漢王朝の皇太子・劉協を擁した董卓軍は洛陽に入った。劉協と舞人は月たちと別れて宮殿に駆け込むと、彼らを待っていた兵に涙ながらに残酷な事実を告げられた。
「そんな・・・伯父様が・・・」
「おっさんが死んだだと・・・!」
茫然自失とする2人。兵は涙をぬぐい、声を震わせながら言葉を続けた。
何進が死んだのは舞人が洛陽を発って3日後。ちょうど舞人が張譲から劉協の身柄を奪還したところだったという。
「何進様は最後まで殿下と織田殿の行く末を案じられておりました・・・」
兵は一礼すると去って行った。
「舞人さん、何進大将軍の葬儀を行わなければなりませんね」
「そうだな・・・」
何進の葬儀の手配を皇太子として、次の王位を継ぐ者として毅然とした態度で劉協は采配を振るった。その手腕に洛陽の人々や各地の諸侯は『名君、現るか』と注目した。
何進の葬儀が終わった日の夜、舞人は劉協の部屋を訪れた。劉協は驚いたように目を丸くした。
「どうしたんですか、舞人さん。こんな夜更けに」
「・・・・」
舞人は無言で警護の兵や世話をする女官を退けて椅子に座ると、溜息をひとつついた。
「何我慢してんだ」
「なんのことですか?」
笑顔を作って見せる劉協だが、その笑顔はどこか不自然なものだと付き合いの浅い舞人でも分かった。
「てめぇはまだガキなんだから、感情を表に出したっていいんだ。わがままだっていってもいいんだぜ?」
「舞人、さん・・・」
彼の乱暴ながらも優しい言葉に、少女の瞳に涙が浮かんだ。それでも涙腺を完全に切ったのは青年の胸のなかだった。身内を一夜にして失った少女は年相応に泣きじゃくった。
「舞人さん」
泣きやんで立ち上がった劉協は、先ほどとは打って変わって瞳には強い意志が宿っていた。
「私は父上の後を継いで皇帝になります。そこで―――」
月明かりを浴びた劉協の姿は、皇帝に相応しく、威厳に満ちた姿だった。
「あなたを何遂高の後任の大将軍に任じたいと思います。もちろん先任の何進大将軍と契約していたあなたは彼が死んで契約は破棄され、自由の身。お受けするのもしないのもあなた次第です」
劉協の提案に舞人はニヤリと笑う。
「言うようになったじゃねぇか」
彼は椅子から立ち上がると、劉協に手を差し出した。
「分かった。俺は漢王朝の当主・劉伯和殿と盟約を結ぼう」
劉協も手を伸ばし、彼の手を握った。
「私の真名は瞳。私の真名は両親を除くとたった一人にしか生涯で教えないんですから貴重な物なんですよ?」
「ほー、そいつは貴重だな・・・ちなみにそのたった一人の相手って誰だ?」
「そ、それは―――」
さきほどの堂々とした態度は何処へやら、頬を真っ赤に染めて黙り込んでしまった。
「い、いつかお話します!今日はもう遅いですし、おやすみなさい!」
「お、おいてめぇ押すんじゃねぇ!」
劉協―――いや瞳はグイグイと舞人を部屋の外に追い出し、バタンと戸を閉めて鍵をかけた。そして心のなかで呻く。
(言えるわけないよぉ~!そ、その・・・唯一の人が『生涯の伴侶』だなんて~!)
何進大将軍の葬儀が行われた数日後、劉協の即位式が行われた。そして新帝の口から衝撃的な人事が発表された。相国に任じられた地方軍閥の総帥・董仲穎・・・それ以上に驚かされたのは大将軍の人事だった。
「何進大将軍の後任には織田舞人を任ずる。先任の遺志を継ぎ、いまだ大陸中に蔓延る黄巾の賊徒どもを討ち平らげ、天下を安寧に導け―――!」
涼州太守董卓、相国に。織田舞人、大将軍に就任―――
この報に激怒した人物がいた。冀州太守にして南皮城主・袁本初である。
「この名門・袁家の当主たる私を差し置いて田舎太守の董卓さんと卑しい身分の織田さんが就任ですって・・・!」
彼女は飲みかけていた杯を叩きつけると、虚空を睨んで呟いた。
「ただでは済ましませんわよ・・・!」
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早めの投稿で第6弾です。今回は劉協の決意が語られます。次回は誰かの拠点を書きます。誰かはお楽しみに・・・