「・・・了解しました、博士。
はい、はい・・・失礼いたします」
ウラウラ島のカプのむらにて。
この島の調査をしていたセイルは、ある人物と連絡を取っていた。
その相手のことは博士と呼んでいるものの、ククイ博士ではなく別の人間であるらしい。
連絡の相手に対するセイルの態度が、非常に堅いことからそれがわかる。
「・・・ここでの調査はこのくらいでいいか」
調査を終えて一段落ついたセイルはライドポケモンのリザードンで帰る体制に入る。
そのとき、砂浜の方でなにかを発見しそちらに視線を向ける。
「うぅ・・・」
「ん?」
セイルの視線の先ではビーチパラソルの下で黒い服の男が数人横たわっていた。
その男の格好からあることに気付いたセイルは目つきをきつくして、その男達をにらみつける。
手足には包帯が巻かれていて、誰がやったのだろうかと思ったときにおくからバンダナを巻いた少年が現れた。
「あ、セイルじゃねぇか!」
「ツキト・・・」
セイルとツキトは知り合いらしい、互いの名前を呼び合う。
ツキトの顔を一度見たセイルは、ちらりと横たわる男達をみたあとでもう一度ツキトと向かい合う。
「こいつをここで手当していたのは、お前か?」
「そうだぜ、この近辺で傷ついていたからな・・・助けるのは大変だったけどみんな助けられてよかった・・・」
明るい調子で話しているツキトだったが、セイルがボールからヤドキングを出してスカル団に攻撃を仕掛けようとしているのを目撃してあわてる。
「って、ちょいまったぁぁぁ!!」
ツキトは急いでボールからドデカバシを出し、タネマシンガンをヤドキングに打ち込み彼らの行動を阻止する。
「なにをする」
「それはこっちの台詞だっつーの!
てめぇこそなにしてやがんだ!」
「・・・お前、こいつらが何者か知ってるだろ」
「わかってるぜ・・・スカル団だろ?」
知らないわけがない、このアローラの各地で暴れるチンピラ集団なのだから。
そして、ツキトはセイルが彼らに対し敵意を向ける理由も知っている。
だが、今彼にスカル団を攻撃させるわけにはいかない・・・あそこにいるスカル団は怪我をしているからだ。
「やるなら、かわりにオレが相手だ!」
セイルの動きを止めるためにツキトは、思い切ってセイルにモンスターボールをつきつけて勝負を申し込む。
それをみたセイルもしばらく黙っていたが、やがてボールを一個手に取った。
「・・・いいだろう。
そいつらをつぶすために・・・お前とポケモンバトルをしてやるよ」
「・・・セイル・・・」
セイルとツキトのポケモンバトルが、はじまる。
そのときにセイルの顔を見つめるツキトの顔は、どこか物憂げであった。
まるで悲劇を目の当たりにしたかのように。
最初にセイルが出したのはムーランド、対するツキトはカイリキー。
相性でいえばカイリキーが有利だが、ムーランドは非常に丈夫な身体を持っておりカイリキーの攻撃にも耐えた。
「カイリキー、からてチョップ!」
「ムーランド、かわせ!」
今度はカイリキーの攻撃をかわし、背後に回ってからムーランドは牙に炎を宿した。
「ほのおのキバ!」
そのセイルの声にあわせてムーランドはカイリキーに噛みつき、ダメージを与えた。
ムーランドのその攻撃に耐えたカイリキーをみて、ツキトは引き続きカイリキーに技の指示をだした。
「もう一度、からてチョップ!」
「まもるからのたいあたりだ!」
ポケモンスクールでもセイルは非常に成績優秀だ、だから効果抜群の技に対する対策もできている。
そしてその通りに攻撃と防御を使い分けている。
知識を生かしてセイルはポケモンを育てて、今各島の生態系を
一方のツキトは学校には行かずコニコシティで様々な大人や同年代の者達と共にポケモンについてまなんできた。
特にツキトが学んだのは、夢であるライフセイバーとしての能力、そしていざとなったときにポケモンと共にどう戦うかだ。
その経験を生かしてツキトはポケモンを育ててきた。
「クロスチョップ!」
ツキトはたいあたりを受け止めたカイリキーにクロスチョップを指示した。
その一撃は命中しただけでなく急所に当たり、ムーランドに大きなダメージを与える。
ムーランドが受けたダメージを見たセイルはムーランドと交代する体制に入る。
「ムーランド下がれ、次はお前だヤドキング!」
連れ歩いていたもう一匹のポケモン、ヤドキングを出してカイリキーと向かい合わせる。
カイリキーはヤドキングに向かってちきゅうなげをくりだそうとしたが、ヤドキングはサイコキネシスで動きを止めてカイリキーを吹っ飛ばし、そのまま同じ技による念波でカイリキーを倒した。
「カイリキーッ!」
「さぁ、道を譲ってもらおうか」
「・・・まだ、勝負は終わってねぇよっ!!
出てくれ、ドデカバシ!」
カイリキーの代わりに、ツキトはドデカバシを出した。
ドデカバシはロックブラストでヤドキングを攻撃しようとしたが、ヤドキングはまたサイコキネシスを使ってロックブラストを阻止し逆にドデカバシを攻撃する。
だがドデカバシはそれでは倒れず、タネマシンガンを打ち込んでヤドキングに攻撃してくる。
その攻撃に何とか耐えたヤドキングはみずのはどうをドデカバシに放った。
「つばめがえし!」
「アイアンテール!」
つばめがえしとアイアンテールが衝突し、ツキトは直後にもう一度つばめがえしを繰り出させてヤドキングを攻撃する。
だがセイルはあわてず、ドデカバシにサイコキネシスをかけて動きを封じるよう指示を出す。
必死にもがくドデカバシだったが、サイコキネシスのパワーが強すぎて振り払えない。
「れいとうビーム」
続けて繰り出されたれいとうビームは、ドデカバシに命中してそのまま氷付けにした。
「ドデカバシ・・・!」
く、とツキトは悔しげに歯ぎしりをたてつつもドデカバシをボールに戻した。
そして、背後で未だに動けないスカル団を見てから最後の一匹が入ったボールを手に取る。
「頼む行ってくれ、アシレーヌ!」
このまま負けるわけには行かない、とツキトは最後の一匹であるアシレーヌを出した。
場にでたアシレーヌは飛んできたヤドキングのサイコキネシスに耐えた後のマジカルシャインで反撃、ハイドロポンプで攻撃してきてもそれを巻き込んでれいとうビームを放ち凍り付けにする。
「ッチ・・・ジュナイパー!」
今の状況を見てヤドキングを戻してジュナイパーを出すセイル。
まずはジュナイパーははっぱカッターでアシレーヌを攻撃しにかかったがアシレーヌはそれにれいとうビームで迎え撃つ。
「チャームボイス!」
「シャドーボールでむかえうて」
二つの技の衝突の後、ジュナイパーはかげぬいを放ちアシレーヌの背後を阻む。
これで意地でも戦わねばならないことになったが、実際ツキトが連れているのは最初からこの3匹だけだ。
だから関係ない、とツキトは再びアシレーヌに技を指示した。
「れいとうビーム!」
「あやしいかぜ!」
れいとうビームで倒しにかかるが、あやしいかぜがそれを阻む。
ジュナイパーにさらなる攻撃を与えるためにツキトはそのままうたかたのアリアを指示して僅かながらにジュナイパーにダメージを与える。
「つばさでうつ攻撃だ!」
「かわせっ!」
ひこう技に切り替えて攻撃にでるジュナイパーの攻撃をかわそうとしたアシレーヌだったが、突然動けなくなり止まってしまい、つばさでうつ攻撃をまともに食らってしまった。
急に動けなくなってしまったアシレーヌにどうしたんだ、と問いかけたときにツキトはこの異常の正体に気付く。
「そうか、さっきのかげぬいが・・・!」
かげぬいはアシレーヌにダメージを与えて背後にさがることを阻止するだけでなく、アシレーヌの影を止めてしまうことでアシレーヌの動きを封じていたのだ。
再びつっこんできたジュナイパーにうたかたのアリアで阻止しようとしたが、それをはっぱカッターで打ち消したジュナイパーはその水に紛れて姿を消し、アシレーヌの背後に再び姿を見せた。
「いつの間に・・・!?」
「そこだ、リーフブレード!」
それはくさタイプの技であるリーフブレードであり、アシレーヌには効果抜群の一撃だった。
「アシレーヌッ・・・!」
その一撃の前にアシレーヌは倒れ、障害がなくなったと思ったセイルは冷たく厳しい目でスカル団をみる。
「ジュナイパー」
「ジィウ」
セイルの声に頷くとジュナイパーは技を放つ体制に入る。
だがその動きは突然飛んできた水の技に阻まれてしまった。
「シィィル・・・!」
「お前、倒れたんじゃないのか・・・!?」
その水の技の正体はさっき確実にポケモンバトルで負かして体力がなくなったはずなのに立ち上がってきた、アシレーヌだった。
そのことにセイルが驚いていると、ツキトがスカル団の前に立つ。
「勝負に負けちまったけど・・・こいつらには指一本ふれさせねぇ!」
「そこまで守るとは・・・お前、スカル団なんかの肩を持つ気か?」
「ちげぇ!!」
ツキトは首を大きく横に振った。
「こいつらが悪いやつでも、いいやつでも、オレにはそんなの知ったこっちゃねぇよ!
オレは試練のサポーターとして以上に、ライフセイバーだ!
例え見習いの立場であったとしても、その気持ちはプロにも負ける気はねぇ!
だからその誇りに従って・・・傷ついた奴は絶対に助ける!
それが、どんな人間であってもだ!」
「・・・」
セイルは非情にも、ジュナイパーにはっぱカッターを指示したのだった。
「っ!」
「・・・あれ?」
はっぱカッターが襲いかかってきたはずなのに、痛みがない。
隣を見てみると、アシレーヌも倒れていなかった。
どういうことなのだろうと顔を上げると、自分達の前に大きなふっくらとした体を持つポケモンがいた。
「カビゴン・・・!?」
「このカビゴンは・・・!」
そのポケモンはカビゴンであり、ツキト達が無事なのはこのカビゴンが守ってくれたからなのだ。
だがどうしてカビゴンがここにいるのだろう、ツキトが疑問を抱く一方でセイルはこのカビゴンに見覚えがあるらしく驚いている。
するとそのとき、日焼けした老人が彼らに歩み寄りカビゴンをボールに戻した。
「やれやれ・・・様子をみにきてみれば、なにをしとるんじゃセイル!」
「な・・・ナリヤ・オーキド博士・・・!」
この老人はナリヤ・オーキドといい、カントー地方のポケモン研究の権威であるオーキド博士のいとこだ。
主にリージョンフォームについての研究をこのアローラで行っている。
ちなみに彼は、セイルがさっき連絡を取っていた相手でもある。
そんなナリヤ博士は、セイルに向かって引き続き怒声を浴びせる。
「ポケモン達が技をぶつけあってたからポケモンバトルかと思ったが・・・胸騒ぎがしてきてみれば案の定じゃ!
もう戦えない相手にさらに手をかざそうとするとは・・・お前はポケモンで人を傷つけたいのか!
お前はそのためにポケモンを育て、調査をしていたのか!!」
「・・・っ・・・」
博士のその言葉を聞き、セイルは肩をふるわせる。
そのあとで、セイルの事情を知っている博士はその話題にふれて彼に話を続ける。
「・・・セイル、お前さんがスカル団を嫌う理由はわからんでもない。
島巡りをしていたお前さんからその道を奪った連中を許せない気持ち・・・理解できないわけではない。
じゃが、今お前さんがしようとしておったのは・・・スカル団への仕返しじゃない。
ポケモンを人殺しの凶器にしたてあげようとしておっただけじゃ」
「・・・」
ナリヤ博士の話を聞いてセイルはすっかり黙り込んでしまった。
親友であるイリマとほぼ同じくらいに、セイルはナリヤ博士には逆らえないようだ。
彼が大人しくなったことを確認したナリヤ博士は申し訳ない顔をしつつツキトの方を向いた。
「・・・ツキトよ、セイルが迷惑をかけたの」
「いえ、ナリヤ博士。
こいつの過去も気持ちもオレはわかってました、だから勝負したんです。
・・・負けちゃいましたけど」
セイルがどれだけ優れたトレーナーかは、ツキト自身もよくわかっていた。
だが、このままではスカル団だけでなくセイルも危ないと思ったツキトはセイルに勝負を申し込み、彼を止めようとしていた。
だからナリヤ博士がきてくれて安心した。
「・・・話の続きは、これから町の中でしようぞ」
「・・・はい」
「それではな」
「はい」
ナリヤ博士はセイルを連れてその場を立ち去り、ツキトは2人を見送る。
「ヨウカっていう期待の新人が、このアローラをさらにいい方向に導いてくれるって信じてるけどな。
お前も・・・スカル団も」
去っていくセイルの後ろ姿をみつつ、ツキトはそうつぶやいたあとでスカル団の手当に戻った。
「はっくしょん!」
そんな話をしているのとちょうど同じ頃、この島にきている少女がくしゃみをしたとか。
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ちょっと視点がヨウカからこの2人にかわります。
彼らにも注目させたいのでね。