テンメイはその体をしげしげと見ている。
自身の体である。
「なんか女になっているんだが・・・・。」
その女、岡本テンメイは魔女である。
しかし、まだ生まれたばかりで現状を把握出来ていない。
その美少女とも言うべきテンメイは外の世界から、この安神郷に降り立つところである。
「しかも、飛んでいる、いや飛んでいた。」
安神郷へと無事降り立ったテンメイは早速、ソワソワしだす。
どうやら、下着が気になっているようだ。
それはともかくとして、偶然にもテンメイが降り立つところを見た者がいる。
奇妙とも言えるがそれはソラネだった。
「私は天明、いや私はテンメイ。」
と、テンメイは頭の中で漢字を諦めた。
テンメイの前世にあたる岡本天明は男であり、生きていてもかなりの歳のはずだ。
そこへソラネが話しかける。
「私の名前はソラネです。あなたは?」
いきなり自己紹介をしてきたソラネに対してテンメイは髪をいじいじしながら、答える。
「私はテンメイ。姓は岡本。」
「ここはどこだろう?」
と、続けざまにテンメイは質問する。
「ここは安神郷。幻想郷の上にある天国です。」
「幻想郷? 安神郷?」
「幻想郷は人の目から隠された楽園と呼ばれます。」
「楽園・・・? 創世記の世界か? すると、あなたは・・・?」
「違います。聖書ではありません。天国と言ってもここは龍神様の治める天国です。人呼んで安神郷。」
「その安神郷に私がいるわけは・・・?」
「分かりません。ともかく、家に案内します。」
その家は白く、まるでというより実際に天国にあるような造りをしていた。
「私はここでどうすればいい?」
テンメイはあえて男のような言葉遣いは避けた。
その方が無難だからだ。
その質問に答えは無く、いつの間にテンメイは一人である事に気づいた。
鏡を見るが、そこには見知らぬ少女の顔が映るだけだ。混乱してもう一回鏡を見てしまうが、その度、突きつけられる現実にガクッと来るのだった。
「テンメイ、怪我などはしていないですか?」
それにしても、ソラネという女は不思議な気配をしている。
いたかと思うと、突然、いなくなったように思えたと思ったら、そこに絶対にいるのだ。
「してない。」
ぶっきらぼうにテンメイは答える。
「一応、調べましょう。」
と、ソラネが手早く、テンメイを剥く。
テンメイは抵抗する暇もなく、手早い確認に唖然とするしかなかった。
「やめて!」
思わず、女のような声が出る。声を低く保って安心を得ているテンメイにとって、またガクッと来る出来事だった。
「あ、ごめんなさいね。」
幸い、下着を脱がされる事は無く、それ以上の混乱は避けられた。
改めて、服一枚に守られている女の体のリスクをテンメイは突きつけられた。
その一張羅を再び身につけて、テンメイは安心を得る。
「私が龍神ですわ。私が説明しましょう。」
その女性が現れるとソラネは遠慮したのか、後ろへと下がる。
「すると、あなた様は竜神様。」
「勘違いしていますか? 竜神ではありません。龍神です。」
文字を示されると、テンメイはそんなものは聞いた事がない。
第一、龍体ではないではないか?
という文句が出かかる。
「色々と納得はいかないかもしれませんが、これが現実です。」
家に大穴が空く。
その龍神と名乗る女性の手から何か出たらしい。
その穴の具合からして高温の何からしい。
「ドラゴンの火です。龍神とはドラゴンをも統合し得るものなのですわ。」
「これは・・・これは・・・。」
と芝居がかった台詞がテンメイの口から思わず出る。
「テンメイは前世では岡本天明でした。
今はテンメイとして、魔女として、ここにいます。」
「魔女は本で見たことがあります。
ここは私が説明しましょう。
ほうきに乗るような魔女とは違い、幻想郷に集まる魔女は、歳を取らない者達が集まっています。
その魔女の定義ですが、魔法を使って空を飛ぶ。というのと、肉体と魔法が一体化しているということです。」
「コーランを見たことがあるなら分かるでしょうが、アッラー(神)は来世を約束されました。
この来世というのは、死者の復活の後の生です。蘇りの日として、コーランでは語られますが、ここがあなたにとっての来世にあたるのですわ。
すなわち、あなたがここにいるということ自体、アッラー(神)の恩寵そのものなのです。」
「要するに、アッラー(神)がテンメイを魔女にして下さったということですね。女にして下さり、私達が触れやすいようにお手伝いして下さったようにも思えます。」
「悟られていたのか・・・。」
「恥ずかしながら・・・違和感に気づきませんでした。龍神様に教えて頂いたのです。」
この後、テンメイは泊めてもらえることになった。
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死んでしまったソラネは暇をしている。
龍神様の元では満ち足りた生活だけがあり、矛盾すらない。
そういった天国にソラネは住んでいる。
その天国の名前は”安神郷”。
今代の龍神様の支配する郷だ。