No.1043367

恋姫英雄譚 鎮魂の修羅32

Seigouさん

抗辯の修羅

2020-10-14 00:58:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2570   閲覧ユーザー数:2282

???「ううううぅ、どこ・・・・・ここはどこですかぁ~~?」

 

荊州南陽の西側に位置する山道

 

周りを森に囲まれたこの場所を一人の女の子が歩いていた

 

???「・・・・・さんともはぐれてしまいましたし・・・・・一体どうしたらいいんですかぁ~~~」

 

どうやら相方がいるようだが、辺りには誰もいない

 

完全に道に迷ってしまっているようで右往左往しながら彷徨っている

 

その時

 

熊「グルルルルル」

 

???「ぴぎゃーーーー、くくくく、熊ぁーーーーーーー!!??」

 

いきなり道に出てきた熊に腰が抜け、その場にへたり込んでしまう

 

すると、彼女の股間から黄色い液体が溢れ出てきた

 

どうやら余りの恐怖にお漏らししてしまったようだ

 

???「・・・・・さーーーーん、私はここです、助けてくださいーーーーー!!!」

 

大声で助けを呼ぶが

 

熊「グルアアアアアア!!!」

 

こういった獰猛な動物を前に、それは一番やってはならないことその一である

 

混乱の余りそんな基礎的なことにも頭が回っていないようだ

 

???「きゃああああああああああ!!!!」

 

襲い掛かってくる熊に恐怖心の余り強く目を閉じる

 

しかし

 

ドゴンッ!!!

 

熊「ギャオン!!!」

 

???「・・・・・え?」

 

鈍い打撃音がして目を開けてみると、そこに居たのは

 

一刀「ったく、南陽に到着した途端にこれかよ」

 

完全に伸びた熊と、それを足蹴にする一人の青年

 

梨晏「おほぉ~~う、相変わらず凄いね、熊を蹴り倒すなんて相当な震脚がないと絶対出来ないよ」

 

そして、外套を身に纏い手には紅戟を持った栗色髪の女性だった

 

一刀「大丈夫・・・・・ですか・・・・・」

 

???「・・・・・?」

 

手を差し伸べてくる青年だったが、途端に硬直する

 

梨晏「ん、どうしたの?・・・・・あちゃ~~、やっちゃったねぇ~~」

 

二人が見つめているのは、謎の人物の下半身だった

 

????「・・・・・あ、ぷぎゃああああああああ!!!////////」

 

先ほど熊に襲われた時以上の叫び声が辺りに木霊する

 

彼女の股間から黄金の液体が流れ出ていた

 

どうやら恐怖のあまり盛大にお漏らしをしてしまったようだ

 

???「貴様ら何をしている!!!」

 

そこにもう一人女性が現れる

 

梨晏「あれって知り合い?」

 

???「あ、はい・・・・・あの人は・・・・・」

 

???「でえええええええい!!!!!」

 

一刀「うおっ!!?」

 

梨晏「ちょっと、何するんだよ!!?」

 

紹介する前にでかい棍棒を振り下ろしてきた

 

それを躱し距離をとる

 

???「大丈夫ですか、涙様!!?この私が来たからにはもう心配いりません!!」

 

???「あ、えっと・・・・・その・・・・・」

 

???「賊どもめ、このお方を南陽太守、劉度様と知っての狼藉か!!?」

 

一刀「は!!?南陽太守!!?」

 

梨晏「ええええええ!!?南陽の太守は袁術のはずだよ!!」

 

一体何がどうなっているのか訳が分からない二人だった

 

???「袁術は楊州の建業に移った、代わりにこの劉度様が南陽太守を務めていらっしゃるんだ!」

 

一刀「おいおい嘘だろ!!どうなってるんだ梨晏!!?」

 

梨晏「わかんないよ!!そんな予定無かったし!!」

 

???「訳の分からないことを言ってしらばっくれるな!!成敗してくれる!!」

 

そして、再び棍棒を振りかざし突進してくる

 

一刀「おい、少しは人の話を聞け!!」

 

梨晏「私達は賊なんかじゃないってば!!」

 

???「賊は皆そう言うんだ!!!」

 

問答無用で襲い掛かってくる猪女は、かつての華雄を彷彿とさせた

 

ズシンッ!!!

 

???「な・・・・・に、私の鈍砕骨を素手で受け止めただと・・・・・」

 

その等身大といえる鉄製の巨大棍棒を、なんと一刀は片手で受け止めていた

 

一刀「なあ梨晏、こいつどうしたらいい?」

 

梨晏「痛い目見せた方がいいんじゃない、こういう類は体で分からせた方がいいって」

 

一刀「はぁ・・・・・そういうやり方は嫌いなんだけど、なっ!!」

 

巨大棍棒を押し返し、相手を見据える

 

???「賊にしてはやるようだな、久々に骨のあるやつに巡り合えたぞ」

 

巨大棍棒を構え直し、油断なくこちらを伺う猪突猛進女だったが

 

???「や、止めて下さい焔耶さん!この方達は賊じゃありません!」

 

焔耶「は、しかしこいつらは涙様を襲って・・・・・」

 

涙「こ、この方達は、この熊から私を助けて下さったんですぅ!」

 

焔耶「は?熊って・・・・・うお!!?」

 

道端に倒れている巨大な熊に仰天する

 

どうやら焦って駆け付けてきたらしく、相当周りが見えていなかったようだ

 

焔耶「ほ、本当にこいつをお前達が倒したのか?」

 

一刀「だから人の話を聞けって」

 

梨晏「頭冷えたかな?」

 

焔耶「そうか・・・・・すまなかった・・・・・」

 

ようやく分かってもらえたようで巨大棍棒を下した

 

焔耶「我が名は魏延、迷惑をかけた」

 

一刀「っ!!?・・・・・魏延って」

 

梨晏「聞いたことあるよ、確か劉表の所の将にそんな名前があったね」

 

焔耶「劉表様は、孫堅との戦いの最中に病で亡くなられた・・・・・今の私は、新たに荊州州牧となられた黄忠様に仕えている」

 

一刀「まあ、荊州の州牧が交代した話は聞いていたけどな・・・・・ん、どうした梨晏」

 

いきなり梨晏は顔を寄せてきて、ヒソヒソと小声で話しかけてきた

 

梨晏「(どうしよう一刀、私もその戦に参加していたんだけど)」

 

一刀「(そういえばそうだったか、俺と華佗が孫堅さんを助けた・・・・・長沙の戦いだったな)」

 

梨晏「(うん、一刀はいいけど、太史慈なんて名乗ったら不味いかも)」

 

一刀「(かといって名乗らないのも不自然だし、偽名なんて使って後でばれたらややこしいことになるぞ)」

 

梨晏「(う~~~ん、そうだね・・・・・ここは一刀の言う通り堂々と名乗った方がいいかも)」

 

そして、ヒソヒソ話を終え梨晏は前に出た

 

梨晏「私は太史慈だよ」

 

焔耶「!!?・・・・・まさか、孫堅の!!?」

 

梨晏「そうだよ・・・・・どうする?敵討ちでもする?」

 

焔耶「いや、あれはもう終わったことだ・・・・・今や孫堅は袁術の客将に成り下がったし、黄忠様も過去の遺恨は水に流すべきだと言っておられたからな」

 

梨晏「そっか・・・・・まぁ、将一人を倒したからってそれで敵討ちと言うのも変だしね」

 

一刀「俺は北郷一刀だ」

 

焔耶「!?・・・・・北郷一刀って」

 

涙「あ、聞いたことがあります、幽州宰相にして天の御遣いの!!?」

 

一刀「ええ、その北郷一刀で間違いありません」

 

焔耶「なるほどな、天の御遣いは素手で敵兵を屠る強者だと聞いている、熊を倒し私の純砕骨を素手で受け止められるわけだ・・・・・」

 

一刀「屠るだなんて人聞きが悪い、俺は未だかつて人を殺したことなんかない」

 

涙「そ、それでは私もぉ・・・・・焔耶さんが先ほど言いましたが、私は劉度と申しますぅ、今は南陽太守を務めていますぅ」

 

焔耶「私は、その護衛としての任に就いているのだ」

 

梨晏「ちょっとちょっと、護衛が護衛対象から離れてどうするんだよ」

 

涙「え、焔耶さんは悪くありません!私が南陽の周辺を見たくて先に行ってしまったのがいけないんですぅ!」

 

焔耶「いえ、目を離した私に責がございます!」

 

梨晏「これはどっちもどっちかな・・・・・さて、自己紹介も終わったし、近くに小川があるからそこに行こう」

 

涙「え、どうして小川にぃ?」

 

梨晏「だって、そんな状態で歩き回っていいの?」

 

焔耶「・・・・・あ」

 

涙「え、あ・・・・・ぴぎゃあああああああああああ!!!!!」

 

今だ濡れたままの股間を抑えながら、再び涙の叫びが木霊するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、小川で全身を綺麗に清めた後、四人は南陽の街へと向かった

 

補足、なぜ涙と焔耶が南陽の街から離れこのような森の山道を歩いていたかというと、太守として現状報告をする為に州牧黄忠が滞在している襄陽を訪れるはずだったらしい

 

そこで偶然にも一刀と梨晏が遭遇してしまい、焔耶が迷惑をかけてしまったお詫びをするために南陽の街へ戻ることとなった

 

このまま襄陽に向かっても良かったのであるが、美羽の客将になってからというもの南陽が梨晏の拠点であったためどうなっているか確認したいのと、自分の持ち物もどうなっているか確認したかったので戻ることにした

 

ちなみに、涙は一刀と共に北斗に跨り、焔耶は徒歩で護衛をしている

 

一刀「それでだけど、劉度さんは零陵の太守だったはずだよね」

 

涙「は、はいぃ、しかしこの度袁術さんが建業に移られて、急遽零陵から移るように黄忠様に命ぜられましてぇ」

 

梨晏「零陵は大丈夫なの?」

 

涙「だ、大丈夫です、信用できる人に一任してきましたので」

 

焔耶「零陵でこのお方は善政を敷いて民達に大変親しまれている、政に関しては大陸十指に入ると私は見ているぞ」

 

梨晏「うん、桂陽の趙範、武陵の金旋、長沙の韓玄、そして零陵の劉度・・・・・この四人は荊州四英傑と呼ばれていて、大殿様も一目置いているよ」

 

涙「そ、そんな、私が英傑だなんて!他の英傑の方々に失礼ですよぉ!」

 

そのオドオドした物言いはとても太守とは思えない

 

北斗の上で身じろぎする涙は、一見すると普通の女の子にしか見えなかった

 

一刀「(おいおい、そんな動かないでくれ!)」

 

自身の前に抱き込むように跨っている涙、彼女が動く度に反応しそうになる我が息子を抑えることに必死になる

 

何せこのおもらしっ子ときたら、これまで会ってきた美少女達にも負けないたわわな果実の持ち主なので、否が応でも視界にその谷間が移ってしまう

 

こんな状況下で無心を維持する、これまでもしてきたことなのだから簡単に見えるが、決してそうではない

 

焔耶「ところで、どうして天の御遣いと孫堅の将がこんな所にいるんだ?」

 

涙「あ、それは私も気になっていましたぁ」

 

一刀「話すとちょっと長くなるけど、いいかな?」

 

焔耶「構わない、興味がある」

 

涙「わ、私も差し支えなければお聞きしたいですぅ」

 

一刀「分かった・・・・・俺と梨晏がここにいるのはな・・・・・」

 

そして、一刀はかいつまんでここに至る経緯を説明した

 

焔耶「そんな面倒臭いことをしているのか!?」

 

一刀「面倒臭いとはなんだ、戦争やその後始末の方が圧倒的に面倒だろうが」

 

涙「お気持ちは大変分かりますぅ、戦の悲惨さは私も存じておりますからぁ・・・・・戦のない世界、何て素晴らしいのでしょ~~♪」

 

一刀「だから俺は、この大陸、そして世界中の人達が戦争によって不幸にならない世の中を作りたいんだ」

 

涙「あぅぅ~、優しい人だぁ~、よかったぁ~////////」

 

彼の人の思想に触れ、その尊さに感銘を受けた涙は無意識に背中をもたれさせた

 

一刀「(お、おい・・・・・だからあんまり引っ付かないでくれ)///////」

 

ただでさえ匂ってくる女性特有の薫香が、密着することによって更に濃くなる

 

護衛としてきている焔耶の視線を気にしているというのもあるが、明鏡止水を決め込むのも骨が折れるのだ

 

そんなこんなをしている間に南陽の街に到着したが、そこには

 

鴎「え、うそ!!?一刀!!?」

 

一刀「鴎じゃないか!?久しぶりだな」

 

かつて幽州にて自分を攫いにきた忍?が街を覆う外壁の上に佇んでいた

 

焔耶「な、なに奴だ!?」

 

梨晏「あ~~、安心して、あの子は私の仲間だよ」

 

鴎「え、もしかして梨晏!!?」

 

今の梨晏は全身外套姿なので、一目見ただけでは誰なのか分からなかった

 

鴎「なんで外套なんかかぶってるのよ?」

 

梨晏「え、えと、それはその・・・・・あ、雨避けだよ!/////////」

 

鴎「ふ~~~~ん・・・・・ま、いいけど」

 

少し訝し気な鴎だったが、納得したのかそのまま外壁から降りた

 

言えない、一刀に付けられたキスマークがまだ消えていないからなんて

 

鴎「私は凌統公績、孫文台様に仕える者よ・・・・・それにしても、まさか大陸中を巡っている一刀と鉢合わせするなんてね」

 

一刀「ん、知っているのか?」

 

鴎「噂程度にね、なんでも変な同盟を結んで回ってるとか」

 

一刀「変とか言うなよ・・・・・それはそれとして、拠点を建業に移したと聞いているんだけど、どうして鴎がここにいるんだ?」

 

鴎「梨晏を待ってたのよ」

 

梨晏「え、私を?」

 

鴎「ええ、入れ違いにならないようにって、雪蓮様が」

 

梨晏「そっか・・・・・大分待たせちゃったかな?」

 

鴎「いいえ、大殿様達がここを発ってから七日も経っていないし、早い方よ・・・・・あと三日、梨晏が来なかったら私も建業に行くつもりだったし」

 

梨晏「それじゃあ、私の荷物とかは・・・・・」

 

鴎「大丈夫よ、一緒に持って行ったから」

 

梨晏「よかった~~、助かったよ~~、やっぱり持つべきものは友だねぇ~~♪」

 

戻ってくる意味がなかったような気がするが、鴎と合流できたことで良しと出来るだろう

 

涙「ではぁ、このまま皆さん一緒に襄陽までご一緒しませんかぁ?」

 

鴎「え、なんで襄陽に・・・・・って、うわぁっ、なんで劉度まで!?」

 

どうやら涙の存在に気付いていなかったようだ

 

今の今まで気付いてもらえないほど薄い存在感に涙が気の毒になってくるほどだ

 

焔耶「無礼であるぞ、貴様!!」

 

涙「い、いいえ、構いません!・・・・・この度、北郷様に色々とご迷惑をお掛けしてしまいましたのでぇ、この南陽にお招きしようかと思ったのですがぁ、ここにはもう用は無いみたいですしぃ、襄陽で黄忠様にもご紹介したいですしぃ」

 

一刀「それは、こっちからお願いしたいくらいだ!」

 

ここで嬉しい誤算が舞い降りてくれた

 

当初、荊州では南陽にしか出向かない予定であった

 

南陽はあくまで荊州の一部でしかないが、荊州代表と面会が出来るなら荊州全体との同盟締結も夢ではなくなる

 

二つ返事で一刀は襄陽同行を承諾するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一同は襄陽に到着する

 

一刀「相変わらず、ここは賑やかだな」

 

梨晏「あれ、一刀ってここに来たことあるの?」

 

一刀「ああ、前に華佗と一緒にな」

 

かつて華佗と共に賞金首を捕まえながら生活をしていた為、そいつらを突き出していた中に襄陽も含まれていた

 

その時に市に赴いていた為、襄陽の経済状況はある程度把握している

 

流石にこの荊州の首都だけあって、大通りは人、物、金の流れが活発だ

 

そんな活気溢れる大通りを歩いていくと、一つの人だかり、野次馬が見えてきた

 

「おいガキ、人にぶつかっといて何の詫びもなしかぁ~?」

 

「おおよ、親の顔が見てみてぇぜぇ~♪」

 

「怪我しちまったじゃねぇか~、諸馬代払いな、しょ、ば、だ、い~♪」

 

なんともベタな、チンピラのセリフとしか思えない声が野次馬の中から聞こえてきた

 

しかも言葉使いが微妙に間違っている

 

???「え~~、そっちからぶつかってきたんでしょ~!」

 

焔耶「この声は、まさか!!?」

 

野次馬の中から聞こえてくる可愛らしい声にハッとして焔耶は駆けだそうとするが、その前に一刀が動いていた

 

焔耶「っ!?なんだあの動きは!?」

 

野次馬達の間を、まるで流れる水の如く、それでいて隼のように縫うようにして移動する一刀に焔耶は戦慄した

 

「おい兄さん、何のつもりだ?」

 

「引っ込んだ方が身の為だぜ」

 

焔耶「お、おい!通してくれ!」

 

その後を追い、野次馬をかき分け、隙間からようやく一刀の姿を確認した

 

「はぁ!?なんだって、兄ちゃんよぉ!?」

 

一刀「もう一度言うぞ、いい大人が恥ずかしくないのか?」

 

「てんめぇ~~!!」

 

一人のチンピラが一刀に殴りかかるが

 

「かはぁ・・・・・」

 

いきなりチンピラは膝から崩れ落ちた

 

焔耶「っ!!?」

 

ほんの僅かしか見えなかったが、一刀の拳がチンピラの顎を掠め、脳を揺らし軽い脳震盪を起こさせたのである

 

「て、てめぇ、な、何しやがった!?」

 

一刀「少しお灸を据えてやったんだが・・・・・お前らも据えてほしいか?」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ひええええええええ!!!」

 

「俺達が悪かったあああああ!!!」

 

何をされたかすら分からなかったチンピラ達は、一目散や脱兎という表現が相応しいほどの逃げっぷりを見せた

 

???「あ、ありがとう、ございます・・・・・」

 

一刀「うん、ちゃんとお礼が言えたね、偉いよ」

 

???「えへへ~♪・・・・・璃々は璃々だよ~♪」

 

一刀「それって、真名の方だよね・・・・・呼んでいい方の名前は?」

 

璃々「えっとね、璃々は黄叙っていうんだよ」

 

一刀「は?黄叙って・・・・・」

 

焔耶「この子は、荊州州牧であらせられる、黄忠様の一人娘だ」

 

璃々「あ~、焔耶お姉ちゃんだ~」

 

焔耶「それにしても璃々、どうして一人でこんなところにいるんだ!?」

 

璃々「うぅ、お母さんからお使い頼まれて・・・・・」

 

焔耶「そ、そうか・・・・・災難だったな」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

通りで聞いたことのある名前である

 

『三国志』蜀書黄忠伝において、黄忠の実子として黄叙の名が記されている

 

しかし、黄忠が逝去した時には既に亡くなっており、他に後継者もいなかった事から一族は断絶となった、と記述されているのみで、いつ生まれたか、いつ死去したか、その死因についても全てが謎の人物である

 

その他の彼の事跡については全く書かれておらず、他の人物の伝にも一切名前が出てきていない

 

一刀「(この子も近い内に、親よりも先に逝ってしまうのか)」

 

歴史を知っている一刀からしてみれば、この子にはぜひ長生きをしてもらいたいと願うばかりである

 

一刀「俺も自己紹介をしないとね・・・・・俺は、北郷一刀だよ」

 

璃々「え、それって・・・・・」

 

焔耶「ああ、幽州の天の御遣いだ」

 

璃々「わぁ~~~、本当なの!?本当に御遣い様なの!?」

 

一刀「そうだよ、本物の天の御遣いだよ」

 

璃々「わ~~~い、本当の御遣い様だ~~~♪♪」

 

一刀「おおっと・・・・・元気な子だな♪」

 

いきなり勢いよく抱き付かれ、抱き上げる形となってしまった

 

璃々「璃々は璃々だよ、呼んでいいよ~~♪♪」

 

一刀「分かったよ、俺のことは北郷か一刀でいいよ」

 

璃々「わかった~~、一刀様ぁ~~♪♪」

 

鴎「・・・・・こうして見ると、まるで親子ね」

 

梨晏「愛娘を溺愛する父親って感じかな♪」

 

涙「ほ、微笑ましい光景ですぅ/////////」

 

抱っこをせがみ頬ずりをする子供と、あやす様に背中をさする男

 

その様はどこからどう見ても子連れのイクメンである

 

焔耶「・・・・・すまんが、あまり時間が無いのでな」

 

一刀「ああ悪い、それじゃ一緒に行こうか、璃々ちゃん」

 

璃々「は~~~い♪」

 

焔耶「璃々、頼まれ事は済んだのか?」

 

璃々「うん、もう終わったよ~♪」

 

焔耶「そうか、では参ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、焔耶と璃々の案内で襄陽の城へ招かれた一刀達であったが

 

梨晏「う~~~~ん、遅いね~~」

 

鴎「しょうがないでしょ、相手は多忙な州牧なんだし、私達だけに時間を取れるはずないわよ」

 

梨晏「まあね、おまけにこの荊州の州牧だもんね、大変なのは想像に難くないね」

 

荊州は、この国の真ん中に位置するだけあってあらゆるものの流れが活発な地域である

 

そんな地域の代表を務める者の労力ときたら、文字通り猫の手も借りたい程であろう

 

客間に通され、かれこれ2時間近く経っているのに入ってくるのはお茶くみ担当の侍女ばかりである

 

梨晏と鴎は、そんな侍女達が淹れてくれるお茶を片手に雑談をしていた

 

一刀「なんだこりゃ!?話には聞いていたけど美羽の奴、こんな悪ふざけをしていたのか!?」

 

涙「は、はいぃ・・・・・お、おかげで街の治安は悪く、政の腐敗は激しく、何から手を付けたらいいか・・・・・」

 

その隣では、一刀が涙の南陽の状況を事細かに記した報告書に目を通し度肝を抜かされていた

 

一刀「まぁ、完全に美羽のせいとは言い切れないか、周りの大人も子供の美羽に付け込んでいたんだろうし・・・・・巴と七乃さんも努力はしていたみたいだけど・・・・・」

 

涙「ううぅ、それでもあんまりですぅ、こんな無理難題を押し付けられるくらいなら、目立たなくても零陵でひっそりやっていた方がよかったですぅ・・・・・」

 

完全に涙目で途方に暮れる涙がどうしようもなく痛々しかった

 

一刀「はぁ・・・・・分かったよ、それじゃあ君にこれをあげよう」

 

涙「これは、何のご本ですかぁ?」

 

一刀「俺が国中を回って同盟を結んでいっているのは説明しているよね、これは各州の代表に渡している資料で、俺が幽州で実施している政策を細かく記載してあるんだ・・・・・腐敗政治の改善方、治安維持のやり方が載っているよ」

 

涙「ええええええ!!?そのようなものを頂けるんですかぁ!!?」

 

一刀「ああ、君のような子にこそこれは必要なものだろうしね」

 

涙「ありがとうございますぅ、御遣い様ぁ~~!!私の真名は涙ですぅ、どうぞお預かりになってくださいぃ~!!」

 

一刀「は!?中身も見ていないのに早すぎるでしょ!?」

 

涙「何を言ってるんですかぁ、幽州の善政と発展ぶりは零陵にも響いていますぅ!その幽州の宰相であらせられる御遣い様がくれた資料なら、絶対に信用できますぅ!というより、熊から助けていただいた時に預けるべきでしたぁ、どうか御無礼をお許しくださいぃ!」

 

一刀「そこまで持ち上げられると恥ずかしいけど、分かったよ・・・・・北郷か一刀でいいよ、涙」

 

涙「はいぃ、一生の宝物にしますぅ、一刀様ぁ~~♪♪//////」

 

一刀「宝物って・・・・・ちゃんと使ってね」

 

なんとも二人の世界を作って盛り上がる二人だったが、ちょうど扉が開いた

 

焔耶「待たせてすまないな」

 

梨晏「やっと来たね・・・・・ようやく私達の番かな」

 

焔耶「いや、誠に申し訳ないんだが、あと半刻ほど掛かりそうだ」

 

鴎「何それ、謝りに来ただけ?」

 

焔耶「そんな言い方はないだろう!あとどれくらい掛かるかを伝えに来てやったのではないか!」

 

鴎「なんか変に偉そうね」

 

焔耶「貴様!客だから下手に出ていれば付け上がりやがって!」

 

鴎「なに、やるの?」

 

見る間に部屋の中が一触即発の雰囲気に支配されていく

 

どうやらこの二人の相性は良くなさそうだ

 

一刀「おいおい、二人とも落ち着けって!」

 

梨晏「そうだよ、鴎もなに挑発してるの?」

 

鴎「なんていうかな・・・・・からかい甲斐があるっていうか♪」

 

焔耶「よし、その喧嘩買った!!」

 

鴎「ほら、やっぱり単純♪」

 

焔耶「き~~さ~~ま~~~~!!!!」

 

巨大棍棒鈍砕骨を肩に担ぎ今にも襲い掛かりそうな形相である

 

涙「ぴ、ぴぃぃぃぃぃぃ!!////////」

 

こちらは可愛い悲鳴をあげながらお漏らしを必死にこらえている有様だ

 

ゴガンッ!

 

焔耶「あだっ!!??」

 

鴎「あいたっ!!??」

 

いきなり脳天に鋭い衝撃が襲い、一触即発の雰囲気が霧散した

 

一刀「いい加減にしろ、いい大人が子供みたいな喧嘩をするな」

 

焔耶「あつつ・・・・・だが、こいつが妙に突っかかってきて!」

 

一刀「確かに挑発をした鴎も悪いが、簡単にそれに乗る魏延も悪い、どっちにも非があるんだからお互いに謝る・・・・・はい!」

 

鴎「わ、悪かったわ・・・・・」

 

焔耶「こちらも大人げなかった・・・・・」

 

お互いに謝りあったのを確認し、一刀は元の椅子に座り込んだ

 

鴎「にしても、相変わらず速いわね、私と魏延に拳骨を落としたの殆ど同時だったんじゃないの?」

 

一刀「いや、魏延に先に落とした」

 

焔耶「だが、私とこいつは三間(約5m)は離れているぞ、いったいどんな妖術か仙術を使ったんだ?」

 

一刀「妖術でも仙術でもない・・・・・俺の流派の、北郷流の縮地法っていう足捌きだよ」

 

鴎「へぇ~~、前にも見たけど、とんでもない速さね」

 

以前幽州にて一刀を攫いに来た時、思春、明命の三人がかりで挑んで返り討ちにあったのは記憶に新しい

 

あれから鴎も暇があれは修練に勤しんでいるが、一刀に追い付くのはまだまだ先になりそうだ

 

焔耶「北郷!!いや、北郷殿!!不肖魏延、お願いしたき義がございます!!」

 

一刀「な、なんだ!?」

 

いきなりその場で膝を付き、何かを大声で頼み込まれ唖然としてしまう

 

焔耶「北郷殿の、その北郷流というものを教えていただきたいのです!」

 

梨晏「はぁ~~~、なんだかおちが見えたかも・・・・・」

 

涙「ぴ、ぴぃぃぃ・・・・・」

 

コロコロと変わる場の空気に梨晏は深い溜息を吐き、涙は狼狽えていた

 

一刀「・・・・・理由を聞きたいな」

 

焔耶「は!私は強くなりたいのです!北郷殿の熊を素手で倒したあの強さ、そして璃々を助けた時の、群がる群衆をまるで居ないかの如く移動したあの動きに感銘を受けたのです!」

 

一刀「それだけなのか?」

 

焔耶「いいえ、今後の戦にて武功を立て主君である黄忠様のお役に立ちたいのです、それが鍛えてくれた北郷殿に報いる事かと!」

 

一刀「・・・・・話にならないな」

 

焔耶「は?・・・・・」

 

余りにそっけない態度に今度は焔耶が狼狽えてしまった

 

一刀「魏延、君は前に俺がした説明を聞いていなかったようだな」

 

焔耶「・・・・・というと」

 

一刀「俺はこの大陸の平和を守る為に、漢王朝を正す為に各州にて同盟を結んで回っていると言ったろう」

 

焔耶「だから、その為に私は敵を屠り、北郷殿の理想を達成する為の助力を!」

 

一刀「俺がやろうとしているのは、この北郷流を使わず一滴の血も流さずに漢王朝を正すことだ」

 

焔耶「・・・・・・・・・・」

 

一刀「俺が作ろうとしているのは、俺が持っている北郷流、これすらいらない世の中なんだ、だから仮に魏延に教えたとしても全て無駄に終わるだろう」

 

焔耶「・・・・・そんな」

 

一刀「漢王朝を正せば、国中の内乱は無くなる、そうなればいずれあらゆる武術、武器は必要なくなる・・・・・俺はな、俺が持っている北郷流、これの存在すら認めていないんだ、こんなものはあっても碌なことにはならない、一から千まで無用の長物だ」

 

焔耶「そんな・・・・・そんな馬鹿なことがありますか!?これだけの強さを封印するのはあまりに勿体ないです!」

 

一刀「魏延、君の目的は何だ?単に暴れて人を殺す事か?」

 

焔耶「そ、そんな・・・・・私はただ、強くなりたくて・・・・・」

 

一刀「北郷流は、だれにも伝えず俺が墓場に持って行く・・・・・この話は終わりだ、俺は自ら争いの種をまく愚行は犯さない」

 

焔耶「・・・・・・・・・・」

 

ピシャリと拒絶された焔耶はトボトボと部屋を退出していったのだった

 

梨晏「あ~~~あ、やっぱりこうなったか」

 

鴎「分かっているつもりだったけど、想像を超えた平和主義者っぷりね、一刀って」

 

涙「で、でも、いいことだと思いますぅ、私もこれ以上、焔耶さんが戦に身を投じるところは見たくないですしぃ」

 

今のやり取りに、それぞれ思うところはあるものの、あっという間に黄忠との謁見の時間が訪れたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑「初めまして、幽州宰相にして天の御遣い様、私が荊州州牧、黄忠漢升です・・・・・まずは娘の璃々を助けていただいたこと、感謝してもし足りませんわ」

 

璃々「うん、ありがとぉ~、一刀様ぁ~~♪♪」

 

紫苑「そして、南陽太守劉度を救っていただいたこと、魏延から聞いています・・・・・重ねて感謝を」

 

涙「わ、私も改めてありがとうございましたぁ~!」

 

一刀「もういいって、もう終わったことなんだから」

 

玉座の間に入ると、玉座の前に薄紫色の長髪の母性溢れる女性が璃々と共に佇んでいた

 

その横には、焔耶がしょんぼりした面持ちで覇気なく突っ立っていた

 

???「ほほう、こ奴が噂の天の御遣いか・・・・・なるほどなるほど、確かに只者ではないな」

 

更にその隣には、酒壺を腰に下げた大柄な女性がいた

 

胸元を開いた和服のような格好に身を包んでいる

 

格好だけで言えば、氷環と似たり寄ったりでフェロモンたっぷりであるが、中身はまるで正反対のようだ

 

梨晏「うわ、厳顔だ」

 

鴎「嫌な奴が来たわね」

 

???「おお、見た顔だと思えば太史慈に凌統ではないか、戦場では世話になったのう♪」

 

梨晏「本当だよね、厳顔の顔を見るとあの戦をいやでも思い出すよ」

 

鴎「あんたの武器には、何度も煮え湯を飲まされているわ」

 

???「当たり前だ、我の豪天砲はこの世に二つとない特注品であるからな、はっはっは♪」

 

一刀「(?・・・・・豪天砲?)」

 

なんだか逆時代錯誤な単語が飛び出してきたが、せいぜい大きな矢を放つ兵器、西洋で言うところのバリスタ辺りだと想像した

 

紫苑「桔梗、あまり長引かせると失礼よ」

 

桔梗「おお、すまんすまん、戦の話になるとつい舞い上がってしまう我の癖を許せ♪」

 

梨晏「・・・・・それにしても不思議に思っていたんだけど」

 

紫苑「何がでしょう?」

 

梨晏「どうして、玉座に座ってないの?」

 

鴎「そうね、州牧なんだから玉座にふんぞり返ってなくていいの?」

 

焔耶「貴様、無礼であるぞ!」

 

紫苑「魏延、控えなさい」

 

焔耶「・・・・・は」

 

紫苑「疑問に思うのも尤もですね・・・・・しかし、私はあくまで州牧代理という立場に留まっておりますので」

 

鴎「そりゃまたなんで?」

 

紫苑「それは、前代の州牧であり私が仕えていた主である劉表様のご子息様達が、ご健在だからです」

 

梨晏「ああなるほど、前代州牧の子がいるんじゃ、あまり出しゃばれないってことか」

 

鴎「黄忠の忠節の話はよく聞くけど、なんていうか律儀よね」

 

涙「そ、そんな、黄忠様は亡くなられた主を重んじる立派な忠臣でありますぅ!」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

確か劉表には、三人の息子と一人の娘が居たはずである

 

しかし、これらの人物は決して優秀な人物ではなかったと思われる

 

黄忠のその忠誠心は褒められるべきものであるが、こういったことは血ではなく能力のある人間がすべきことである

 

幽州の宰相という立場にいる一刀からすれば、政に関しては実力主義にならざるを得ないものだった

 

紫苑「・・・・・では改めて、御遣い様、あなた様がこの荊州に来た目的は何でしょうか?」

 

一刀「はい、自分が拠点としている幽州との同盟を希望します」

 

もともと今回の大陸回りでは立ち寄る予定ではなかったが、これも嬉しい誤算ということにしておいた

 

紫苑「同盟・・・・・それは各州にてあなた様が結んで回っているものですね」

 

一刀「はい、詳細はこの資料に全て書かれています」

 

そして、カバンからこれまで各州で渡してきた資料を取り出し紫苑に渡そうとするが

 

紫苑「いいえ、それには及びません」

 

一刀「え?」

 

この言葉に一刀は唖然とする

 

詳細な内容も知らずして、それには及びません、とはどういうことなのか

 

紫苑「あなた様は、貿易の流通、そして不可侵条約を主に結んで回っているのでしょう?」

 

一刀「そこまで分かっているのでしたら、ぜひとも読んでいただかねば困ります!この中にはそれを実現する為に必要な、具体的な政策を書き記しているのですから!」

 

紫苑「御遣い様、娘を助けていただいた身としては大変心苦しく思うのですが・・・・・御遣い様との同盟はお断りさせていただきます」

 

一刀「な、なぜ・・・・・」

 

いきなり初っ端から撥ね付けられ、絶句してしまう

 

こんな事はこの旅で初めてのことなので、何と言ったらいいか分からなかった

 

紫苑「理由は、あなた様の同盟はこの荊州ではとても機能するものではないからです」

 

一刀「・・・・・というと?」

 

紫苑「ご存じの通り、この荊州はこの国の中心に位置しています、よって周りの州との小競り合いが頻発していて、自分達の身を守る為にも、そのようなものは邪魔にしかならないのです」

 

一刀「逆です!だからこそこの同盟は結ぶべきです!そんな状況を改善する為に、自分は各州と同盟を結んで回っているんです!」

 

紫苑「・・・・・せめて、孫堅がこの荊州に攻め入ってくる前でしたら、それも叶ったのかもしれませんね」

 

一刀「もしや、劉表様のご子息様方が、孫堅を・・・・・」

 

紫苑「はい、不倶戴天の仇として、とても憎んでおられます・・・・・」

 

梨晏「・・・・・・・・・・」

 

鴎「・・・・・・・・・・」

 

まさかここにきて、自分達が同盟締結の障害になるとは思いもしなかった

 

決してわざとではないのだが、二人も一刀に対して居た堪れない気分となった

 

一刀「でしたら、なおのこと聞いていただきたい!この同盟は言うなれば未来への布石、この荊州、漢の国はおろか世界を救済することに繋がるのです!」

 

桔梗「世界とな!?これは大きく出たものよ!」

 

紫苑「・・・・・あなた様は一体、何をしようとしているのですか?」

 

一刀「分かりました、お話しします、自分のこの世界を救う為の具体案を」

 

そして、一刀は語りだす、己が掲げる世界救済の渾身の構想を

 

まず、一滴の血も流すことなく漢王朝を改善する、これがまず一手

 

それにより、腐敗しきった政を改善し、それを各諸侯に伝える

 

国内の民達の生活を中流階級並みに改善させ、内乱などを起こす理由そのものをなくす

 

あとはその体制を維持できるだけの継続的発展を推し進めるシステムを作り出す

 

その為には、周辺諸国、異民族との貿易は不可欠である

 

その異民族にもこの国が推し進める構想を伝えるのである

 

それはいずれは、モダンチャイナとして標準化され、周りの国へと伝わり、連鎖的に外の国々へ伝わる

 

この中国はこの大陸にも稀に見る巨大国家である、貿易をする上で無視出来る国では決して無い

 

そして、いずれは世界全体が気付くのである、戦争など起こしたところで得な事など何もないことに

 

全ては人的資源、工業資源の無駄な浪費にしかならないことだと

 

これが、一刀が考える世界平和への正しい道筋である

 

紫苑「・・・・・なるほど、御遣い様のお考えはご理解しました」

 

一刀「でしたら今一度ご再考を「それでも、お断りさせていただきます」・・・・・ど、どうして」

 

紫苑「先ほど劉表様のご子息様方が孫堅を憎んでいると言いましたが、孫堅を憎んでいるのは、なにもご子息様方だけではないのです、荊州兵、そしてその親族共々・・・・・更には、憎んでいるのは孫堅限りではないのです、これまで荊州に攻め込んできた多くの周辺諸侯、彼らもまた討つべき怨敵となっているのです」

 

一刀「それでは何時まで経っても争いは終わりません!憎しみの連鎖は、何時かは断ち切らねばならないのです!その何時かは、今なんです!今やらなければ、この荊州はおろかこの国全体が致命的な禍根を後の世に残すことになるんですよ!それが分からないのですか!?」

 

紫苑「この際、はっきりと申し伝えましょう・・・・・御遣い様、あなたの構想は、構想ともいえぬ子供の戯言、夢物語です!」

 

一刀「な、なんですって!!?」

 

この言動に、流石の一刀も頭に上る血を抑えきれなかった

 

一刀「なら黄忠さんは、後の世代に未来永劫殺し合いを続けろというんですか!!?」

 

紫苑「そこまでは申しません、ですが今ここで争いの連鎖を断つことは不可能と申しているのです!」

 

一刀「同じことです!!ここで止めなければ、大陸全体にその争いの連鎖が広がることになるんですよ!!そうなった時、あなた方はどう責任を取るつもりですか!!?」

 

紫苑「それも乱世の理です、その責任は私たち為政者だけが請け負うものではありません!この大陸全ての者が背負うべきものなのです!」

 

桔梗「さよう!!さっきから聞いていれば、手前勝手な理屈ばかりを並べおって!!お主が戦の何たるかを語るなど、千年早いわ!!」

 

一刀「手前勝手はそっちでしょう!!戦争をするのを判断するのは、為政者であるあなた方なんですよ!!それを全ての人間が背負うべき責任?責任転嫁にもほどがある!!」

 

紫苑「確かにそれは否定しません、しかし戦をすることもまた為政者の責務なのです!あなたも幽州の宰相であるなら、わかるはずです!」

 

一刀「分かりません、幽州は万里の長城を超えた北方民族とも、それまでの争いを全て水に流し貿易を成立させているのです!そのやり方もこの資料に全て書かれています!全てはこれを読んでいただければ納得していただけるはずです!!」

 

紫苑「お断り申し上げます、その資料が荊州滅亡の因子にならないとも限りません!」

 

一刀「そんなことには決してなりません!!どうかご再考を!!」

 

桔梗「くどいぞ貴様!!天の御遣いだか何だか知らないが、この大陸にはこの大陸の習わしというものがあるのだ!!」

 

紫苑「はい、おそらくあなた様は天の理に則ってこのような事をしているのでしょう・・・・・ですがここではそのようなものは通じません、あなた様はもっと違う形で天の御遣いの役目を果たすべきかと存じます」

 

一刀「天の御遣いの役目とやらが、人間の果ての見えない愚行の手伝いだっていうなら、天の御遣いなんて何の意味もない!!」

 

紫苑「はぁ・・・・・まさかここまで愚かしく傲慢とは・・・・・」

 

一刀「ならば、あなた方は愚かでも傲慢でもないというんですか!!?」

 

桔梗「なんだと!!?」

 

一刀「例えば、仮に黄忠さん、厳顔さん、魏延、この三人が戦争で戦死したら、璃々ちゃんが悲しまないとでも思うんですか!?」

 

紫苑「っ!!?・・・・・それは・・・・・」

 

足元にいる璃々を見下げる

 

すると璃々は、涙目の悲痛な表情で自分の顔を見上げていた

 

一刀「逆もまた叱りです!この璃々ちゃんが大きくなって、戦争に赴いて、それで死んでしまったら、黄忠さんはどんな気持ちになるんですか!?」

 

紫苑「・・・・・・・・・・」

 

一刀「それですよ、どっちに転んでも結局は親不孝です!あなた方は今生きている人々はおろか、後の世代の人々にもそんな不幸を押し付けようとしているんですよ!」

 

黄忠の息子である黄叙、想像でしかないがおそらく彼は戦にて死亡したのであろう

 

蜀の五虎将軍の息子であるからには、当然親と比べられてしまう

 

親に追いつこうと躍起になり、結局それが彼の死を早めることになってしまった事は容易く想像できる

 

この璃々ちゃんが史実の黄叙と同じ轍を踏むことになるなど、決して許していいはずがない

 

紫苑「・・・・・それでも私は、この荊州の代理とはいえ州牧であることに変わりはありません、その義務は果たさねばなりません」

 

一刀「それで璃々ちゃんを泣かせることになっても構わないというんですか!!?」

 

この言葉を聞いているのか知らないが、紫苑は璃々と目線を合わせ言葉を紡ぐ

 

紫苑「璃々、あなたは武人黄忠漢升の娘なのです、例え私が戦で討ち死にしたとしても悲しんではなりません、そしてあなたも何時か戦に赴いた時は覚悟を決めなければなりません」

 

一刀「(こいつ、本当に母親なのかよ!!?)」

 

頭の中で、こんなにも愚かしいやり取りがあっていいのかと憤りを禁じえなかった

 

かつての太平洋戦争時の日本が今のこの光景とかぶっていく

 

徴兵令により家族と離れ離れにされ、戦局が厳しくなると、安否が分からず、家族は不安を募らせ、 帰りを待ちわびた矢先に贈られる戦死公報

 

遺骨も、遺品も届かず戦地から送られた箱を開けると、中に入っていたのは遺骨代わりの木片

 

それと全く同じことが目の前で繰り広げられるのである、しかも親が自分の娘にしているのである

 

こんなことをしているから、かつての第三帝国はヨーロッパ全土を巻き込んだ第二次大戦を引き起こしたのであって、旧日本帝国も原爆を二発も落とされるまで止まらなかったのだ

 

それらを引き起こしたナチスと、日本大本営は愚かではなかったというのか?

 

一刀「(武人の子供だから、その子はその武人と同じ生き方をしないといけない?それこそ押しつけがましいだろうが!!)」

 

このままでは、この璃々ちゃんも世界に不幸をまき散らすだけの存在になり果ててしまうと思っていると

 

璃々「お母さん・・・・・璃々、嫌だよぉ・・・・・」

 

紫苑「・・・・・璃々」

 

璃々「お母さんに生きていてほしい、璃々も死にたくない・・・・・」

 

紫苑「璃々、わがままを言うものではありません」

 

璃々「璃々、お母さんに死んでほしくない、璃々もお母さんと、桔梗さんと焔耶さんと一緒に生きていたい、それってわがままなの?」

 

紫苑「・・・・・・・・・・」

 

一刀「璃々ちゃん・・・・・ほら見てください、璃々ちゃんの方がよっぽど大人ですよ!親や自分が死んでしまった時のことをよく考えているじゃないですか!」

 

紫苑「・・・・・それでも私はあなたを、戦場に送り出さなければならないの、どうか許して、璃々」

 

一刀「ここまで言われてあなたはまだそんなことを言うんですか!!?あなた方も璃々ちゃんを見習って、自分達の言動が招く未来予測をしたらどうなんですか!!」

 

桔梗「余計なお世話じゃ!!お主とはやっとれんわ!!今すぐ幽州に、いや天に帰れ!!」

 

一刀「・・・・・分かりました、機会があればもう一度ここに赴きます」

 

桔梗「二度と来るでないわ!!!」

 

涙「ぴ、ぴぃ~~~~~~~!!!」

 

玉座に間に怒声と叫び声が木霊する中、一刀達は立ち去ったのだった

 

桔梗「なんだあ奴は!!?単なる腰抜けか!!?」

 

紫苑「そうね、あれは人の世というものを分かっていないわ」

 

焔耶「・・・・・私は、そうは思えません」

 

桔梗「なんだ焔耶よ、お主あ奴の肩を持つ気か?」

 

焔耶「いいえ、そうは申しません・・・・・ですが、あの人が桔梗様のおっしゃる通りの腰抜けであるなら、熊を素手で倒すほどの強さを身に着けているはずがありません」

 

桔梗「・・・・・確かに聞いた話では、恐ろしい武の持ち主といえるが」

 

焔耶「あれほどの強さを有しているにもかかわらず、それを使わずして国を正そうとしているのは、それ相応の理由があると思うのです、そうでなければこのような大陸を巡っての同盟締結などするはずがありません、そんなあの人が人の世を理解していないともとても思えないのです」

 

桔梗「・・・・・それを聞いてしまうと、ちと早まったことをしてしまった気になるのう、一度あ奴と矛を交えれば、あ奴のことを多少は理解できるやもしれんな」

 

紫苑「私も、よくよく考えれば、かなり無礼を働いてしまったわね・・・・・って、劉度さんも一緒に出て行ってしまったわよ!!」

 

桔梗「いかん、あ奴の報告をまだ聞いておらんわ!!焔耶よ、呼び戻してまいれ!!」

 

焔耶「はっ!」

 

紫苑「それと、御遣い様達にせめてものお詫びに、城に一泊して頂くようお願いして!!」

 

焔耶「承知仕りました!」

 

そして速足で、焔耶は一刀達を追いかけて行ったのだった

 

桔梗「ふぅ、これで少しは機嫌が良くなれば良いが・・・・・」

 

紫苑「ええ、後々のことを考えて、選択肢は多くしておかないといけないわ」

 

璃々「お母さん、桔梗さんも一刀様と喧嘩しちゃダメェ!」

 

紫苑「ごめんなさい璃々、でもこれも必要な事なのよ、お願い分かって」

 

璃々「一刀様は、璃々達のことをちゃんと考えてくれてるよ、璃々分かるもん!」

 

桔梗「まぁ、言い方は少々乱暴であったが、見方を変えればわし等を気遣っているとも取れるかのう」

 

璃々「だから、一刀様と仲良くしないと璃々怒っちゃうんだからー!」

 

紫苑「分かったわ、なるべくあの方とは友好的に接するわ・・・・・でも全面的に信用することはできないの、そこは分かって」

 

一人の母親として、州の代表として、その狭間でもがく紫苑の姿がそこにあったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、せめて城に一泊してほしいという案を一刀は受け入れた

 

紫苑と桔梗のせめてもの気持ちを焔耶から聞き入れ、素直に応じることにした

 

出来れば、今後も荊州に足を運んでくれと、歓迎すると聞いた時にはまだまだ希望はあると心打ちのめされた

 

まさに、璃々ちゃん様様と言えよう

 

そして、あっという間に夕暮れを過ぎ、時刻は夜中となる

 

梨晏「それにしても、一刀も容量が良いんだか悪いんだか」

 

鴎「本当よね、なんていうかあれは、不器用かつ損な性格ってやつよ」

 

月の光が照らす襄陽の城の廊下を歩く梨晏と鴎の姿があった

 

雑談内容は、言わずもがな一刀の事だった

 

鴎「なんであいつ、あんな口論の後に相手の城に泊まるなんて真似が出来るのかしら?」

 

梨晏「ああ、私はなんにも不思議に思ってないよ、なにせ一刀だもん」

 

世界の平和を目指す一刀からしてみれば、あの程度の口喧嘩で断わる程器量は小さくはない

 

人の世の為ならば、自分の持つ個人的な感情など鎧袖一触にできる、それが一刀なのだから

 

これまでずっと一刀と共に旅をしてきただけあって、梨晏は一刀の大部分を理解していた

 

鴎「それはそうと梨晏、どうして屋内でも外套羽織ってるのよ、いい加減怪しいわよ」

 

梨晏「さ、寒いからだよ!鴎も何か羽織ってないと風邪ひくよ!////////」

 

鴎「外套が必要なほど寒くはないでしょ」

 

梨晏「これから寒くなるんだから、今のうちに羽織っていてもいいでしょ!////////」

 

鴎「・・・・・まぁ、深夜は割と寒くなるけどね」

 

中国は、地域によって気候がまったく異なる国である

 

よって、昼と夜の気温差が激しい地域が存在するのだ

 

割と納得のいく理由だったのでそれ以上の追及をしなかった鴎に梨晏は安堵する

 

一刀の大部分を理解しているとは言っても、それはあれだけ愛し合ったから、などという理由であってほしくない

 

未だに消えないキスマークに若干の嫌味を覚えていると

 

鴎「ん、あれって・・・・・劉度?」

 

梨晏「あ、本当だ」

 

廊下の柱に隠れるように寄りかかり、何かを覗き見ている涙を確認した

 

鴎「劉度、何してんのよ?」

 

涙「ぴ!?・・・・・な、なんだ、凌統さんと太史慈さんですか、驚かさないでくださいぃ」

 

梨晏「ごめんごめん、でも劉度こそコソコソと下手な隠密行動して、どうしたの?」

 

涙「あ、あれをご覧くださいぃ///////」

 

鴎「あれ?」

 

涙が指さす方向を同じように柱の陰から覗き見ると

 

璃々「一刀様ぁ~、お母さんと桔梗さんを嫌いにならないでぇ~」

 

一刀「分かってるよ、俺もあの人達と争う為にここに来たんじゃないからね」

 

東屋にて、一刀が璃々に膝枕をして、頭を撫でてあげている光景があった

 

梨晏「あ~、あれは確かに出て行き辛いね・・・・・」

 

鴎「まるで本当の父親と娘みたいね」

 

涙「う、羨ましいですぅ、わ、私も一刀様にあんな風に撫でてもらいたいですぅ~//////」

 

傍から見れば、睦まじい父と娘としか思えない

 

璃々「ねぇ一刀様、天の国のお話して~」

 

一刀「天の国の話?・・・・・困ったな、いっぱいあり過ぎて何を話したらいいんだろう」

 

璃々「じゃあ~、お歌が聞きたいよ~♪天の世界のお歌を聞かせて~♪」

 

一刀「歌か・・・・・よしっ、とっておきの歌を聞かせてあげるよ♪」

 

璃々「わ~~~い♪」

 

そして、一呼吸置いて一刀は口ずさみだした

 

一刀「Imagine there’s no heaven♪It’s easy if you try No hell below us Above us, only sky Imagine all the people living for today Ah~♪」

 

鴎「・・・・・聞いたことのない言葉ね」

 

梨晏「でも・・・・・なんだか切なくなってくるね」

 

涙「はぅ~、綺麗な声ですぅ~////////」

 

その洗練された清流のような歌声に三人も他のことなど忘れて聞き入った

 

例え意味が分からずとも、その歌が醸し出す雰囲気が決してその歌詞が悪い意味ではないことを物語る

 

一刀「You may say I’m a dreamer♪But I’m not the only one I hope some day you’ll join us And the world will live as one♪・・・・・」

 

そして、月夜に染み渡るように静かに歌は終わった

 

璃々「わぁ~~~、それが天のお歌なんだねぇ~♪」

 

一刀「ごめんね、とっさに出てきた曲だけど、意味なんて分からないよね」

 

璃々「うん、分からなかったけど、すごくいいお歌だってわかるよぉ~♪」

 

一刀「そうだよ、これは天の国ではすごく有名な歌なんだ」

 

璃々「なんて曲なの~?」

 

一刀「Imagine・・・・・想像してみてごらん、っていう意味だよ」

 

璃々「何を想像するの~?」

 

一刀「平和な世界、皆が争うことなく仲良く暮らす、そんな世界をだよ」

 

璃々「平和な世界・・・・・うん、璃々想像する~♪」

 

一刀「うん、想像して璃々ちゃんも一緒に作ろうね、平和な世界を♪」

 

璃々「は~~~い♪・・・・・ねえ一刀様、もっとお歌が聞きたい~♪」

 

一刀「ん~~、でもお母さんが心配しない?」

 

璃々「あ、するかも・・・・・」

 

一刀「だったら、そろそろ帰った方がいいよ・・・・・今はこれしか歌えなかったけど、次にここに来た時は沢山歌ってあげるよ♪」

 

璃々「うん、約束だよ、一刀様♪」

 

一刀「ああ、約束だ♪・・・・・一緒に行ってあげようか?」

 

璃々「大丈夫、すぐそこだから♪」

 

一刀「そっか・・・・・お休みなさい、璃々ちゃん」

 

璃々「お休みなさい~、一刀様ぁ~♪」

 

そして、今の曲を鼻歌で歌いながら璃々は部屋へと戻っていった

 

梨晏「・・・・・いい歌だったね♪」

 

鴎「ええ、それは認めるわ//////」

 

涙「そ、想像してみてごらん・・・・・はぅぅ~~、何を想像したらいいんでしょ~///////」

 

それそれが今聞いた歌の意味を想像していると

 

一刀「盗み聞きはいい趣味じゃないぞ」

 

梨晏「わあ!?」

 

鴎「きゃあっ!?」

 

涙「ぴぃっっ!?」

 

目の前に一刀の顔がアップで迫り三人は仰天した

 

一刀「ったく、品がないと言われても仕様がないぞ」

 

涙「もももも申し訳ありませんんん、かかか一刀様ぁ~~~!!////////」

 

梨晏「ていうか、いつから気付いてた?」

 

一刀「涙が覗いていた時から」

 

鴎「完全に最初からじゃん、まあ劉度が気配を消すのが下手くそなのが原因だけど」

 

涙「ごごごごめんなさい一刀様!!ししし失礼しますぅ~~~!!///////」

 

一刀「あ、ちょっと!・・・・・そんなに気にすることでもないのに・・・・・」

 

涙目でピューーーーーっと速足で去っていく涙を痛々しく思う一刀だった

 

一刀「・・・・・それじゃ、俺達も寝るか」

 

梨晏「そうだね、もういい時間だよ」

 

鴎「ふぁ~~~~~、いい子守唄になったわ」

 

そして、それぞれの寝所に赴こうとする

 

梨晏「・・・・・ちなみに一刀、さっきの歌ってどんな人が作ったの?」

 

一刀「平和の尊さを伝え続けた、偉大な人だよ」

 

一刀が尊敬する歌手の中に、ジョン・レノン、ボブ・ディラン、マレーネ・ディートリッヒがトップ3に入っている

 

それはなぜかというと、この三人の歌手達の偉業が大きく関連している

 

ジョン・レノンは、ベルリンの壁を崩壊させ東西冷戦を終結に導いた

 

ボブ・ディランは、泥沼のベトナム戦争を終結に導いた

 

マレーネ・ディートリッヒは、人類史上最悪の戦争の一つ第一次世界大戦を終結に導いた

 

そう、不毛極まる戦争を止めた、これがこの歌手達が行った共通の偉業なのだ

 

歌の力は、たとえ殺し合いに夢中な人々の心にも必ず響く事を彼らは証明したのだ

 

しかし、彼等はあくまで戦争を止めたのであって未然に防いだわけではない

 

これらの歌手達は、確かに一刀が尊敬する人物であるが、実際に戦争が起こって死人が出てからでは何もかもが手遅れなのだ

 

戦争を未然に防ぐのは歌唱力ではなく、政治力なのだ

 

戦争や内紛が起こる根本的な原因は、政治が悪いからなのだ

 

今の漢王朝がいい例である、どこまでも腐敗した政治が黄巾党という暴徒を生み出し、それがきっかけでとんでもなく長い乱世が幕を開けてしまうのだから

 

梨晏「・・・・・ねえ一刀」

 

一刀「ん、なんだ?」

 

梨晏「一刀は、運命って信じる?」

 

一刀「信じないな」

 

梨晏「即答だねぇ~・・・・・」

 

一刀「ああ、塵芥も信じていない」

 

梨晏「まぁ、一刀らしいけど」

 

鴎「なになに、何の話?」

 

梨晏「時には、運命を受け入れるのも大切って話だよ」

 

鴎「・・・・・よく分からないわ、一人で納得しないでよ」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

運命、それは正義以上に一刀が信じていない概念である

 

よく、過去に起きた出来事は全て運命として受け入れるしかないと言う人間がいるが、それはその言葉を言い放った本人にも言えることである

 

何故なら、それは現在、未来においても例外ではないのだから

 

現在と未来の運命は決まっていないと言うなら、それはとんでもなく都合のいい解釈である

 

何故なら、過去に生きた全ての人々にだって今生きている現在があり、幸せを求める未来があるのだから

 

運命なんてものが存在するなら、人間がすることや、これから起きることは既に最初から決まり切っていた事象ということになる

 

過去現在未来において人間が不毛な戦争で犬死することは、最初から定められていた決定事項ということになる

 

世界がそのような運命論や決定論で出来ているなら、人間のあらゆる努力は無意味、全てが徒労という事になる

 

そのようなことは、断じて認められることではない

 

仮に神がこの世界を創造し、森羅万象あらゆる事象の決定権を握っているのであれば、一刀はそれに徹底的に抗う

 

世界に抗え、運命に抗え、神に抗え、過去を否定し、現在を否定し、未来を変えろ!!!

 

一刀「(運命だって?そんなもの都合の良い言い訳だ!神なんか居ない、居たとしてもそんな身勝手な奴、神だなんて認めない!)」

 

心の中の決意を更に確かなものにし、翌日一刀は梨晏、鴎と共に荊州を後にする

 

こうして、嬉しい誤算だと思われた荊州との同盟は、決裂したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん、本当にお久しぶりです

 

前回のかなり待て!!が、本当に一年以上のかなり待て!!になってしまいました

 

何故にここまで間が開いてしまったのかというと・・・・・ぶっちゃけ、怠けていました

 

仕事が忙しかったとか、書く時間が無かったとか、そんなことはありません

 

書くチャンスは山のようにありました、主にネトゲやパチンコ、アニメ鑑賞、他のネット小説読みに逃げた結果がこれです

 

全ては自分のグウタラ根性が招いたことです

 

文章を書く楽しさをちょっと忘れるとこんな様になってしまって、本当に申し訳ありません

 

しかし、モチベーションを維持するのは思ったよりも大変です

 

何故なら、一話を書き終えるとそれまでの気持ちが一気に衰退し復活するまで時間が掛かる、それが回を重ねる毎に復活に必要な時間が増えていくんです

 

小説を書き始めた最初の勢いと情熱は何処へやら、言い訳にならない言い訳をほざく自分を殴りたいです

 

さて、今回登場した劉度こと涙ちゃん

 

新規参戦武将にて紹介されたにも拘らず、結局英雄譚、革命ともに登場しなかった非常に可哀そうかつ残念な子

 

このままではハム以上に残念になってしまいそうなので、自分の幼稚な戯曲に緊急参戦させてあげました

 

勝手な想像ですが、これが少しでも彼女の慰めになってくれたらと思います

 

更に、ここで皆さんに分かりやすいよう、自分Seigouが長いこと御世話になっている郁さんから提供していただいた凌統公績こと鴎の全体像をここにアップします

 

郁さんのクリエイタープロフィールから見た人には余計なお世話かもしれませんが、あくまで分かりやすいようにということで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に郁さんにはコピペ許可をいただいていますので問題はありません

 

さて、次はとうとう建業編に突入します

 

言ってしまうと、次がこの旅の最後の同盟交渉となります

 

その後の展開は一切公言しないでおきましょう、どうか温かく見守ってください

 

では、物語を紡ぐ楽しさを忘れたくないですね、非常に不安です・・・・・待て、次回


 
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