フラウの部屋に戻るとゲイザーは話を切り出しました。
「私は今日からマルヴェールに移住する事に決めました。フラウはアラヴェスタに戻りたいですか?」
「ゲイザー様がマルヴェールに移住するのなら私もマルヴェールに移住します」
「でもフラウはアラヴェスタで暮らしたかったのではなかったんですか?」
「ゲイザー様にお会いする事があるかもしれないと思って、アラヴェスタでシスターを続けておりました。アラヴェスタに特別な思い入れがあったわけではないのです」
「そうですか、それなら良いのですが、無理に私に合わせる必要はありませんよ?」
「結婚後はシスターを辞めなくてはなりませんし、ヴェールも外さなくてはなりませんから、マルヴェールなら、この尖った耳を隠す必要もありませんし…」
マルヴェールにいる時はフラウはヴェールを脱いでいます。
「フォン様から話は伺いました。フラウが女王に即位する話が進んでいるようです」
「またその話ですか…。その件は何度もお断りしているはずですが?」
「こんな良い話を蹴る理由がわかりませんね」
「私は普通の女として普通の暮らしがしたいのですよ」
「まあ、私も国王になれと言われたら、拒否しますけどね」
ゲイザーは両手を広げて、やれやれと言う仕草をしました。
「女王になればどこに出かけるにも従者が付いて回りますし、二人っきりでデートする事も出来なくなります」
「それは困りますね。やはりフォン様にお断りの返事をしてきましょう」
「私を説得するようにとフォン様から頼まれたのですか?」
ゲイザーは顎に手を当てて考え込むような仕草をしました。
「そう言えば結婚後、ナターシャの事をどうするか考えなくては…」
「私はナターシャちゃんと一緒に暮らしても構いませんけどね」
「ユリアーノ様に事情を話してナターシャをお返しするのが良いかと思います。ナターシャは人間なのでマルヴェールには住めませんから」
「ナターシャちゃんの意思も聞いてから決めた方が良いと思います。全て大人に決められるのは子供にとっては苦痛でしかありませんので」
ナタの部屋に行くとゲイザーは単刀直入に言いました。
「ナターシャ、今日からユリアーノ様のところへ帰りなさい。私とはこれでお別れだよ」
「えーっ、嫌だー!ナタ、おじさんと離れたくない…」
「マルヴェールに住めるのは獣人だけなんだよ?私は今日からここに住む事にしたんだ。フラウと一緒にね」
「じゃあ、ナタ。獣人になる!」
「ナターシャちゃん、獣人になると赤ちゃんが産めなくなっちゃうのよ?」
「ふーん。どうやったら赤ちゃん産めるの?」
「えっと、それは…」
フラウは言葉に詰まりました。子供にどう説明したら良いのかわからないからです。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第38話です。