のみぞ知る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、更に石段を登り第二の踊り場に到達する

 

すると、右手に見える石椅子、この泰山を登り降りする為に設置されている休憩所に一人の人物が座っていた

 

???「なかなか早い到着であるな、あの皇帝と大将軍を苦も無く倒すとは、恐れ入る」

 

その人物は、特に目立った装備を纏っておらず、武器も一つも持たずにそこにいた

 

???「我は宋江、字は公明、いざお相手願おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩「宋江・・・・・聞いたことがありますか?」

 

白蓮「いいや、私の記憶にはない」

 

月「私も、そのような英傑は聞いたことがありません」

 

貂蝉「そりゃそうよ、なにせ彼は今から約千年後の英雄だもの」

 

彩「なに!!?未来の英傑だと!!?」

 

白蓮「聞いたことがなくて当然だな・・・・・」

 

月「そのようなことがあるんですか?」

 

卑弥呼「我ら神仙は、あらゆる時代から転生を果たしておるからのう」

 

白蓮「それじゃあ、それこそ一刀は無限といえる神仙を相手にしないといけないという事か!!?」

 

管輅「いいえ、前にも言ったけど、私達神仙は同一の存在ではあるけれども意志は共有していないわ、神農様の誘いに応じた人達は限られると思うけど・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宋江「我も神仙の中では拳法家として名が通っている、お主と同じ条件でお相手しよう」

 

正面に立った宋江は、そのまま素手で構える

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

しかし、それでも一刀は無表情のまま興味なさげだった

 

宋江「ふむ、あの龍を神農殿に殺された事はしのびないとは思う・・・・・しかし、我も只でここに来ているのではないのでな、気の毒ではあるが無理にでもお相手願おう!!!」

 

いきなり全身から氣を開放した宋江は、一瞬で間合いを詰め左前蹴りを繰り出した

 

それを難なく躱す一刀であったが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪「なっ!!?今のは縮地!!?」

 

沙和「間違いないの~、隊長の技なの~!!」

 

真桜「なんでや、なんであいつが隊長の技使えんねん!!?」

 

貂蝉「宋ちゃんは、こと無手の技ならどんなものでも完全に再現することが出来るわ」

 

卑弥呼「うむ、一度見れば体得し二度見れば万全、あ奴ほど武闘の神に愛された神仙は他にいるまい」

 

彩「なるほど、英傑になるわけだ」

 

白蓮「その非凡さが羨ましいよ・・・・・」

 

管輅「勘違いしているわね、彼の才能が開花したのは、神仙に転生した後よ」

 

白蓮「はあっ!!?なんだそれ!!?」

 

月「どういう事なんですか!!?」

 

貂蝉「宋ちゃんは、その才能が花開く前に非業の死を遂げたのよ・・・・・」

 

卑弥呼「その無念と、武神からの愛があ奴を神仙へと転生させたと私達は解釈しておる」

 

貂蝉「あれだけの才能をみすみす失うのは惜しいというのは分かるけどね・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宋江「どうだ驚いたか、お主を見てきたのが左慈と于吉だけと思ったら大間違いよ、お主ら北郷が見せた技は全て我が手中にある・・・・・まだ見せておらぬ技があるなら是非とも見せてもらおう、その分我も強くなれるからな♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

得意げに己の才能をひけらかす宋江であったが、一刀は特に驚いた様子もなく相変わらず興味なさげだった

 

宋江「ふむ、これでも眉一つ動かさぬか・・・・・そのすまし顔、何としても歪ませたくなったぞ!!」

 

そして、全身の氣を更に高め突進する

 

縮地法の加速、北郷流を構成する空手のパワー、それに自分自身の氣を上乗せする

 

技の切れ、威力、速さ、全てに文句の付けようがない

 

宋江「(これに加え、お主が得意とする浸透突き、己の技で沈むがいい!!!)」

 

相手の技を完全コピー出来る絶対的な自信と確信の元に、宋江は右拳を真っ直ぐに繰り出した

 

ズシンッ!!!

 

その拳は、綺麗に一刀の体に命中する

 

映像を見ていた一同も、思わず目を瞑るか苦悶の表情を見せてしまうくらいの鮮やかなクリーンヒットを見せる

 

しかし

 

宋江「ごぼわあああ!!!!!」

 

攻撃をしたはずの宋江の口から大量の血が吐き出される

 

宋江「が、ああ・・・・・な、何故だ・・・・・」

 

自分の拳は、確かに相手の鳩尾に命中したはずなのに、なぜ自分が吐血しているのか分からない

 

分かるのは、全身を襲う激しい鈍痛

 

下を向くと相手の右拳が自分の腹に突き刺さっていた

 

一刀「確かに浸透突きは一撃必殺の技だ・・・・・ただしそれは、体の中心軸にしっかりと決められればの話、故にこうして体の軸をずらせば、それだけで防げる技なんだよ」

 

その言葉の通り、一刀の左足は半歩後ろに下がり、宋江に対し体を斜めに向けていた

 

たったそれだけで、浸透突きの衝撃が受け流される

 

ただでさえブレーキがきかない縮地法を使えば、カウンターの餌食になるのは必然である

 

逆に相手の浸透突きをもろに受け、体の芯から隅々にまで衝撃が突き抜ける

 

一刀「俺は北郷流の宗家だぞ、自分の技の弱点くらい知ってて当然だろう」

 

ズドォォォォ!!!

 

宋江「がふあっっっ!!!!!」

 

そして、更に左の貫手を宋江の鳩尾にめり込ませる

 

これが止めとなり、宋江は血だまりの中に沈んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪「よ、よかった・・・・・」

 

沙和「もう見てられないのぉ~・・・・・」

 

真桜「肝が冷えるでぇ~・・・・・」

 

相手の攻撃をまともに受けた時は、もう駄目かと思った

 

何事もないように更に石段を登っていく一刀の姿に、一同は安心すると同時にもう行かないで欲しい気持ちで一杯となる

 

白蓮「やっぱり、真似るだけじゃ駄目なんだな・・・・・」

 

彩「ええ、どれだけ模倣出来たとしても、その本質を理解しなければ意味がないという事だ・・・・・」

 

月「はい、真似は真似でしかないんですね・・・・・」

 

一つ一つの技のメリットからデメリット、その全てを知り尽くしていることが決定的な差となった

 

どんな技であろうとも模倣出来る己の才能を過信したことも大きかった

 

浸透突き一つをとっても奥が深い

 

猿真似が出来るくらいで攻略出来るほど北郷流は甘くないという事である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の踊場へ到着する

 

ズシン!!!ズドン!!!ズシャアアアアア!!!

 

今度は、不意打ちで攻撃が襲う

 

赤い柱のようなものが飛来し、地面から石柱が飛び出し、大量の水が降ってくる

 

これらの攻撃を全て躱し、攻撃してきた者達を見据える

 

???「へぇ~~~、あたいの攻撃を避けるなんて、やるじゃん♪」

 

???「流石は、南華老仙様の血を引いているだけありますね」

 

???「は、はい、凄いですぅ」

 

そこに居たのは、雲のような乗り物に乗った、青い杖を傍で浮かせた、丸い豚のような人形に乗った、三人の少女だった

 

???「北郷一刀と言ったな、あたいは孫悟空だ!!」

 

???「私は沙悟浄、お見知りおきを」

 

???「わ、わたしは猪八戒ですぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管輅「そんな、あの子達まで来ているなんて!!?」

 

卑弥呼「神農め、どこまで声をかけているのだ!!」

 

貂蝉「まさか、クウちゃんにマインちゃんにカイちゃんまで・・・・・」

 

桂花「な、なんなのよ、あれは!?」

 

詠「ちょっと、あのふざけた奴らは何!!?」

 

穏「わぁ~~、なんだか宙に浮いてますよ~」

 

映像の中に現れたのは、雲に乗った熱血な子と、眼鏡をかけたキャリアウーマン的な子と、少しオドオドした気弱そうな子だった

 

貂蝉「あの子達はね、とある一人の僧侶と共に途方もなく長い旅をした子達なのよ」

 

卑弥呼「ただしその僧侶は実在するが、あの子らは、後にその僧侶の旅を綴ったおとぎ話に付け加えられた登場人物なのだ」

 

桂花「まさか、架空の英傑!!?」

 

詠「そんなのまでいるの!!?」

 

穏「もう無茶苦茶ですよ~!!」

 

自分達の予想を遥かに上回る神仙の世界を目の当たりにし、勝てる気など微塵も起きなくなっていく一同であったが

 

朱里「それにしても・・・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

雛里「うん・・・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

その三人を見て、一部の者は強烈な嫉妬心と対抗心を燃やしていた

 

バンキュッバン!!

 

表れた三人の娘達は、三国が誇る将達にも引けを足らないナイスバディなうえ、顔も個性豊かな美少女である

 

しかも一番背の小さい豚のような乗り物に乗った子が、最も豊満な果実を持っているため余計に嫉妬心が煽られる

 

小蓮「何あれ、どうやったらあそこに栄養が行くのよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

音々音「なのです」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

管輅という女の管理者もいる以上、他にも神仙の女がいる可能性も否定できないが

 

朱里「まさか、あの体でご主人様を篭絡して」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

雛里「許せません」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

三国貧乳同盟は、一瞬で三人娘を敵と認識した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戒「はう!!?」

 

沙「どうしました、カイ?」

 

戒「な、なんだか今、とてつもない憎悪を感じて・・・・・」

 

悟「何だお前ら、今になってビビってるのか?」

 

沙「恐ろしいと思うのも無理はないでしょう、なにせ彼はあの南華老仙様の末裔が一人なのですから」

 

戒「うん、皆やられちゃうわけだよ・・・・・」

 

悟「なっさけないな、あたいは怖くもなんともないぜ、むしろ強い奴と戦えるのは大歓迎だ♪」

 

戒「そりゃ、クウちゃんはわたし達の中で一番強いし・・・・・」

 

悟「だからもっと体を鍛えろって言ってんだ、んなバランスボールに乗ってばかりじゃ、強くなれっこないだろうが!」

 

戒「む~~、トンちゃんを馬鹿にしちゃや~~!」

 

沙「しかし、三蔵にも困ったものです、私達になんの相談もなしに神農様の申し出を受けられて・・・・・」

 

戒「マインちゃん、そんなこと言って内心嬉しかったくせにぃ♪」

 

沙「な、何の事ですか?」

 

戒「とぼけちゃってぇ、南華老仙様の末裔様に会えるって自分の家で大喜びしてたくせにぃ♪」

 

沙「なななな、なにを言うのですか!!?/////////」

 

悟「そういや、この話が来た後、マインの家から変に陽気な歌が聞こえて来たな♪」

 

沙「な!!?聞いていたのですか!!?////////」

 

戒「だってぇ、あんなに大きな声で歌ってたら・・・・・ねぇ♪」

 

悟「ああ、聞くなっつう方が無理があるな♪」

 

沙「っ!、っっ!・・・・・しかし、それを言うならカイも一喜一憂していたではないですか!!/////////」

 

戒「私は最初から嬉しかったよぉ、だって私とマインちゃんっていつも南華老仙様を追いかけていたじゃん、いつも腕にすり寄ってさぁ♪」

 

沙「あ、ああう・・・・・はぅ~~~~/////////////」

 

悟「ったく軟弱だなお前ら、そんなにあんな奴のことが好きなのかよ」

 

戒「何言ってるのぉ?クウちゃんだって、いつも物陰から南華老仙様を見てたくせにぃ♪」

 

悟「んな!!?だだだだ、誰があんな優柔不断な奴の事なんか!!/////////」

 

沙「まさかバレていないと思っていたのですか?いつも愛おし気にあのお方を窺っていたのは知っていましたよ」

 

戒「それに今回の話が来た時も何も反対しなかったよねぇ、クウちゃんも南華老仙様の末裔さんに会うの内心嬉しかったくせにぃ♪」

 

悟「っ・・・・・っ!・・・・・~~~~~~~~~っっ!!/////////////」

 

図星を突かれ顔を真っ赤にするクウちゃん

 

見事なツンデレぶりであるが

 

悟「って、おい!!?」

 

そんな惚気話など聞く耳持たんと言わんばかりに、一刀が次の石段を登っていく

 

悟「こら待て!!何素通りしようとしてんだ!!」

 

戒「そ、そうだよ~、空気読んでよ~!」

 

沙「何という礼儀知らず、それでも南華老仙様の末裔なのですか!!?」

 

敵を前に堂々と恋バナに耽っていた奴らに言われてはお終いである

 

悟「あったまきた、あたしの如意棒をくらえーーーー!!!」

 

沙「その腐った性根、私の水の洗礼にて浄化してあげます!!」

 

戒「よ、弱いのは認めますけど、わ、わたしだって戦えますぅ!」

 

そして、後ろからそれぞれの攻撃が襲い掛かってくるが

 

悟「うぎゃっ!!」

 

沙「きゃんっ!!」

 

戒「あうんっ!!」

 

縮地で三人の間を通り抜け、その瞬間に三人に当身を決め昏倒させる

 

不意打ちを絡めた先制攻撃をしたにも拘らず、先制攻撃を受けてしまった

 

悟「は、速ええ・・・・・」

 

沙「あ、く、うう・・・・・」

 

戒「うぅ~~~、痛ぁい・・・・・」

 

圧倒的な俊敏性の前に、成す術もなく地面に平伏する三人

 

唯一何をされたのか理解していたのはクウだけで、他の二人は何が起きたのかすら分かっていなかった

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

そして、動けない三人に一刀が迫る

 

悟「う、うう!・・・・・動け、動けぇ~~~!」

 

沙「ひ!?こ、こないで下さい!」

 

戒「こ、降参、降参ですぅ~~!」

 

首筋に手刀を撃ち込まれ、体が痺れ力が入らない

 

何の抵抗も出来ないところに一刀の手が伸ばされる

 

止めを刺されると思い、恐怖心から強く目を閉じてしまう

 

すると

 

なでなでなでなで

 

戒「はえ?・・・・・」

 

突然、自分の頭に気持ちいい感触が伝わってきてカイちゃんは目を開く

 

戒「え、ええ、あ、あの・・・・・」

 

なでなでなでなで

 

戒「は、はぅぅ~~~////////」

 

その優しい手つきに、カイちゃんは自然と身を任せるのだった

 

なでなでなでなで

 

沙「あ、ええ!?わ、私も!?/////////」

 

隣のマインちゃんの頭にも手を伸ばし優しく撫でてあげた

 

なでなでなでなで

 

沙「はう、あうぅ~~~////////」

 

その気持ちよさは、普段クールぶって感情を押し殺しているマインちゃんには効果覿面

 

長いこと封印してきた乙女心を揺さぶるには十分過ぎた

 

悟「・・・・・・・・・・」

 

その様子を羨ましそうな目で見るクウちゃん

 

戒「・・・・・ねぇ、クウちゃんもしてもらったらぁ♪///////」

 

悟「なななな、なに馬鹿なこと言ってんだ!!?/////////」

 

沙「そうですね、自分もしてほしそうな目をしていましたよ♪////////」

 

悟「おおお、お前ら気は確かか!!?お前らこそ、敵に頭撫でられて嬉しがるなんてどうかして・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

悟「く、来るな!!それ以上近付いたらぶっ飛ばすぞ!!/////////」

 

そんな明らかに見せかけだけの暴言を他所に、一刀が迫る

 

なでなでなでなで

 

問答無用で頭を撫でられる

 

悟「よせぇ~~・・・・・や、やめろぉ~~////////」

 

儚い抵抗を見せるも

 

悟「はにゅうぅ~~~~~///////////」

 

あっという間に顔が緩み切っていく

 

かつて一度だけ勇気を振り絞って南華老仙と話をしたことがあった

 

だが、ガサツな上に男に慣れていない自分は本人を前にすると暴言しか出てこなく、しまいにはメガトン如意棒で攻撃してしまう始末だった

 

その攻撃は全て躱され当たることは無かったが、完全に嫌われたと思った

 

しかし、そんな無礼の数々を働いたにも拘らず、南華老仙はそんな自分に優しく接してくれた

 

その時に初めて他人から女の子として扱われ頭を撫でてもらい、顔から火が出るほどに嬉しかったと同時に、またもや如意棒で攻撃してしまった

 

そんな大昔の思い出が頭の中で鮮明に蘇えってしまうほどに、一刀の手はかつての思い人を彷彿とさせた

 

戒「(クウちゃん、羨ましいよぉ♪)///////」

 

沙「(ああ、私ももう一度して欲しいです♪)///////」

 

そんな気持ちよさそうなクウちゃんを見て次の順番を待つ二人だったが

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

これを最後に、一刀はその場を去っていく

 

悟「あ、ああ・・・・・」

 

沙「ま、待ってください!!」

 

戒「行かないで、老仙様!!」

 

頭を撫でている間もずっと無表情だったことから、彼がどれだけの悲しみと業を背負っているのかが窺い知れる

 

何も言わずに去るその後ろ姿は、かつての外史での事故により消えてしまった自分達の思い人と重なる

 

沙「なんて、なんて儚いお人なのでしょう・・・・・南華老仙様に瓜二つです・・・・・」

 

戒「うん、管輅ちゃんがどうしてあの人に拘るかわかるよ、管輅ちゃんも老仙様が大好きだったもんね・・・・・」

 

悟「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管輅「あの子達、余計なことを////////」

 

公衆の面前で自分の初恋を暴露され、恥ずかしい気持ちでいっぱいな管輅だったが

 

「・・・・・・・・・・」

 

映像を見ていた一同はそんな管輅を弄る気にはなれなかった

 

一刀と刀誠の私闘が終わった後、管理者達から一刀が神仙南華老仙の末裔であることは聞かされていた

 

そして、その南華老仙がどんな神仙でどんな最後を辿ったのかも

 

敵からでさえ憐れみを受けてしまう一刀の儚さに、一同は胸が締め付けられたまらなかった

 

それと同時に、あの三人を殺さなかったのは、相手が女で見目麗しい美少女だから、などという下らない理由からではない

 

今の一刀に、そんな男女の概念などはない

 

あれくらいの相手ならいくらでも退けられる絶対的な確証と自信からの行動である

 

殺す気ならあの瞬間に彼女達は、何回殺されていたか分からない

 

要するに、殺す価値すらなかっただけという事である

 

貂蝉「南華老仙様もモテモテだったものね・・・・・」

 

卑弥呼「うむ、あのお方ほど女仙に愛された人はおるまい・・・・・」

 

貂蝉「でも、もう一人いたことない?」

 

卑弥呼「確かにいるが、果たして来ておるか・・・・・出来れば、あの人とご主人様が戦うところは見たくない」

 

貂蝉「そうねん、あの人と南華老仙様は多くの外史を共に駆け抜けた戦友だったもの・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

六人の神仙を下し石段を登っていく

 

残りの踊り場も少なくなってきて、いよいよ頂上が目と鼻の先まで近付いてきた

 

ピシャ~~~~ン!!!!!

 

すると突然、石段を登っている途中で落雷が襲ってくる

 

それを躱し、10段ほど下がったところで上を見上げた

 

???「よくも某の家来達を可愛がってくれたな」

 

踊り場から現れたのは、左手に杖を持った一人の僧侶だった

 

???「某の名は三蔵、かつて無何有の里天竺にて悟りを開いた僧である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貂蝉「やっぱり、あの子達が来ているという事は、三蔵ちゃんも当然来ているわね」

 

百合「ということは、あの人がさっきの三人の・・・・・」

 

卑弥呼「うむ、あれがおとぎ話の主役、三蔵法師よ・・・・・そして、先程の子らの主人である」

 

杏奈「しかし、あの三人はあの人を主人として見ていなかったような・・・・・」

 

華陀「ああ、大して尊敬の念を感じなかったぞ・・・・・」

 

管輅「あの旅は、彼だけの力で成し遂げられたものではないもの、あの子達の助力があったればこそね」

 

卑弥呼「あ奴はあの子らを部下や子分として見ているが、あの子らの思い人はあくまで南華老仙よ」

 

柊「なるほど、一方的な主従関係なんですね・・・・・」

 

雛罌粟「なんだかあの子達が気の毒になってきたよ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三蔵「流石、天を背負う者である、先程の某の妖力よくぞ躱した・・・・・だが!」

 

左手の杖を掲げると、三蔵の周りに雷、火、水、土の力が表れる

 

三蔵「先程の雷光だけが某の力と思うなかれ、某はあらゆる妖力を使える、貴殿に勝ちはない!!」

 

迸る雷鳴、燃え盛る焔、唸る激流、猛る土砂が襲い掛かってくる

 

だが、この四つの属性による一斉攻撃を一刀は苦も無く躱した

 

三蔵「むう、忌々しい、そのすまし顔・・・・・かつての南華老仙を彷彿とさせる・・・・・」

 

しかし、どうも様子がおかしい、まるで全身痙攣でも起こっているかのように体が震えている

 

それが怒りの感情からきているのはなんとなく分かる

 

三蔵「あの優柔不断で好色家で八方美人な色物神仙めが・・・・・多くの女仙に囲まれ、見せ付けてくれおって・・・・・」

 

どうやら、攻撃を躱されたことより、別の事で憤っているようだ

 

三蔵「それだけならいざ知らず、某の家臣の心までも奪いおって・・・・・某だって、某だって・・・・・」

 

そして、体の震えが臨界を突破し

 

三蔵「某だって女の子にちやほやされたいんじゃーーーーーー!!!!!」

 

一気に感情が爆発した

 

三蔵「某だって、今やあ奴に引けをとらんくらいの力を備えておるというのに、なのにどの女仙も寄ってこん・・・・・だから、あの超絶たらし神仙は子々孫々まで憎み通す!!!」

 

どうやら今回の事を引き受けたのは、単なる嫉妬心からだったようだ

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

そんな三蔵法師のご口舌にも一刀は相も変わらず興味なさげだった

 

それはそうであろう、いかに自分がその先祖と似ているからと言われても、何千年、何万年前かも分からない先祖など赤の他人も同然なのだ

 

そのような話を持ち掛けられたら、誰でも一刀と似たような反応をするであろう

 

不死身体質の神仙の理屈を持ってこられても、いい迷惑である

 

三蔵「そんな貴様には、某が幾千年もの間ため込んだ怨念を思い知らせてくれよう・・・・・きいいいいいえええええええ!!!!!!」

 

杖を振り回し、右手の人差し指と中指を立て念を込める

 

すると、周りの木々、空気までもがざわつき始める

 

キョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 

次の瞬間、二人の周りに大気を埋め尽くさんばかりの無数の怨霊が表れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百合「きゃあああああああああああ!!!??」

 

杏奈「な、なんですか、この奇怪な声は!!!??」

 

華陀「ぐうおっっ!!!??何だ、これは!!!??」

 

柊「うああああああああ!!!耳がああああああああ!!!」

 

雛罌粟「頭が割れるううううううううううう!!!」

 

無数の怨霊達が放つ声

 

その身の毛もよだつ奇声は、ただ映像を通して見ているだけの一同にも容赦なく襲い掛かる

 

例え耳を塞いだところで、骨伝導のように頭に直接声が響いてきて立っていることも出来ない

 

管輅「っ!!」

 

水晶に何かの術式を施す管輅

 

すると、音が遮断され、まともにものが聞こえるようになる

 

杏奈「はぁ、はぁ・・・・・何だったのですか、今のは・・・・・」

 

管輅「死霊による、怨嗟の声よ」

 

百合「怨嗟の声、ですか・・・・・」

 

華陀「確かに、幾重にも重なる強力な邪念を感じた・・・・・」

 

貂蝉「三蔵ちゃんが扱えるのは、雷、火、水、土の妖術だけじゃないわ、同時に闇の妖術も会得しているのよ」

 

卑弥呼「あれは厄介であるぞ、なにせ呪いと大差ないからな」

 

管輅「ええ、文字通り躱すことも、防ぐことも出来ない・・・・・さっきのはまだマシな方よ、発生元に行けばあの何十倍もの苦しみを味わうことになるもの」

 

柊「な、何十倍ですか!!!??一様は大丈夫なんですか!!!??」

 

雛罌粟「大丈夫なわけないよ!!!こんなの立っているのだって精一杯なのに!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三蔵「ははははははは!!!この死霊共は、貴様が殺した者共だ、それに加え某の幾千年分の恨みつらみを上乗せしているのだ、怨嗟の念に飲み込まれ、その身悉く磨り潰れるがいい!!!」

 

空間を塗り潰さんばかりの怨霊達の怨嗟の声、それは先ほど使った四つの属性による攻撃の比ではない

 

いかに圧倒的な俊敏性と回避能力を持っていても、音を躱す事など出来はしない

 

その全方位空間攻撃を一刀はまともに受けていく

 

しかし

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

そんな神経が麻痺しそうな怨嗟の声の中、一刀は一歩足を踏み出した

 

三蔵「(おい、何故倒れない、何故立っておる・・・・・何故、歩けるのだ・・・・・)」

 

これまでこの術を受けて無事に済んだ者など、同じ神仙を除けば一人もいないというのに

 

相変わらずの無表情でまばたき一つせず、確実に石段を上る一刀をこの世の物とは思えないような目で見つめる三蔵

 

ドスッッ!!

 

三蔵「がはぁっっっ!!!!!」

 

そして、普通に目の前にまで近付いた一刀の貫手が三蔵の腹を突き背中まで貫く

 

怨嗟の声は一瞬で消え、辺りには静寂が戻った

 

一刀「なんだ、今の生っちょろいおまじないは?俺が毎晩見ている悪夢の方が、よほどリアルで生々しいぜ」

 

三蔵「ご、は、あぁぁ・・・・・」

 

貫手を引き抜けば、大量の血を吹き出し、三蔵は仰向けの大の字に倒れ伏した

 

一刀「七人目・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柊「そんな、あれがおまじないって・・・・・」

 

雛罌粟「ご主人様は、普段どんな悪夢と戦っているんですか・・・・・」

 

華陀「一刀、お前という奴は、どれだけの苦しみを背負っているんだ・・・・・」

 

百合「ああ、あああああ・・・・・一刀君、一刀君・・・・・」

 

杏奈「ご主人様・・・・・~~~~~~っっ!!・・・・・ご主人様ぁ・・・・・」

 

更に頂上へと向かう一刀を見ると、涙が溢れて止まらない

 

一刀の背負う業の深さ、自分達が彼の立場だったらその重みに耐えられるだろうか

 

彼の苦しみを想像する事しか出来ない自分達を嘆かずにはいられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後の踊り場に到着する

 

???「やあ、南華老仙の末裔君・・・・・僕は・・・・・」

 

今度は物凄く成端な顔立ちの、それこそ10人の女性がいたら10人が振り向きそうな好青年が表れる

 

しかし

 

ズバシィッッッ!!!!

 

???「があぁっっっ!!!!!??」

 

いい加減付き合うのが面倒臭くなったのか、今度は一刀の不意打ちがきまる

 

強烈な飛び右回し蹴りを顔側面にくらわし、謎の好青年を吹っ飛ばした

 

蹴りの衝撃により首が折れ、好青年は地面に横たわる

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

そして、何も見ていないし聞いていないかの如く次の石段に向かう

 

だが

 

???「せっかちな奴だね、君は・・・・・せめて名乗らせてくれてもいいんじゃないの?」

 

後ろから同じ声音が聞こえてきて振り向く

 

そこには、笑顔でフレンドリーに話しかけてくる好青年が居た

 

へし折ったはずの首は、何事も無かったかのように元に戻っていた

 

???「僕は太公望、君の先祖南華老仙とは親友とまではいかないけど仲良くさせてもらったよ、一緒にいろんな外史を旅して・・・・・あの頃は楽しかったなぁ」

 

空を見上げ、かつての旧友に思いを馳せる太公望

 

その顔は切なさを滲ませていた

 

しかし

 

ドゴキッッ!!!

 

太公望「ごぐあっっ!!!!!」

 

そんな他人の思い出話など聞く耳持たないと言わんばかりに、再び一刀の不意打ちが襲う

 

今度は喉に正拳突きをくらわし、気道を潰す

 

拳に気道どころか首の骨が砕ける感触が伝わってきた

 

間違いなく即死確定のはずだが、それでも太公望は倒れなかった

 

太公望「本当にせっかちだね・・・・・僕と彼の馴れ初めの一つも聞いてくれよ?」

 

その傷は、あっという間に治っていく

 

一刀「・・・・・興味がない」

 

太公望「そうかい、それは残念だ・・・・・」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美羽「な、なな、なんなのじゃ、あれは・・・・・」

 

七乃「き、気持ち悪いです~~!」

 

嵐「おい、何故死なないのだ!!?」

 

致命傷そのものの傷を二回も負ったはずなのに、ケロッとしている好青年を見て一同は背筋を寒くする

 

卑弥呼「あれが、周の軍師、後の斉の始祖・・・・・」

 

冥琳「そんなことはどうでもいい!!それよりなんだ、あの化け物は!!?」

 

思春「どう考えても致命傷だぞ!!あれが治癒の術とでも言うのか!!?」

 

これまでの神仙達は、あれくらいの傷を負えば沈黙していたのに

 

どうもあの好青年は他の神仙とは何かが違うようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太公望「常人なら間違いなく死んでいるはずの傷を二回も受けているのに死なない、いったいどういう仕組みなんだって顔をしてるね・・・・・簡単なことだよ♪」

 

両手を横に広げ、満面の笑みで説明をしだした

 

太公望「僕は他の神仙よりも不死身体質が際立っていてね、ちょっとやそっと死んでも死なないんだ、この不死身ぶりを生かして、伝説と呼ばれる南華老仙と肩を並べて来たんだよ・・・・・だからちょっと殺したくらいで、僕は殺せないよ♪」

 

得意満面に、笑顔で説明を終える太公望だったが

 

一刀「そうか、殺しても死なないのか・・・・・なら、殺し続けたらどうなる?」

 

太公望「え?」

 

ズドグジャバキンバキバキバキブシュゴギャドゴンズガガガバグンズギュルドグアアゴキイイズドドドボゴオ!!!!!!

 

太公望「あがぎゃばふぼがべひゃぶぎゅびごべひゃぶぎぼげぎょぐぶびゃばああああああああああああ!!!!!!」

 

子の型分歩の究極形、質量のある残像を三体生み出し、合計4人の一刀が一斉に太公望に襲い掛かる

 

あらゆる角度から貫手が差し込まれ、あらゆる打撃技が叩き込まれる

 

4人の攻撃が連動し体内の奥深くまでダメージが浸透していく

 

体中の骨があらぬ方向へと曲がり折れ、あらゆる器官臓器が抉り抜かれる

 

そして、三体の分身体が消え一人に戻った一刀は手に付いた血を振って落とす

 

一刀「あんたは今、4352回死んだ」

 

太公望「あば、ぼうぁ・・・・・」

 

成端な顔立ちも見るも無残な奇形腫へと変貌を遂げ、虫の息状態となった太公望は地面に横たわる

 

どうやら一度に数えきれないほど死んだせいで、再生速度が追い付かなかったようだ

 

傷が治ることもなく二度と動くことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管輅「・・・・・凄まじいとしか言いようがないわね」

 

卑弥呼「むぅ、あの太公望は我ら神仙の幹部の一人だったんじゃがのう・・・・・あ奴が南華老仙と並ぶモテモテ神仙だったんだが、話す機会が無かったな」

 

貂蝉「太ちゃんは、その不死身ぶりを過信せずに真面目に武の鍛錬をしていたわ・・・・・無手の技だったらあの宋ちゃんにも引けは取らないもの、だから彼もモテていたのよ、ただ不死身なだけならゾンビと何も変わらないしね」

 

管輅「そんな太公望様が何も出来なかったなんて・・・・・彼の力は、刀誠どころか南華老仙様をも超えているわ」

 

冥琳「そんな一刀に、左慈と于吉が適う筈がない?・・・・・」

 

思春「理屈で言えばそうなのだが・・・・・」

 

嵐「一刀、頼む行くな、行かないでくれ・・・・・」

 

美羽「七乃やぁ~~、一刀を止めてたもぉ~~~~・・・・・」

 

七乃「・・・・・・・・・・」

 

そう、理屈で言えばそうであるが、どうにも胸騒ぎを覚えてしまう

 

一刀が強いのは分かり切っていることであるが、彼が強ければ強いほど胸の中の不安は増すばかりだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とうとう頂上に辿り着く

 

神殿の正門をくぐり、外壁に囲われた中庭へと入る

 

その中庭は奇麗に手入れをされた、現代であれば世界遺産に認定されてもおかしくない

 

夜という事もあり、月明かりも手伝って幻想的な雰囲気を醸し出す

 

それくらいに美しい庭園だったが、そんなものには目もくれず一刀は神殿へと向かう

 

しかし、その庭園の中央付近にまで来ると独特な空気の乱れを感じて立ち止まる

 

その乱れを、一刀は知っている

 

神農「最後の二人は、儂と同じ神仙幹部だったんじゃがのう、ここまでほぼ無傷で辿り着くとは恐れ入る」

 

龍奈を殺した張本人だった

 

眼前に、立ち塞がる様に空間から現れる神農

 

神農「流石は老仙の末裔といったところか、お主を見ていると儂も否応なくあ奴を思い出すぞ」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

しかし、現れた龍奈の仇を前にしても一刀は変わらず死んだ目をしていた

 

神仙「ふむ、興味がないか・・・・・では、もっと面白い話をしよう♪」

 

突然満面の笑みを浮かべる神農は、明るく語りだした

 

神農「教えて進ぜよう、お主がこの世界に来て殺した具体的な人数を・・・・・なんと、合計192万8459人じゃ♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

神農「ただし、これはかの反董卓連合で死んだ敵味方も含まれておるのじゃがのう・・・・・惜しいのう、あと少しでダブルミリオン達成じゃぞ♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

そんな神農のあまりに皮肉ぶった言葉など聞こえていないが如く、一刀は神農の脇を素通りしていく

 

神農「・・・・・なんじゃ?お主の思い人を殺した張本人が目の前にいるのに、何もせぬのか?あの龍族を殺されて悔しくないのか?仇を討ちたいと思わなんだ?」

 

横を通り過ぎていく一刀を目で追い、疑問をぶつける

 

一刀「悔しくはある・・・・・でも、俺はあんたを憎まない」

 

神農「ほう、それは何故かのう?」

 

一刀「俺に誰かを恨む権利も、資格もないことは、俺が一番よく解っている・・・・・ましてや敵討ちなんて、論外だ」

 

神農「・・・・・・・・・・」

 

一刀「俺は左慈に用があってきているんだ、あんたが邪魔をしなければ、俺はあんたに手を出さない・・・・・ただし、邪魔をするなら容赦はしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「一刀様ぁ・・・・・あ、ああう・・・・・」

 

菖蒲「どうして、そこまで・・・・・一刀様ぁ・・・・・」

 

蓮華「ひっぐ・・・・・一刀ぉ・・・・・えっぐ・・・・・」

 

零「どうしよう、どうすれば・・・・・ご主人様ぁ・・・・・」

 

純夏「一刀ぉ・・・・・一刀ぉ・・・・・」

 

時雨「旦那様、ぐすっ・・・・・旦那様ぁ・・・・・」

 

村長「どうして儂は、こんなにも無力なのじゃ・・・・・」

 

涙が溢れて止まらない

 

自分達には彼の心の傷を癒す事は出来ない、ましてや彼を救うなど夢のまた夢

 

出来たとすれば、それは龍奈だけであったろうが、おそらく彼女でも難しいのであろう

 

仇を目の前にしても自らを律するその姿は、余りに痛ましい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神農「・・・・・ふっ、見事なまでの筋の通しっぷり、正に侍の鏡じゃのう♪」

 

後ろを去っていく一刀に賞賛の言葉を贈る神農だったが

 

神農「じゃが、こちらも簡単にお主を通してやれるほど、心は広くないぞ!」

 

上着を脱ぎ捨て、上半身を晒す

 

その体は、貂蝉と卑弥呼かそれ以上のガタイであった

 

神農「儂もかつては、卑弥呼と共に漢女道を極めた身、この美麗なる肉体を持ってお主の進行、止めて見せようぞ!!!」

 

ボディービルダーのようなポーズを取りながら、筋肉をアピールする

 

胸筋が波打つように動き、いかに強靭な肉体かを物語る

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

しかし、全く興味がなく振り向きもしない

 

呼び掛けに一切反応せず、神殿へ歩を進める

 

神農「行かせぬと言っておるのだ・・・・・きょえええええええええええ!!!!!」

 

そして、その筋肉量からは想像も出来ない速さで間合いを詰める

 

奇声を上げながら、一足飛びで一刀の背中へと貫手を繰り出した

 

ドスンッッ!!!

 

その貫手は、真っ直ぐに一刀の背中に突き刺さった

 

神農「なんじゃあっけない、これでは興ざめ・・・・・が、あああああああああ!!!!!??」

 

確かに自分の貫手は一刀の背中を貫き、その手応えは確かに伝わってきた

 

なのに、それと同時に自分の背中から激痛が襲ってくる

 

まるで何かに心臓を刺されている感覚である

 

神農「こ、これは・・・・・」

 

激痛により霞む意識の中、貫手を突き刺した一刀の姿が消えていく

 

一刀「・・・・・こっちだ」

 

振り向くと背後に一刀の姿があり、逆に神農の背中に貫手を突き刺していた

 

子の型分歩の究極形、質量のある残像を囮にし、巳の型回歩で後ろに回り込む

 

三本貫手による人差し指、中指、薬指が心臓まで達し、神農の体がガタガタと震える

 

一刀「言ったよな、邪魔をするなら容赦はしないと・・・・・」

 

ブシュウウウウウウウウウウウウウ!!!!

 

神農「がふ、ああああ・・・・・」

 

指を抜くと、龍奈と同じように背中から大量の血を吹き出し、神農はうつ伏せに倒れ伏した

 

一刀「はぁ・・・・・結局、仇を討っちまったな・・・・・」

 

そして、動かなくなった神農を捨て置き、一刀は神殿へと歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卑弥呼「・・・・・神農が、我が盟友が、あのような」

 

貂蝉「ねえ、本当にあれが伝説と呼ばれる神農の実力なの?」

 

管輅「分からないわ、あれが神農様の実力というなら、この外史の北郷一刀の強さが異常としか言いようがないわ・・・・・」

 

この三人も神農が表れた時には、絶対に苦戦するであろうと予測していた

 

しかし、余りにあっけない結末に開いた口が塞がらなかった

 

そして、とうとう一刀が神殿へと到着し中に入ろうとしたところで

 

バチィッ!!

 

管輅「きゃっ!!??」

 

突然、水晶に電流が走り、宙に映し出された映像が乱れ、消えた

 

雪蓮「ちょっと、なんで消すのよ!!??」

 

管輅「違うわ、消したんじゃなくて、消えたのよ!!」

 

もう一度神殿内部を映し出そうとするも

 

バチィッ!!

 

再び電流が走り投映がキャンセルされる

 

管輅「・・・・・何かの結界が貼ってあるわね」

 

貂蝉「何かって、管輅ちゃんも知らない道術でも使われているの?」

 

管輅「ええ、私もこんなことは初めてよ・・・・・」

 

華琳「それより、神農が倒されたんだからこの結界も消えるはずじゃないの!!?」

 

桃香「あ、そう言えばそうです、どうして消えないんですか!!?」

 

映像で神農が倒されたところは確かに見た

 

なのに、目の前の赤い結界は健在だった

 

卑弥呼「おそらく、神農に止めを刺しきれておらんからであろう」

 

貂蝉「ええ、道術はそれを使った神仙が自分で消すか、術発動の射程外にまで移動するか、もしくはその神仙の意識が完全に断たれるかでしか消えないわ」

 

水晶で倒れている神農を映し出すが、生きているのか死んでいるのか判断がつかなかった

 

雪蓮「もう、とっとと死になさいよ!!」

 

華琳「汚らしい肉塊ね、今すぐにでも焼き滅ぼしてやりたいわ!」

 

桃香「ご主人様の為に、早く死んでください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、映像が消え一同が焦っている間に、一刀は神殿の中心、正殿の中へと足を踏み入れた

 

左慈「待っていたぞ北郷、お前を殺せるのは俺だけだ」

 

一刀「・・・・・その言葉、受け取らせてもらうよ、左慈」

 

床に敷かれた巨大な絨毯の中央にて仁王立ちしている左慈を見て、一刀は少しだけ微笑んだ

 

左慈「なんだ、気持ち悪い・・・・・そんなに俺に会ったのが嬉しいか?」

 

一刀「ああ、嬉しいね・・・・・お前が想像以上に強くなってくれているのが」

 

ただ立っているだけでも伝わってくる、とんでもなく大きく強い波動が

 

間違いなく、一刀がこれまで戦ってきた中で一番の相手がそこにいた

 

左慈「そうか、なら早速やるか・・・・・」

 

そう言って構えを取る左慈だったが

 

一刀「ちょっと待ってくれ、その前に少しだけ話をさせてほしい」

 

それを制して、一刀は話を切り出した

 

左慈「断る、こっちも早く次の外史に行きたいんでね、貴様だけにダラダラと付き合っちゃいられない」

 

一刀「そう言わないでくれ、少しだけでいいんだ、俺の話を聞いてくれ・・・・・答えてくれなくてもいい、ただ聞くだけでも構わない」

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

これほどの北郷一刀に会える機会はほとんどないであろう

 

少しだけ興味が湧き、構えを解き耳を貸すのだった

 

一刀「ありがとう・・・・・」

 

感謝の言葉を述べ、少しだけ俯き気味に、しかし目だけは左慈の顔を真っ直ぐに見つめ話を切り出した

 

一刀「俺はさ、自分がこの世界に来たわけをずっと考えていた、当初は北郷家が追い求めてきた侍の理想がここでなら目つかるかもって、楽観的に考えていた・・・・・けど分かったのは、そんな理想なんて存在しないっていう、ちょっと考えればわかる・・・・・本当に馬鹿馬鹿しい答えだったよ」

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

一刀「こんな簡単な答えをようやく導き出せたのは、龍奈と暮らし始めてからだった・・・・・だけど、それすらも俺には許されなかったんだ・・・・・そんな普通の生活も俺には過ぎた幸せだったんだ・・・・・」

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

一刀「龍奈が俺の所を訪ねて来た時、俺はどんなことをしても龍奈を退けて、遠ざけるべきだったんだ・・・・・そうしておけば、龍奈は神農に殺されることもなかったのに・・・・・」

 

左慈「なに!?」

 

この言葉にハッとして、一瞬で千里眼を発動する

 

泰山の周辺を見渡しても、あの龍族の姿はどこにも無かった

 

龍奈が殺された時、左慈はまだ例の部屋にいたのでその事を知らないのは無理もなかった

 

左慈「(確かに何処にも居ない、あの龍ならこいつがいる所には真っ先に飛んでくるはず・・・・・ということは、神農の奴が殺したというのは本当か・・・・・・・・・・だが、これは・・・・・)」

 

この状況にどうにも拭いきれない違和感を覚えるが、そんな左慈の心境を知ってか知らずか、一刀は続けた

 

一刀「龍奈は、俺が殺したも同然だ・・・・・龍奈に会った時に俺がしかるべき対応をしていれば、龍奈は死なずに済んだろうし、龍族がこの世界から消滅することもなかったんだ・・・・・」

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

一刀「知っているか?・・・・・龍奈が死んだ時、俺は泣けなかったんだ・・・・・彼女の死が悲しくて、彼女を救えなかった事が悔しくて、途方もなく胸が締め付けられているのに、一滴の泪も出なかったんだ・・・・・もう何もかも枯れ果ててしまった・・・・・血も涙もない人間っていうのは、文字通り俺みたいな奴の事を言うんだろうな・・・・・」

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

一刀「龍奈と暮らしたあの日々は、俺にとってこの世界に来てから一番の幸せだった・・・・・けど、それも結局は夢・・・・・覚めない夢でも見ているつもりだったんだ・・・・・いつの間にか、覚めてしまったかな?」

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

何処までも切なそうな一刀の物言いに、左慈は考える

 

こいつの望みは、人間としては極々普通の生活、とてもささやかな幸せだけだった

 

これ以上なく平凡、一庶民として生き、普通に子供に恵まれて、普通に死んでいく

 

高望みなどしない、そんな当たり前の人生を生きたかったのだ

 

しかし、それすらも叶わなかった、そんな些細な夢すらもこいつは果たせなかった

 

それは、自由という人間なら誰しもが望む、自分達が欲して止まないものと何の違いがある

 

こいつは、今もなおそんな誰しもが望むものすら手に入れられないでいる自分達と何も違いが無いのではないかと

 

一刀「なあ左慈、お前は俺より強くなったか?俺を殺せるくらいに強くなったか?俺のこの覚めない夢を、終わらせてくれるか?」

 

左慈「ふんっ、相変わらずの死にたがりか・・・・・ならば自害でもすればいいだろうに」

 

一刀「その選択は俺の中にはない、俺は誓ったからな、俺は俺以外の人間にしか殺されてなんかやらないって、だから俺はかつて雷刀を退けたんだ・・・・・だから俺は、いつか俺を殺してくれる奴が表れてくれると思っていた、それはきっとこの世界の住人なんだろうと思っていた・・・・・だけど、まさかお前のような奴が来るとは思ってもみなかったけどな」

 

左慈「ならば素直に俺に殺されたらどうだ?今の俺なら何の痛みも感じさせずに一瞬で殺せる自信があるぞ」

 

一刀「ところがだ、厄介なことにこれまで山賊狩りなんてやっていた反動なのか、俺の体は俺に向けられる殺意には勝手に反応してしまうんだ、だから俺を殺してくれる奴は俺よりも強くなくちゃいけないということになる」

 

左慈「確かに厄介な野郎だ、死にたくても死にきれない宙ぶらりんか」

 

一刀「なんでかな・・・・・皆の記憶を奪われ、挙句の果てに龍奈まで死なせたってのに・・・・・・それでも、それでもさ・・・・・」

 

そして、俯きながら話していた一刀は、ゆっくり顔を上げ真っ直ぐに左慈を見据えた

 

一刀「それでも俺は、お前と友達になりたいんだ」

 

その瞳は少しだけ光を取り戻し、満面とはいかないまでも、笑顔が零れ落ちていた

 

左慈「・・・・・・・・・・」

 

心の中は悲しみで溢れ返っているのに、精一杯の笑顔を見せてくる

 

この姿勢を見てもこの男が伊達や酔狂ではなく本気で言っていることが伝わってくる

 

だが、だからこそその言葉が左慈の心に届くことは無かった

 

一刀「まぁ、こんなことを今のお前に言ったところで、戯言や虚言にしか聞こえないんだろうな・・・・・どの道お前とはこうなる運命だったんだろうし、今はお互いの納得のいくまで殴り合おう」

 

そして、自ら構えを取り、一刀は自分の名を名乗った

 

一刀「北郷流二十一代目宗家、北郷島津守一刀・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                               参る!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷刀「・・・・・ふぅ、隠密行動もなかなかしんどいぜ」

 

ここは神殿の裏側、一刀と左慈が対峙している正殿から壁二枚を隔てた通路を雷刀は歩いていた

 

一刀とは真逆の方向、切り立つ断崖絶壁を登ってきた

 

神仙の千里眼の事は知っていたので、それに注意して侵入を試みたのだが

 

雷刀「ふむ、あの阿呆は左慈と接触したか・・・・・なら、俺の相手は・・・・・」

 

通ってきた通路を振り返ると

 

于吉「これ以上先へは、行かせませんよ」

 

雷刀「よう于吉、しばらくぶりか」

 

そこには雷刀にとっては、ある意味因縁の相手がいた

 

ある程度想像出来ていたことだが、どうやらそんな隠密行動は無意味だったらしい

 

一刀がここに来るなら、その裏の雷刀も来るなんてことは誰でも想像出来るだろう

 

千里眼以前の問題である

 

雷刀「あっちもそろそろ始まる頃合いだろうし、こっちもあの砂漠での約束を果たすとするか」

 

そして、全身から邪気を放ち臨戦態勢をとるが

 

于吉「それ以上虚勢を張るのは止めることですね」

 

その邪気を目の当たりにしても于吉は冷静だった

 

于吉「いかに寿命が伸びたといっても貴方方は余命幾許もないのに変わりはありません、少し無理をすればあっという間に元通りですよ」

 

雷刀「あの阿呆が無駄に生き急ぎやがったんでな、あいつと繋がっている俺からすりゃいい迷惑だ」

 

于吉「それはお気の毒としか言いようがありませんが、同時に自業自得と言えるのでは?」

 

雷刀「その通り、あの阿呆は俺、俺はあの阿呆・・・・・山賊狩り期間、何度もあいつを諫めてきたが、結局止めることが出来なかった・・・・・そういう意味では俺もあいつと同罪なんだろう、だからこそあの阿呆を断罪するのが俺が生まれた意味なんだろうがな」

 

于吉「でしたら、今からでも遅くはないのではありませんか?我々と協力し、共に北郷を討とうではありませんか」

 

雷刀「そうもいかねえ!」

 

そして、更に邪気を増大させ雷刀は構える

 

雷刀「結局俺もあの阿呆が、この世界が、この世界に生きる阿呆どもが好きになっちまったんだ!!強い奴らさ、どんなに苦しくても、どんなに悲しくても、どんな結末が待っていようと立ち上がり進んでいく!!」

 

この雷刀も一刀の、そして恋姫達の生き様に魅了された一人だった

 

雷刀「そうだ、俺は叶えてやりたいんだ、あいつらの夢を!!」

 

于吉「ええそう思うのは勝手ですしかし、それでもこの外史の北郷、そして彼を慕う者達の夢が叶うことはありません」

 

雷刀「んなことは分かってんだ、このスカポンタンが!!!」

 

于吉「・・・・・聞き捨てなりませんね」

 

雷刀「だったら自由になった後も永遠と抱えていろ!!北郷雷刀・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                            押して参る!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                             次回、激闘必至

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お久しぶりです、皆さん

 

令和最初の投稿、阿修羅伝か鎮魂の修羅、どっちを先に投稿しようかと悩みましたが、やはりここは皆さんも結末が気になるであろう阿修羅伝を選ばせていただきました

 

さて、今回登場した神仙達なんですが、男の神仙についてはこれといった設定はありません

 

あえて言うのであれば最初の始皇帝だけは、自称狂気のマッドサイエンティスト、鳳〇院〇真がモデルです

 

シュタゲは自分の中ではトップ5に入る大名作です、ユーチューブでもシュタゲ関連のゲームは殆ど見ているシュタゲ好きです

 

孤独の観測者、オカ〇ンは自分の心の友です

 

西遊記の三人娘は、にゃ〇こ大〇戦のギャラ〇シーギャ〇ズをモデルとさせていただきました

 

こちらのアプリゲームも、自分の一押しの大変面白いゲームです

 

そして、もう気付いている人もいるかと思いますが、鎮魂の修羅の話数を0から数え直すことにしました

 

一個ずつズレていきますので、今の話数は31話という事になります

 

そんなどうでもいいような話はさておき、やっとこさ投稿出来て阿修羅伝も軌道に乗るかと思いきや、またもやハイパー焦らしタイムです

 

ずっこけたあなた、これだけのワクワクドキドキ次回予告しときながらなんだーーー!!!てな気分でしょう、わかります

 

前にも言っていますが、鎮魂の修羅の方が長いので、おそらく今後10話くらい投稿してそれから阿修羅伝に行く予定です

 

では・・・・・かなり待て!!次回!!


 
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