「この紐は漢女道の初歩の初歩。これが無くては漢女道は語れない。…ああ、安心してご主人様。ご主人様ほどのサイズでも収納できるように採寸はとってるから♪」
「だから漢女道じゃないって!?それはどこのサイズだよ!?というか、いつ測った!?…ああ、もう突っ込みどころが多すぎる!」
真面目な話をしようとしてるのに!
「………聞きたいのかしらん?」
「全力で拒否する!!」
嫌な予感しかしない!
「あら、残念ねん。せっかく……」
なにが、せっかくなんだよ…。
「………なぁ」
「え?あ、ああ、すまない華佗。すっかり忘れていた」
「いや、それは、いいんだがな…」
ん?なんだろう?なんだか歯切れが悪いな。
「えと、なんだ、華佗?」
「………………………」
言いにくそうに黙る華佗。これは…。
「あー、もしかしてダメか?珍しい医術みたいだしな、五斗米道って」
一子相伝みたいなものだったりするのかな?だったら…。
「いや、そういうことじゃない。そういうことじゃないんだ…。ただ…」
「ただ?」
「俺はまだ医者として未熟だ。医を説くほど立派な人間じゃない」
「そういうものか…?」
けど、それじゃ諦め切れないな。
「それに、だ」
「え?」
まだあるのか?
「仮に、俺が一人前の医者だとしよう…。だとしても…」
「華佗?」
なぜ、そんな悲しい目で俺を見る?
「────────お前にだけは、五斗米道は教えられない」
「……………………え?」
どういう、こと…?
「…話はこれで終わりだな。診察はもう済んだ。また明後日診に来よう。くれぐれも安静にしているんだぞ」
「え、いや、ちょっとまってくれ…なぜ…」
「失礼する」
バタン
「…………………」
早足に部屋から去っていく華佗。なんだろう?俺を見る目が、凄く無表情だった気がする。
「ご主人様…」
「貂蝉…。…気にするな。確かに少しショックだったけど、そんなに心配されるほどじゃない」
だからそんな目で見るな。キモい。
「…そう。でも、なぜ医者になりたいなんて思ったのかしらん?」
「理由はさっき言ったと思ったけど?」
「いいえ、違うわねん。確かに華佗ちゃんの五斗米道はご主人様の理想からすれば魅力的だと思うわ。けど、慣れない『力』を手に入れることはあまり得策とは言えないわ。ご主人様だったら、少しは慣れている『剣』を習得したほうが…」
「本当に俺の事を知っているみたいだな…。けど、急に、って訳じゃないぞ?」
「どういうことかしら?」
「俺は成都での決戦後。この世界から離れ、現代へと無理矢理戻された」
「え!?」
「…なんだ?」
確かに現代とか、世界とか言われたら驚くだろうが、貂蝉は知ってるんじゃないのか?そこまで驚くことか?
「…いいえ、なんでもないわよん。続けて」
「…分かった」
気にすることでもない、か?
「俺が帰ったとき、この世界で身についた筋肉などがすべて無くなっていた。その時『ああ、あれは夢だったんだな…』と、思った」
服も汚れていない。時計の時間は同じでも実は一年進んでるじゃないか?とか思って確認して凹んだこともあった。
「けど、改めて鍛え始めて分かった。あれは只の夢なんかじゃないって」
「なぜ?」
「不思議でさ、技術がどんどん身につくんだよ。この世界に来る前は出来なかったことが出来るようになるんだ。もちろん、この世界に来てから身についたレベルでだけどな」
春蘭から逃げるために身についた瞬発力。警備隊で培った筋力並びに捕縛術。凪たち三羽烏たちとの組手で武力。
「それらが急激に、通常の何倍の速度で習得出来ていくんだ。だからなんとなく分かった。夢じゃないって。体は覚えていなくても、魂が覚えてるんだって。けど…」
「どうしたの…?」
「…ははっ。なんだか急に虚しくなってな。戻ってから一年ぐらいかな。多分俺はその時すぐ戻れるとか思ってたのかな?これだけ力がつくんだ。この世界にいたときの力を取り戻せば戻れるんじゃないのか?ってさ」
「けど、戻れなかったのねん?」
「…ああ。戻れなかった。そしてこう思い始めた。もしかしたら本当に夢で、今鍛えているのは無意味なんじゃないかって。そんな時さ、剣道部に卒業した不動先輩が来たのは…」
「確か、聖フランチェスカ学園の剣道部主将、よねん」
「ああ、そうだ。…ははっ、本当に何でも知ってるんだな。…話を戻そうか」
不動先輩は面倒見のいい先輩だった。だから心配になったんだろう。ちゃんと活動出来ているのか見に来てくれたんだと思う。
「そこで少し自暴自棄になりかけていた俺は、調子乗ってしまったんだ」
「どうしたの?」
「先輩に勝負を持ちかけたのさ」
不動先輩がいた頃、部内ではNo.2の実力はあった。先輩の卒業式には負けてしまったけど、その時より腕を上げ、先輩が剣道部を離れた今なら勝てると思った。…………そして結果は─────
「─────惨敗だった。先輩は弱くなんてなっていなかった。更に強くなっていた。そして、俺はいくら技術や筋力は上げても、心が弱くなっていた。通常の何倍の速度で付いてきた力に過信していた」
だが、俺はそれに気づかなかった。己が過信していることに。だから倒されても、何度も何度も挑みかかった。敵わないと分かっているのに、差は歴然としているのに─────分かろうとしなかった。
「だから先輩は本気になってくれたんだと思う。俺に分からせるために、本気で。それこそ───────殺す気で」
現代人にこれほどの力を持つ人間がいるなんて思いもしなかった。実際は爺ちゃんもこれくらいの力があったんだけど、本気なんて出してくれてなかったしな。
「俺は負けたと思った。───けど、それで終わった訳じゃない。ちょっと不幸な事件が起こってしまった」
「なにかしらん?」
「…その時使用していた木刀が折れて、運悪く俺の腹に突き刺さってしまったのさ」
「…けど、今生きているという事は、大した傷じゃなかったのかしら」
「いや、結構ヤバかったらしいぞ?並の医者に治療されたら、酷かったぐらいにな」
「…………………並の医者?」
「ああ、俺の治療をしてくれた。テル先生って人が名医らしくてさ。いや、まぁヴァルハラにいる医者のほとんどが名医なんだけどな?」
「(ピクッ)」
「…どうした?」
「…いいえ、何でもないわよん。続けて?」
「あ、ああ」
まぁ、身体の傷は治っても、心に傷は治らないっていうありがちな展開が待っていたわけさ。もちろん、不動先輩は怪我の事を気に病んで見舞いにも来てくれたし、学校の女の子も見舞いに来てくれた。
「そこで如耶ちゃんと恋仲になったわけねん?」
「いや、なってないよ!?た、確かにたまにいい雰囲気にはなってたけど、不動先輩には章仁っていう想い人がいるのは知ってたし?そ、そそ、それに、それに?お、俺には華琳や魏の皆が…………」
「ご主人様」
「え!?な、なんだ?」
「焦り過ぎよん」
「……………」
こ、この野郎。ニヤニヤしやがって…!
「…話を戻すぞ。…とにかくやる気が無かった。あのままいけば自殺まで考えたかも知れないぐらいに、な」
「死ねば、曹操ちゃん達に会えるとでも思った?」
「…ああ、馬鹿だろ?」
「ええ、馬鹿ねん」
「ちぇっ、はっきり言いやがって。…まぁ、いいや。そんな俺に対してでもテル先生は一生懸命接してくれた。そんな先生だからかな、ちょっと口が滑ったんだ。『二度と会えない女性がいる』って」
「…亡くなったのか?」
「いや、違うんだテル先生。死んでなんかいない。…けど会えない。だからもう鍛えない。学ばない。意味がない。…そうだな、死んでしまったのは俺なんだと思う」
「…絶対か?」
「いや、絶対ってわけじゃないだろうけど…。…たぶん絶対、かな?」
「だぶん?…じゃあ、それは絶対なんかじゃないだろう!」
テル先生が俺の胸倉を掴む。
「一刀の好きな子が死んだ?それは違うんだろう?お前が死んだ?お前は今、生きてるじゃねーか!」
「くっ!」
胸倉から手を振りほどく。
「…そうさ、絶対なんかじゃないさ!けど、会える可能性なんて、考えるだけムダなんだよ!」
「…ゼロじゃないんだろ?じゃあ、諦めんなよ!…なんで諦めるだよ!その子が嫌いなのか!会いたくないのか!」
「っ!…会いたくない訳ないじゃんか!絶対に会いたいさ!あそこまで愛した女の子達はいないんだ!」
「……『達』?」
あ、やべ。
「い、いや、間違えた(本当は間違えないけどさ…)」
「…ふーん。まぁ、いいや。それだけの気持ちがあるなら諦めるなよ。……世の中には会いたいのに一生会えない人もいるんだぞ」
遠い目をするテル先生。
「なぁ、テル先生…。テル先生にもそんな人がいるのか?」
「ん?…あぁ、オレの親父だよ。…父さんも、医者なんだ。それもオレが最も尊敬する、な」
「テル先生は、その親父さんみたいになりたいのか?」
「まぁ、な。…ほらオレってドジだろ?」
「ああ」
それは間違いなく。
「いや、そこはフォローとか…まぁ、いいけど。周りからはテルは医者に向いていない。とか散々言われてきたし、向いてないんじゃないかなって思った時もあったけど、それでもオレは医者になった」
「それは普通にスゴいよな」
「一刀さ、オレのこと嫌いだろ?」
「いや、そんなこと、ない…よ?」
「この野郎!疑問形じゃねぇか!」
「はは、冗談だって」
「ったく!…少しは元気出てきたみたいだな?」
「…まぁ、ね」
完璧に心が晴れた訳じゃない。けど、心が軽くなった気がする。
「オレは、尊敬する父さんのような医者になる。一刀は?」
「…もう一度、もう一度愛した女性に再会する。そして、俺も尊敬している人のようになる、かな?」
「尊敬?だれを尊敬してるんだ?」
「……………………教えないよ」
「なんでだよ?オレは尊敬する人を言ったぞ?」
「いつか言うよ。…じゃ、俺は病室に戻るよ。いつまでも屋上にいたんじゃ体壊しちゃうよ」
そう言って、屋上のベンチから立ち上がる。
「…ま、いっか。いつか絶対聞くからな!」
ビッと人差し指を向けていうテル先生。
「そうするよ!」
今言っちゃうと、テル先生は調子に乗っちゃうからな!
「それからかな。鍛えつつも医大に通うために勉強をし始めたのは…。きつかったぞ?正直俺の成績は中の中から、中の上ってレベルだったからな。結構絶望的だったな」
「それでも、受かったのね?曹操ちゃんに会うために」
「ああ、会うために正しいかどうかは分からなかった。というか、未だにまだ分からないけどな。で、だ。俺は医大に通ってたわけだけど、この世界に来て疑問に思い始めてたんだ。今の技術で役に立つのか?ってな」
「…そうね、現実のような医療技術はないものねん」
「だろ?CTスキャンもなけりゃ、レントゲンもない。それどころか、輸血すらない世界だ。役に立つのかって疑問に思い始めたんだけど…」
「華佗ちゃんに会った」
「そうだ。あの出血と、傷でも助かる医術。もしかしたら他の病気も治せるんじゃないか?」
「そうねん、華佗ちゃんには心臓病だって治せるかもしれないわねん」
そこまでか。
「だったら、弟子入りしたいと思うのも当然じゃないか?」
「そうかもしれないわねん、この世界で華佗ちゃんの以上の医者はいないでしょうしねん」
「そうだろうな。─────けど」
「断られてしまった」
「……ああ。なんでだと思う?なにか、特別な条件があるとか?」
だったらなんだ?Gス○ーンなんか持ってないぞ?
「わたしは五斗米道じゃないからよく分からないけど、考えられるのは…」
「…なんだ?」
「心の問題じゃないのかしらん?」
「心…。…なにか五斗米道と合ってないところがあるのか?」
「それもわからないわねん。それも華佗ちゃんじゃないとねん。……それよりも、一度断られたからと言って諦めるのかしらん?」
「………そう思うか?」
「…ふぅ。まったくね」
肩を竦める貂蝉。
「だったら意味のないことを聞くな」
「そうね、ごめんなさい。…それじゃ、わたしはそろそろ…」
「ん?どうした?」
少し焦っている感じがするが気のせいか?
「ちょっと気になることがあるから少し、ねん」
「…?そうか…じゃあ、外史って言葉のことはまた後日だな」
「ええ、そうねん。…それじゃ、無理しちゃダメよん?」
「ああ、分かってる。一応、医学を勉強した人間だぞ?」
「なら、よし。それじゃ」
「ああ」
バタン
「心配されておいて言うのも何だけど、…病み上がりに見るモンじゃないよな。貂蝉って…」
部屋を去り、廊下を歩く貂蝉は思う。
おかしい、と。
一刀の過去話には色々とありえないことが多すぎる。そして一刀が疑問に思わな過ぎるとも。
「─────さて、どこの誰かしらねん?この外史をいじくっているお馬鹿さんは…」
廊下から空を見上げ呟いた言葉は誰に向けられたものか─────それはまだ分からない。
「………………………」
城の頂上に男が一人。
男は道士の格好をし、顔に包帯を巻き異様な気を辺りに纏って、城下を見下ろしていた。
「…貂蝉は気付いたか。ならば卑弥呼も気付くだろうな。………それにしても北郷一刀め。早く魏に帰って来い!お前が戻ってこなければ俺が魏にいる意味がないだろう!」
男は体を震わせ、誰もいない。空へと向かって言葉を吐き捨てる。
「…少し急かしてみる必要がありそうだな。……まぁ、その前に一仕事終わらせるか…」
ブォン!
男が消える。この男は何者か。それもまた、誰も知らない…………。
~あとがき~
ええ、ゴ○輝ですとも。…なにか?
なぜ、ここまでパロ(?)が多いかはいずれ分かります。
少し更新ペースを速めようかと思っています。流石に月一はないだろう。と、思いまして。
ただ、それだと少し短めになります。それでもいいですか?
ご意見お聞かせください。
でわでわ~
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お久しぶりです。おそらく忘れられているのではなかろうかと思いましたが帰ってきました。
ていうか、会話多すぎですね。
でわ、ごゆっくり~
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