ゲートの位置は覚えていたし、番人には顔パスで通してもらえるので、セルフィーユからクレスの診療所まで簡単に往復出来ます。
「ルリの繭の様子はどうだい?」
「聴診器を何度か当ててみたが、鼓動のようなものが聞こえる。多分、大丈夫だろう?」
宿舎には寝泊まりせず、診療所の空きベッドに寝泊まりしていました。
「ルリ…無事に孵化してくれよ」
それからどれくらい経ったか、ある日繭にヒビが入っているのに気付いたジンはヒビが割れるのを見守っていました。
「クレスを呼ぶべきか?いや、このまま孵化したら、インプリンティングで俺がルリに惚れられて…」
頭の中で二人の自分が葛藤を繰り返します。クレスを呼ぼうと言う自分と、クレスは呼ぶなと言ってる自分がいました。繭のヒビは更に亀裂が大きく入り、中から指が出て来て割れ目を開こうとしています。生まれたままの姿で人間の成人女性のルリが出て来ました。
「何ジロジロ見てるのよ?エッチ!」
一糸纏わぬ姿のルリに慌ててシーツを投げて渡しました。ルリはシーツを体に巻きつけます。
「繭の中で記憶が全部戻ったわ。人間だった頃の事も妖精として過ごした日々も…」
「そうか…。ところでルリは一体、誰とキスしたんだよ。キスしないと人間にはなれないんだよな?」
「別に誰だって良いでしょ?あんたには関係ないし…」
「そうだな…、俺じゃないのだけはわかってるよ」
「クレス先生はどこにいるの?大事な話があるの」
「多分、診察室にいるから呼んでくるよ」
「診察中だったら邪魔しちゃダメだからね?」
診察室には相変わらず、どこも悪くない女性たちが押し寄せていました。短い診察を済ませていつものように健康補助サプリを処方します。
「クレス、ルリが孵化した。話があるらしい」
「わかった。あと少しで診察時間が終わるから待っててもらってくれ」
診察時間が終わるまで、ルリと話をしました。
「クレスは今、忙しいらしくて少し待って欲しいらしい…」
「そう…、私は死んだ事になってるのよね?」
「行方不明って事になってるから、まだ家出捜索の手配書が役所に貼ってあるよ?」
「それなら家に帰ったらお母さんが何とかしてくれるかしら?」
…つづく
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処女作の復刻版、第61話です。オオカミ姫とは無関係のオリジナル小説ですが、これを掲載する前に書いていた、オオカミ姫の二次創作とかなり設定が酷似しています。