No.97648

真・恋姫無双~魏・外史伝44

 こんばんわ。アンドレカンドレです。
今日起きたのが2時だったせいか、投稿が遅くなりました、今回は三部構成になると思います。これまた話が長くなりそうだ・・・。
 今回は第十九章、呉ルートから始まります。
では真・恋姫無双 魏・外史伝 第十九章~還らぬ日々・前編~をどうぞ!!

2009-09-27 15:35:01 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4294   閲覧ユーザー数:3779

  数時間前に外史を削除したばかりだというのに、祝融は本当に人使いが荒い。僕は彼女の人形じゃないと

 いうのに。でも後で愚痴を言われるのはもっと面倒だから仕方なく、彼女が潜伏している外史に降り立った。

 この外史は、発端である一刀君が居ないせいで色々と面倒な問題が起きたせいでに最後に残ってしまった

 みたいだ。その問題を解消するために、祝融は銅鏡を探していたと聞いていたけど、ひょっとして見つけら

 れたのかな?それともここ最近、僕達の周りでこそこそ嗅ぎ回っている彼等の事で呼び出したのかな?

  彼女の元に訪れると、そこには伏義もいた。どうやら彼も祝融に呼び出されたようだね。僕の顔を見て、

 もの凄く嫌そうな顔をする伏義。他の分身達も僕に会うと決まってそんな顔をする。

  祝融の話だと、どうやら銅鏡を見つけて、すでに一刀君をこの外史に降り立たせる事が出来たそうだけど、

 ちょっとした問題が起きて、色々と困っているようだ。そこで彼女は、僕達に南華老仙達の動きを監視して

 欲しいのだそうだ。南華老仙の奴、この間ぼっこぼこに返り討ちにしたって言うのに、まだ懲りていないよう

 だね・・・。とはいえ、彼にはもう僕達と戦うだけの力は残っていないのだから、放っておいてもいい気も

 するけど、目の前でぶんぶん飛び回られてもうざったいだけだし。その上、祝融の話によれば彼はまだ無双玉

 を隠し持っていたようだ。一体どこに隠していたのだか・・・。それが一刀君に渡ったら、これ以上の面倒は

 無いとか・・・。

  でも、話はそれだけでは無かった。何でも、新しい試みって奴をこの外史でしたいのだそうだ・・・。

 「彼」にやってくれって言われたんだって。その話を聞いてみると、中々面白そうな内容だった。特に伏義は

 その話にかぶりついて聞いていたっけね。

  『人の負の感情を集める』

  それを一体何に使うのかまでは教えてくれなかったけど、伏義は一目散に部屋を出て行った。さっきまで

 面倒くせぇ~って言っていたのに。彼も彼で何か面白い事を思いついたんだろう。まぁ、僕は僕でやりたい事

 があるから、この外史でそれを実行するとしよう。

 

                                ~女渦の研究日誌の冒頭の一部を抜粋~

 

  ○月×日

  僕のやりたい事、それは命令忠実の強化人間を作る事。祝融も似たような技術を持っているようだけど、

 僕はその先を行くものを作る事にした。とりあえず、僕の実験に使う人間を100人くらい適当に拉致って

 こよう・・・。

 

  ○月×日

  研究を始める前に、僕の助手となる人を作る事にした。そこで僕は「黄蓋公覆」を選んだ。別に深い理由は

 無い。ただこの外史ではすでに死んでいたからだ。僕達が今までに集めた膨大な情報の中から「黄蓋公覆」に

 関する情報を検索、そしてそれをもとに僕達と同じ分身として彼女を、祭さんを作った。

  面白い事に祭さんは、僕に盾突く様子も無く、楽しそうに僕に協力してくれた。意識を操作してデク人形に

 する必要が無かった。正直、彼女が何を考えているのかが今一つ理解しかねたけど、それは僕にも言える事だ。

 とりあえず僕の言う事を聞いてくれるのだから、念のため保険も用意している事だし、このままでもいいだろう。

 

  ○月×日

  手始めに、僕の情報の一部を核として主に、体格、性格、感情、身体の能力に関する情報を集約した、

 無双玉にちなんだ「無双核(コア)」を適当に捕まえて来た1人の男の、それの形を成している情報に試し

 に組み入れ、建業の街中に放り投げてみた。後はどうなるか高みの見物といこう。

  まぁ、最初からそうは上手くいかないものだ。予想はしていたけど、男の持つ情報と僕が組み入れた情報

 が拒否反応を起こし、結果、男は醜い大男に変貌。街中を暴れ回った。まぁそれはそれで見ていて面白かった

 けど、あれではただの暴走・・・、命令なんて聞いてはくれやしない。今回の結果を踏まえ、今後の研究に

 生かす事にしよう。後もう一つ、僕はその時一刀君を見つける事が出来た。そしてあの力・・・、どうやら

 一刀君は僕たちより先に、南華老仙から無双玉を受け取ってしまったようだ。・・・面倒な事になったけど、

 それはそれで面白そうだ。何にせよ、この事を祝融達に報告しよう。

 

  ○月×日

  祭さんの協力もあって、僕の研究は順調に進んでいた。が、ここでまた困った問題が生じた。

 先の実験の結果から、ただ適当に情報を組み入れただけでは拒否反応を起こしてしまう事が分かったので、

 その人間の形を成している情報を調べ、それにちゃんと当てはまるように無双核の情報の型と量などを調整

 してぴったり一致するようにすれば、これで僕に忠実な強化人間の出来上がり!・・・のはずだった。

  確かにその考えは正しく、問題は無かったのだが、こんな事をしていては一体作るのに半日も掛かって

 しまう!ぐえ~~~!!これでは意味がない!何か別の対策を講じる方がいいかもしれないな~。

 

  ○月×日

  数日かけて考えた対策・・・、それは無双核、人間の間に電気を通さない絶縁体の様なモノを噛ませる事で、

 ようやく解決した。まず無双核をこの絶縁体に組み込み、そしてこれを通して人間と核の情報をリンクさせる事で、

 拒否反応を起こす事無く忠実な強化人間となる。その絶縁体として作ったのが、「影篭(かげろう)」だ。

 まぁ見た目は全身真っ黒黒助な蛸な感じで、これはこれで愛嬌があって可愛いかったりする。

 影篭はこの外史の人間達の形を成しているものを一旦、完全に情報に変換し、そこに無双核の情報を混合させ、

 そこから再び人間の形に再構築させる。僕は今まで氷を直接水蒸気にしようとしていた・・・。けれど、

 影篭を使う事で、氷→水蒸気から、氷→水→水蒸気という感じになる わけである。これを実現させるなんて・・・、

 僕はひょっとして天才?

 

      祭(ー。ー)フゥ<天才?変態の間違いじゃろう?

       

                        ですよね~♪>\(^▽^)/女渦

 

  ○月×日

  困った事が起きた。一匹の影篭が逃げ出してしまったのだ。僕は急いで、捜索に数人を放った。もし何処か

 の人間に拾われて茹で蛸にされたら敵わない。その前に早く捕まえないと。

 

      祭(゚ー゚)ニヤ<茹で蛸にしたら上手いのかのう?

 

                   影篭はたこじゃないって!>(-。-;)女渦

 

  そんな事を考えていた矢先、この近くに孫権ちゃんが来ている事を祭さんが教えてくれた。この時、僕は

 運命を感じたのは言うまでも無い。折角なので、試作品として作った強化人間「颯(はやて)」を彼女の元に

 仕向けた。念のために、祭さんにも行ってもらった。

  颯の活躍は僕の想像以上だった。攻撃、防御、機動力、指揮系統・・・、戦闘において十分な能力を発揮

 していた。後はそこに彼女達の戦闘情報を組み込んでやれば、まさに最強の強化人間部隊を作る事だって可能。

  嬉しい事はもう一つあった。それは一刀君だ。と言っても、僕の言っているのは、前に僕が削除した外史の

 一刀君だ。最初は誰よ君と思ったけど、彼が一刀君だと気付いたら僕はあまりの嬉しさに発狂してしまった。

 一度この手で殺したはずの彼が再び僕の前に現れた。それはつまりもう一度あの時の快感を味わえると言う事

 だからね!そしてあの力・・・、間違いなく無双玉を埋め込まれているね。きっと、一刀の死体を干吉辺りが

 外史が削除される寸前に回収して、南華老仙から貰った無双玉を使って、仮の生を与えられているのだろう。

 でもそれは僕には美味しい話である事に変わりはないさ。力を手に入れた彼を殺す・・・、それはきっとあの

 時以上の快感だろうからね・・・。

 

  ○月×日

  祝融から「颯」が欲しいという連絡が入った。先の実践で得られた情報からさらに改良を加え、さらに

 能力をぐんと上げた「颯・改」を完成させた直後だった。何でも、五胡の中に混ぜて洛陽に侵入させたい

 っていうから、僕はこの颯・改に擬態機能を追加して彼女の元に送り届けた。この颯・改は僕が研究に研究

 そして失敗に失敗を重ねた結果、ついに作り上げた傑作だ!折角だから伏義の所にも送った。余計な事をし

 やがって、なんて悪態をついていたけど、それなりに使ってくれているようだ。ツンデレなんだな、彼は・・・。

 

          女渦ヤレヤレ ┐(´ー`)┌       

         

                         (-_-メ;)テメ・・・伏義

 

  ○月×日

  久し振りに顔を見にきたら、祝融が僕に愚痴をこぼしてきた。何でも伏義が「彼女」に頼んで、勝手に

 無双玉を作らせたらしい。別にいいじゃない、情報は使ってなんぼでしょって言ったら、伏義にも似た事を

 言われたと、さらに愚痴を零す始末・・・。僕達、分身はある意味では無双玉、そのものと言ってもいいだ

 ろう。そこにさらに無双玉をって、彼も無茶をするな・・・。そんなに一刀君にやられたのが悔しかったの

 かな?話題を変える為に、前に送った颯・改の感想を聞いてみた。「まぁ・・・、あなたにして良くやった方

 ではないですか?」・・・全く、どうして僕の周りにはツンデレしかいないのかなぁ~。

 

  ○月×日

  伏義から連絡が来る。成都に来い、ただそれだけだった。成都・・・確か蜀では蜀軍と正和党が暴れている

 らしい。伏義も自分の立てた計画が順調にいって、破竹の勢いに乗っているようだ。負の感情を集めるなら、

 人間同士で戦わせた方が効率が良いからね。まぁ、ここは一つその勢いに乗る事にしよう。

 

  ○月×日

  颯・改を引き連れて成都に向かっている途中、影篭が見つかったという報告と僕達の後方から孫策ちゃん達

 が追いかけて来ているという報告が同時に入った。そこで僕は孫策ちゃん達の方を祭さんに任せ、影篭を

 捕まえに行く事にした。久しぶりに彼女達に会えるからか・・・、祭さんは嬉しそうな顔をしていた。あの

 様子だと一発やらかしそうだな・・・。

 

  ○月×日

  ようやく影篭を捕まえた。そのついでに面白いモノを拾った。彼女達はこの外史における主核。

 当然、その辺の人間とは段違いの情報量だ。彼女達を颯・改に仕立て上げれば他のそれの比では無い事は

 火を見るより明らかな事だ。僕は一足先に研究所に戻った。さて・・・、どんな風にしようか?

 

  ○月×日

  祭さんの口から伏義が倒された事を知った。倒したのはこの外史の一刀君だそうだ。

 成程・・・、祝融が懸念していたのも納得がいく。無双玉二個分の力を持っていたはずの伏義を倒してしまう

 なんて大したものだ。そんな彼に僕は興味が湧いた。祭さんには別の事をして貰って、僕は成都に行く事に

 した。でも、僕が行くのはそれだけじゃない。僕が動けば、彼も必ず動く。僕が孫権ちゃんにちょっかい出せ

 ば、確実にね・・・。さぁ、楽しいぱーてぃの始まりだ・・・!

    

      祭( ̄o ̄)<わしの出番はちゃんとあるのじゃろうな、女渦?

 

                  いや、僕に聞かれても・・・。>( ̄Д ̄;;女渦

 

 

                                  ~女渦が書き記した研究日誌より~

 

第十九章~還らぬ日々・前編~

 

 

 

  王宮に入って来た呉の兵士と魏の兵士。どうやら呉と魏の方で大変な事が起きているようだ。

 孫策達は呉に、俺達は魏へと急ぎ戻る事となった。俺は最初女渦の事もあって呉に行こうとも考えたが、

  「女渦はもう一人のあなたに任せておけばいいでしょう。」

  と干吉に促され、その上華琳の痛い視線を受けた・・・。

 朱染めの剣士、別の外史のもう一人の俺か・・・。今度また会う時、どんなことを聞こうか。

  それは置いといて・・・、その際、劉備の提案で関羽、黄忠、公孫讃を孫策に、馬超、馬岱を俺達に

 同行させる事となった・・・。

  

  ここは呉の都、建業・・・。呉の中心だけあって普段は人で賑わい、たくさんの物資が流通する。

 だが、今はそんな活気のある姿は無く、通りには人の姿は勿論、犬猫動物の姿も無く、ただ闇から闇へと

 移動する不穏な影のみが見受けられる。街の人間達は外から出ず、家の中でぶるぶると恐怖に震える事しか

 出来なかった。

  

  街の外・・・。

 

  「おい!早く衛生兵を呼んで来い!!」

  「い、痛ぇ・・・うぅ・・・。」

  「しっかりしろ!傷は浅いぞ!」

  街の外では呉軍が建業の街から脱出してきた負傷兵達を治療するべく陣を展開していた。

  「亞紗!薬が足りないの!そっちにまだ余っている!」

  「・・・駄目です!城から運び出せたものはもうほとんど・・・!」

  「そんな・・・。まだ怪我している兵士達がいるって言うのに・・・。」

  小蓮は事態の深刻さに困惑する。こんな時、姉様達がいてくれたら・・・そんな弱音をつぶやく。

  「小蓮様!」

  そこにばっと颯爽(さっそう)と現れたのは明命であった。先の暴動事件で負傷した腕はすでに完治

 し、以前の様に動き回れるようになっていた。

  「西の方面にて砂塵を確認しました!」

  「旗は!?」

  「旗は孫!雪蓮様かと!」

  「・・・お姉ちゃん!」

  

  「シャオ!!」

  「雪蓮姉様!!」

  蜀から急ぎ帰還した雪蓮の元に小蓮が駆け寄っていく。雪蓮は馬から降りると小蓮に近づいた。

  「ごめんさい・・・。またあなたに面倒を押し付けちゃったわね。」

  「ううん、そんな事はいいの・・・。それより蜀の方はもういいの?」

  「ええ、桃香達と正和党のいがみ合いはもう終わったわ。だから今度は私達の番よ。だからシャオ、

  何があったのか、私達に教えてくれるかしら?」

  「うん、分かった。」

  そう言って、小蓮は事の一部始終を雪蓮達に伝えた。

  事の発端は数日前・・・、いつもと変わらない平穏な日。何の前触れもなく異変が起きた。

 正体の分からぬ、武装した黒ずくめの者達が街に現れた。彼等を捕らえるべく、雪蓮達が万一のために

 残していた兵士を連れ、小蓮、明命、亞紗は街に向かった。しかし、彼等の抵抗に苦戦を強いられる事に

 なる。そのため、小蓮達は軍を連れて街の外へと脱出せざる得なくなったのだった。

  「・・・成程、でもこの様子だとまだ何かあったようね?」

  一旦話を聞くのを止めると、雪蓮は辺りを見渡す。至る所に傷の治療が出来ずにいる負傷兵が横たわり、

 疲弊し、休んでいる兵士達もいた。彼等の士気がひどく下がっている事は誰が見ても分かった・・・。

  「そ、それは・・・その・・・、えっと・・・。」

  雪蓮に指摘され、言うか言うまいかと迷いながら言葉を濁す小蓮。明命も亞紗も雪蓮から目をそらす

 態度を取る。そんな彼女達を見て、雪蓮はこう言った。

  「祭がいたのね。」

  「「「・・・!!」」」

  三人の表情が一瞬に驚きへと変わる。それを見た雪蓮は確信した。

  「やっぱり、か・・・。敵の中に祭がいたのね?」

  雪蓮の疑問に答えず、俯く小蓮。

  「・・・敵の総大将が死んだはずの祭殿であった。それが兵の皆さんに大きな動揺を与える

  事になりました。」

  沈黙する小蓮に代わり、亞紗が答える。

  「軍の指揮系統は混乱・・・。もはや私達ではそれを収められない状況にまで陥ってしまいました。」

  「さらに、向こうにはまた異様な姿の兵士が・・・。」

  亞紗の説明に続く様に、今度は明命が喋る。

  「その身を白銀の鎧で包まれ、背中には六つの羽を生やした・・・、その何て言えばいいのか分かり

  ませんが、その常人離れの攻撃に私達ですら歯が立たない始末・・・。」

  「だから、小蓮達は軍を連れ街の外へと脱出せざる得なくなった。」

  「「・・・はい。」」

  気まずそうに、答える亞紗と明命。

  「・・・・・・・!」

  俯いていた小蓮が突然雪蓮に抱きつく。

  「シャオ?」

  「・・・何で?」

  雪蓮の腹部に顔を埋めていた小蓮の顔が出てくる。その目には涙が・・・。

  「何でなの姉様、何で・・・?何で祭が、こんな事をするの?」

  「シャオ・・・。」

  涙目の妹の疑問・・・、雪蓮は答えられなかった。代わりに妹の頭を優しく包み込むように抱いた。

  

  「・・・・・・・・・ぁあ・・・。」

  「気が付きましたか?」

  「・・・・・・、どれくらい寝ていた?」

  「・・・二日と十二時二十七分十九秒間。」

  「・・・動ける時間が短く、寝る時間が長くなっているな・・・。外史の動きはどうなっている?」

  「呉と魏で外史喰らいの分身が動きを見せました。・・・呉の建業で黄蓋が現れたようです。」

  「・・・そうか。彼女がそこにいると言う事は奴もそこにいるな。」

  「行くのですか?」

  「・・・・・・。」

  「・・・失礼。愚問でしたね。しかし、まだ動かないで頂きたい。あなたに埋め込んだ無双玉に外史の

  情報を補充している所です。もっともたかが知れていますがね。」

  「・・・それを注ぎ終われば、あとどれくらい動ける?」

  「生きるだけであれば、およそ半年。戦いに使えば・・・、今まであなたの行動をから計算すると、一日

  から三日・・。」

  「あまり時間は無いな・・・。」

  「ええ、ですので大事に使って下さい。あなたの孫権殿を注いでいるのですから。」

  「・・・どういう意味だ?」

  「今、あなたに注いでいる外史の情報・・・、あなたの外史が存在していた場所からかき集めた、

  外史喰らいが食べ残した外史の記憶・・・、孫権の情報も含まれているのですよ。文字一個分の

  情報量ですが・・・。」

  「・・・・・・・・・。」

  

  「じゃあ愛紗、紫苑、よろしく頼むわね。」

  「ああ。」

  「えぇ、こちらこそ。」

  軍の編成を終え、雪蓮は愛紗、紫苑に改めて協戦を頼む。一方で、蓮華は彼の姿を見つけるために

 辺りを見渡すが、彼は何処にもいなかった・・・。

  「(彼はまだ来ていない・・・?いや、彼は必ず来る。祭は女渦と繋がっている。祭が動くと言う事は

  裏で女渦も動いているはず。女渦に近づくために、彼は必ずここに現れるはず・・・。)」

  この時、蓮華は心の中で一つの覚悟を決めた・・・。

 作戦会議の場、そこでは冥琳が先行して話を進めていた。

  「不幸中の幸いか、連中はこの建業の街の中から出てくる様子は無い。しかも入って来いと言わん

  ばかりに、城壁の門も開いたまま・・・。」

  「罠・・・でしょうか?」

  思春が冥琳に尋ねる。

  「祭はそんな事をするような人間じゃないわ。きっと、私達が来るのを待っているのよ。」

  と雪蓮が代わって答えた。

  「恐らくはそうだ。我々が祭殿の考えが分かるように、その逆も然り。」

  「どういう意味ですか?」

  冥琳の最後の言葉が理解出来ず、紫苑は尋ねる。

  「向こうもこちらの考えが分かっていると言う事だ。恐らく、それを見据えた上でこちらと戦う気だろう。」

  「・・・油断は禁物、という事か。」

  と、愛紗は最後にまとめる感じで言う。

  「祭殿の性格からして、籠城戦は展開せず、街に入って来た我々を真正面から叩き潰しに来る。

  しかし、そこに一つまみの隠し味を加えているはず・・・。先程、明命が言っていたのがそれだろう。」

  「背中に羽を生やすという・・・、鳥人の類のものか?」

  先ほど明命が言っていた事を思い出すように、蓮華は口に出して言う。

  「・・・ここまで来たら、もう何を言われても驚かないわねぇ。」

  普通に聞けば、眉唾物の話・・・なのに、自分達はそれをすんなりと受け入れているこの状況に雪蓮は

 皮肉を込めながら、けらけらと笑う。

  「聞けば剣も槍も矢も効かないと聞く。下手をすれば祭殿以上に厄介な相手かもしれない。」

  「では、その者が現れた際は如何なさるのですか?・・・投石機、破城門兵器を使うのですか?」

  おおよそ人に対して使うもので無いものを提示する明命。

  「そんな物を街中で使えば、街は大変な事になりそうだな・・・。」

  と、首を横に振りながら答える冥琳。

  「街の中にはまだ住民の人達がいる事ですしね~。まずは住民の避難を優先するべきだと思いますよ?」

  と冥琳の横で補佐をする穏が最優先事項を述べる。

  「街中の様子は今どうなっているの?」

  「何度か斥候を放ったのですが、いまだ誰一人として帰って来てません。」

  雪蓮の疑問に明命は否定的な返答をする。

  「・・・・・・駄目ね。」

  そしてぽつりと呟く・・・。そして席を立ちあがった。

  「こんな所でくだくだと話しているわけにはいかないわ。」

  そう言って、今すぐに進軍する事を促す雪蓮。

  「それでも、もう少し対策を練ってからでも・・・。」

  「そうね。・・・でも街の皆がまだあの中にいるの。策を練っている間に連中に襲われたりしたら・・・。」

  「そうか・・・。なら、私はもう何も言いはしない。」

  「ありがとう、愛紗。」

  「・・・・・・。」

  そんな勝手な事を言う雪蓮を、黙って睨む冥琳。

  「分かっているわ、冥琳。でも・・・、私は。」

  「・・・皆まで言わずとも、あなたが何を考えているのかぐらい分かっているわ。・・・祭殿の本心を

  知りたいのでしょう?」

  「・・・きっと、私はまだ信じていたいのね。私が・・・いいえ、私達が知っている祭を・・・。」

  「・・・そうだな。」

  そして、少しの沈黙・・・。

  「・・・行きましょう、皆。祭が待っているわ。」

  雪蓮は沈黙を破り、会議の場を離れる。そこに居合わせていた者達は彼女の後を追うようにその場を去る。

 

  軍編成はすでに完了し、開かれた街の城壁門の前に待機する兵士達の前に雪蓮は立っていた。

  「全軍!これより我々は自分達の街を敵の手から取り戻すべく、我々の街・・・建業へと進軍する!

  皆も知っているように、あの祭が敵の総大将・・・、でも思い出しなさい!祭は二年前のあの日、赤壁の

 海の上で・・・、死と引き換えに呉の礎となった。奴は祭の姿と名を騙った偽人だ!祭の誇りある死を

 汚し、祭の愛したこの国を脅かす輩を・・・、絶対に許すわけにはいかない!皆のその武にて、祭の誇りを

 守るぞっ!!」

  「「「「うぉぉおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!」」」」

  雪蓮の檄に兵士達は呼応するように、天に向けて地響きにも似た雄叫びを上げ、手に持った武器を高らかに

 掲げた。

  「孫呉の兵(つわもの)たちよ!その勇気を奴等に見せつけよ!そして、死を恐れるな!その手で我々の

  国を取り戻すのだ!」

  雪蓮は南海覇王を鞘から抜き、その切っ先をこれから自分達が向かおうとする先に向ける。

  「全軍、進軍開始っ!!!」

  彼女の言葉が堰を切ったように、兵士達が街の中へと雪崩込んで行った・・・。


 
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